肩こりはなぜ起こる? 肩こりのメカニズム
固まった肩は、原因となる筋肉を特定してじっくりケアするのが実は近道。羽が生えたように軽い肩を目指して、始めよう。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/野村憲治、今牧良治、作山依里(以上トキア企画) 取材協力/伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部教授)
初出『Tarzan』No.780・2020年1月23日発売
現代人の肩こりには、2つのメカニズムが関わっている。
現代人が、肩こりとなかなか縁が切れない理由は、大きく2つある。
1つは、関節のなかでももっとも自由度の高い関節、肩関節の動き。スポーツクライミングで壁をスイスイ登れるのも、スイマーが巧みなストロークで泳ぎ続けるのも、肩関節を自由に動かせるからにほかならない。そんな肩関節の多彩な動きの背景には、多くの筋肉が関わる。
それなのに現代人はクライマーやスイマーのように肩関節を使わず、スマホを操作するのが関の山。おかげで肩関節を支える数々の筋肉は活躍の場を失い、硬くなったり、弱くなったりする。それが第一の理由。
次に目を向けたいのは、肩関節と肩甲骨の連携プレー。肩関節と肩甲骨には「肩甲上腕リズム」と呼ばれる運動パターンがある。たとえば、両腕を体側に付けた「気を付け!」の姿勢から腕を上げる際、腕だけが動けるのは30度前後まで。以降は肩関節と肩甲骨が2:1の割合で回転して腕を上げる。
デスクワークが多く猫背がクセになると、肩甲骨が固まって動きが悪くなる。それは肩甲骨周辺の筋肉の負担になるし、肩甲骨が動かないと肩関節が余計に稼働する必要がある。それが周りの筋肉の過労につながり、慢性的な肩こりが生じるのだ。
肩こりに関わる骨と関節の構造を知っておこう。
肩こりの原因を探り、対策を立てたいなら、肩まわりがどんな作りになっているかを知っておきたい。
肩関節とは、肩甲骨の外側にある凹みに、上腕の骨(上腕骨)の丸みを帯びた先端がハマったもの。
肩甲骨は、背中側にあり、逆三角形をした左右1対の平らな骨。肩甲骨を体幹につなぎ留めるのは、鎖骨のみ。肩関節と同じように、多くの筋肉によって支えられている。
この他にも肩こりと関係しているのが、背骨(脊柱)。
背骨は、椎骨という円筒状の骨をブロックのように積み重ねたもの。いちばん上にあるのが7個の頸椎、次が12個の胸椎、その下にあるのが5個の腰椎。このうち肩こりに関わるのは、頸椎と胸椎だ。
背骨は真横から見ると緩やかなS字カーブを描いている。頸椎は前側へカーブする前彎、胸椎は後ろ側へカーブする後彎をしている。このカーブが乱れると、周りの筋肉が疲れて肩こりにつながりやすい。とくに首すじに起こる凝りには、頸椎が関わることが多い。
胸椎は肋骨などと胸郭という鳥カゴのような骨格を作る。その可動性はもともと低いが、浅い呼吸や運動不足などで胸郭がガチガチに固まると、頸椎や肩甲骨の負担も増えて、肩こりの誘因となる。
ストレスや睡眠不足で交感神経が興奮すると肩こりになりやすい。
肩こりには、筋肉以外の理由も考えられる。もっとも多いのは、交感神経の緊張だ。
交感神経は自律神経のうちでもカラダを活動的に整える働きがある。毎日のように多忙でストレスや睡眠不足を抱えると、交感神経が優位になりやすい。交感神経は血管を縮めて血流を抑える働きがあり、それが肩こりの一因となりやすい。
筋肉は基本的に運動神経でコントロールされるが、筋肉内で長さを感知している筋紡錘には交感神経も連絡する。ゆえに交感神経の興奮は、筋肉の緊張を強めてしまう。
交感神経の高ぶりを抑えるには、ストレスと睡眠不足の解消が先決だ。
ストレスの緩和には、深い呼吸などによるリラクセーションが有効。
また、睡眠不足を抜け出すには、起きる時間を固定して眠りのリズムを定め、タイムマネジメントを徹底して眠る時間の確保に努めたい。2019年のOECDの調査では、日本人の睡眠時間は調査国中最短の7時間22分。日本人に肩こりが多いのは、睡眠時間が短いせいなのかも。
この他、注意したい肩こりもある。そのサインは、強い痛みがある、首や肩を動かしても痛みに変化がない、しびれがあるといったもの。内臓や神経の異常から来る場合もあるから、早めに医師に相談しよう。