健康を支える「睡眠」のニュースタンダード。
食事、運動とともに、健康3本柱の一本を担うのが睡眠。でも、ただ横になるだけでは意味がない。しっかりとカラダが休まることこそ、睡眠の本質なのだから。この記事では、睡眠の質を向上させるための環境改善方法について紹介する。
取材・文/板倉みきこ 取材協力/満尾 正(満尾クリニック院長)、米井嘉一(同志社大学生命医科学部教授)、日本睡眠科学研究所(nishikawa)
初出『Tarzan』No.900・2025年4月3日発売

教えてくれた人
満尾正(みつお・ただし)/〈満尾クリニック〉院長。2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを開設。食事療法に関する著書多数。
米井嘉一(よねい・よしかず)/同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授。老化のメカニズムとその診断・治療法の研究に注力。
免疫維持に抗老化、心の健康も休養あればこそ。
「レジリエンス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。もともと回復力、復元力などの自発的治癒力を表す心理学の言葉なのだが、コロナ禍以降、心身すべての健康維持に必要なワードとして、盛んに使われるようになった。
「レジリエンス」を常に維持できていれば、免疫維持、健康増進につながる、と解釈される。そのために重要な鍵を握るのが休養だ。
「普段から意識的に内臓を休めようとしなければ、疲労と老化の負のスパイラルを断ちにくい時代です」とは、抗加齢医学に長年携わる医師、満尾正さんの言葉。
内臓だけではない。過剰な情報、ストレスに一日中晒されている耳や目、生命活動を維持する自律神経や脳も真の休養を渇望している。
オンオフの切り替えが難しい現代社会。心身の回復力=レジリエンスを上げるため、積極的に休養を演出する必要があるのだ。
休養における一丁目一番地。眠りを深掘り。
睡眠は、細胞の修復や疲労回復など、心身の健康維持に必須。一方で、日本は世界一の睡眠負債大国とされる。〈nishikawa〉の〈日本睡眠科学研究所〉の調査でも、睡眠の質に不満を持つ人は約7割と、常に高い割合だ。
「最近の研究では“睡眠の質”を向上させると、成長ホルモンやメラトニン分泌が促進し、心身ストレスが緩和するなどの具体的な効果がわかっています」(同志社大学生命医科学部・米井嘉一教授)
睡眠の質の向上は緊急課題だ。長年の睡眠研究を基に導き出された7項目を参照し、寝室を“快眠スペース”に作り変えよう。
不満を放置せず、環境改善がマスト。

全体の47.2%に不眠症の可能性アリ。睡眠の質に不満を抱いている人は約7割。
長年、日本人の睡眠環境を研究する〈日本睡眠科学研究所〉が7年前から行っている睡眠実態調査。不眠の度合い、睡眠の質が悪化した結果は毎年継続。20〜40代の働き盛り世代はその傾向が強い。
眠りの研究が導き出した、睡眠環境7項目を見直す。
よく眠るためには、自発的に環境改善を。7つの項目を徹底チェック。
1.温度・湿度|空間の温度・湿度を一定に保つのが快眠条件。
入眠しやすく、途中で覚醒しにくくするために温度・湿度のコントロールを。昨今では、夏冬ともに夜の間中エアコンをつけっぱなしにすることを推奨。室温は夏は28℃以下、冬は10℃以上に。湿度は45〜55%を維持するのが理想。
2.音|外の騒音も締め出して、図書館ほどの静けさに。
人の話し声が50デシベルとされるが、40デシベルを超える音は睡眠の質の低下につながる。雨戸や厚手のカーテンなどで外の騒音が入ってこないよう工夫を。音楽を聴きながら入眠する習慣がある人も、オフタイマーを活用しよう。
3.光|目を閉じて、まぶたが光を感じないほの暗さに。
ほんのり何かが見える程度の明るさが1.0ルクス程度。光源が直接目に入ると眠りを妨げるので、消灯が理想。ただ、不安な場合は足元灯など間接照明で、0.3〜1.0ルクスに収めよう。目を閉じ、まぶたが光を感じない明るさが目安。
4.枕|頭を乗せるのではなく、首を支えるもの。
肩から首、後頭部を支え、ゆるやかなS字ラインを描く、頸椎の自然な形状を保つ枕が理想。眠りの質を高めるためには、横になった時もこのS字ラインをキープすることが大事。枕中央部は窪み、左右が少し高くなっているといい。
5.掛けふとん|ふとんの組み合わせは季節に応じて変える。
部屋だけでなく、ふとんの中の温度や湿度のコントロールも大事。理想的な寝床内は、温度33±1℃、湿度50±5%(相対湿度)。掛けふとんは保温性、吸透湿性、放湿性、軽さ、フィット性を加味して組み合わせを考えよう。
6.マットレス|体圧を分散させて、理想の寝姿勢をキープ。
人は一晩に20〜30回程度寝返りを打ち、血行の滞りを防いだり、眠りの妨げとなる体温の上昇を防ぐ。マットレスは、やわらかすぎでも硬すぎでもなく、まっすぐに立った時の姿勢を、寝た状態でも維持できるものを選ぶ。
7.ウェア|トレーニングウェア派は、即刻寝巻きに替えよう。
スウェットなど、トレーニングウェアは運動をするためにデザインされたもので、寝巻きには不向き。カラダを締め付けにくい設計と、優しく寄り添うフィット感、寝返りなどを打ちやすくするデザインを追求した寝巻きを選ぶべき。