夜、脳疲労をリセットする3つのテクニック|心身も神経も、すべて脳の疲労でした
デスクワークの疲れ、精神的疲労、運動の疲労…。あらゆる疲れの発信源はほかならぬ脳にある。その疲労を取って心身を絶好調に導くため、夜間にできるテクニックを3つ紹介。
取材・文/井上健二 取材協力/梶本修身(大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授、東京疲労・睡眠クリニック院長)
(初出『Tarzan』No.757・2019年1月24日発売)
いちばん疲れるのは自律神経
呼吸、消化吸収、血液循環などを調節し、人体を活動的に整える交感神経と休息へ向かわせる副交感神経からなる自律神経こそが疲れやすい。ストレス状況下で暮らす現代人は、とくに交感神経が過剰に働き、脳疲労を招く。
たとえば眼精疲労は目の疲れではなく自律神経の疲れ。目は交感神経優位で遠くを見るようにレンズを薄くし、副交感神経優位で近くを見るようにレンズを厚くする。赤ちゃんに授乳する母親はリラックスモードの副交感神経で近くを見るから眼精疲労は起きない。だが、私たちはPC作業など交感神経優位で仕事中に副交感神経優位で近くを見る。この矛盾が自律神経を疲れさせるのだ。
疲労の始まりは、過度な活動で生じた有害な活性酸素による酸化ストレスで、疲労を招く疲労因子FFが分泌されること。FFが増えると、FFと酸化ストレスを抑えて疲労を回復させる疲労回復因子FRが出る。FFとFRのバランスが乱れてFFが強く働くと、疲労が溜まるのだ。
脳疲労を取るためにできる3つのテクニック
1. 睡眠が脳疲労を取る近道。眠るためのルーティンを作ろう
脳疲労の回復を助けるのは何よりも睡眠。日中はつねに酸化ストレスに晒されており、疲労因子FFが生じて脳疲労が溜まる。夜間は活動量が落ちて酸化ストレスと疲労因子FFが減り、睡眠中に疲労因子FFの分泌を、疲労回復因子FRの分泌が上回るようになり、脳疲労がリセットされやすい。
疲れすぎて寝入りが悪い人はこれをやれば眠れるという、自分なりの儀式(ルーティン)を確立しよう。
有効なのは入浴。眠る60〜90分前に浴槽入浴で体温を上げると、その後体温が下がる際に寝入りやすい。熱いお湯で全身浴すると交感神経が興奮して逆に疲れるので、38〜40度のぬるま湯で半身浴をして副交感神経を優位にしたい。のぼせて汗が出るまで長湯をすると疲れを誘発するのがオチだから、お湯に入る時間は10分前後に留めるべき。この他、左のチェックリストを参考に、刺激を避けて副交感神経をオンに切り替え、眠りやすい環境を整えておこう。
2. 仰向けに寝ない。抱きまくらを活用して横向きに寝る
筋トレでフォームが大事なように、眠る姿勢も大切。多くの人は仰向けに寝ようとするが、それだと舌の根元や喉の筋肉が重力で垂れ下がり、気道が狭くなって呼吸しにくくなり、自律神経の負担が増える。
イビキは狭い気道を空気が通るときに発するから、イビキをかいて寝る人は要注意。気道を確保するには、抱き枕などを活用して横向きに寝た方がいい。それだけでも80%の人はイビキが改善するという。
横向きのなかでもラクなのは「シムズ位」といわれる姿勢。アメリカの産婦人科医シムズ氏が妊娠時の安楽姿勢として提唱したもの。左側面を下にして横向きに寝て、右の股関節と膝を曲げる姿勢だ。これだけで喉が詰まりにくく内臓にも負担がかからず、自律神経にも優しい。
「左側を下にすると胃の入り口が下、出口が上になって胃の負担が増えるので、胃下垂などで胃が弱い人は右側を下にするといいでしょう」
枕も横向きの姿勢でオーダーすると自然に横向きで寝やすくなる。
3. 休日の戦略的な寝だめで睡眠負債を返す
平日に十分な睡眠時間が確保できないと、睡眠負債が蓄積して脳のコンディションは悪くなる一方。その負債を早めに返すために推奨したいのが、週末など休日の戦略的な寝だめ。多く寝ても眠りは貯金できないが、負債は返せるのだ。
朝寝坊は2時間以内にするのがコツ。遅くまでダラダラ眠っていると、起床時刻で調整される体内時計が狂い、生活リズムが崩れる社会的時差ボケに陥り、休み明けに起きるのが辛くなってマイナス。でも2時間くらいなら体内時計のリズムは崩れないし、疲労を取るのにも必要十分。
「睡眠時間が1日5時間未満だと死亡率が15%上がりますが、休みの日に2時間長く眠ると有意な差がなくなるという報告もあります」
一歩進んで理想的なのは2時間遅く起きるのではなく、2時間早く寝ること。すると起床時刻を変えることなくプラス2時間睡眠が取れる。昼寝もいいけれど、夜眠れなくなるほど爆睡するのはNG。30分程度に留めて深い眠りに入らないように。