• 意志が強い、弱いは関係ない。脳を蝕む「依存症」のメカニズム
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2018.11.30

意志が強い、弱いは関係ない。脳を蝕む「依存症」のメカニズム

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今の世の中、仕事や人間関係などのストレス、将来への漠然とした不安を感じない人はいないだろう。それを一時的に忘れさせてくれるのが、自分なりにハマり、没頭できる嗜好や趣味。お酒、タバコ、インターネット、ゲームなどである。

いずれも嗜好、趣味の範囲で収まっているうちはいい。しかし、美味しくて栄養満点のご飯だって食べすぎると太ってしまうように、知らない間にハマりすぎるのはNG。その先に待っているのは、依存であり、依存症という困った病気だからである(現在、精神医学の世界では依存症は「使用障害」と呼ばれる。使用障害という用語はまだ一般には馴染みが薄いので、今回はもっぱら依存症という言葉を使う)。

誰しも、ハマっているモノの一つや二つくらいある。では、単純にハマるのと、依存、依存症の違いはどこにあるのか。

依存とは、簡単に言うなら今日はやめよう、適当な量で抑えておこうという自己コントロールがうまく利かなくなった状態。それによって、自らの生活に支障が出たり、社会的に問題が生じるようになったりすると、依存症という病気となる。

依存症には、大きく分けると「物質依存」と「行為依存」がある。

物質依存とは、お酒(アルコール)、タバコ(ニコチン)、覚せい剤などの薬物といった物質に依存するもの。行為依存とは、ギャンブル、ゲーム、パチンコ、インターネット、ショッピングといった行為に依存するものである。この他、SNSなどのつながり、恋愛、ペットといった関係性に依存するタイプもある。

鉄の意志があっても、依存からは逃れられない

依存症は、日本でもっともありふれた心の病だといわれている。

「わが国には疑いのある方も含めると、アルコール依存症が230万人、ギャンブル依存症が536万人、インターネット依存症が270万人、タバコのニコチン依存症が1487万人いると推定されています。重複を省くと、およそ2000万人、日本人の6人に1人が何らかの依存症を抱えているという計算になるのです」(精神科医の和田秀樹さん)。

6人に1人が依存症かもしれないと言われても、「オレはそこまでハマっていないから大丈夫」と安心してはダメ。依存症の別名は「否認の病」。特徴の一つとして、自分が依存症であることを認めず、正当化したくなる傾向があるからだ。

さらに「依存症は意志の弱いダメ人間がなるもの。オレは意志が強いから大丈夫」などとタカを括っていると痛い目に遭うかも。依存症とは、意志を司っている脳がダメージを受ける病気。そうなると意志が強い、弱いは関係ない。『ターザン』の取材に応えてくれた田代まさしさんは、違法な薬物の依存症で複数の逮捕歴がある。

その田代さんは「捕まるたびに二度とやるまいと心の底から誓うのに、また楽しく気持ちよくなりたいという脳の渇望には勝てなかった」と苦しい胸の内を吐露している(インタビュー記事は後日公開予定)。

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依存症を起こす脳の報酬系。
快感を感じる物質、行為などの刺激で腹側被蓋野に集まるA10神経系が活性化。快感をもたらすドーパミンを分泌。ドーパミンは側坐核を刺激して高揚感を促し、前頭前野で「またこの快感が欲しい」という情動を強める。

依存には、精神依存と身体依存があることも知っておきたい。身近なアルコールを例に説明しよう。

精神依存とは、アルコールが欲しくてたまらない、なしでは生きられないという強い渇望が続くもの。身体依存では、アルコールを断つと心拍数が上がったり、イライラしたり、発汗が起こったりといった身体的な症状が出る。もはやカラダにアルコールが入っているのが当然であり、アルコールが切れると異常事態が起こったと判断して異変が起こるのだ。これが離脱症状であり、その苦しさから逃れるためにアルコールに一層依存するという悪循環に至る。

こうした依存が生まれるプロセスには、脳の報酬系と呼ばれる回路が大事な役割を果たしている。メカニズムを詳しく見てみよう。

強い快楽を覚えた脳は、新たな快楽を求め続ける

楽しさ、心地よさ、気持ちよさを感じる刺激は、脳に快感という報酬を与える。この報酬を感知すると、中脳にある腹側被蓋野という部分が活性化される。

腹側被蓋野には、A10神経系と呼ばれる神経細胞が集まっており、興奮すると快楽を強めるドーパミンという神経伝達物質を次々と放出する。

A10神経系は腹側被蓋野から2つのルートでドーパミンを作用させる。1つ目は左右の大脳半球に1個ずつある側坐核へ延びるルート。もう一つは記憶と学習に関わる前頭前野へと延びるルートだ。

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依存脳は容易に元に戻らない。
報酬系が強化されて条件反射的な依存が起こると、脳がダメージを受けてしまい、依存対象から遠ざかるだけでは元に戻りにくくなる。再び脳の機能を正常に戻すのは大仕事だ。

側坐核はドーパミンの入力を受けるとスイッチオンになり、高揚感をもたらす。

普通の快楽なら、ドーパミンはほどなく再吸収されて高揚感は終息する。しかし、アルコールや薬物などの強い刺激はドーパミンの再吸収を阻害。その結果、ドーパミンは脳を横断する神経細胞の間にあるシナプスという隙間に溜まり、側坐核が刺激され続けて高揚感が持続する“祭り”状態となる。依存症に陥ると、このドーパミンの再吸収はさらにブロックされるという困った現象も起こる。

もう一つのルートでドーパミンの入力を受けた前頭前野では快楽や高揚感を鮮明に記憶して、「またあの感覚を得たい!」という衝動的な気持ちが強化される。この衝動の強化により、依存している行いにますますのめり込み、それがさらに衝動を強くするという悪いサイクルに入り、依存が起こってしまう。

依存が形成された“依存脳”では、お酒のCMを観ただけでアルコールが欲しくなるといった条件反射が生まれる。こうなると「健康のためにお酒は控えるべきだ」とか「覚せい剤を使うのは違法だし、身の破滅を招くから二度と手を出してはいけない」といった意志、理性によるブレーキはほぼ利かなくなる。

「依存症はいわば脳のプログラムが書き換えられてしまった状態。依存対象を完全に断ったとしても、一度書き換えられたプログラムはなかなか元に戻らないのです」

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取材・文/井上健二 撮影/小川朋央、水野昭子 イラストレーション/山口正児 監修/和田秀樹(国際医療福祉大学大学院臨床心理学専攻教授)

(初出『Tarzan』No.703・2016年9月8日発売)

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