大迫傑(マラソン)「ロードランとトレランに、区別はない」。
「ロードランもトレランも区別はない」。そう語るのは、プロのマラソン選手・大迫傑さん。今ではフランスのトレランレース「UTMB」にも出場しているという。ロードランを生業とする大迫さんが、大自然を駆け抜けるトレランに興味を持ち、レースに出場するようになった経緯とは?
取材・文/内坂庸夫 撮影/若岡拓也
初出『Tarzan』No.897・2025年2月20日発売

Profile
大迫傑(おおさこ・すぐる)/プロランナー。全国高校駅伝で2回の区間賞、箱根駅伝で2回の区間賞、ニューイヤー駅伝でも区間賞を受賞。2015年ナイキ・オレゴン・プロジェクトに加入し、プロランナーとして活動。21年8月東京2020オリンピック男子マラソン6位。24年8月パリオリンピック男子マラソン13位。
「一度は試してみたい」で高尾を走った。
身近な友人が山を走っていたから、ということもあるけど、トレランも同じ「ランニング」なので、一度は試してみたいな、という思いがあったんです。
そこで去年の5月に友人と高尾に行きました。もともと、日本やアメリカでも合宿地は標高の高いところが多いので、未舗装の山道は走っていました。でもザックを背負って走ったのははじめて、高尾がはじめてでした。
ロードでのファンランもいいけど、こうやって背中にザックを背負って山道を走るのって楽しいなあ、と思いましたね。
初めてのUTMBで感じた達成感と喜び。
ある時、オリンピックがパリだったし、高尾で一緒に走った友人が『UTMB(100マイル)』に出るというので、その応援でシャモニに行き、一緒に出場したんです。『UTMB』の中の「MCC/40km」、生まれてはじめてのトレイルレースでした。
他の選手と競うというより市民ランナーとして景色のいいところを楽しく走る、という意識。4〜5時間(マラソンの倍以上)は走り続けましたけど「楽しめた」というのが収穫ですね。フィニッシュしたときの達成感と喜びは大きかったですよ。
トレランもロードランも同じ「ランニング」。
コースにもよるけど、トレランは急な上り坂は歩いてもいい、そのときはハイキングの延長になりますよね。ロードは、決まりがあるわけじゃないけど、走り続けなきゃいけない。みんなそう思っているし、みんなそうしてるでしょう。良い悪いではなく、そんな違いを感じますね。
ロードって飽きるときがあると思うんです、そんなときは山を走ってみればいい、景色も足元の感触も違いますから。そしてロードに戻ってもいいし、トレランを続けてもいい。トレランもロードも同じランニング、走る場所が違うだけです。
トレランだから、ロードだからと区別することなく、ランニングというものを続けて、楽しんでほしいですね。
最初はハイキングの先にあるもので良い。
あと、あくまで僕のファンランという走りからですけど、トレランって疲労感がロードとは違う気がするんです。ロードと同じ全身運動なのにトレランの方が筋肉の負担が少ないと思いますよ、内臓にも優しいし、全身のダメージが柔らかいというか、そんなふうに思います。5、6時間走っても健康的な「やった感」があるし、お腹もちゃんと空くし、お酒もおいしいし。
それと、時間経過の感覚が違います。ロードの30分って長いけど、トレイルの30分なんてあっという間です。ロードだと誰々に抜かれたとか、他のランナーが気になることが多いけど、トレランでは、たとえば森の中をひとりで走っていたりすると、ロード以上に自分の世界に没頭します、自分と向き合えるように思います。
ちょっとした小走りでも、僕が走るオリンピックのマラソンでもランニングですよね。トレランもそのくらい幅が広くていいんじゃないかな。最初はハイキングの先にあるもの、でいいと思います。
UTMBってどんなレース?
西ヨーロッパ最高峰のモンブラン(4807m)の麓、シャモニ・モンブランで毎年8月最終週に開催される世界一と呼ばれるトレイルレース。モンブランの麓を巡る170kmの『UTMB』(ウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン)のほか、「CCC」「TDS」「OCC」「MCC」など距離の異なる種目があり、選手総数は7000を超える。