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ウォーキングには一体どんなイイことがあるのか。知れば知るほど、もっともっと歩きたくなる6つのメリットを紹介しよう。
仕事も私生活もフルで楽しむには、脳にはいつまでも若々しくアクティブに働いてほしいもの。そのために大切なのが、ウォーキング。そもそも脳の成長には、歩くことが欠かせない。
「ヒトは、生まれてから立って歩くまで1年ほどかかる。歩き始めて行動範囲が広がると、視覚や聴覚などの五感が刺激されるようになり、脳が完成形へ近づきます」(脳内科医の加藤俊徳さん)
歩いて手足を動かすと脳の酸素消費量が増し、頭頂部で運動を担う「運動脳」が活性化される。
脳の右脳と左脳には、特定の機能を担う場所が約60ずつある。加藤先生はこれを「脳番地」と名付け、全部で8系統に整理。このうち運動系の脳番地が、運動脳だ。
「8つの系統はネットワークを作り、協力し合っている。なかでもウォーキングで鍛えられる運動脳は、このネットワーク全体を強化して脳力を高めてくれます」
大人になり、脳が完成しても、安心できない。使わないと衰えるのは、脳も筋肉と同じなのである。
「うつや引きこもり患者のMRI脳画像を診ると、運動脳がスカスカでまともに機能していない。2週間も歩かないと、誰でも運動脳が萎縮し、それが脳機能全体の落ち込みを招く恐れがあるのです」
歩いて脳を鍛え続けよう!
運動が足りないと、太って血圧が上がる、イライラしやすくなるといったトラブルに見舞われる。このような状況を、加藤先生は「運動負債」と呼ぶ。運動不足で、心身に不調が及んだ状態だ。
運動負債を避けるには、日々のウォーキングが有効。では、どのくらいのウォーキングが必要か。加藤先生は、多くの患者を診てきた長年の経験と自らの実感を踏まえて、生活スタイルごとに目安量を示している(下表参照)。
生活スタイル | 1日に歩く時間の目安 | 1か月に歩く距離の目安 |
---|---|---|
デスクワーク中心。知的生産性を高めたい。 |
80分 | 120km〜 |
デスクワーク中心。脳の健康状態を維持したい。 |
60分 | 90km〜 |
デスクワーク+立ち仕事。 |
40分 | 60km〜 |
たとえば、デスクワーク中心で知的生産性を高めたいなら、1日80分(約8000歩)以上のウォーキングが求められる。歩幅が70cmなら約5.6km以上である。
とはいえ、忙しくて思ったように歩けない日もあるだろう。そこで、運動負債を溜めないウォーキングは、2週間単位で考えるのがオススメ。
ある日のウォーキング量が10分足りなかったら、翌日10分余計に歩けばいい。逆に明日忙しくて歩く時間が取れないと思ったら、今日のうちに10分多めに歩いて“運動貯金”を作っておこう。こうして2週間単位で、運動負債が生じないように歩いてほしい。
何となく気分が乗らない日でも、外に出て歩き始めると、気分が晴れ晴れしてハッピーになるもの。
「気分が乗らないから歩けないのではなく、歩かないから気分が乗らないのです」
これは、セロトニンの作用によるもの。セロトニンは、必須アミノ酸のトリプトファンから、脳内で作られる神経伝達物質。ウォーキングのように、軽めでリズミカルな運動をしばらく続けると、脳内でセロトニン分泌が増える。
このセロトニンは、脳内で喜び・快楽をもたらすドーパミンと、不安・緊張・興奮などを促すノルアドレナリンのバランスを調整し、ストレス下でもメンタルを明るく前向きに保つ。うつ病のおもな引き金は、セロトニン不足だ。
睡眠が足りなかったり、その質が落ちたりすると、疲れが抜けず、気分もダウンするが、セロトニンは眠りも改善してくれる。
日が落ちて暗くなると、日中に分泌されたセロトニンを原料に、メラトニンというホルモンが作られる。メラトニンは深部体温を下げるなどして、眠りに適した体内環境へ導くので、眠りが充実。疲れが取れて、元気になれるのだ。
外出が制限されたコロナ禍で増えたのが、眼精疲労。眼精疲労は、単なる疲れ目ではない。目で焦点を合わせ、そこで得た情報を脳で処理して私たちは「見て」いる。この仕組みが乱れて、肩こりやイライラなど、目と直接関わらない症状が出るのが、眼精疲労である。
では、なぜコロナ禍で眼精疲労が増えたのか。一因は、外に出て歩く機会が大幅に減ったからだ。
在宅勤務でPCに張り付き、ゲームで息抜きし、スマホでフードデリバリーを頼む…。そんな暮らしでは、遠くを見る機会が激減。目はずっと近くにピントを合わせたままになり、眼精疲労に陥る。
外に出て歩くと、周りの風景が目に入ってくるから、自然と遠くを見る。それによって目も脳も休まり、眼精疲労は避けられるのだ。むろんスマホ歩きなど論外。デジタルデトックスを兼ね、たまにはスマホを置いて歩き出そう。
ボディメイクにも、健康作りにも、運動は欠かせない。仮にビタミン剤のように、運動を錠剤にできたら、どんな薬よりも効くだろう。ただし1週間で効き目が生涯続く、魔法のようなトレーニングは存在しない。あらゆる運動は続けてこそ、威力を発揮するのだ。
その点、ウォーキングという運動はもっとも身近な「歩く」という動きの延長線。継続しやすい。
「いちばん手軽かつサステナブル(持続可能)な運動が、ウォーキングなのです」(ウォーキングトレーナーの池田ノリアキさん)
運動経験がある人ほど、ウォーキングよりランニングの方が運動として優れていると思いがち。確かにランが安全に続けられたら、カラダ作りにも健康増進にも多大な恩恵がある。
だが、走るのが苦手な人は多いし、逆にランにハマって走りすぎた挙げ句、故障を抱える市民ランナーは後を絶たない。
「ウォーキングは安全性が高いうえに、極めるとランと遜色ないスピードで歩けるようになり、高いトレーニング効果が得られます。ウォーキングを習慣化してから、ランへ移行しても遅くはない。まずは歩くことから始めましょう」
ウォーキング=有酸素運動というイメージも強いが、正しい姿勢で歩き続けると、筋トレにもなる。
そこで鍛えられるのは、カラダの外側にあるアウターマッスルではなく、内側で骨格を支えるインナーマッスル。通常の筋トレでは鍛えにくいが、姿勢の維持、運動のフォーム作りなどの鍵を握る。
「1日7000歩歩くと、7000回の刺激が加わります。筋トレは週2〜3回ペースが普通。一度に30回程度ですが、ウォーキングは毎日行えるので、1週間で4万9000回、1か月で21万回も繰り返します。1歩ごとに加わる刺激は小さくても、これだけ反復すれば、歩くだけでインナーマッスルが鍛えられるのです」(プロウォーキング講師の今村大祐さん)
加える負荷が大きすぎると、力持ちのアウターが働きやすい。インナーを鍛えるには、むしろウォーキングのような小さな負荷を何度も加える方が有効なのである。
おもに鍛えられるのは、内腿の内転筋群、お尻の梨状筋、股関節の腸腰筋、お腹の腹横筋といったインナーマッスル。これらが強化されると姿勢が良くなり、代謝も上がり、太りにくくなる。
取材・文/井上健二 撮影/五十嵐一晴 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 取材協力/加藤俊徳(加藤プラチナクリニック院長、医学博士、脳内科医)、池田ノリアキ(ウォーキングトレーナー)、今村大祐(プロウォーキング講師)
初出『Tarzan』No.843・2022年10月6日発売