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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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超回復の大黒柱になるのは、眠り。睡眠を疎かにしていると、いつまで経っても疲れは抜けない。疲労を溜めがちな眠りと入浴の習慣をいかに正しくマネジメントするかを、週末のタイムラインに沿って考えてみました。
睡眠改善も「仕事と同じようにタイムマネジメントとセルフマネジメントが大切」と言う、作業療法士の菅原洋平さん。大塚製薬ソーシャルヘルスリレーション部ディレクターの石川泰弘さんは、「肝心の疲労が取れたかどうかは、目覚めの感覚で把握しましょう」と解く。
平日編に続き、本記事では、休日のタイムラインに沿って、疲労を溜めがちな眠りと入浴の習慣の正しいマネジメント術を考えてみたい。
平日の睡眠負債を取り戻そうと週末寝坊しすぎると、眠りのリズムが狂う。かといって早起きも辛い。ならば先週の週末より30分だけ早起きしよう。
「ここまでしか寝坊しないというリミットを決めるのは比較的ハードルが低い。寝坊する際は大抵途中で何度か目覚めて二度寝、三度寝するもの。これで起きれば30分くらいは早くなる」(菅原さん)。
30分早起きするだけでも朝使える時間が増えて休日が充実する。具体的なメリットを感じると、翌週も少し早起きしようと思える。そうやって徐々に週末の寝坊を減らそう。
眠りを規則的にするメラトニンは、日中分泌されるセロトニンから合成される。そのセロトニンを作るのに欠かせないのが、トリプトファンというアミノ酸。トリプトファンは体内で合成できない必須アミノ酸。食事から摂らないと不足する恐れがあり、セロトニンやメラトニンがきちんと合成されないこともあり得る。
必須アミノ酸の供給源は肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、大豆・大豆食品という5大タンパク源。3食で網羅しよう。加えて前述のように、タンパク質の摂取で分泌されるIGF-1は体内時計を整えてくれる。
子どもの頃、遠足や運動会の夜は、よく眠れた記憶はないだろうか。眠りにはメラトニンによる「暗くなったら眠る」という規則性以外に、「日中活発に動いたから眠る」という周期がある。
「日中に活動して覚醒を促すオレキシンというホルモンが増えると、メラトニンが分泌されやすいという関係もあります」(石川さん)。
休日はごろ寝に終始せず、軽く運動してアクティブに過ごした方が眠りは整いやすい。スクワットや腕立て伏せなどの手軽な自体重トレで十分だ。運動で血液循環を促すと疲労のリカバリーにもつながる。
起床時間と同じく、入浴時間も30分だけ早めてみよう。平日は帰宅後一日の仕上げに夜遅く入るのが普通だろうが、週末はその気になればいくらでも前倒しできるはず。だが入浴は歯磨きと同じように儀式化しており、平日と同じ時間帯になって「そろそろお風呂の時間だ」とバスルームへ向かう人が多い。それを30分早めると思わぬ効果が得られる。
「この30分で眠るまでの間にゆとりが生まれます。夜ゆったりできると“マズい、もう寝なきゃ!”という義務感と焦りが薄れて、寝入りが良くなりやすいのです」(菅原さん)。
現役時代のイチローが、打席に入るまでの所作を厳密にルーティン化していたのは有名な話。同じように、眠りを助けるルーティンで助走すると入眠しやすい。イチローの真似をしたら誰でも安打製造機になれるわけではないように、どんなルーティンが有効かには個人差が大きい。
入浴以外にも、ヨガ、ストレッチ、マインドフルネス、アロマなど、心身をリラックスさせて快眠へ誘うものは多い。
時間に余裕がある週末こそ、そのどれが自分にフィットするかを検証する絶好機。そこで見つけたルーティンを平日に試そう。
寝坊すると睡眠リズムは後ろにズレるから、日曜は土曜より長く寝坊するもの。だが土曜に30分早く起きたら、日曜も先週より30分早く起きられる。
「眠りに問題がある人にこのやり方をしばらく続けてもらうと、自分から“今週は金曜早く帰ります”と言ってきます」(菅原さん)。
平日も週末も確実に寝ている時間帯(コアタイム)が長いほど睡眠周期は崩れにくく、短いほど崩れやすい。金曜早く帰宅して眠ると土曜も日曜も30分以上早く起きられる。この繰り返しでコアタイムが長くなると眠りは正しく定まりやすい。
疲れの本質は自律神経の過労。アルコールを飲むとその代謝のために自律神経の負担は増えるから、疲れは取れるどころか上乗せされる一方。加えて筋肉が緩むと仰向けになったときに舌が垂れ下がって気道が狭まり、呼吸を制御する自律神経の疲れを招く。
週末には仕事絡みの付き合い酒はないから、休肝日にしやすい。眠るためにお酒を飲む人は「部屋を暗くする」「入浴する」など別の方法で眠気を高める努力を優先。お酒なしで眠って翌朝元気に目覚めて疲れが軽くなったと自覚できたら、平日にも休肝日を拡充しよう。
入浴で深部体温を上げるのが正解でも面倒でその気になれない…。ならば夕方に体温を上げる試みを。
体温変化には波があり、日の出前に最低になり、夕方いちばん高くなる。夕方体温をさらに高めると、ジェットコースターが高く上るほどスピードが上がるように、そこから体温が急降下するタイミングで寝入りやすい。夕方運動で体温が上げられたら一石二鳥だが、難しいなら夕飯を早めにしてひと工夫。
「温かい鍋物や辛いエスニック料理のように体温が上がって汗が出るものを食べましょう」(菅原さん)。
「熱すぎるお湯は刺激が強すぎて、心身を興奮させる交感神経が優位になりやすい。寒さを感じない程度のぬるま湯だとリラックス効果がある副交感神経が優位になります。そして10分ほど肩まで浸かる全身浴をするだけでも、深部体温が上がって入眠を助けます」(石川さん)。
ぬるま湯だとお湯の温熱による体温上昇はさほど期待できないが、全身浴では水圧で血液循環が促される。血液の巡りが活発になると体表の温熱が深部に効率的に伝わるから、ぬるま湯に10分でも深部体温は上がるのだ。
スマホを目覚まし代わりにするため、枕元に置いて眠る人は少なくない。スマホが近くにあると触りたくなるのはデジタル世代の条件反射だが、真っ暗な寝室でスマホから出るブルーライトは眠気を一瞬で消し去る。百歩譲って寝室にスマホを置くのは仕方ないとしても、ベッドには持ち込まないと決めるべき。
ベッド=眠る場所と脳に刷り込むには、眠りと関わりがないものは一切持ち込まないのが鉄則。眠るための聖域であるベッド周辺から、手を伸ばしても届かない寝室の端へスマホを追放しよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/上坂元均 取材協力/菅原洋平(作業療法士)、石川泰弘(大塚製薬ソーシャルヘルスリレーション部ディレクター)
(初出『Tarzan』No.774・2019年10月10日発売)