6人に1人が何らかの依存症を抱えている。依存症に、どう対処するか?
鉄の意志があったとしても、人は依存からは逃れられない。依存のプロセスを知り、段階的な対抗策を立てるのだ。アルコールおよびネットゲームの「依存症」チェックとともに、解説する。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央、水野昭子 イラストレーション/山口正児 監修/和田秀樹(国際医療福祉大学大学院臨床心理学専攻教授)
(初出『Tarzan』No.703・2016年9月8日発売)
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今夜はワイン1杯でやめようと思ったのに2杯、3杯とグラスを重ねてしまった。今年こそ週1回休肝日を作ろうと決めたのに、まだ一度も成功していない…。
いずれも左党のアルアルだが、どちらとも思い当たる人は、アルコール依存症のとば口に立っている。お酒を例に依存症がどう進むかをチェックしよう。
1杯でやめられなかったのは、下に掲載したアルコール依存症の診断基準の項目1「お酒を意図していたよりもしばしば大量に飲む」に相当する。そして休肝日を作りたいのに作れないのは、項目2「お酒を減らしたり、制限したいと思っているのに失敗する」に当てはまる。この11項目の診断基準に照らし合わせると、うち2つ以上該当するとアルコール依存症と判断される可能性が高いとされているのだ。
酒飲みなら誰でも、この診断基準は厳しすぎると思うだろう。でも、この厳格さにはワケがある。
「お酒に強くなった!」は勘違い
「依存症は進行性で自然治癒はない。早めに手を打たないとみるみる進んでしまい、それだけ回復が難しくなる。世界的に早期治療が重視された結果、近年依存症の診断基準は厳しくなってきたのです」(和田先生)
依存症が重症化する要因の一つに耐性の獲得がある。
初めはグラス2〜3杯で心地よく酔えて楽しめていたのに、習慣的に飲酒をしていると4杯、5杯と杯を重ねないと満足できなくなる。「お酒が強くなった!」と喜ぶのは、大いなる勘違い。アルコールに限らず、依存性のある薬物を連続使用していると、同じ量では同等の快楽(この場合は酔い)が得られなくなり、使用量が増える。これが耐性。使用する量が増えれば増えるほど、依存は進行する。
「お酒に強くなった!」と感じたら、すでに依存が始まっていると覚悟して手を打つべき。前述のように一度依存が始まると、意志の力では太刀打ちできない。
依存のプロセスを知り、手を打つ
依存症対策の合言葉は、転ばぬ先の杖。〈単なる嗜好、趣味〉→〈ハマる〉→〈依存〉→〈依存症〉と深刻化する前に、打てる手は先に打っておくべきだ。
お酒やゲームもたまに嗜むレベルなら単なる趣味。リフレッシュするし、人生が豊かになる。欲を言うなら、一つに絞らず、スポーツや美術といった新しい分野にも挑み、複数の趣味を持つのがベスト。一つの興味が集中してハマるリスクも減る。
頻度が高くなり、ハマる時間が増えるとプレ依存レベル。それでも周囲から「お酒を控えなさい」と忠告されたら素直に聞けるし、ゲームは1日1時間と決めて守れるなら、ノープロブレム。欲望を適切に制御できているからだ。どハマリしそうな予感があるなら、没頭する頻度を減らし、他の趣味も作る。
加えて、友人や知人のように自分をサポートしてくれる絆を持つことが大切である。
「ストレスや不安が強いと依存に傾きやすい。友人や知人のようにストレスや不安を和らげてくれるセーフティネットワークがあれば、何かに強く依存しなくても済むのです」
プレ依存レベルを超えて、依存、依存症に至ると、医療機関を受診することが先決。ドクターから依存症と診断されたら、依存対象をきっぱり断つことが最優先となる。
身体依存を伴うケースでは、ニコチン依存症に用いられる禁煙補助剤のように、離脱症状の緩和のために薬物療法などが行われる。また、アルコール依存症では、断酒率を上げる飲酒欲求抑制剤が用いられることもある。
個人の意思では、太刀打ちできない
このように依存症治療には薬物も用いられるが、服用すれば依存が霧散する魔法の薬は存在しない。物事の受け止め方を変える認知行動療法が功を奏することもあるが、効果は限定的。むしろ頼りになるのは、昔ながらの自助グループである。
自助グループの原型は、アルコール依存症患者が自ら設立した〈AA(アルコホリクス・アノニマス)〉。80年以上の伝統を誇り、依存症患者同士が自らの体験を率直に語り、励まし合いながら、定められた独特のステップをクリアして回復を目指す。
AAを参考に、薬物依存症の自助グループである〈NA(ナルコティクス・アノニマス)〉、ギャンブル依存症の自助グループである〈GA(ギャンブラーズ・アノニマス)〉などが立ち上がった。アノニマスとは「匿名」という意味で、姓名や連絡先を明かす義務はない。
この他、日本発祥のアルコール依存症患者のための自助グループとして〈断酒会〉があり、こちらは実名でボランティア活動などを積極的に行っている。
「日本はコンビニで24時間お酒が買えるし、町中にサンダル履きで気軽に行けるパチンコ店が点在するなど、依存症を助長するような環境がある。それなのに依存症に陥った人を治療する施設が少なすぎるのが問題。
格差が広がり、孤独な単身者が増え、経済の停滞が続くと、ストレスや不安が増えて依存症は増加しやすい。社会は依存症を個人の意志と努力が通用しない病気だと正しく捉えて、真剣に向き合うべきだと思います」
代表的な依存症の診断ガイドライン
アルコール使用障害の診断基準
アルコールの問題となる使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12カ月以内に起こることにより示される。
1. アルコールを意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
2. アルコールの使用を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
3. アルコールを得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
4. 渇望、つまりアルコール使用への強い欲求、または衝動。
5. アルコールの反復的な使用の結果、職場、学校、または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる。
6. アルコールの作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。
7. アルコールの使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。
8. 身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する。
9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、アルコールの使用を続ける。
10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:(a)中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量のアルコールが必要。(b)同じ量のアルコールの持続使用で効果が著しく減弱
11. 離脱、以下のいずれかによって明らかとなるもの:(a)特徴的なアルコール離脱症候群がある。(b)離脱症状を軽減または回避するために、アルコール(またはベンゾジアゼピンのような密接に関連した物質)を摂取する。
出典/『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(アメリカ精神医学会著、高橋三郎・大野裕監訳、医学書院)出典/『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(アメリカ精神医学会著、高橋三郎・大野裕監訳、医学書院)
インターネットゲーム障害の診断基準案
臨床的に意味のある機能障害や苦痛を引き起こす持続的かつ反復的な、しばしば他のプレーヤーとともにゲームをするためのインターネットの使用で、以下の5つ(またはそれ以上)が、12カ月の期間内のどこかで起こることによって示される。
1. インターネットゲームへのとらわれ(過去のゲームに関する活動のことを考えるか、次のゲームを楽しみに待つ、インターネットゲームが日々の生活の中での主要な活動になる)。注:この障害は、ギャンブル障害に含まれるインターネットギャンブルとは異なる。
2. インターネットゲームが取り去らされた際の離脱症状(これらの症状は、典型的には、いらいら、不安、または悲しさによって特徴づけられるが、薬理学的な離脱の生理学的徴候はない)。
3. 耐性、すなわちインターネットゲームに費やす時間が増大していくことの必要性。
4. インターネットゲームにかかわることを制御する試みの不成功があること。
5. インターネットゲームの結果として生じる、インターネットゲーム以外の過去の趣味や娯楽への興味の喪失。
6. 心理社会的な問題を知っているにもかかわらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける。
7. 家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度について噓をついたことがある。
8. 否定的な気分(例:無力感、罪責感、不安)を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する。
9. インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある。
注:この障害には、ギャンブルではないインターネットゲームのみが含まれる。ビジネスあるいは専門領域に関する必要のある活動のためのインターネット使用は含まれないし、他の娯楽的あるいは社会的なインターネット使用を含めることを意図したものではない。同様に、性的なインターネットサイトは除外される。
出典/『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』
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