「走る映画」のプレイリスト|vol6. イーサン・ハントの爆走プレイリスト。
映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第6回は、最新作の公開にあわせて、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが走り続けた『ミッション:インポッシブル』シリーズに注目。全8作の爆走名シーンと進化するサウンドトラックから、疾走感を高める名曲を厳選してミックス。
選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ) 写真/アフロ
『ミッション:インポッシブル』(以下『M:I』)シリーズの8作目『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が公開された。概ねのストーリーは、CIA極秘諜報部隊・IMF(Impossible Mission Force)のエージェントであるイーサン・ハントが、テロリストの陰謀からアメリカ、そして世界の危機を救うという内容。
約30年もの間、イーサン役を演じ続けたのはトム・クルーズ。1作目が公開された1996年当時、1962年生まれのトムは33歳。ちなみに現在は現在62歳だ。シリーズを追う毎に激しくなっていくアクションに対して、さまざまなトレーニングを重ね、超人的な肉体を作り上げていったという。
毎回、前作を凌駕するアクションを盛り上げる『M:I』の音楽は、映画の原作となったドラマ『スパイ大作戦』(原題は『Mission: Impossible』1966年製作)のメインテーマを、その時々の作曲家や編曲家がアレンジして使用。
原曲を作曲したのは『燃えよドラゴン』の劇伴などでも知られるラロ・シフリン。軽快なギターとパーカッションと、スリリングな旋律のストリングが印象的なメインテーマは、スパイや諜報員を取り上げた映像で、いまだに使われているほど。
映画『M:I』シリーズでは、映画のオリジナルサウンドトラックを担当する作曲家たちが、インパクトの強いあのメロディを受け継ぎつつ、さまざまなアレンジを加えている。
この連載では、特定のテーマからプレイリストを制作し、その曲順ごとに映画と楽曲にまつわる解説を施している。今回は新作の公開を記念して、これまでの『M:I』爆走シーンを振り返りながら、シリーズのみでプレイリストを制作することにした。
全8作品に共通したテーマ曲があるため、曲ごとの説明ではなく、各作品のサントラを担当した作曲家の特色と、アレンジの妙を紹介してみたい。
まずは、記念すべきシリーズ1作目の音楽は、『シザー・ハンズ』や『バットマン』シリーズで知られるダニー・エルフマンが担当。M12のメインテーマにおける、90年代独特のエレキギターのアレンジは、今でも独特の高揚感を与えてくれる。
冒頭からヨセミテの国立公園でのフリークライミングに興じる『M:I 2』(2000年日本公開)は、『男たちの挽歌』シリーズで知られる香港アクションの雄、ジョン・ウーが監督を担当。派手さを増したアクション、爆破シーンに劇伴を付けたのはハンス・ジマー。オーケストラはもちろん、エレクトリックを多用した、外連味たっぷりのM10や、美しい旋律のM14まで。シーンに合わせた楽曲を揃えてくるあたり、さすがはマエストロといえる。
3作目の『M:I 3』(2006年日本公開)では、監督をJ・J・エイブラハム、スコア、劇伴にマイケル・ジッキアーノという『スタートレック』などで名タッグを組んでいるコンビへ。M1、M8など、お馴染みのテーマソングを、少しジャジーで、洒脱なアレンジで聴かせる。
続く4作目の『M:I/ゴースト・プロトコル』(2011年日本公開)で、監督は変わったものの、音楽は引き続きジッキアーノが担当。物語はモスクワ刑務所内の暴動から始まり、クレムリン爆破、ドバイの高層ビル側面走行、そして迫りくる砂嵐から猛ダッシュで逃げるシーンなどなど。手に汗握る局面の数々の中に、ジッキアーノによるM3などの地域性を取り入れたスコアが華を添える。
5作目『M:I ローグネイション』(2015年日本公開)から最新作『M:I/ファイナルレコグニング』までは、トムとピッタリ息の合ったクリストファー・マッカーリーが監督を担当。この頃から、トムはほとんどのアクションをスタントマンなしで、自ら行うようになる。音楽はジョー・クレイマー。壮大なオーケストレーションを多用して緊迫感を演出している。
続く、6作目の『M:I/フォールアウト』(2018年日本公開)。イーサンがロンドンの街を爆走するシーンの中、ビルからビルへ身体を叩きつけながら飛び移るシーンで着地に失敗。トム自身が足を骨折してしまうが、驚異的な回復力から6週間で撮影に復帰している。もちろん、失敗シーンは劇中で使用され、足を引きずる勇ましいイーサンの姿が確認できる。劇伴はローン・パルフが担当。これまでのシリーズを手掛けた音楽家と異なり、M5を筆頭にした、迫力のあるパーカッションを多用したスコアの数々は、シーンに疾走感を与えている。
パルフは第7作目『M:I/デッド・レコグニング』(2023年日本公開)、連作となる最新作でもスコアを担当している。今後、まだイーサン・ハントは走り続けるのだろうか。続編にかすかな期待を寄せつつ、まずは劇場で新作を観ることをおすすめしたい。