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いまこそ「背骨リセット」をすべき11の理由

背骨を整えるとどんないいことがあるか。肩こり・腰痛軽減はもちろん、トレーニング効果もアップ、姿勢良く堂々として、シュッと歩く姿でついにはモテる…。なんて、いいことの同時多発も夢じゃないはず。

①S字ラインが整って姿勢が良くなる

ヒトの背骨がS字ラインを描いていることは、こちらの記事(目から鱗な「背骨9つの真実」)で説明した通り。

動物にそうしたカーブがないのは、頭をカラダのてっぺんで支える必要がないから。その点、ヒトは体重の8〜10分の1の重さがある頭をよっこらしょと掲げて立ち座り歩く。そのための最適の構造がS字カーブというわけだ。

ところが、このS字カーブも人それぞれ。頭が前に出れば頸椎の前彎は小さくなり、胸椎の後彎は強くなる。骨盤が後傾すれば腰椎の前彎が浅くなるという具合。最適のS字が崩れれば見た目の姿勢が悪くなる。それだけでなく、特定の筋肉に負荷がかかったり靱帯が引っ張られて、凝り痛みが生じることに。

背骨をリセットし、理想的なS字カーブが整えば、美しい姿勢が身につく。目安は横から見たとき、耳、肩、大腿骨の突起の大転子、膝、くるぶしが一直線上に来ることだ。

②胸郭が広がり呼吸がスムーズに

心臓と肺は肋骨というカゴの中に収納され、外部の刺激を受けにくいよう大切にガードされている。このうち、姿勢や背骨リセットの影響を受けやすいのはの方。というのも、肺は心臓のように自力で縮んだり広がったりすることができない臓器だからだ。

肋骨の間にある肋間筋肋骨のボトム部分にある横隔膜といった、いわゆる呼吸筋によって肺は受動的に動いている

呼吸筋に引っ張られて胸郭が広がると胸腔の内部の圧力が下がり、その状態ではじめて空気が入ってくる。次に呼吸筋のテンションが下がって肺が縮まり、自動的に空気が出ていくという仕組み。

胸郭と呼吸の関係

肋間筋のうちの外肋間筋は肋骨を引き上げ空気を取り込み、内肋間筋は肋骨を下げて空気を出す。ドーム状の横隔膜が収縮すると胸郭が広がり、弛緩すると縮む。腹横筋は深い腹式呼吸に関わる。

肋骨は12個の胸椎と繫がっていて、このユニットを胸郭と呼ぶが、肺は胸郭が十分に広がり縮むことで胸式呼吸をしている。つまり、胸椎が固まって胸郭の動きが悪ければ呼吸は浅くなり、その逆ならば呼吸はゆったりと深くなるわけだ。

③ファシアが滑らかになり腰痛が楽に

ここ数年、注目を浴びているワードがファシア。これは全身を構成しているすべてのものを包んでいるのこと。臓器、皮下組織、筋肉、腱、骨、あらゆるものがファシアでぴったり包まれ、それぞれの動きは連携していると考えられている。

それでいうと筋膜はファシアの一部。いわゆる筋膜リリースというのはファシアのリリースというのが正解だ。

ファシアは本来、水分に富んだ膜だが、動かさないと水分が失われて滑走性が悪くなる。すると包んでいる組織との間に捩じれが生じて、ファシアの中にある感覚受容器が痛みを感じるという。

たとえば腰痛。病名がつく腰痛を特異的腰痛、原因が分からない腰痛を非特異的腰痛というが、特異的腰痛の代表格、筋・筋膜性腰痛にはファシアに備わった受容器が関わっている可能性が高いと考えられるのだ。

ファシアの滑走性を維持する秘訣は、とにかく動かすこと。たとえ正しい姿勢でも、長時間続けているとファシアは固まってしまう。背骨リセットがその対策になるはずだ。

ファシアと腰痛の関係

筋肉をこまめに動かせばファシアが正常に機能する。一方、いくら正しい姿勢でも動かずにじっとしているとファシアの滑走性が低下し、癒å着が起こる。こうなるとファシア内部の感覚受容器が痛みを感じるように。

④ストレートネック改善で肩こり軽減

ストレートネック頸椎の前彎カーブが失われたり逆に後彎してしまった状態を指す。これによって首こりや肩こり、頭痛や眼精疲労などさまざまな不調が表れることが知られている。

ただ残念なことに、整形外科でレントゲン診断を受けストレートネックが判明しても、湿布を処方されるだけ。そのまま放置されるケースも少なくない。でも、頸椎の構造を意識して動かすことで改善することは十分可能だ。

現に、この記事の監修者、高平尚伸先生はストレートネックを頸椎リセット運動によって1か月で改善。今や湿布いらず肩こり知らずになったという。

⑤胃の圧迫が解かれて胸やけが回復

前屈みの姿勢を長時間続けている職業の人は、即、背骨のリセットに取り組んでほしい。なぜなら、内臓を圧迫している可能性があるからだ。実際、前屈姿勢で収穫をする農家の人は常に腹圧が高くなって胃が圧迫され、食道に胃液が逆流する逆流性食道炎が多いという報告もあるそう。

これ、強い酸性の胃液によって食道に炎症が起こり、胸やけや胸の痛み、もっといえば口内炎や喉の痛みなどの症状が見られる病気。主な原因としてはストレスや暴飲暴食、肥満などが挙げられるが、上体の前屈あるいは猫背姿勢もきっかけのひとつとなる。

農業従事者じゃないから大丈夫、と他人事として捉えている人。PC作業の際、二つ折りのガラケーのごとくとんでもない猫背になっていないか? 長時間のPC作業はもはや現代人の日常的ノルマ。デスクワーカーで胸やけを抱えている人も同様に背骨リセットを。

⑥代償動作がなくなりケガをしにくく

たとえば悪姿勢や運動不足で胸椎が固まってしまったとしよう。本来、胸椎は可動域の大きな部位。回旋は特に得意だが、苦手な屈曲・伸展でさえ、整形外科的な屈曲角度は45度、伸展角度は30度といわれている。

まっすぐ立った姿勢で45度前に倒せて、30度反らせることができるのだ。

ところがほとんどの人は前傾できても反らすことができない。なので胸椎が動かない分、頸椎で動きを補おうとする。これが代償動作と呼ばれるもの。

顎を引いて首を反らして痛めてしまうことも。この場合、胸椎をリセットすればケガもしにくくなること請け合い。

⑦立位で行う筋トレの効果が高まる

よりよい姿勢で筋トレに臨んだ方が全身バランスよく鍛えられるし機能的なポテンシャルもアップする。とくに立位で行う筋トレ種目は背骨のポジションがとっても重要。

代表例はスクワット。頸椎は前彎、胸椎は後彎、腰椎は前彎というポジションをとって行うと頭、肩甲骨、仙骨のラインが一直線になり、顎が締まって肋骨が閉じる。この形をキープすることをピラーストレングスという。ピラーとは脊柱のこと。スクワットに限らず、デッドリフトでもランジでも同様に大事な条件だ。

ピラーストレングス

頭、肩甲骨、仙骨の3か所が一本のライン上にあることが望ましい。さらに顎を締めて肋骨を閉じる。このポジションをキープすることがピラーストレングスを維持するポイント。

猫背姿勢でスクワットを行うと、腹筋に余計な力が入るなどの代償動作が入る。本人的には楽に感じるが、筋トレ効果はいまひとつ。ピラーストレングスが弱い場合は脊柱起立筋僧帽筋などの鍛錬を。

⑧歩容がブレず歩きがカッコよくなる

ガチな筋トレマニアが集うジムでは、多くのトレーニーが準備体操抜きでマシンやウェイトエリアにまっしぐら。ベンチプレスにショルダープレス、ダンベルプレスにダンベルフライ。脊柱の動きを必要としない特定の動きに徹しているうち、出来上がるのはブロック体のカラダ、人呼んで「箱人間」。

筋肉量や筋力だけを求めているならそれもありだが、しなやかでカッコいいカラダとはとても言えない。筋トレ前には背骨リセットの準備運動、筋トレを行うなかで側屈や回旋の動きを取り入れる工夫をすると、バランスのいいしなやかマッチョのカラダが手に入る。

また、「箱人間」は股関節の可動域も狭くなりがち。どんどんガニ股になっていき、歩き方のパターン、歩容がカッコ悪くなる。スッと脚をまっすぐ前に出して進むスマートな歩き方は背骨のポジション作りなしに成らず。

⑨股関節の可動域が高まり走力UP

胸椎が基本的にはよく動くモビリティの関節だとしたら、腰椎は不動の体勢で体幹を安定させるスタビリティの関節。無理に動かそうとするとヘルニアすべり症などの障害が起こりやすいといわれている。やや動く頸椎とよく動く胸椎、安定の腰椎のセットでピラーストレングスは作られる。

ランナーに上半身のポジションは関係ないと思われがちだが、ピラーストレングスが整っていればその下にある股関節の可動域はおのずと広がり、より大きく一歩を踏み出せるようになる。また、ピラーストレングスを維持できれば体幹も安定し、地面の反発を推進力に変えることができる。で、記録伸びる。

⑩動きが改善してゴルフの飛距離UP

「グゥーッと構えて腰をガッとする、あとはパアッといってガーンと打つんだ」

これ、長嶋茂雄さんの伝説的オノマトペ語録のひとつ。「腰をガッと」という表現に囚われると、スイング動作=腰を回すと解釈されがちだが、さにあらず。実は回旋しているのは腰椎ではなく胸椎だ。

胸椎は本来、可動域の広いモビリティの関節。側屈・回旋という動きは特に得意だ。野球のバットスイングゴルフのドライバースイングも、胸椎が十分に動かなければ飛距離は伸びない。

片手を上げて手と逆方向に側屈してみよう。側屈した方向とは反対側の肋骨が広がる。この状態で3回深呼吸をすると胸椎と胸郭の可動域が格段に上がる。

こうしたリセットをかけることでスイング系の動きを妨げる要素が減り、飛距離は伸びるはず。あとは方向コントロールのテクニックを磨くだけ。

自律神経のバランスが整う

背骨を構成しているのは椎骨という骨だけではない。椎骨の中心にはトンネル状の管があり、この中にから続く神経の束が通っている。これが脊髄。その両側には自律神経交感神経が走り、副交感神経は脳と仙骨から末梢の器官へと至っている。

自律神経は生体機能を調節し健康を保つ大事な神経。ならば背骨のリセットを行い、S字カーブを正しく整えれば自律神経系のバランスが整うのでは?と期待したくもなるが、残念、姿勢を整えることで自律神経に直接働きかけることはできない。

ただし、胸郭の動きをスムーズにすれば呼吸が整う。そして呼吸は自律神経に働きかける重要な因子のひとつだ。

背骨と自律神経

瞳孔の収縮・拡大、心拍、発汗、呼吸、消化器や膀胱の機能など、全身の生体機能をコントロールする自律神経は脳や背骨に始まり、全身の器官に向かう末梢神経として機能する。呼吸からの逆アプローチで調整は可能。

ゆっくり深い腹式呼吸は副交感神経を優位にし、カラダをリラックスモードにシフトさせる。間接的にだが、胸椎リセットで自律神経を整えることは可能なのだ。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/内山弘隆 取材協力/高平尚伸(北里大学大学院医療系研究科長、整形外科学、リハビリテーション科学、機能回復学教授)、澤木一貴(SAWAKI GYM)

初出『Tarzan』No.818・2021年9月9日発売

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