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「座りすぎ」を避けることで得られる6つのメリット

「座りすぎ」を避けることで得られる6つのメリット

デスクワークに加え、スマホ一台で買い物もデリバリーも済ませられる今、座りすぎのリスクが世界的に警鐘されている。今回は思わず立ち上がりたくなるような、座りすぎを避けるメリットを紹介。座りすぎを避けるだけで、カラダは楽になり、仕事も捗り、一石二鳥と言わず数多くのいいことがあるのだ。

メリット① 仕事の効率が上がり、やる気が高まる

ビジネスパーソンとしては、生産性(仕事の効率)を高め、ワーク・エンゲージメント(イキイキと熱意を持ち、仕事にポジティブに臨んでいる状態)をキープしたいもの。

ところが、座っている時間が長くなると、20〜30代の若い世代では生産性が下がり、40〜50代ではワーク・エンゲージメントがダウン。

とくに座りすぎている40〜50代では、仕事に対する活力・熱意・没頭を感じられない人が、およそ1.5倍も増えるという。

座位時間と生産性、ワーク・エンゲージメントの関わり
座位時間と生産性、ワーク・エンゲージメントの関わり

20〜59歳の約2,500人(平均年齢40歳。男女半々)を対象としたもの。生産性は、これまでの最高と最低のパフォーマンスを思い出してもらい、それと比べて今週がどうかを尋ねた。Ishii K et al. J Occup Environ Med, 2018.

逆に言うなら、座りすぎをやめると生産性が上がり、ワーク・エンゲージメントも保てると期待できる。ナゼ座りすぎで生産性もワーク・エンゲージメントも低調になるのか。

座位中、の血流は減るが、それ以上の因果関係はハッキリしない。能率が上がらないので、座って必死にタスクをこなしているのかもしれないし、活力や熱意がないから無気力に座っていることも考えられる。

でも、仕事が進まなくなったり、やる気が落ちたりした際、カフェへコーヒーを買いに出かけたりすると、気分がリフレッシュ。リセットできて能率がアップしたり、やる気が湧いたりした体験は誰でもあるはず。

デスクワーク中はブレイク30(30分に一度ブレイクすること)を実行し、軽く動いて気分転換に努めよう。

メリット② 肥満が避けられる

痩せて脱げるカラダになりたい? ならばその第一歩は、座りすぎを避けること!

当たり前だが、太るか、痩せるかを決めるのは、運動や活動などによる消費カロリーと、食事からの摂取カロリーのバランス。消費カロリーが摂取カロリーを下回っていたら、いつまで経っても痩せられない。

大盛りやお代わりを好む大食漢が痩せないのは自業自得だが、現在は食べすぎでないのに太ったり、痩せられなかったりするタイプが多い。たとえ食べすぎていなくても、消費カロリーが少なすぎると、痩せるどころか太っていくばかりだ。

消費カロリーを増やす=運動という先入観が強いと、「運動なんてムリ」と二の足を踏みがちだが、実は家事などの日常の活動を増やす方が減量の近道。1日に消費するカロリーの30%前後は、運動以外の身体活動(NEAT)だからである。

肥満者とそうでない人を比べると、肥満者の座っている時間は、そうでない人と比べて1日平均およそ160分(2時間半以上)も長いという事実も判明している。

太っている人は座っている時間が長い
太っている人は座っている時間が長い

太っていない人と軽度肥満者で座りがちなボランティアを集め、センサーを装着して姿勢と動きを測定。肥満者はそうでない人と比べて、1日平均約2時間半多く座っていた。Levine JA et al. Science, 2005

座りすぎを回避し、その分だけ歩くなどしてNEATを増やすように心掛ければ、しんどい運動に汗を流さなくても減量は叶うのである。

メリット③ 筋肉の衰えが防げる

座り続けることが、ナゼこんなに悪いのか。その問いに対する明確なアンサーの一つは、座った姿勢では筋肉がまるで働かない点にある。

体重の約40%は筋肉。その70%前後はヘソから下の下半身に集まる。

座ったままだと、股関節、膝関節、足関節(足首)という下半身の3大関節はフリーズしたまま。これらの関節を動かす下半身の筋肉も、開店休業に陥る。お尻の大臀筋、太腿の大腿四頭筋ハムストリングスふくらはぎの下腿三頭筋などだ。

立つ、歩く、座るでの脚部の筋肉活動の比較
立つ、歩く、座るでの脚部の筋肉活動の比較

脚部の筋肉の活動を筋電図でモニタリング。立つ、歩く(4歩)、座るという3つの動作をした際、筋肉の活動量を比べた。座っている間、筋肉がほとんど働かない様子がわかる。Hamilton MT et al. Diabetes, 2007

筋肉は運動不足だと年1%の割合で衰えるが、座位時間が長いとその弱体化に拍車がかかる恐れがある。

筋肉は運動時だけではなく、安静時も体温を保つために体脂肪を空焚きして活発な代謝を行う。じっとしているときでも消費する基礎代謝の20%程度を担うのは、筋肉。ゆえに座りすぎで下半身をはじめとする筋肉が衰えると、基礎代謝はダウン。前述のNEATをせっせと増やしても、太りやすい。肥満は万病の元だ。

加えて近年、筋肉を動かすと、脳を活性化したり、代謝を上げたりするホルモンに似た物質・ミオカインが分泌されることもわかってきた。座りすぎで筋肉が働かないと、ミオカイン分泌も滞るから、心身に悪影響が及ぶ可能性大なのである。

メリット④ 血糖値が下がりやすい

血糖値への関心が高まっている。そもそも血糖値とは、血液中の血糖(ブドウ糖)量の値。主食などに多い糖質は消化吸収を経てブドウ糖になり、血中に出て血糖値を上げる。

血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌される。インスリンはおもに筋肉への血糖の取り込みを促し、血糖値を下げる

この仕組みがうまく働かないと、血糖値が下がりにくくなって糖尿病に陥ったり、食後に血糖値が異常に高くなったりする。両者は、老化と生活習慣病の元凶。余った血糖は、体脂肪となり、肥満を進めやすい。

糖尿病や食後高血糖を避けるため、糖質やカロリーの制限が勧められるが、筋肉は糖質や脂質の代謝で大切な役割があり、インスリンに頼らず、血糖値を下げるメカニズムを持つ

血糖を取り込むグルット4という輸送体は、安静時は筋肉の奥でひきこもっている。だが、筋肉を動かすと細胞表面まで出て、血糖を取り込んで血糖値を下げてくれるのだ。

従来、グルット4を移動させて血糖値を下げたいなら、しっかり動くべきだとされてきたが、ちょっとしたブレイク(20分おきに2分ずつ立って歩く)でも、血糖値を下げる効果がある。食事を終えたら座らず、とにかくスタンドアップ!

立って軽く動くだけで血糖値は下がりやすい
立って軽く動くだけで
血糖値は下がりやすい。

連続5時間の座位行動と20分連続した後で異なる活動(低強度、中高強度)で中断した際、食後血糖値とインスリン抵抗性への影響を比べた。強度にかかわらず、双方が改善。Dunstan DW et al. Diabetes Care, 2012

メリット⑤ 血管病(心臓病・脳卒中)が避けられる

体内の最重要インフラは、血液を運ぶ全長10万kmの血管。血管が老化して硬く狭くなる動脈硬化が進むと、血の塊である血栓が詰まり、心臓病や脳卒中の危険度が上がる。この血管も座りすぎでボロボロに

血管ネットワークの中心は心臓。血液の多くは心臓より下を巡る。心臓に、血液を還流させる働きはない。代わりに血液を還流させてくれるのが、下半身の筋肉による“ミルキングアクション”。筋肉のリズミカルな伸縮で血管の圧迫&弛緩を繰り返し、バケツリレーの要領で血液を心臓へ押し戻してくれる。

だが、座る時間が長引くと下半身の筋肉が働かなくなり、ミルキングアクションが不発。血流は滞る。

加えて座ってばかりだと、血圧が高くなり、動脈硬化が加速する。立ち上がって歩き回り、血流が良くなると、血管には“ずり応力”というポジティブなストレスが加わる。その刺激で血管の内側をカバーする内皮細胞から、NO(一酸化窒素)の分泌が促される。NOは血管を緩めて血圧を下げて、動脈硬化を抑えてくれる

座り続けると血流が滞り、NO分泌はストップ。血圧は上がり、動脈硬化が進み、心臓病や脳卒中といった血管病の危険度も上がるのだ。

メリット⑥ 肩こり・腰痛が改善できる

日本人の有訴率(症状があると訴える割合)では、男性の1位が腰痛で2位が肩こり、女性の1位が肩こりで2位が腰痛。

いずれにしても、痛と肩こりは国民病である。そんな腰痛も肩こりも、座っている時間が長くなるほど、増えてくる傾向がある。

座っている時間と慢性腰痛の保有リスク
座っている時間と慢性腰痛の保有リスク

韓国の国民健康・栄養調査に参加した50歳以上の5,364人を対象としたもの。1日8時間以上の座りすぎが慢性腰痛に関連。年齢、性、喫煙・飲酒状況、身体活動量などを調整済み。Park SM et al. D Spine J, 2018

韓国で50歳以上の成人5000人以上を対象に分析したリサーチでは、座っている時間が長くなるほど、慢性腰痛に悩まされる人が増えるという結果が出た。ことに1日10時間以上座る群では、5時間未満の群と比べると、慢性腰痛の保有率が1.5倍以上にもなったという。

肩こりも腰痛も複雑系。原因は一つではない。でも、骨や椎間板などに整形外科的な異常がない慢性的なタイプでは、同じ姿勢を続けることが主因と考えられる。

座りっぱなしで筋肉が緊張して固まると、筋肉を養う血管が圧迫されて血流が低下。SOSを伝えるため、痛みの信号が出る。痛むのがイヤで患部を動かさなくなると、筋肉が余計硬化し、痛みのシグナルが出続けるというバッドサイクルにハマる。

椅子から立ち上がり、同じ姿勢を避けて筋肉を動かして血流を促せば、悪循環から抜け出すきっかけとなり、慢性の肩こり・腰痛が軽くできそうだ。

では、座る時間はどのくらいにすればいいの?

座りすぎが悪いのは痛いほどわかったが、座らないわけにはいかない。

健康被害を避け、ヘルシーに座るには何に気をつけたらいいのか。先進諸国や世界保健機関(WHO)が基準を定めているが、参考になるのはカナダのガイドライン。それには3つのポイントがある。

  1. 座位時間を1日8時間以下に。
  2. 余暇にスマホなどの画面を眺めるスクリーンタイムを3時間以下に。
  3. 座位中は頻繁に立ち上がる。

まず、この3点を守ってみよう。こうした世界的トレンドを踏まえ、今年改訂予定の日本の『身体活動基準』でも座位行動に初めて言及する予定とか。その中身に要注目だ。

取材・文/井上健二 イラストレーション/石山好宏 取材協力・監修/岡浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売

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