疲れにくいカラダは作れる。スタミナを上げる、超実践的な14のアドバイス
疲れにくく、楽に動くことができ、回復力が高い。そんなスタミナのある心身になるためには、一体何をすればいいのか。スタミナをアップするための生活習慣のポイント14を、エビデンスとともに一挙にご紹介。これを実践すれば夏バテの心配は無用のはず!
取材・文/井上健二 撮影/内田紘倫 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西透 監修/梶本修身 撮影協力/AWABEES
初出『Tarzan』No.884・2024年7月18日発売
目次
- 疲れが溜まりすぎない“適度”な刺激を知る
- 起床4時間後に眠たくないかをチェックする
- 寝室を室温24度、湿度50%にコントロール
- 早く眠りたいなら睡眠儀式を1時間前倒しする
- サウナや激しい運動などで気分転換をしない
- 自然に高まる眠気に従い、ランチ後の20分以内の昼寝で脳を休める
- 眠りを妨げる二酸化炭素を追い出すため、寝室のドアを閉め切らない
- 食事時間をパターン化して腸内細菌を時差ボケさせない
- わずかな光も遮断するためアイマスクをして眠る
- 血液循環を促すために、手の届く範囲に飲み物を置いておく
- 1階上か下のトイレに行き、ミルキングアクションを活性化
- タンパク質を摂って冷え性をリセット。筋力で疲れに勝つ
- 寝坊は2時間以内に留め、週末の「一人時差ボケ」を避ける
- 太り過ぎで疲れないようにBMI22〜24に保つ
疲れが溜まりすぎない“適度”な刺激を知る
「ストレスは人生のスパイス」という名言がある。過度なストレスは有害だが、適正なら抵抗力を高め、活力を上げる。同様に適度な疲労は疲れないチカラのために実は不可欠。
「カラダの機能を保つには、適切な刺激が欠かせません。微塵も疲れないように四六時中ゴロゴロしていたら筋力が落ちるし、疲れをリカバリーさせるメカニズムもスムーズに働かなくなる。また日中に活動的に過ごしてこそ、疲れを取る眠りの質も高まるのです」(東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長)
ならばどれほどの疲労が「適切」か。その塩梅を知るのに行いたいのが、疲労度のモニタリング。翌日仕事の能率が落ちるなら、前日の活動による刺激(疲労)が強すぎたのかも。モニタリングを繰り返し、自身に最適な“中庸”レベルを探ろう。
起床4時間後に眠たくないかをチェックする
疲労回復を促してスタミナを高めるために、肝心の睡眠が足りているかどうかを知りたいもの。
スマホアプリやスマートウォッチなどを活用するのもいいが、より手軽で確実な方法がある。起床時刻から4時間後に、眠気がないかどうかをチェックするのだ。
「睡眠と覚醒のリズムは、脳の体内時計が司ります。体内時計は毎朝起きて日の光を浴びると24時間周期にリセットされる。それから4時間後が日中でもっとも覚醒度が高いように調整されています。その時刻に眠気を感じるなら、眠りが量・質ともに不十分だと覚悟してください」
朝7時に起きたとすると、4時間後の11時近辺で眠気の有無を確かめてみよう。少しでも眠気を感じるなら、疲れないチカラが落ちている恐れアリ。眠気が出ないくらいの睡眠時間を担保できるようにするため、入眠時刻を早めるなど“スリープファースト”を徹底してほしい。
寝室を室温24度、湿度50%にコントロール
脳は体重の約2%の重さしかないのに、一日に消費するエネルギーのおよそ20%を使っている。
それだけに熱を持ちやすいので、ヒートアップしないように脳を冷やすことが大切。ことに睡眠中は「頭寒足熱」といういにしえの教え通り、頭は冷やしてカラダを適度に温めると疲労回復が進みやすい。
そのために重要なのは室温を24度程度、布団内の温度を33度前後にキープすること。
鼻は脳の冷却(空冷)器官でもある。鼻から24度くらいの空気を吸い込むと、鼻腔の奥の毛細血管で冷やされた血液が脳へと流れ込み、脳をクールダウンしてくれる。
「室温25度から1度上がるごとに加熱で脳のパフォーマンスが2%ずつ下がるという研究があります」
脳力が下がると自律神経の働きだって悪くなり、疲れも取れない。
加えて湿度管理も大切。50%前後に抑えると体感温度は下がり、室温24度でも寝苦しさを感じずに安眠できるようになる。
室温とデスクワーク効率の関係
デスクワークのパフォーマンスと室温の関係を調べた複数の研究を統計的に処理したもの。3種類の点線は統計処理の違いを示しており、いずれも室温21〜22度がもっとも高く、25度あたりから急激に下がる。
早く眠りたいなら睡眠儀式を1時間前倒しする
睡眠時間を確保したくて早めにベッドに入っても、狙い通り眠れるわけではない。むしろ眠れず悶々とし、結果的にいつもの時刻になるまで眠れない失敗をすることも多い。
人間は機械ではないから、ベッドに入ったら電源オフで即座に眠れるわけではない。入眠にはある程度の“助走”が欠かせないのだ。
それが俗に「睡眠儀式」と呼ばれる自分なりのルーティン。浴槽入浴をしてからストレッチをしたり、お気に入りのアロマを焚いて落ち着ける音楽を聴いたりするアレだ。
「早く眠りたいと思ったら、睡眠儀式ごと前倒しする必要がある。普段より1時間早く寝入りたいと思ったら、睡眠儀式から1時間早めるべき。可能なら夕飯の時刻から1時間前倒しするのがベストです」
ちなみにお酒の力で早く眠ろうとするのは愚行。たとえ眠れたとしても睡眠の質が下がり、深い眠りに至らないため疲れが取れにくい。
サウナや激しい運動などで気分転換をしない
仕事で疲れたから、ジムに立ち寄って筋トレやランニングに励んで発散する。あるいは休日にサウナで大汗をかいて“整い”、リフレッシュする。そういう習慣を持つ人は少なくないはず。
でも、それはひょっとしたら逆効果かつ危険な行いかもしれない。
「気分転換といわれるものには、疲労を高め、スタミナを奪うリスクが隠れていることも多いのです」
大事なのは、疲労と“疲労感”をきちんと区別すること。疲労感とは疲労そのものではなく「疲れたな」という自覚である。
トレーニングやサウナで発散できるのは、疲労自体ではなく疲労感。気分転換で疲労感が軽くなったとしても、トレーニングによる運動負荷やサウナのヒートショック(急激な温度変化による血圧変動)で、疲労そのものはむしろ高まる。
「“疲労感なき疲労”が何より危ない。疲労感を解消しても疲労自体は残る。それを放置すると、疲れの蓄積で過労死まで招きかねません」
自然に高まる眠気に従い、ランチ後の20分以内の昼寝で脳を休める
ランチ後の午後2時前後になると眠くなる。これは睡眠が足りないせいでも、あるいは最近話題の機能性低血糖(食後に急激に上がった血糖値が一転して下がりすぎること)によるものでもない。
「その証拠にランチを抜いても、午後2時前後には眠たくなります。これは睡眠と覚醒のリズムを作っている体内時計の働きによるもの。その時刻になると自然に日中の眠気のピークがやってくるのです」
なぜこの午後の眠気があるのか。理由はよくわかっていない。おそらく日が高く、ストレスを招く紫外線が強い時間帯の活動を避け、木陰などでひと休みしてほしいという自律神経からのアドバイスなのだろう。
ならばその助言に従い、ランチ後は休憩室などで戦略的にお昼寝(パワーナップ)しよう。20分程度の昼寝で眠気が取れて脳が休まり、スタミナが蘇って仕事のパフォーマンスも上がる。深く寝入ると起床後しばらく寝ぼけるし、夜眠れなくなるので長くても30分以内が鉄則。
眠りを妨げる二酸化炭素を追い出すため、寝室のドアを閉め切らない
寝ている間も呼吸はノンストップで続いている。それをコントロールしているのも自律神経。
呼吸が乱れると眠りが浅くなり、自律神経の疲労につながりスタミナを削ってしまう。
睡眠中の呼吸に大きな影響を与えている意外な要因がある。それが、寝室の二酸化炭素濃度。
私たちは酸素を吸い、二酸化炭素を放出している。閉め切った部屋で寝ていると、放出された二酸化炭素がだんだん溜まってくる。
「室内の二酸化炭素濃度は通常500ppm程度ですが、これが1000ppmを超えると眠りが浅くなる。ところが、大人2人と子供1人が閉め切った部屋で9時間寝ると、濃度が4000ppmを超えることがわかっています」
3人で最大4000ppmなら、一人で寝ていても密室だと濃度が1000ppmを超えることもありそう。空調中で窓が開けられないなら、せめて廊下や隣室側のドアを開け放って換気を促したいものだ。
寝室のCO2濃度の変化
寝室のベッド枕元に二酸化炭素計を置き、CO₂濃度を測定。第一種換気扇(給気、排気ともに機械換気)を設置した戸建住宅の寝室で大人2人、子供1人が就寝した場合。2021年9月実施。
食事時間をパターン化して腸内細菌を時差ボケさせない
疲れを上手にマネジメントしてスタミナを高めるには、体内時計が刻む自然のリズムに従うのが鉄則。
体内時計は、脳以外にひとつひとつの細胞にも備わる。それは時間遺伝子と呼ばれるもの。脳の体内時計は朝の光でリセットされるが、細胞の時間遺伝子は朝食の刺激でリセットされる。両者がうまくシンクロして初めて疲れも溜まりにくくなる。
だが密かに体内時計を狂わす存在がある。大腸内に潜む腸内細菌だ。
全身の細胞は37兆個ほどだが、腸内細菌の総数は40兆個。影響は軽視できない。腸内細菌も独自の体内時計を持ち、それが脳や細胞の体内時計とズレて“時差ボケ”すると、体調が崩れてスタミナは落ちる。
腸内細菌の時計をリセットするのは、豆類・野菜などに含まれており、彼らの好物である食物繊維の摂取。腸内細菌の時差ボケを避けるため、朝食を含め三食を摂る時刻をパターン化してズラさないようにしたい。
わずかな光も遮断するためアイマスクをして眠る
日が落ちたら、室内はできるだけ暗くするのが理想。照明が明るすぎると、眠りの準備を整えるホルモンであるメラトニンの分泌が止まり、入眠を妨げて疲れが取れにくい。
真っ暗だと眠れないタイプもいるけれど、寝ているときも本来できるだけ暗くするべき。
「朝明るくなると目が覚めるのは、瞼を閉じていても網膜は光をキャッチしているから。天敵の攻撃などから身を守るためにも、寝ている間も環境の変化を敏感に捉えられるようになっているのです。豆電球くらいの明かりでも眠りは浅くなります」
肥満も疲労を招きやすいが(記事下部参照)、豆電球程度の明かりでも食欲ホルモンが乱れて過食しやすく、太りやすいとわかっている。
着けても眠りに支障がないなら、アイマスクで光をできるだけ遮断。また、トイレなどに起きたときに光源が直接目に入らないよう、寝室以外の場所もできるだけ間接照明程度の明るさにしておきたい。
血液循環を促すために、手の届く範囲に飲み物を置いておく
疲れないチカラでスタミナを保つには血液循環も大事。脳などに溜まる疲労因子の代謝が促せるからだ。
だがデスクワーカーは坐っている時間が長く、血流は悪くなりやすい。坐りすぎだと疲れやすくなるだけでなく、死亡率も上がるというエビデンスもある。デスクワーク中でも頻繁に立ち上がろう。
とはいえ、仕事に熱中すると時間を忘れてしまうものだし、かといってスマホのアラームを設定して定期的に鳴らすのもウザすぎる。立ち上がるいいきっかけは?
「僕は飲み物を手が届く範囲に置き、こまめに水分補給しながら仕事をしています。すると1〜2時間に一度はトイレに行きたくなるので、坐りすぎが避けられるのです」
継続的に水分補給すれば、脱水が避けられて血液循環も良くなる。オシッコの色が濃かったら、すでに脱水している証拠。次は少し早めにトイレに行き、尿の色をチェック。適切なタイミングを確認しよう。
1階上か下のトイレに行き、ミルキングアクションを活性化
トイレをきっかけに定期的に立ち上がるクセをつけたら、もうひと工夫。同じフロアのトイレではなく、事情が許すなら1〜2階上か下のトイレを利用してみよう。
その際はオフィスのエレベーターではなく階段で移動して。
「階段の上り下りでは、下半身のミルキングアクションが促され、血液循環が一層促されるのです」
心臓よりも下を流れている血液は、重力に逆らって心臓へ戻ってくる必要がある。でも、心臓には血液を下から上へ吸い上げる働きはない。
そこで役立つのが、ミルキングアクション。ふくらはぎなどの下半身の筋肉のリズミカルな伸縮で血管を動かして、血液を下から上へ押し上げてくれる。
じっと坐っているとこのミルキングアクションはほぼ働かないが、階段を上り下りすることによって活性化される。それにより、心臓へ戻る血液量が増えて循環がしっかり促進されるのだ。
タンパク質を摂って冷え性をリセット。筋力で疲れに勝つ
男女を問わず、冷え性だと何となく覇気がなく、スタミナもないように感じられる。この印象は果たしてどこまで正しいのか。
「あながち間違っていないかもしれません。病的なものを除くと冷え性の大半は筋肉不足によるもの。筋肉は安静時の基礎代謝の20%近くを担い、運動しないときでも熱を作り出しています。ですから、運動不足や加齢などで筋肉が減るとカラダが冷えやすくなります。そして筋肉が少ないと疲れやすくなるのです」
自律神経の最優先課題は、血流を促して脳へ酸素と栄養素を安定的に送り届けること。冷え性に陥るほど筋肉が少なくなると、下半身の血液を還流させるミルキングアクションの働きが落ちるため、自律神経の仕事が増えて疲れは取れにくい。
筋トレで筋肉の衰えを防ぎつつ、筋肉の材料となる良質のタンパク質を食事から摂り入れることが肝要。肉類のほか、乳製品、魚類、卵、大豆食品などからバランス良く摂ろう。
寝坊は2時間以内に留め、週末の「一人時差ボケ」を避ける
平日忙しくて睡眠不足だと、週末にまとめてたくさん眠りたくなる。そこで注意したいのは、起床時刻が普段より遅れることによる「一人時差ボケ(社会的時差ボケ)」。
「一般的に、起床時刻がいつもよりも2時間以上遅くなると、体内時計が後ろにズレる一人時差ボケが起こりやすくなります」
2時間を超える分は、1時間の超過を正常に戻すのに2日かかる。
仮に土日で起床時刻が3時間ずつ遅くなると計4日間、つまり木曜まで時差ボケのような状況が続く。
これでは疲れは取れないし、仕事の効率も上がらない。おかげで残業を強いられると睡眠を削るほかなく、次の週末も一人時差ボケ確定。負の無限ループにハマる。
平日の睡眠不足=睡眠負債を返済するなら、朝寝坊ではなく、金土の夜ふかしを控えて長い睡眠時間を確保しよう。
太り過ぎで疲れないようにBMI22〜24に保つ
重たい荷物を持っていたら、ちょっと歩くだけでも疲れる。
同じように、太って余分な体脂肪という荷物を抱えるようになると、疲れやすくなる。エンジンは軽自動車なのに、4トントラック並みの荷物を積んで上り坂を走れと言われても、どだい無茶な相談だ。
疲れにくく、スタミナを保つためにも、体格=身長に合わせて体重は適正に保つべき。
一般的に、身長と体重から求めるBMI(体重をメートル換算した身長の2乗で割ったもの)が22のときの体重=理想体重を目指すべきとされる。身長170cmだとしたら、1.7×1.7×22≒63kgが理想体重。理想体重のときが死亡率はもっとも低いのだ。
「加齢とともに理想のBMIは変わり、60歳以降だとBMI24前後がベストだとされています」
身長(m)の2乗×22〜24でBMI22〜24の体重を逆算し、その間に収まるように体重コントロールしよう。
年齢 | kg/㎡ |
---|---|
18 ~ 49 | 18.5 ~ 24.9 |
50 ~ 64 | 20.0 ~ 24.9 |
65 ~ 74 | 20.0 ~ 24.9 |
75以上 | 21.5 ~ 24.9 |
目標とするBMIの範囲(18歳以上)
日本肥満学会によるとBMI18.5未満は痩せ(低体重)であり、BMI25以上が肥満(過体重)。年齢を問わずBMI22が死亡率はもっとも低いが、高齢になるほどBMI25未満の範囲内で快適な体重を探るべきだ。