短距離ランが体に効く理由。あるいは「ダッシュは筋トレである」
筋トレだけがカラダに筋肉をつける唯一の手段ではない。短距離ランは筋肉を発達させる効果のある無酸素運動であり、その点で筋トレと同質。つまり、ダッシュは筋トレなのである。
取材・文/坂田滋久(本誌) 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓、中田真代 イラストレーション/野村憲司、今牧良治(共にトキア企画) 監修・指導/坂詰真二(スポーツ&サイエンス)
初出『Tarzan』No.781・2020年2月13日発売
成長ホルモンの分泌が促される
カラダに筋肉をつける方法として、誰もがすぐ思い浮かべるのは筋トレだろう。しかし、筋トレだけが唯一の手段ではない。高強度のラン=短距離走はメリハリのある細マッチョになる運動として最適である。
短い時間で大きな力を発揮する無酸素運動には、筋肉を発達させる効果がある。短距離ランは無酸素運動であり、その点で筋トレと同質。つまり、ダッシュは筋トレなのである。
無酸素運動は、呼吸を止める運動という意味ではない。体内でエネルギーを生み出す際に酸素を必要としない運動だから無酸素運動という。
短時間で高強度の運動には、体内でATP-CP系と解糖系のエネルギー代謝が行われる。これに対し、ジョギングや歩行など長時間で低強度の運動には酸素を利用したエネルギー代謝が行われるので有酸素運動という。息を止めるかどうかの違いではなく、瞬発力と持久力の違いだ。
瞬発力を発揮する運動には筋トレ効果があるほかに、もう一つメリットがある。成長ホルモンの分泌が促されるため、肌、髪、爪などを含めて全身の細胞が活性化する。若々しく健康的なカラダになるのは細マッチョの条件の一つといえるだろう。
全力疾走と筋トレはまったく違うようで共通点があった
筋肥大と成長ホルモンの分泌が促される無酸素運動であるという点で、短距離ランと筋トレにはどちらも“細マッチョ効果”がある。
速筋が発達した細マッチョに
筋線維レベルの変化に着目するとわかりやすい。筋肉を構成する筋線維は均質ではなく、遅筋と呼ばれるタイプⅠ、速筋と呼ばれるタイプⅡに分かれる。タイプⅡはさらに細分化される。
筋線維はタイプⅠとタイプⅡに分かれる
筋肉を構成する筋線維には、主に持久力を受け持ち遅筋と呼ばれるタイプⅠと、主に瞬発力を受け持ち速筋と呼ばれるタイプⅡがある。タイプⅡはさらに細分化され、タイプⅡxが筋肥大の要となる。
持久力が必要なマラソンなどの長距離ランを習慣にすると、それに適した遅筋(タイプⅠの筋線維)の能力が発達する。ただし、太くなると血流が妨げられて筋肉に酸素が供給されにくくなるため、遅筋のボリュームは大きくなりにくい。
瞬発力が必要な100m走などの短距離ランを習慣にすると、速筋(タイプⅡ)の中でも筋肥大して大きな力を生み出す「タイプⅡx」が肥大する。高強度の筋トレで肥大するのも、この「タイプⅡx」である。
行う運動によって筋線維の組成が変わる
遅筋と速筋を比べると遅筋がやや赤く、速筋がやや白い。短距離走を習慣化すると筋肉の中で速筋線維が肥大し筋肉が大きくなり、長距離走を習慣化すると遅筋の能力は高まるが肥大はあまり起きない。
速筋には「タイプⅡa」「タイプⅡc」など、遅筋に近い性質を持つ中間筋線維も存在する。持久系の運動で、「タイプⅡx」が「タイプⅡa」「タイプⅡc」という遅筋寄りの筋線維に変わることが知られている。さらに、タイプⅠの遅筋に変化するのではないかと近年言われている。
だから長距離ランを習慣にすると細いカラダになり、短距離ランを習慣にすると全身の筋肉がほどよく成長した細マッチョになる。
細マッチョへの相乗効果がある
短距離ランを習慣にすると細マッチョになる理由はわかったが、筋トレをプラスする必要はあるのか。
半年かけて細マッチョになるのであれば、短距離ランだけ行って筋トレをパスしても構わない。だが2か月でカラダを変えるには筋トレが必須だ。短距離ランを補足する筋トレを用意しており、相乗効果で細マッチョ化がスピードアップできる。
細マッチョになる近道は、速く走れるようになること。そうなるためにも筋トレは必要だ。
陸上選手が筋トレを欠かさないのはタイムを縮めるためだが、タイムを縮めればそれだけ筋肉に強い負荷がかかり筋肥大する。見た目とタイムは相応じるのだ。
目標はあくまで細マッチョだが、「ラン+筋トレ」を着実に行えば、当然、走力もついている。運動会で活躍することもできるし、日常動作も機敏になって動きにキレのある細マッチョになれる。
そう、この「ラン+筋トレ」は1粒で2度も3度もおいしいのである。