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上瞼が垂れ下がると老けて見られがちだが、視野に影響する眼瞼下垂は専門医を受診すべし。原因が瞼ではなく、生死に関わる大事が進行している可能性もある。実は瞼は要注意部位だ。
このごろ上の方の視野が狭くなり、見えにくい。上瞼が重く感じる。見ようとすると、つい顎を上げ、額に力が入り、眉毛も上がりがちになり頭痛や肩こりが増えた。人から眠そうに見えると指摘されたが、特に眠気が強いわけではない。
けれど鏡を見ると、確かに昔より上瞼が下がり、眠そうに見える。そんな自覚のある人は眼瞼下垂(がんけいかすい)になっている可能性がある。
瞼はカラダの奥深いところで起きている重大な変化をモニターできる可能性のある部位だ。日ごろ化粧の習慣がない男性も、注視しておいて損はないだろう。
上の図を見てほしい。眼瞼挙筋の先端にある腱膜が、瞼の内部の瞼板という軟骨のような組織の前面につながっている。この筋肉は動眼神経という神経の支配下にある。
また、腱膜の裏にはミュラー筋という、瞼を動かすもう一つの筋肉があり、瞼板の上の縁につながっている。この筋肉は交感神経の支配下にある。
目が開くのは、これらの筋肉が縮み瞼板を引き上げるから。だが、これらの連結が緩くなったり、筋肉が傷んで薄くなる、神経に麻痺が生じるなどして、眼瞼挙筋が頑張っても上瞼は上がりにくくなることがある。これが眼瞼下垂だ。
医療機関で眼瞼下垂の程度を診断する際に測定する数値の一つがMRD-1(marginal reflex distance-1)で、訳すと上眼瞼瞼縁中央―瞳孔角膜反射距離。これはリラックスしたときの上瞼の縁と瞳孔中心までの距離だ。
眼瞼下垂は放置しても失明しないが、先に述べたように頭痛、肩こりをはじめ多彩な不定愁訴をもたらしうる。放置して治ることはなく、悪化するだけだ。
また、ミュラー筋の酷使は体内を交感神経優位にするという説も一部にある。かくして血圧、心拍数が上がり、カラダはストレスフルな状態に陥る。
眼瞼下垂には先天性と後天性があり、先天性は乳幼児の疾患なのでひとまず置く。成人の多くが罹るのは退縮性(加齢性)眼瞼下垂。こちらは社会の高齢化に伴い少しずつ増えつつある。
また、コンタクトレンズを長年使用してきた人に生じやすい。これはレンズを外す際に目尻を側方に引っ張る動作が、腱膜と瞼板を連結する線維を切断するからだろうと考えられている。予防としてはレンズを外す際、専用のスポイトを用いるといいだろう。
目元の化粧もリスクだ。つけまつげやエクステンションは余計な重量を上瞼にかけ、眼瞼挙筋の負担に。濃く塗ればマスカラも問題だ。化粧の際や落とす際、目元を強く擦るのも当然NGとなる。その他、よく見られる事例として、白内障や緑内障の手術後に眼瞼下垂を生じる人もいる。
一方、発症時期を自覚できる急な眼瞼下垂は、別の危険な疾患が隠れている可能性がある。夕方、あるいは入浴や運動後に生じる眼瞼下垂は、重症筋無力症の始まりである可能性がある。
これはわが国の指定難病の一つで推定患者数は約3万人。中高年の男女に多い疾患で、罹患すると神経と筋肉の接続部が免疫反応で障害されるため筋力が低下し、少し動いただけでも疲れやすくなったり、物が2つに見えるなどの症状が表れる。全身に広がると呼吸困難に陥ることもある。
眼球と瞼の動きを司る動眼神経に麻痺が起きて上瞼が下がり、眼球が外を向く外斜視になることがある。糖尿病の合併症によることもあるが、一番危険なのは脳動脈瘤による動眼神経の圧迫だ。頭痛を生じ、くも膜下出血で生命を落とす可能性さえある。
肺がんや悪性リンパ腫の影響で眼瞼下垂を生じることもある。
一方、皮膚のたるみを招く加齢自体もリスクだ。実際に眼瞼挙筋に問題がなくても、たるみによって上瞼が垂れ下がること(偽眼瞼下垂)も退縮性眼瞼下垂と同様の不便、不快をもたらす。
放っておいて治ることはないので、眼瞼下垂の疑いを抱いたら専門医の診察、治療を受けるしかない。眼瞼挙筋やミュラー筋に緩みが生じているなら、挙筋短縮術など緩みを取る手術がある。皮膚がたるんでいれば、併せて切除術も受けられる。
挙筋短縮術では眼瞼挙筋の機能回復を十分に期待できない場合、患者の大腿部から採取した筋膜を使って、前頭筋(額を走る筋肉で、収縮すると眉毛、上瞼が上がる)と瞼板をつなぐ筋膜吊り上げ術なども行われている。
当たり前だが手術を受ければ容貌は変化するが、病状が進行しすぎる前に済ませた方が変化の度合いは少なくて済む。元の生活と人間関係に戻る際、変化は少ない方が気は楽だろう。
だから、上瞼が垂れ下がってきたら鑑別と早期発見・早期治療のためにも、至急専門医の診察を受けるべきだ。
通常の眼瞼下垂は眼科、形成外科などを受診すればよい。だが、動眼神経麻痺は生死に直結する場合があるので、脳神経外科に急行するに限る。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/根本裕次(日本医科大学眼科非常勤講師)