座りすぎを避ける働き方。スタンディングワーク オフィス探訪
近年、国内でもスタンディングワークを推進する企業が急増中。立って働くことで、どんな変化をもたらしたのか。日本でもいち早く立ち仕事にシフトした〈アイリスグループ〉のオフィス、そしてスタンディングワークができるサードプレイスを訪ねた。
取材・文/門上奈央 撮影/石原敦志
初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売
WELL認証取得オフィスの立ちたくなる環境作り
訪れた場所
アイリスグループ 東京アンテナオフィス
2018年11月に完成。WELL認証の最高ランクである「プラチナ」を取得したことでも話題。アイリスグループが手がける商品やサービスを展示するライブオフィスとしての機能も備えるオフィス。東京都港区浜松町2-3-1 日本生命浜松町クレアタワー19階。
“働き方改革”が国内で謳われ始めた2019年以前から、スタンディングワークをはじめとする健康的な職場環境作りを推進してきたのが、日用品大手メーカーのアイリスオーヤマを中心としたアイリスグループ。
部署や会社を超えて人々が交わる拠点として2018年につくられた〈アイリスグループ東京アンテナオフィス〉は、全社員の半数分もの昇降式デスクを設置している。
これは、人々の健康や快適性などの観点から建物を評価するアメリカの国際認証制度「WELL認証」が定めている条件の一つ“執務デスクの25%以上に昇降式デスクの設置”をはるかに超える台数だ。
実際にオフィスを訪ねてみると、スタンディングワーカーの多いこと! 主に自社製品で構成されたオフィスには、昇降式デスクや立ち仕事向きなハイテーブル、モニター付きの昇降式テーブルが点在。
ここまで定着したのはなぜだろう? アイリスグループのアイリスチトセ株式会社マーケティング本部マネージャーの藤田幸介さんは語る。
「実は20年以上前から弊社には立ち仕事の文化がありました。それを象徴するのが立ちミーティング。
当時はまだフリーアドレスではなかったですが、個々のデスクのそばに配置した丸形のハイテーブルを囲む形で、ショートミーティングをしました。その動機は、健康のためというよりは生産性を上げるため。
座るとついダラダラ話しがちですが、立つと自然と要点に絞って話すので密度の高い会議になる。こうして徐々に浸透しました」
そのため、昇降式デスクの導入は自然なことだった。
「当初はクリエイティブ職の従業員にと設置しましたが、今は部署の垣根はありません。もともとこのオフィスは、仕事内容に合わせて時間や場所を自由に選ぶアクティビティベースドワーキング(ABW)を採用していて、随所に昇降式デスクやハイテーブルを置いています。
商品開発の目線で言うと、ただ立ち作業に使えるだけではなく、より業務を効率的に行える環境とは何か、働く時間をいかに健康に繫げるかが念頭にあります」(マーケティング本部責任者の坂田淳一マネージャー)
フロアを歩くと、必ず立っている人がいる。一周して再びフロアを見渡すと先ほど座っていた人が立ち、立ちミーティングしていた人たちがいなくなっていた。
心なしか、従業員はスマートな体型の方が多い。これも日々の立ち仕事ゆえ? ともあれ、これが職場のスタンダードになる未来は遠くないだろう。
スタンディングできるサードプレイスが増加中?
訪れた場所
ザ・ゲートホテル東京
〈Vitra〉の昇降式デスクを備えるセミダブル《Modest》。“オフィスより快適な仕事環境”をテーマとし、ビジネス利用に特化した空間。1泊14,066円(1名1室利用時、消費税、サービス料込み)。東京都千代田区有楽町2-2-3、TEL:03-6263-8233。WEBサイト
勤務先や家がスタンディングワーク仕様じゃないなら、街にある、立って作業できるスポットを活用してみるのも一案だ。
業務に集中したい日はホテルステイもあり。〈ザ・ゲートホテル〉の東京、両国、京都高瀬川には〈ヴィトラ〉の昇降式デスクを完備した客室がある。
PRの皆川明子さんによれば、「ビジネス環境に特化した《Modest》は当初出張利用のビジネスパーソンを想定していました。ただここ数年はこの客室に連泊して働く方が増えた印象です。忙しい中でも健康的に時間や周囲の環境を気にせず働きたい方におすすめです」。
ホテルに限らず、都内には昇降式デスクを導入したコワーキングスペースも複数。さらにスタンディングワークができる駅も。
東京メトロ銀座駅改札から延びる地下通路にある、電源付きのハイテーブルを無料で使えるワークスペースは連日盛況。スタンディングワークができる場所が今後も増えていきそうだ。