「走る映画」のプレイリスト|vol5. 恋する気持ちは、思わず人を走らせる!?
映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第5回は、心拍数もテンションも上がるラブソングを中心に、甘くて切ない“ランニング・プレイリスト”をお届けします。
選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ)
人気シリーズの最新作、映画『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』が公開された。ロマンス、コメディ映画のファンが劇場に詰め掛け、今ごろ大ヒットしていることでしょう。
第一作目(2001年公開)の、今でも伝説として語り継がれている下着姿での疾走シーンからも、彼女のモチベーションになっているのは恋の力だということがわかる。
恋愛映画において、やたら走るシーンが多いのは、人を想う気持ちが心を駆り立て、肉体的な影響として、思わず走り出してしまうからではないだろうか。そこで今回は恋愛映画のサウンドトラックから、心身共にアッパーになる楽曲を選んだ。
こじらせ男子の、いたずらな女子への片想いを描いた『500日のサマー』(2010年日本公開)からM1。主人公のトムが、愛しのサマーの元へ向かう時、嬉しさ余って猛ダッシュをキメる。「(自分の片思いは)いつか伝染するように(キミに)伝わるはず」という、恋する最中独特の軽く病んだ気持ちを、軽快なピアノのリフとオーケストラのみで聴かせる爽快な一曲。
M2はリチャード・カーティス監督のラブストーリ3部作の最終章『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(2014年日本公開)から、美しいギターの音色がキュンキュンするザ・キュアー必殺のラブソングを。主人公のティムは、タイムトラベル能力を持っているくせに、恋すると思わず走り出してしまう性質がある。サイキックなのに、恋する行動は思春期の男子そのものなのだ。
レオス・カラックス監督作『汚れた血』(1988年日本公開)の主人公・アレックスは、恋するアンナと心を交わした後、テンションが上がって走り出す。このランニングフォームが特異かつ、デヴィッド・ボウイのM3との相性も素晴らしく、なんかコンテンポラリーダンスのように見えてくる。いまだに疾走シーンとして人気が高い。
ちなみにカラックスは『汚れた血』を挟み、『ボーイ・ミーツ・ガール』と『ポンヌフの恋人』からなる3部作を制作している。恋愛映画にはなぜか3部作が多い。
トラックリスト的な曲調とテンポのつながりから、再度『500日のサマー』からM4を。オタ系男子が女子から「わたしもザ・スミスの曲、好きよ」と耳元で囁かれたら、そりゃ恋に落ちるというものです。
ザ・スミスのモリッシーも敬愛するジ・アンダートーンズの名曲M5を使用したのは、ミカエル・アース監督作『サマーフィーリング』(2019年日本公開)。主人公のロレンスは恋人との離別にもがき苦しみながら、ベルリンとパリ、NYの街で思わず走り出す。
若き日の金城武演じる刑事が、蒸し暑そうな香港の街を駆け抜けるシーンが印象的なウォン・カーワイ監督作『恋する惑星』(1995年日本公開)。出演もしたフェイ・ウォンによるエンディングテーマM6は、アイルランドのバンド、クランベリーズの名曲をカバーしたもの。現在、Spotifyではライブバージョンのみが配信されており、今後、オリジナル・サウンドトラックの配信に期待したい。
FBI捜査官が囮捜査のためマフィアの妻へ近づき、思わず恋に落ちてしまうロマンティックコメディ『愛されちゃって、マフィア』(1989年日本公開)はジョナサン・デミ監督のデビュー作。三角関係の物語にピッタリなニューオーダーのM7は、いまでもエレクトロクラシックとして人気が高い。
ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』(2004年日本公開)からフェニックスのM8を。ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンが新宿の街中を走り回るシーンなど、公開当時、日本人にはリアルな風景だったため感情移入できなかったものの、20年経ってから見直すと、景観に変化があることから新鮮に映る。
『プラダを着た悪魔』(2006年日本公開)で、恋に仕事に全力投球する主人公・アンドレアの奮闘する姿に、ジャミロクアイのフォーキー&ファンキーなM9がピッタリ。
『わたしは最悪』(2022年日本公開)では、将来に不安を感じながらも、いつも恋愛にハマってしまう主人公のアンナが過去を吹っ切るように、思わず走り出すシーンが印象的だ。怠惰かつ自分の不甲斐なさを描いたシーンに、ジャマイカ系UKのバンド、サイマンデのファンクなM10が妙にハマる。
そして、『ブリジット・ジョーンズの日記』の第1作目では、カイリー・ミノーグやダイアナ・ロス&マーヴィン・ゲイなどの名曲が散りばめられているが、物語の序盤を盛り上げたチャカ・カーンのクラシックM11が素晴らしい。
最後は、売れないバンドマンが、愛しのラモーナと付き合うため、元彼軍団と戦わなければならなくなる、荒唐無稽なコミックを映画化した『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2011年日本公開)から。ランニング後のクルーダウン用として、シャーデーの名曲をカバーしたM12を。恋の力と美しいバラードがあれば、どんな難局でも乗り越えられるかもしれない。