• 「それ、惜しい!」トレーナーが映画『ロッキー』のトレーニングを科学的に解説します
TRAINING
2020.07.07

「それ、惜しい!」トレーナーが映画『ロッキー』のトレーニングを科学的に解説します

映画「ロッキー」のトレーニング

数々のトレーニング場面でおなじみの『ロッキー』シリーズを科学的観点から徹底解剖。※ネタバレ注意!!

通用する筋トレ、いまひとつな筋トレ。

1976年の公開以後、シリーズ化するほど人気を博したアメリカのボクシング映画『ロッキー』。作中で描かれるトレーニングシーンは、多くの筋トレマニアの間で有名。

「主人公のロッキーは科学と真逆のことを第1作から一貫してやり続ける。この前提があることに作品を見たら誰もが気付くはずです。だからこそ『ロッキー』は面白い!」と、熱弁するトレーナーの清水忍さん。あえて科学的に分析した時のロッキートレの評価はいかに。

「最低限はカバーされています。ただ科学的には、“よりいいやり方があるぞ”と思うシーンもあります

そこで今回は清水さんが唸った“良い筋トレ”と、直々に指導したくなるほど“惜しい筋トレ”をご紹介。家トレに役立ててほしい(映画も最高なので、ぜひご覧あれ!)。

驚異的な戦績から注目を集めるロッキー。メディア陣に囲まれてマシンで鍛える傍ら、女性記者のキスを受ける。師事するトレーナーは呆れ顔。
驚異的な戦績から注目を集めるロッキー。メディア陣に囲まれてマシンで鍛える傍ら、女性記者のキスを受ける。師事するトレーナーは呆れ顔。

一見体育会系、実は超合理的! ロッキートレ7選。

1/20

「頻出する片手腕立て伏せは実に理にかなってます」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー』より

作中のシーンでたびたび登場する片手腕立て伏せは、ロッキーのトレーニングにおいて象徴的ですよね。片手腕立て伏せによってを前方に押し出す動作の出力が上がるので、非常に合理的です!

両手で行う腕立て伏せは主に大胸筋上腕二頭筋を使いますが、片手腕立て伏せは上腕三頭筋の筋力も必要。つまり総合力が必要なんです。地面に対してカラダを平行に保つのも負荷を分散させないコツですが、その点においてもロッキーのフォームは実に模範的です。頻出する片手腕立て伏せは実に理にかなってます。

「クオリティが非常に高い!アスリートはぜひお手本に」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー』より

ロッキーはジャンピングプッシュアップがとにかく上手。ボクサーには一瞬でドンッと力発揮する“爆発力”が必要で、この種目はそれなしには難しい。しかしロッキーはカラダの真下で手を打てるほど高く跳べています。また彼がスゴいのは、この種目を片手腕立て伏せの後に続けて行うところ。一連の流れでやってこのクオリティは素晴らしい!! 機能性を高めて“動けるカラダ”になりたい人はこの2種目を取り入れるべきです。

「腹筋と下半身を一挙に鍛えてしまうロッキー、さすが!」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー4』より

第4作でロッキーは旧ソ連の山小屋で試合前の特訓をします。本作のドラゴンフラッグのシーンは有名ですが、注目すべきはこの逆さ吊り腹筋! しかもロッキーが鍛えてるのは腹筋だけじゃない。ただ上体を上げるだけでなく、膝関節が伸びる位置まで上体を起こしてます。ロッキーはこの種目で大腿直筋や大腿四頭筋まで鍛えて、キック力を強化している。第1作に比べて減量したことによる成果でしょう。コレ、相当キツいんです

「“科学”を絶妙に駆使して僧帽筋中部を鍛えてます」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー2』より

全編を通して唯一のダンベルトレをするシーンがあり、その種目はベントオーバーサイドレイズでした。鍛えられる筋肉は首の後ろからや背中に広がる僧帽筋の中部や、肩関節に付着する三角筋の後部など。これらはパンチを打った後にを引き戻す際に力を発揮し、強化することでパンチ力が上がるのでボクサーには欠かせません。『ロッキー』は原始的な自体重トレに重きを置いていますが、このシーンに関してはやむなく入れたのでしょう。

「見事なフォーム!耐久力を向上させる上級者向けトレ」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー2』より

膝を曲げて腰を落とし、スクワットポジションで行う“アヒル歩き”。ロッキーは肩に丸太を担いで負荷を上げてます。こうもいい塩梅の丸太が偶然あるかはともかく(笑)、筋肉の耐久力を高めるには効果的です。ロッキーは踵荷重で、膝を内側に入れずに歩けているので、大腿四頭筋や臀筋をちゃんと使えています。この姿勢を保てるロッキーは、スクワットも正しいフォームで行えるに違いない。爪先荷重だと膝関節の半月板に過度な負荷がかかり、ケガのリスクが高まります。

「足元が不安定な雪原でのソリ引きは突進力の強化に最適」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー4』より

第4作で試合前のトレーニング地にロッキーが選んだのは旧ソ連の雪原。ここで、彼は同行するメンバーの一人を乗せたソリを引きます。対戦相手のドラゴが同じ動作をマシンで行う描写もありますが、“雪原でのソリ引き”の方が圧倒的に質が高い! 雪道では地面を1歩ごとに捉えないと滑るので、踏ん張りが利くポジションを常に見つける必要があるためです。この動作で相手に突進する際に必要なパワーを強化できます。

「のこぎりで丸太をギコギコ切るたび、背筋を鍛えられます」

映画「ロッキー」のトレーニング
『ロッキー4』より

こちらも第4作のシーン。のこぎりで丸太切りしてますが、これはいいトレーニングですね! そもそものこぎりって押す動作でなく引く動作により切るもの。丸太切りは引く動作の連続なのでロウイングの動きに近いんです。まあ、ロッキーの場合は腕だけでなく全身でのこぎりを引いているので、全身の連動性を高めるトレーニングになってます。また、丸太切りはパンチを引き戻す時の筋力の強化にも繫がります。


あと一息! トレーナーが焦れた“惜しい”5つの筋トレ。

1/20

「名シーンですが、トレーニングの詰めがアマい!」from Rocky3

映画「ロッキー」のトレーニング

第3作では盟友でありトレーナーのアポロと海岸でダッシュの練習をします。物語の中でこのシーンは本当に素晴らしいんですが……。そもそも足が潜りやすい砂浜で走るメリットは筋持久力が向上すること。地面反力を得られないので負荷が高いです。でも二人が走っているのは海水を含んで地面が固まった波打ち際で、わりと走りやすい(笑)。よって波打ち際から一旦離れ、砂が乾いていて足が潜りやすい場所で走るといいでしょう。海岸ダッシュ、めちゃくちゃ疲れますよ。

「階段上りは有効です。ただ、ここの段差はなだらかすぎます」from Rocky

映画「ロッキー」のトレーニング

上記の海岸ダッシュに引けを取らず特徴的なこのシーン。〈フィラデルフィア美術館〉の正面玄関階段を駆け上がる姿はあまりに有名で、その階段は「ロッキーステップ」と呼ばれるほどです。ただ、単刀直入に申し上げるとトレーニング向きではない。階段の傾斜がゆるすぎる! もちろん階段上りは有効なトレーニングで、ボクサーには踏み込みの練習になります。でもフィラデルフィアの階段はなだらかすぎる。もっと急な階段でやらないとダメ!!

「肩の筋肉を鍛えるショルダープレス? これでは胸トレです」from Rocky4

映画「ロッキー」のトレーニング

第1作では簡易のバーベルショルダープレスに励んでいたロッキー。第4作で試合前に山小屋に籠もって、男性2人と女性1人を乗せた人力車を使ってショルダープレスをします。しかしこの時のロッキー、腰が反りすぎていて、もはやインクラインベンチプレス! 大胸筋の上部に刺激が入っていて彼が狙ってる三角筋に効いていません。3人分の重量に耐えきれず、反り腰になっているんでしょう。僕がトレーナーなら、腹圧を高めて、なるべく上体を立てるように指導しますね。

「タイヤをただ打つのではなくカラダの連動性を意識して」from Rocky2

映画「ロッキー」のトレーニング

タイヤをハンマーで強く打つトレーニング、日本ではまず見ないですが、アメリカでは結構ポピュラーです。この動作はカラダの使い方の練習になる。ドーン!!とタイヤを全力で打てば爆発力を養えます。でもロッキーのやり方は正直イマイチでした。タイヤを強く打つのは難しく、工夫して打たないとハンマーにうまく力が伝わらない。ハンマーを振り下ろした瞬間に上半身が止まるようブレーキをかけるのがポイントです。

「どの筋肉にも負荷がかかっておらず、ほぼ無意味です」from Rocky2

映画「ロッキー」のトレーニング

率直に申せば、コレはほぼほぼ意味がない。第2作で試合前の練習のひとコマ。サポートスタッフと背中合わせになり、上体を捻って一つのメディシンボールをパスし合うんですが、どこの筋肉にも負荷がかかっていない。このボールの負荷は重力方向にかかってますが、二人はボールを床と平行に動かしているだけです。メディシンボールを20kg程度のダンベルにすれば、まだ意味がありますが。一体何のためにやったのか? おそらく、尺の問題でしょう。


ロッキーは科学へのアンチテーゼである。

お気付きの通り、『ロッキー』には“泥くさい”ほどに原始的なトレーニングがこれでもかと出てくる。

「この物語の源流にあるのは“一番大事なのは根性だ”というテーマ。最後に勝つのは、科学と真逆の、理不尽で非合理的な努力を重ねてきた人間だというメッセージです」

ロッキーとは対照的に、自宅の梁にロープをかけて、一人黙々と懸垂する敵のクラバー・ラング。背中には“鬼の顔”のような筋肉の隆起が。
ロッキーとは対照的に、自宅の梁にロープをかけて、一人黙々と懸垂する敵のクラバー・ラング。背中には“鬼の顔”のような筋肉の隆起が。

最も象徴的なのが『ロッキー3』。作中で対戦相手と2戦するが、初戦を迎える前の練習では金を儲け始めたロッキーはマシントレで鍛える一方、貧しい対戦相手は屋根の梁にロープをかけて地道に懸垂する。

「初戦の結果とその後のロッキーの姿からも作品に込められた思いは明らか。トレーニングで科学が発展し続ける今、テクノロジーを活用しつつも原始的なトレーニングも大切だと気付かされるはずです」

教えてくれた人
トレーナー・清水忍さん
トレーナー・清水忍さん/トレーニングジム〈IPF〉ヘッドトレーナー。経営するジムでは『ロッキー』の映像を流すほどのツウ。全作踏破済みだが『ロッキー2』が特にお気に入り。

取材・文/門上奈央 イラストレーション/黒木仁史 取材協力/清水 忍(IPF代表)

初出『Tarzan』No.790・2020年6月25日発売

Tarzan 公式アカウントから
最新情報をお届けします。