世界で戦う日本人トレイルランナー。期待の男女ふたりの選手を紹介。

トレイルランニングのシーンを黎明期から取材してきたレジェンドエディター・内坂庸夫さんが、世界で戦う日本人トレイルランナーを紹介してくれました。

取材・文/内坂庸夫 写真提供/APTRC2024、日本トレイルランニング協会

初出『Tarzan』No.902・2025年4月17日発売

ウチサカさんってこんな人

山の小道(トレイル)を走ること、それがトレラン。ひとりでのんびり走るのも、仲間と一緒に温泉&ビールを目ざして進むのもトレラン。そして競走のトレランもあります。もしかしたらオリンピック種目になるかも、ってくらい多くの国で競技大会が盛んです。下の表にあるように、世界レベルでトレラン競技を統括しているのは世界陸連と他の3組織。

トレイルランニングの世界統括組織(トップは世界陸連)と日本選手が出場するふたつの代表大会。

そして『世界選手権』を開催しているのはこの4団体(が合同で)が西暦奇数年ごとに。『アジア太平洋選手権』を開催しているのが、その中の国際トレイルランニング協会(だけで)。こっちは2024年に第1回大会が韓国で開催され、次回から西暦偶数年に開かれることになっています。

で、わが日本のトレラン競技レベルは?と問われれば、アジア圏内では中国と並んで「強い」んです。2024年『アジア太平洋選手権』の2種目(ショート、ロング)で男女それぞれ団体優勝、国別でも総合優勝しているんですから。

大会はショート40㎞とロング80㎞の2種目。ロングは夜にスタートする。

今回はその強い日本選手団の中から、これからますます期待、の男女ふたりの選手を紹介しましょう。

「毎日、容疑者の顔にピントを合わせる練習をしてました」

Profile

秋山穂乃果さん(2024年『アジア太平洋選手権』ショート女子3位)
あきやま・ほのか/兵庫県西宮市出身。2022年『全日本スカイランニング選手権SKY』優勝。23年『全日本スカイランニング選手権SKYULTRA』優勝。24年『スカイランニング世界選手権SKYULTRA』スペイン準優勝、『伊豆トレイルジャーニー』準優勝。

女子3位の秋山穂乃果さんは大学陸上部長距離の出身。なのにトラックを走ることが嫌いでした、同じところをぐるぐる1万mも走るなんて拷問のよう。週に一度の山ジョグ(つまりトレラン)がめちゃくちゃ楽しくて、そっちに夢中になっていました。

もともと陸上部でなく山岳部に入ろうか、と悩んだくらい山が大好きですし。「お笑い番組」のプロデューサーになりたくてテレビ局に就職。最初は報道局にまわされて現場の音声さん(長い棒の先にマイクつけてる人)から始まって、次は映像担当、大きなカメラを肩に担いで検察庁で待ち伏せ。

チャンスは少ないから一瞬のタイミングで容疑者の顔にピントを合わせなきゃいけない、それがむずかしい、ぼける。

容疑者の顔を「きっちり見たい」という思いが「なら警察官になればいい」という摩訶不思議な発想にすり替わり、警察官として長野県中野市の交番に立つことに、そして松本警察署に異動して山岳救助隊隊員になってしまいます。

遭難や事故は「突然」が当たり前、社会人になってはじめた大好きなトレランレースに思うように出場できません、悩みに悩んで退職。公私の時間をちゃんと管理できるヨガの先生に。

今回の大会、ショート部門は40km。最初から全力でぶっ飛ばしてもなんとか走り切れる距離です、1か月前のスカイランニング世界選手権(2位!)の疲れが残っていたのかなあ、もっと走れたはず、と悔しがっています。それでも3位!

「イッパツで下りの疾走感に虜になりました」

Profile

小笠原光研さん(2024年『アジア太平洋選手権』ショート男子2位)
おがさわら・こうけん/岩手県花巻市出身。2023年『ハセツネ30K』優勝、『日本山岳耐久レース』準優勝。24年『スカイランニング世界選手権SKYULTRA』スペイン4位、『日本山岳耐久レース』3位、『伊豆トレイルジャーニー』優勝。

トレラン男子選手の中にはサッカー出身の人が多いけど、ショート男子2位の小笠原光研さんもそのひとり。小学校から大学までずーっとサッカーひとすじ。大学3年のとき、サッカー以外の人生経験もしておきたいなと、アウトドアも好きだったし、サッカーでは足の速い方だったので、つき合っていた彼女(陸上部所属でトレラン好き)に地元札幌の藻岩山に連れていってもらいました。

その疾走感たるや、もうイッパツでトレランに夢中。特に平地とは違う下りのスピード(の出ることに)の虜になってしまいました。はじめて出場したレースは卒業旅行を兼ねて2019年『くだまつ笠戸島アイランドトレイル』。ロング30㎞で3位になりました、気持ちいいなあ。大会もとても楽しかったし。以来、たくさんのレースに出場してゆきます。

今回の『アジア太平洋選手権』のコースは舗装路、未舗装の幅広い道、階段の区間があったりと、欧州のトレイルとはちょっと違いました。ゲシュタルト崩壊が起きそうな長い下り階段に悩まされました。上りでトップに出ても、この階段の下りで追いつかれ、離されてしまいました(1位とは1分半の差)。

また、今回は中国の主力選手が出場していなかったので、団体でいい成績でしたけど、次回はどうなるかわかりません、中国には速い選手がいますから、とも。小笠原さん、今年は100kmの長い距離のレースに挑戦するそうです、楽しみだなあ。

日の丸を胸に異国の山を全力で走る彼らを応援してください。

日本トレイルランニング協会
HP:https://trailrunning.or.jp/request_for_membership_and_donation/

応援手ぬぐいと応援Tシャツ
HP:https://trailrunning.or.jp/

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