「走る映画」のプレイリスト|vol4. 気分転換にも、ランニングを。
映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第4回は、映画の登場人物たちが心の整理をするために走り出すシーンに注目して楽曲をミックス。疲れた体にリフレッシュのひとときを。
選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ)
トレーニングは、日々の目標を設定し、コツコツと続けることが大事。それゆえ、時々めんどくさく感じることもある。そんな時は、少しだけ走るスピードを落とし、普段眺めることのない風景を堪能してみると、新しい発見があるかも。ちょっと占い師みたいな言い回しになってきたので、端的に言うと、長期間に渡ってランニングやトレーニングを続けるなら、時々は気分転換が必要だということ。
映画史を振り返ると、気分転換にふらっとランニングに出たトム・ハンクス演じる『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1995年日本公開)の主人公がまず思い浮かぶ。愛する人との別れを経験して、芝を刈りながら「なんだか走りたい気分になった」と、走り出してから3年2ヶ月。全米中をランニングしながら旅して回ったという、スケールのデカい一遍がある。時間もコースも気にせず、とにかく走ってみると楽しいかもしれない。
そんな映画の劇中歌として印象的なのは、まずフォレストが幼少期に出会った(という設定の)キングことエルビス・プレスリーのM1。今聴くと荒削りだが、勢いのあるロックンロールがテンションを上げてくれる。ちなみに、フォレストは学生時代にその俊足を買われ、高校ではアメリカンフットボール・チームに所属していた。
アメフトといえば、バート・レイノルズ主演の傑作『ロンゲストヤード』(1975年日本公開)も忘れられない。壮大なスコアに痺れるハズが、デジタルのスコア盤がなかった。そこで2005年のリメイク版サウンドトラックから、レイノルズも愛したサンフランシスコ出身のC.C.R.のM2。
さらにアメフト映画なら、サンドラ・ブロック主演の名作『しあわせの隠れ家』のM3もいい。アメフトは言うまでもなく過酷な競技だが、ここでのランニングは、準備運動的な役割。実際の競技練習より、少しリラックスできるシーンと言えるかもしれない
リフレッシュのために走るのは何もアスリートだけではない。例えば、1970年代から現在に至るまで、ハードワークをこなすビジネスマンたちは、シェイプされた体型と、その維持に夢中だ。『恋人たちの予感』(1989年公開)に登場するハリーは、仕事に恋に大忙しの中年男性。M4のようなオーセンティックなジャズを聴きながら、スカッシュやランニングに励んでいる。
また、『摩天楼はバラ色に』(1987年)では、主人公・ブラントリーを演じるマイケル・J・フォックスを尻目に、みんなトレーニングミルに乗り、当時の最新ディスコM5にご執心だ。
もちろん、数々の映画には、仕事や日常生活から現実逃避をするためにランニングを選択する人物もよく出てくる。『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年公開)では、やんちゃな刑事たちの面倒を見る“おやっさん”ことボゴミル警部が、毎朝自宅付近を走っている。そんなシーンに、コリン・ハートのM6。音楽はもちろん、トレーニングウェアとニューバランスのシューズという出立ちは、公開当時には新鮮だった。
『グーニーズ』(1985年公開)のリーダー格であるマイキーの兄、高校生のブランドンは、家庭の経済事情、ガールフレンドとの進展遅れ、好き放題の弟たちのお世話から逃れるように、シンディー・ローパーが歌うM7を聴きながらトーレニングに没頭。劇中では常にトレーニングウェアのセットアップなのが笑いを誘う。ちょっと冴えないブランドンを演じたのは、その後に『アヴェンジャーズ』シリーズでサノス役もつとめた名優、ジョシュ・ブローリンである。多感な時期は、思わず走りたくなるのかも。
『レディバード』(2018年日本公開)(=移り気な女、の意味)を自称する、高校生のクリスティンは、恋人とつかの間の幸せを噛みしめるように走ることもあるが、中二病を拗らせまくって突発的に走り出す。行き場のない感情を抱えるレディバードを見て“青春っていいな”と思ったタイミングでかかるのが、西海岸の美メロ・コンビ、ボーン・サグスン・ハーモニーのM8。サグいながら、スロウかつメロウなGファンク・クラシックが、意外とランニングのお供になるのが不思議。
一方、子を持つ母も大変だ。『タリーと私の秘密の時間』(2018年日本公開)では、仕事と育児を両立させようと奮闘するマーロが、理想と現実のギャップを痛感し、思わず走り出すシーンが印象に残る。優しいギターのアルペジオM9がハマる。
こうして思わず走り出さずにいられない映画の登場人物を見ると、頭で考え過ぎるあまり、思わず走り出している印象がある。適度な運動、肉体的な疲労も、健康な肉体を作る上では欠かせないことかもしれない。のんびり身体を動かしながら、普段考えないようなことを思い浮かべる。
適度に身体と頭を使ったら、最後にサム・クックが歌うM10を聴いてみよう。もしかするとあらためて、日常生活や環境に感謝できるかもしれない。ちなみにM10は『アニマル・ハウス』(1979年)で効果的に使用されている。