知ってる? 腸内環境に嬉しい「オリゴ糖」の働きと種類
「甘い」けれどエネルギーになりにくく、虫歯にもなりにくく、おまけに腸内環境まで整えてくれる。糖らしからぬ糖=オリゴ糖には、“腸活力”を上げるヒントが詰まっている! その種類や特徴、機能を理解して、毎日の食生活に取り入れよう。
取材・文/大田原透
初出『Tarzan』No.840・2022年8月25日発売
工藤あき先生
教えてくれた人
くどう・あき/〈工藤内科〉消化器内科医師。一般内科医として地域医療に関わりつつ、腸内細菌・腸内フローラにも精通。「植物由来」をテーマにしたインナーボタニカル研究家、美肌評論家。血液型はO。
“糖らしからぬ糖” オリゴ糖とは?
食物繊維とともに、“腸活”に欠かせない糖。ご存じ、オリゴ糖である。
シンプルな構造の糖は、タンパク質や脂質と同様、胃や膵臓などからの消化酵素で分解され、体内に吸収されるとエネルギー源としてすぐに働いてくれる。しかし、多くのオリゴ糖はヒトの消化酵素で分解されず、大腸に到達する。大腸に達したオリゴ糖は、腸内の有用菌の大好物のエサとなる。
乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌が腸内環境を整えるのみならず、免疫系や脂肪燃焼にも関係することも知られてきた。そう、オリゴ糖が、“腸活”に欠かせない理由である。しかも、胃や小腸で消化されないオリゴ糖は、糖であるにもかかわらず、カラダを動かすエネルギー源にもなりにくい。
つまり、甘さがあるのに低カロリー。オリゴ糖は、“糖らしからぬ糖”なのである。私たちの“腸活力”をアップする鍵は、糖らしからぬオリゴ糖の賢い活用法にある。そんな知恵を、一緒にひもといていこう!
実は種類も色々なオリゴ糖たち
“糖らしからぬ糖”であって、腸内環境に欠かせないオリゴ糖。オリゴ糖は、砂糖(ショ糖)に、果糖(フルクトース)が結合した混合物として、実は、天然にも広く存在している。牛乳、大豆、トウモロコシ、ハチミツ、トマトにバナナなどなど。そのオリゴ糖は、下のような機能で分類できる。
① 難消化性=胃や小腸で消化されない:フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖など
② 消化性(一部を含む)=胃や小腸で消化される:イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖など
③ 難う蝕性=虫歯菌が繁殖しにくい:グルコシルスクロース、イソマルツロースなど
腸内細菌のエサになる点、虫歯菌が繁殖しにくい「難う蝕性」など、多くのオリゴ糖に共通した特徴だ。
「多くのオリゴ糖が、胃や小腸で消化されないため低カロリーです。甘みも、砂糖よりやさしいので、使い過ぎないよう、量を調整したいですね。私は、砂糖の代わりにヨーグルトにフラクトオリゴ糖をかけて、その機能と一緒に、ほんのりした甘みを楽しんでいます」
と語るのは、腸内環境に詳しい消化器内科医の工藤あき先生。工藤先生は、テレビや書籍などメディアを通じた啓蒙活動で知られ、しかも地域に根差した医療を続ける臨床医でもある。
「多くのオリゴ糖は、腸内細菌のエサとなって分解されます。ただし、過剰摂取になれば、未消化のまま排泄されてしまいます。安全性は高くても、おなかの弱い人は注意したいですね」
オリゴ糖の中には胃や小腸で分解される消化性のタイプもある。
「イソマルトオリゴ糖などは一部が消化されるので、カロリーを気にされている方は、気をつけたいオリゴ糖ですね」
オリゴ糖は、よく似ているけれど、個性派揃いなのである。
母乳にも含まれるオリゴ糖、 今ではトクホ素材でもある
きっかけは、100年以上前のフランスはパリ、パスツール研究所である。当時は、母乳で育った赤ちゃんが疾病に罹る確率が低く、さらに重症化のリスクまで低いことは謎とされていた。
その答えとして分離に成功したのが、腸内の有用菌であるビフィズス菌。有名なお話である。ビフィズス菌の研究はさらに進み、そのエサとなる“糖らしからぬ糖”=オリゴ糖への注目が高まっていく。
「オリゴ糖は、人間の体内で作り出せる糖のひとつです。赤ちゃんは、無菌の状態で生まれます。その後赤ちゃんは、母乳のオリゴ糖で腸内の乳酸菌を育て、免疫による生体防御の機能を発達させるのです」
その後も、甘味料なのに太りにくい、虫歯になりにくいなどの研究が進み、1980年代末以降、世界中でオリゴ糖の使用が拡大していくのである。
日本でも、1993年にフラクトオリゴ糖の製品が「おなかの調子を整える」機能で、初のトクホ(特定保健用食品)表示を取得。その安全性の高さで、さまざまな加工食品などに使用されているのはご存じの通りだ。
「天然にある食品に含まれるオリゴ糖は、人類が長く口にしてきたこともあり、人工的に合成された甘味料に比べても、比較的に安全といえます」
コラム:血液型は、オリゴ糖によって決まる!?
ちょっと息抜き、閑話休題!オリゴ糖は、日本人が大好きな血液型にも深〜く関係している。
「生物の細胞には、糖が長い鎖のように繫がった“糖鎖(とうさ)”という物質があります。糖鎖は、タンパク質や脂質とも結びついて、自分とそれ以外を識別する目印の役割も持っています。オリゴ糖鎖は、血液型を識別する目印なのです」(工藤先生)
となると、素朴な疑問が湧いてくるのだが…。
「いえいえ、特定のオリゴ糖を食べても、血液型が変わることは、もちろんありえません(笑)」
糖鎖は感染や免疫のメカニズムにも深く関係しており、研究が進むホットな領域なのだそう。
代表的なオリゴ糖の種類を紹介!
① ガラクトオリゴ糖
ヒトの母乳や牛乳に含まれている代表的なオリゴ糖のひとつ(一般的には乳糖から作られる)。後述のイソマルトオリゴ糖と同様、腸内ビフィズス菌の増殖を助ける作用があり、プレバイオティクスとして便通の改善が期待されるため、「特定保健用食品(トクホ)」に使用されている。
虫歯の予防や、ミネラル分の吸収を助ける機能も。同量であれば、甘さは砂糖の30%ほど。ヒトの体内では消化されない難消化性のオリゴ糖だ(過剰に摂取した際、おなかを壊す可能性が指摘されている)。
② 乳果オリゴ糖
乳糖と果糖を原料に作られるため、乳+果で「乳果オリゴ糖」(ラクトスクロース)と呼ばれる。同量であれば砂糖の60〜80%の甘さを持つが、難消化性のため低カロリーのオリゴ糖である。
腸内ビフィズス菌の増殖を助ける作用があり、プレバイオティクスとして便通の改善が期待されるため、“おなかの調子を整える”「特定保健用食品(トクホ)」に使用されている。このほか、カルシウムやマグネシウムの吸収促進やビタミンB群の産生をサポートする報告もされている。
③ 大豆オリゴ糖
大豆に含まれるオリゴ糖の総称で、ラフィノース、スタキオースなどが知られている。名前の通り大豆をはじめ、味噌、醬油、豆乳、納豆、豆腐などの大豆製品に多く含まれている(一般的な大豆オリゴ糖も、大豆から成分を抽出・精製して作られる。ラフィノースはビートも原料となる)。
同量の砂糖に比べ甘さは70%ほどだが、難消化性のため低カロリーである。他のオリゴ糖同様に、便通の改善や、ビフィズス菌の増殖、虫歯にもなりにくい機能を併せ持つ。
④ キシロオリゴ糖
天然成分として、トウモロコシやタケノコ、白樺などに存在する。キシロオリゴ糖も、ビフィズス菌の増殖を助けるプレバイオティクスとして、“おなかの調子を整える”「特定保健用食品(トクホ)」に用いられている。同量であれば、砂糖に比べて40%ほどのライトな甘さで、かつ難消化性のため低カロリーである。
多くのオリゴ糖が、糖でありながら虫歯を予防する理由は、有害菌であるミュータンス菌がオリゴ糖を分解できないため、強い酸の発生を防いでくれるからだ。
⑤ イソマルトオリゴ糖
天然の成分として、日本酒、みりん、味噌、醬油などの発酵食品や、ハチミツなどに含まれている(一般的には、砂糖から作られる)。多くのオリゴ糖同様、虫歯を予防する機能がある。
さらに、腸内ビフィズス菌の増殖を助ける作用があり、プレバイオティクスとして便通の改善が期待されるため、“おなかの調子を整える”「特定保健用食品(トクホ)」に使用されている。
同量であれば砂糖の40〜50%ほどの甘さだが、ヒトの体内で消化されるため、ダイエットを意識するのであればチョイスを控えたいオリゴ糖である。
⑥ フラクトオリゴ糖
タマネギ、ゴボウ、トマト、バナナなど、広く天然成分として存在するオリゴ糖である(一般的には、砂糖を原料に酵素を作用させて作られる)。フラクトオリゴ糖は、有用菌を増やすが悪玉菌を増やさない、腸活のキープレーヤーだ。
“おなかの調子を整える”機能に加え、“ミネラルの吸収促進”機能でも「特定保健用食品(トクホ)」表示が可能なため「Wトクホ」の素材として知られている。同量の砂糖に比べて30%ほどのさわやかな甘さで、かつ難消化性のため低カロリーだ。その機能性の高さから、飲料、菓子などの加工食品にも広く使われている。