パソコン作業をする人は知っておきたい「アイケア術6つ」
いま、私たちの「目」には、非常に重い負担がかかっているのをご存じ? 60歳といわれる「目」の寿命を延ばすためにも、適切なケアをして、いつまでもハッキリと見える大人でいたい。6つのメソッドを日常に取り入れて、アナタも「目」を労ろう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/AZUSA OKUMURA 取材協力/平松類(二本松眼科病院副院長、医学博士)
初出『Tarzan』No.844・2022年10月21日発売
目次
“超近視時代”のリスクとは?
現代人が一日に扱う情報量は、平安時代の一生分、江戸時代の1年分に匹敵するとか。その大半を私たちはスマホやパソコンなどを介し、目から取り入れる。目が疲れないわけがない。
「目のピントが自然に合う焦点距離は2m前後。テレビはそれくらいですが、パソコンは50〜60cm、本が30cm、スマホは20cmほどの距離で見る。近くに焦点を合わせる時間が増えると、焦点が手前で合いやすく、遠くが見えにくい近視に。近視が急増する“超近視時代”が始まっています」(眼科専門医の平松類さん)
2000年に世界全体の22%に当たる12億人程度だった近視人口は、2030年には40%に当たる30億人を突破する恐れもある。さらに、コロナ禍以降はテレワークが定着。「おうち時間」が増えて、動画視聴時間も延びると、その傾向に一層拍車がかかった。
近視になっても、メガネかコンタクトレンズにすれば済むと軽く考えがちだが、それは大間違い。近視は万病の元。強度の近視になると、失明の危険もある網膜剝離のリスクが12倍以上になるという報告もある。
他にも、ドライアイや眼精疲労に悩む人も増えた。クリアな視界を確保するケアを早速始めよう。
近視の程度と眼病のリスク
アイケア術① 3コンに注意し、青魚を食べる
近年、近視と並んでどんどん増えているのが、ドライアイ。患者数は2000万人を超えている。
そもそもドライアイとは、涙の不足などにより、目の表面に傷や障害が起こるもの。目の不快感を招くだけでなく、目の表面に微細な凹凸が生じて視力が悪化する。ドライアイの誘因は、俗にいう“3コン”。エアコン、パソコン、コンタクトレンズだ。
確かに、エアコンやコンタクトで目は乾きやすくなるだろうが、なぜパソコンも悪いのか。
「目は通常、1分間に20回ほど瞬きして涙を分泌します。しかし、パソコンやスマホを見る際、点滅する画面を注視しようとすると、無意識に瞬きが6〜7回に激減。涙の量が減ってしまうのです」
ドライアイは、涙の質が悪くなることでも生じる。その質を左右するのが、乾燥を防ぐために涙の表面を覆う油分。
この油分の性質は、意外にも食事でどんな脂肪酸を摂っているかで変わってくる。
「ファストフードや加工食品の摂取が増えると、オメガ6脂肪酸ばかりが増え、涙の油分が固まりやすくなり、流れが滞りやすい。青魚やアマニ油などに含まれるオメガ3脂肪酸は油分が固まりにくいため、これらの食品を増やし、涙をサラサラに保ちましょう」
アイケア術②「20–20–20ルール」で眼精疲労をリセット
同じ姿勢を続けていると、筋肉は疲れてくる。それは、レンズの厚みを調整してピントを合わせている毛様体筋という筋肉でも、眼球を動かす3対6枚の筋肉でも同じこと。
スマホやPCのような近くに限らず、同じようなところを凝視し続けると、これらの筋肉が疲弊。視力低下や眼精疲労を招く。
「60分に最低1回、仕事や作業などを中断して目を休めましょう。子どもの目はピント調整力が高い反面、筋肉がより緊張しやすいので、30分に1回は勉強やゲームを中断するように促してください」
アメリカ眼科学会ではもう一歩踏み込み、「20-20-20ルール」を定めている。
これは、20分ごとにスマホやPCなどから目を離し、20フィート(約6m)以上離れた何かに焦点を当て、20秒間見続けるというもの。近くなどを見続けてフリーズしたピント調節機能をリセットし、目を休める。
6m以上先にあるものなら、何を見てもOK。
「緑を見るといいといわれますが、それは遠くに目を移すと木々などの緑が目に入りやすいから。ビルの看板でも何でも構いません」
電車やバスに乗っているときも、スマホばかり凝視せず、たまには車内や窓外に目を移して目を労ろう。
アイケア術③ 100円ショップの老眼鏡をかけて2m先を5分見る
100円ショップなどでも購入できる「+2」または「中」の老眼鏡を用い、近視などを軽快させて視力を上げる手軽な方法がある。それが「雲霧法」だ。
この方法は、眼科で視力検査をする前に行われているリセット法をアレンジしたもの。目のピントを合わせる毛様体筋が緊張状態だと、視力は正しく測れない。
そこで眼科では、視力検査に先立ち、ピントの合わないテストレンズをかけて20分ほど過ごしてもらい、毛様体筋をリラックスさせる準備プロセスがある。
「すると、雲や霧の中にでもいるように視野がボヤけてしまい、ピントがまったく合わないので、毛様体筋は頑張るのを諦めます。その結果、毛様体筋が休まり、リラックスできるため、ピント調節機能の不全から生じる仮性近視や、スマホなど近くを見すぎて老眼に似た症状が出る“スマホ老眼”などの不快感が和らぐのです」
老眼鏡をかけたら、2m以上の遠くを5分ほど見るだけ。メガネをかけている人は、いつものメガネの上から老眼鏡をかける。コンタクトレンズユーザーも、コンタクトを装着したままでOKだ。
嬉しいことに即効性が高く、5分ほどで以前よりクリアに見えるようになる。ぜひ試してみよう。
アイケア術④ 目薬をさしたらパチパチせず、目頭を30秒ほど押さえる
ドライアイや疲れ目などに悩み、目薬を日常使いする人は多い。でも、平松先生によると、95%の人は正しくさせていないという。
まずは基本のキ。定番のさし方は、「ゲンコツ法」と呼ばれるもの。頰に片手のゲンコツを当てて、下瞼を軽く押し下げて目を見開き、目薬を持った手を乗せて固定。容器の先が瞼やまつ毛、目に触れないように1滴だけ点眼する。
「点眼後に目をパチパチする人もいますが、それだと涙が出てきて目薬の成分が押し流される。やってほしいのは、目頭を指で30秒〜1分押さえること。涙点という涙の通り道が塞がれるので、目薬の成分が留まりやすくなります」
目薬は生モノであることも、お忘れなく。気をつけて点眼しても、容器を押し潰してさした直後は、スポイトのように周囲の常在菌などを吸い込み、内部で繁殖させる恐れがある。1か月ほどで使い切るのがベストだ。
「また、充血を取る目薬を安易に使うのもNG。充血は、ドライアイや目にできた小さな傷などを治すために生じます。充血が目薬で取れたとしても、その原因が手付かずのままでは本末転倒。長引くときは眼科を受診し、充血の原因を調べて治療しましょう」
アイケア術⑤ 眠る30分前にやることを決め、スマホやPCをオフにする
起きている間、私たちは目をつねに酷使している。使いすぎでぐったり疲れた目を休めるために不可欠なのは、やはり睡眠。睡眠不足だとカラダの疲れが取れないように、目の疲れも取れないので、視力だって悪くなる。
安眠へ導くいちばんのポイントは、帰宅したらできるだけ暗くして過ごすこと。日が落ちて暗くなると、脳内で眠りへ導くメラトニンというホルモンが分泌される。明るすぎると、そのメラトニンの分泌がストップ。眠りが邪魔されてしまう。
スマホやPCの光も目を刺激してメラトニン分泌をブロックするし、動画などを見ると興奮して眠れなくなる。遅くとも就寝時刻の30分前にはオフに。
「入浴やストレッチなど、眠る30分前にやるルーティンを決めておけば、自然にスマホやPCをオフにできます。寝ている間も、目に光が入らないように、寝室は極力暗くしてください。
瞼を閉じても光は入るので、アイマスクをして寝るのもいいでしょう。真っ暗だと眠れない人は、目の高さより低い足元に常夜灯を灯しましょう」
ぐっすり寝ても治らないのは、単なる疲れ目ではなく、眼精疲労。これまで紹介した「20-20-20ルール」や「雲霧法」などで、根本から目の疲れをケアしてほしい。
アイケア術⑥ こわばった筋肉をほぐし、涙の質を良くする
スポーツ障害の対処法では、急性では冷やし、慢性では温めるのが鉄則。それは目の疲れに対しても同じ。慢性的な疲れ目を癒やしたいなら、目のまわりを温めることが有効である(ただし結膜炎、目の充血や腫れ、目のアレルギー症状がある場合、温めるのは逆効果になりやすいので要注意)。
「温めると目の筋肉がほぐれるほか、涙に含まれる油分が溶けやすくなり、涙の質が良くなってドライアイにも効果的です。
瞼を閉じたら、熱すぎず、ぬるすぎない40度前後にレンチンしたホットタオルを乗せて、1〜5分ほどじっと過ごします。浴槽入浴の際、お湯に浸したタオルを軽く絞り、同様に目を温めるのもいいでしょう」
タオルが手元にないときは、両手のひらを10回ほどこすり合わせ、摩擦熱で手のひらを温めて、閉じた目を30〜60秒ほど優しく包む「パームアイ」を試してみよう。
ただし、その際、決して目を強く押してはいけない。
「目を押すと、眼球の奥を走る三叉神経と迷走神経が刺激されて、反射的に副交感神経が優位になり、心拍数が落ちてリラックスします。疲れていると、ついつい押したくなりますが、目の周囲の神経や血管はとても繊細なので、強く押すと傷つける恐れがあるのです」
コラム:乱視ってナニ?改善するには?
目のレンズに当たる角膜や水晶体は、完全な球形ではない。誰にでも、わずかな歪みがある。この歪みがひどすぎると、光の屈折力が均一ではなくなり、焦点がピタッと合わなくなる。それが乱視だ。
「完璧な球形の目を持っている人は極めて稀ですから、その意味ではほぼ誰もが乱視持ち。とくに、アレルギーなどで目をよくかく人は角膜が歪みやすく、乱視に陥りやすい。
目の細胞は毎日入れ替わっていますから、乱視の状況は日々変わる。何かの拍子にモノが歪んで見えるという実感が出て初めて、“近視に乱視が入ってきた”などと自覚するのです」
乱視の多くは、角膜や水晶体が一方向に歪み、焦点が一点で合わない。これを「正乱視」と呼ぶ。それ以外でも、炎症や怪我などにより角膜に凹凸ができ、焦点が多数生じて合わないタイプもある。これは「不正乱視」と呼ばれる。
正乱視は、乱視用のメガネかコンタクトレンズで矯正可能。不正乱視はメガネではなく、ハードコンタクトレンズで角膜の凹凸をカバーする方法が適している。また、レーシックなどの屈折矯正手術が適用されることもある。眼科医に相談しよう。