絶対に、まだのはず! そう自分に言い聞かせても、帰路の電車内でスマホを持つ手は、朝の出勤時と比べて微妙に遠くなっている…ような。
これこそ、いま働き盛りに猛威を振るう“スマホ老眼”、別名・夕方老眼だ。
本格的な老眼が始まる前の一時的な生理現象だが、見え方が悪くなる理由は中高年の老眼と同じ。
スマホ老眼、2つの理由。
2つの理由で老眼はやってくる。目は光を角膜と水晶体で屈折させ、網膜の上に像を結ぶことで物を見ている。だが、加齢とともに水晶体を膨らませる毛様体筋の筋力が低下し、薄く広がったままになりがちとなる。これはいわば遠くを見る状態。
また、年とともに水晶体が硬くなるので、近くを見るために水晶体をぐんと膨らませ、屈折率を上げるのは難しくなり、結果的に近くが見えにくくなるのだ。だから、スマホを持つ手がより一層遠くなる。
さらに目の問題だけでなく、情報伝達ルートである視神経に老化、劣化が進めば、見え方への影響は避けられないし、脳の情報処理能力が低下しても視力低下は起きる。
まだ本格的な老眼世代でない人に、こういう現象が起きるのは往々にしてスマホ、パソコンなどのディスプレイを近距離で長時間凝視したため。疲労しきった目はピント調節機能が低下してしまうのだ。
目の疲労と近距離の見えにくさを自覚するなら、本気で目を休ませる生活スタイルに切り替えよう。パソコン作業は60~90分ごとに10~15分程度の休憩を入れるべし。休憩時には目を温めても回復につながる。
初期老眼は「まだ戻れる」。
もちろん、ブルーライトをカットするのもよい工夫。初期老眼の段階で対処すれば、まだ回復力があるので改善は可能だが、放置すると本格的な老眼に直結する可能性あり!
目を休める以外にできる自助努力も実はいろいろあり、昔から推奨されてきたシンプルな方法に、遠近の対象物に対し、交互にピントを合わせて見るというものがある。
また、下記のガボール・アイ(初級者向け)を試してほしい。ホログラフィーの発明でノーベル物理学賞を受賞したデニス・ガボール博士考案のガボール・パッチを利用した視力回復法だ。
これを見ることで目に変化をもたらすのではなく、脳の情報処理能力を高めて視力をよくするので、初期老眼だけでなく近視にもいいとされる。カンザス大学は初期老眼21名、近視17名でこのパッチを使って実験を行ったところ、老眼の人の近見視力が平均0.3向上したという。
ガボール・アイのやり方
目の変化はカラダからのメッセージ。
栄養面では老化の両輪に当たる酸化、糖化を遠ざける食生活が望ましい。なかでも目の老化予防で特に問題視されるのは糖化だ。なぜか?
水晶体はほぼ水とタンパク質でできていて血管は通っていない。このため毛様体が作る透明な房水から栄養と酸素をもらっている。また、水晶体を構成する物質は生涯にわたって入れ替わることがほとんどないから、房水に糖が過多なら、糖化産物が蓄積しやすく、目の老化を加速しかねない。
また、物を見る機能のまさに中核を担う黄斑と水晶体はルテインを多く含む。ということは、黄斑と水晶体はルテインをたくさん必要とする可能性が高い。ルテインを多く含むホウレンソウやブロッコリーは意識的に摂るといいだろう。
あれこれと自助努力を重ねても改善が感じられず、日常生活に不便をきたすようになったら、まず訪れるべきは眼鏡店ではなく眼科医。初期であっても老眼の近づく世代には、白内障や緑内障が自覚症状もなく始まっていることがあるからだ。
また、目以外の臓器に問題があり、その結果として見え方に変化を生じることがある。たとえば糖尿病が進んで目がかすんだり、隠れ脳梗塞で視野が欠ける、甲状腺機能亢進症(バセドー病)で眼球が大きく突き出てくるような症状を呈するなど、考えられることはいくつもある。
眼鏡店では発見が難しくても、眼科医ならこうした異変を見逃さないはず。中年が近づいたら何ら自覚症状がなくても、年に一度は眼科検診を受けるのがお勧めだ。