ジムトレにまつわる基本的なQ&A。
X脚の改善なら、股関節をリセットすべし。
我慢は禁物。適度な晩酌がダイエット長続きの秘訣だ。
運動前後で脱水しないコツは?
肥満タイプをチェック!あなたはどのタイプ?
突然のギックリ腰。どう対処する?
7つのヨガポーズで代謝をアップしよう!
ジムで徹底的に美尻を磨き上げる。
  • 公開:

「正しい姿勢」の8つのメリット

姿勢は正したほうがいいに決まっている。肩こりや腰痛改善に繋がるだけでなく、姿勢が悪いまま筋トレを始めると逆効果になることもあるのだから。

メリット① 辛い肩こりや腰痛から自由になれる。

日本人のお悩みのトップ2は、慢性的な肩こり腰痛。その多くは、X線やMRIなどで画像診断しても、ヘルニアなどの整形外科的な異常が見当たらない。これらの原因がはっきりしない肩こりや腰痛の背景に、不良姿勢がある。

肩こりの誘因は十人十色だが、大雑把に言うなら、デスクワークなどで前傾姿勢を長時間続けた挙げ句、首や背中の筋肉がガチガチに固まってしまうこと。

姿勢は腰痛にも関わる。腰痛の発生源は、腰椎あたり。股関節が硬かったり、骨盤の傾きが悪かったりすると、腰部に不自然なダメージが加わり続け、腰痛に。加えて肩こりと腰痛はリンクする。

「猫背の状態で人が床に置かれた物をしゃがんで持つと、正しい姿勢の時よりも腰椎に加わる負荷が何倍にも跳ね上がり、腰痛の一因になり得ます」(早稲田大学スポーツ科学学術院の広瀬統一教授)

マッサージなどで凝った筋肉を一時的に緩めると少しはラクになるが、それは対症療法。根本的な解決にならない。不良姿勢が引き金なら、姿勢を変えない限り、しつこい凝りや痛みからは解放されないのだ。姿勢をリセットして肩こりとも腰痛とも無縁の快適なカラダになろう。

メリット② 血液とリンパの流れが良くなる。

血液とリンパ液には、細胞に酸素と栄養素を運び、二酸化炭素と老廃物を除去する働きがある。その流れが悪くなると、細胞の活動が阻害されたり、代謝が落ちたりする恐れがある。

リンパ液は、血液内の血漿に似た水分で、リンパ管を流れて最終的には静脈を介して心臓へ戻る。姿勢が悪いと、血液とリンパの流れが妨げられるかも。メカニズムは次の3つ。

  1. 姿勢の異常により、血液とリンパを運ぶ血管、リンパ管が物理的に圧迫されて流れが滞ることによるもの
  2. 不良姿勢により(または不良姿勢を招く)硬くなった筋肉が、内部を通る血管を圧迫することによるもの。
  3. 同じく硬くなった筋肉のポンプ機能の低下によるもの。心臓は血液とリンパを送り出すポンプ作用はあるが、それを吸い上げる働きはない。心臓から下の血液とリンパが重力に逆らって心臓まで戻れるのは、筋肉の伸縮が血液とリンパを押し戻すポンプのように機能するため。筋肉が硬いとこの作用が不十分となり、血液やリンパの流れを妨げる。

いずれにしても硬い筋肉をほぐして姿勢を良くすると、血液とリンパの流れもスムーズに促されるのだ。

メリット③ 筋トレで、理想体型に早く近づける。

テレワークなどで自宅で過ごす時間が長くなった。その時間を有効活用して筋トレをスタートさせるなら、まずは姿勢を整えるのが正解。姿勢が悪いままでうっかり筋トレを始めると、体型が良くなるどころか、むしろ崩れる恐れだってある。

筋肉の柔軟性や筋力に差があると、骨格に歪みが生じて姿勢は悪くなる。それを放置して筋トレを強行すると、たとえば曲がった釘をハンマーで打ち付けるとどんどん曲がってしまうように、差が広がって余計に骨格が崩れて、姿勢が悪化する。こうして姿勢がより一層悪くなると、筋肉のつき具合にも、悪い影響が及んでしまう。

「たとえば、片側の腸腰筋大腿直筋といった股関節の屈筋群が硬くタイトだと、骨盤がそちら側へ捻られます。そのままスクワットを行うと、タイトな側ばかりが屈曲しやすくなり、トレーニングをすればするほど両脚の筋肉のつき具合に差が広がってしまいます」

どうせ鍛えるなら、骨格をニュートラルに整えて、全身偏りなく筋肉をつけたいもの。筋トレと並行して姿勢改善に取り組めば、理想体型に早く近づけるのだ。

メリット④ 好きなスポーツのパフォーマンスが上がる。

ランニングのペース、テニスのサーブのスピード、ゴルフのドライバーの飛距離……。こうしたスポーツのパフォーマンスが、フォームによって左右されると聞いたら、誰もが首を縦に振って納得するだろう。

そもそもフォームとは、姿勢そのもの。姿勢を定める骨と骨の連なりであるアライメントは、通常は静止した状態の静的なアライメントで評価する。しかし、そこから動き出すとアライメントはダイナミックに変化する。この動的アライメントも姿勢の一種。それを私たちは一般的にフォームと呼んでいるのだ。

フォームでパフォーマンスが変わるのは、スポーツ動作の大半は、突き詰めると全身運動だから。

「テニス選手がサーブをするときのエネルギーの約50%は腰から下で生まれます。下半身で作った力が体幹を介して、肘、指先と伝わり、ボールに伝わるのです。この全身の運動連鎖のどこかに動的アライメントの乱れがあると、伝わるべき力が伝わりにくくなり、パフォーマンスが低下する可能性があります」

アライメントを静的にも動的にも整えると、ポテンシャルが100%発揮できるようになり、昨日の自分に打ち勝てる。

メリット⑤ 胸郭が機能して、呼吸が深く正しくできる。

呼吸と上半身の姿勢は密接にリンクしている。その双方に関係しているのが、肋間筋という筋肉。胸の肋骨の間にあり、外側の外肋間筋と内側の内肋間筋がある。

呼吸の主役となる左右1対の肺は、肋骨などが作る胸郭にすっぽり収まっている。肺が膨らむと内圧が外気圧より低くなり、高気圧から低気圧へ風が吹き込むように、新鮮な空気が入ってくる。逆に肺が萎むと内圧が外気圧より高くなり、汚れた空気が外へ出ていく。

肺自体はゴム風船のようなものであり、自ら伸縮できない。そこで、息を吸うときは外肋間筋と、胸郭の底にある横隔膜が収縮して胸郭とともに肺を広げ、息を吐くときは外肋間筋と横隔膜が緩み、胸郭とともに肺を狭める。

上半身の姿勢が悪いと肋間筋が硬くなって胸郭の動きが小さくなり、呼吸が浅くなりやすい。逆に何かの原因で肋間筋が硬くなった結果、姿勢が悪くなって呼吸がより浅くなるケースもある。

姿勢を正しくして肋間筋と胸郭の機能がアップすれば、呼吸がラクにできる。するとランのような有酸素運動のパフォーマンスも必然的に上がるだろう。

メリット⑥ スポーツでも日常でも故障のリスクが下がる。

スポーツで避けたいのは、故障。なかでも多いのが、使いすぎによるオーバーユース症候群だ。

これは、特定の場所に繰り返しダメージが加わり続けるような運動で生じる。まるで金属疲労が起こるように、筋肉や関節まわりの靱帯や腱などにトラブルが発生するのである。不良姿勢だと、オーバーユース症候群にもなりやすい。

「たとえば、オーバースローのピッチャーの場合、猫背だと肘に故障が起こりやすいことがわかっています。猫背だと肘が肩よりも高く上がりにくくなります。そのフォームでずっと投げていると、肘の腱を内側へ引っ張るストレスが加わりやすくなり、肘の靱帯を痛めやすくなるのです」

スポーツだけではない。日常生活でも不良姿勢によって思わぬトラブルを招くことも考えられる。

「猫背の姿勢で歩いたり、階段の上り下りをしたりすると、前脚の膝に負荷が加わりやすくなり、障害のリスクが上がる可能性があります」

姿勢をきちんとリセットして、スポーツでも日常生活でも故障しにくいようにコンディションを良好に導こう。

メリット⑦ 姿勢改善に乗り出してメンタルも明るく。

姿勢を巡るお話は、フィジカルばかりに留まらない。姿勢とメンタルにも、どうやら知られざる関わりがありそうだ。

気分が落ち込んでくると、普段はいい姿勢が取れている人でも、無意識に背中が丸くなるもの。自らの経験を思い出してほしい。暗い気持ちのときに、胸を張ろうとは思えないものである。

「実際、精神的不調を感じている大学生の多くが、自らは顔が下を向く猫背だと思っているという報告があります」

加えて、逆に顔が下を向いていると自己評価する大学生の多くが、精神的な不調を感じていたり、自尊感情が低かったりするという報告があるという。姿勢とメンタルがどのようにリンクしているのか。残念ながらそのメカニズムはまだわかっていない。

でも、一つだけ言えることがある。

姿勢が悪いと気づいて、改善しようと思った時点で、気持ちは少し明るく前向きになっている。それを糸口として、メンタルをどんより落ち込ませているストレスを解消しようというポジティブな行動にもつながるだろう。さらに、それによって姿勢も良くなるという正の連鎖をもたらしてくれるに違いない。

メリット⑧ 鬱気分を晴らし、姿勢を良くして免疫力もアップ。

いまどき、何かと話題なのが、免疫力。果たして姿勢と免疫力には何か関わりがあるのか。

免疫を担っている白血球は、血液とリンパに乗って全身をくまなくパトロールしている。メリット②で触れたように、姿勢を良くすると血液やリンパの流れがスムーズになり、白血球の働きは高まるから、間接的とはいえ免疫力は高められるといえそうだ。

一方、広瀬先生は「姿勢と免疫に直接的な因果関係があるというエビデンスは私が知る限りではない」と断ったうえで、現代人に多いうつ状態に触れて次のように語ってくれた。

うつに関連する身体症状として、肩こりや腰痛などがあります。これらの症状に関連して、姿勢も悪くなります。同時に、うつ状態を引き起こすような強いストレスを受けると免疫力も下がります」

新型コロナウイルス関連の暗いニュースの連続と外出自粛要請で気分が落ちてうつっぽくなると、姿勢も免疫もダウンする。

ネットなどでお腹を抱えて無心で笑えるような番組を観たり、公園を心地良く走ったりしながら、ストレス軽減に努めてうつ気分が晴らせたら、姿勢も免疫もすっきりV字回復できるかも。

取材・文/井上健二 撮影/小川朋 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/広瀬統一(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

初出『Tarzan』No.787・2020年5月14日発売

Share
Share