腸活まずはここから。知るべき「食物繊維と腸」の関係8つ
直接カラダを作るものではないと侮るなかれ。食物繊維が役立つのは、腸内細菌がそれを発酵して有益な物質を作るから。食物繊維の効能は知れば知るほど奥が深い。
取材・文/井上健二 イラストレーション/泰間敬視 取材協力/青江誠一郎(大妻女子大学家政学部食物学科教授)
初出『Tarzan』No.840・2022年8月25日発売
目次
① 食物繊維のスゴさの鍵は「発酵」にあり
水に溶ける水溶性食物繊維は腸内をゆっくり移動して腹持ちを良くし、水に溶けない不溶性食物繊維は腸を刺激して便通を促す…。このように食物繊維は従来、どちらかというと物理的な性質で語られることが多かった。
でも、現在は食物繊維の違った側面にスポットが当たるようになった。キーワードは、“ファーメンタブル・ファイバー”。直訳すると「発酵性食物繊維」だ。
食物繊維が役立つのは、腸内細菌がそれを発酵して有益な物質を作るから。分類はどうあれ、腸内細菌がどのくらい活発に発酵するかが重要だ。ゆえに、発酵性を軸に食物繊維を評価する考えが主流になってきた。
全粒穀物、海藻、イモなどに含まれる水溶性食物繊維は、総じて発酵性が高い。一方、葉野菜などに多い不溶性食物繊維のセルロース、植物の細胞壁に含まれるリグニンなどは、発酵されにくい。ただし、不溶性でも、全粒穀物中のヘミセルロースやレジスタントスターチのように発酵されやすいものもある。
もっぱら便通だけに絡めて語られる時期もあったが、今後は発酵のしやすさで食物繊維をチョイスしよう。
食物繊維の多い食品
名称 | 多く含む食品 | |
---|---|---|
水溶性 | ペクチン | 果物、野菜 |
グルコマンナン | こんにゃく精粉 | |
アルギン酸 | 昆布、ワカメなどの海藻類 | |
β-グルカン | オーツ麦、大麦 | |
イヌリン | ゴボウ、キクイモ | |
不溶性 | セルロース | 果物、野菜、穀類 |
ヘミセルロース | 穀類、野菜、豆類、果物 | |
リグニン | ココア、ピーナッツ、緑豆 | |
キチン | きのこ、エビやカニの甲羅 |
食物繊維および似た働きをする成分
② 食物繊維が不足すると、腸のバリア機能が破綻する
たった1食でも食事を抜くのは辛いもの。では、栄養源となる食物繊維が慢性的に足りない状況に追い込まれると、腸内細菌と腸内環境は、どう変わるのだろう。
「腸管のバリア機能が破綻し、それによりアレルギーや花粉症などを引き起こすこともあります」(大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授)
腸管は、余分なものが体内に侵入するのをブロックするバリア機能を持つ。それが崩壊すると、本来なら腸管が拒絶するような有害物が侵入。アレルギーなどのきっかけとなる。なぜ食物繊維不足が、腸管バリアを壊してしまうのか。
腸内細菌は、腸管内を自由にフワフワと漂っているわけではない。腸管を作る細胞が分泌し、腸管を薄く覆う粘液層を棲み処にしている。
「この粘液層の主成分は糖質とタンパク質が結合した多糖類の一種。食物繊維が乏しくなると、腸内細菌はこの多糖類をエサとして食べ始めます。粘液層は腸管表面を守るバリアでもありますから、これが減ってバリアが薄くなれば、腸管をスルーして入り込む異物が急増。それでアレルギーや花粉症といったネガティブな症状が起こるのです」
③ “多彩な食物繊維”が、腸各所に潜む菌を元気にする
腸内細菌のホームグラウンドは、大腸。1.5mほどの長さがある。そこに、40兆個ともいわれる無数の腸内細菌が棲んでいるわけだ。サッカーや野球の選手の役割がポジションで変わるように、腸内細菌も棲む場所で性質が異なる。
大腸の入り口近くに多く潜むのは、乳酸菌。腸内細菌は酸素を嫌う嫌気性だが、乳酸菌は酸素が多少あっても平気なタイプ。なので、酸素がやや多い大腸の玄関先に棲んでいる。乳酸菌の好物は、ゴボウなどの根菜に含まれるイヌリンなどである。
大腸の中ほどから奥には、有益な短鎖脂肪酸を作るバクテロイデス属などが多い。エサとなる食物繊維は、穀物に多いβ-グルカンやアラビノキシランだ。
そして大腸のいちばん奥では、酸素をもっとも嫌うビフィズス菌や酪酸産生菌の比率が高く、短鎖脂肪酸を作る。ビフィズス菌が好むのは、前述のレジスタントスターチ。発酵に時間を要するため、大腸の奥まで届き、ビフィズス菌の栄養源となる。
腸内細菌の潜伏場所と好むエサが異なるという事実を踏まえると、多彩な食物繊維を偏りなく摂った方が、腸内環境は整いやすくなるのだ。
④ 食物繊維と有益菌を同時に摂るシンバイオティクスが重要
食物繊維のように、腸内細菌の栄養源となり、腸内環境の改善に寄与する食品の成分を摂り入れることを「プレバイオティクス」という。
それと似た言葉に「プロバイオティクス」がある。プロバイオティクスは、腸内環境を良くする、生きた有益な微生物を摂り入れることを指している(対比される言葉が、アンティバイオティクス=抗生物質だ)。
プレもプロも大事だが、これまではどちらかというとビフィズス菌や乳酸菌入りのヨーグルトのように、プロバイオティクスの人気が先行していたきらいがある。近年は食品技術が進歩して、これらの善玉菌を生きたまま大腸まで送り届けることが可能になってきたからだ。
たとえ生きて届いたとしても、外から摂ったよそ者の善玉菌は定着できない。でも、ずっと継続して摂り続けている限り、腸内に一定数が留まり続ける。その間、発酵で短鎖脂肪酸などの代謝物を作ってくれる。
「大切なのは、プレバイオティクスで食物繊維を同時に摂ること。助っ人の有益菌が腸内に留まっているとしても、エサとなる食物繊維が足りなかったら、短鎖脂肪酸などを十分作ってくれないのです」
プレとプロをセットで行うことを「シンバイオティクス」という。プレ×プロ=シンバイオティクスを新たな習慣にして、お腹から元気ハツラツになろう。
⑤ 朝食と夕食を意識すれば、24時間発酵が実現する
栄養素は、種類によって消化吸収にかかる時間が違う。ご飯やパンなどの糖質は2〜3時間だが、脂肪分が多い肉は4〜5時間ほどかかる。同じように、食物繊維にも種類があり、それに応じて腸内細菌が発酵するのに要する時間は変わる。
たとえば、タマネギなどに含まれるオリゴ糖や、ゴボウなどの根菜に多い繊維の短いイヌリンは、摂ってから4時間ほどで腸内細菌による発酵がピークに達する。それよりも繊維が長めの大麦などのβ-グルカンは6時間以上、水に溶けないレジスタントスターチは10時間以上経って、発酵はようやくピークを迎える。
「発酵に要する時間を考慮すると、朝食で多様な食物繊維が摂れたら、日中ずっと発酵が続きます」
朝食で食物繊維を多めに摂ると、数時間で腸内細菌が短鎖脂肪酸を作り始める。その刺激で腸管のL細胞が、GLP-1という消化管ホルモンを分泌。GLP-1は血糖値を下げるインスリンの分泌を促す。それにより、次の昼食で、血管のダメージとなる食後高血糖を抑える「セカンドミール効果」が期待できる。
セカンドミール効果の助けもあるから、昼食はわりとフリーに摂ってOK。夕飯でまた食物繊維リッチな食事をすれば、就寝中も発酵が続くので、24時間ほぼノンストップで発酵が持続するに違いない。
⑥ レジスタントスターチをもっと摂ろう
腸内細菌のなかでも、善玉菌のエース格と言えるのが、ビフィズス菌。日本では他国よりもビフィズス菌を持つ人の割合が多く、それが日本人の健康長寿の一因とも考えられる。
すでに触れたように、腸内細菌は酸素が苦手な嫌気性。なかでもビフィズス菌は酸素が大嫌いで、大腸のいちばん奥に潜む。そんなビフィズス菌のエサになるのが、レジスタントスターチ。どんな物質か。
スターチとは、でんぷんのこと。でんぷんは穀類などに含まれる糖質であり、従来は小腸で完全に消化吸収されると考えられてきた。だが、一部は消化されずに大腸まで届くとわかり、レジスタントスターチ(酵素抵抗性でんぷん)と命名される。
レジスタントスターチはR1〜4まで4タイプがある。なかでも、ビフィズス菌の栄養源として目を向けたいのは、R1とR3。
R1は、植物の細胞壁などに囲まれて物理的に消化されにくいもの。全粒穀物、豆類などに多く含まれる。豆類は、総じて10%程度のレジスタントスターチを含有している。
R3は、老化でんぷんとも呼ばれる。加熱して“α化”したでんぷんは消化されやすいが、それが冷えて“老化” すると難消化性となる。ポテトサラダや冷やご飯に多い。レジスタントスターチを意識的に摂り入れてビフィズス菌を笑顔に!
食品中のレジスタントスターチの分類
分類 | 定義 | 食品の例 |
---|---|---|
R1 | 細胞壁などで物理的に消化されない | 全粒粉、豆類、粗粉砕穀類、パスタ |
R2 | でんぷん粉自体に耐消化性がある | 未熟バナナでんぷん、高アミロースでんぷん、未加熱の馬鈴薯でんぷん |
R3 | 老化でんぷん。一度温めて冷やしたもの | ポテトサラダ、コーンフレーク、冷やご飯 |
R4 | 化工でんぷん。加工してレジスタントスターチにしたもの | 架橋でんぷん、エーテルでんぷん |
食品中のレジスタントスターチ量(g/100g乾物)
⑦ 食物繊維をサプリで大量に摂るのはオススメできない
ビタミンやミネラルのように、日々の食事で補えない栄養素を、サプリメントで摂るという発想もある。同じように、食物繊維が足りないなら、サプリで摂る手も考えられる。その方がうんと手軽だが、果たしてそれでいいのか。
「サプリで特定の食物繊維を大量に摂り続けると、その繊維を好む腸内細菌ばかりが増えてきます。腸内環境で大事にしたいのは、多様性。サプリでの大量摂取は、多様性を乱すことにつながることもあるので、お薦めできる方法ではありません」
腸内に定住できる腸内細菌には、限りがある。プラチナチケットを巡る椅子取りゲームが、お腹では密かに展開されているのだ。サプリで摂った繊維を好む特定の腸内細菌だけ増えすぎてしまうと、他の腸内細菌の居場所がなくなり、多様性が低下する恐れが出てくるというワケ。
この他、糖質やカロリーをカットしている食品や飲料には、難消化性デキストリンや、ポリデキストロースのように、合成された水溶性食物繊維が含まれるケースも少なくない。繊維不足をカバーするために、こうした食品や飲料を摂る人もいるだろうが、残念ながらこれらの繊維の発酵性は決して高くない。
やはり全粒穀物や豆類などから、発酵性の高いさまざまな食物繊維を摂るのが、正解なのである。
⑧ 「2週間チャレンジ」で腸内環境は劇的に変わる
筋トレに励んでも、目に見える成果が出るまでには2〜3か月かかる。ダイエットだって、最低1か月は頑張らないと結果は出ない。ところが、食物繊維による腸内環境の改革は、嬉しいことにもっとスピーディに進む。
「腸内細菌の発酵は毎日行われていますから、発酵しやすい食物繊維を増やしてやると、2週間ほどで腸内環境が良くなるケースが大半です」
多彩な食物繊維の摂取を増やすと、まずはそれを栄養にして短鎖脂肪酸を作る善玉菌が優勢に。それにより、腸内環境が弱酸性に傾き始め、腐敗などの悪事を働くいわゆる悪玉菌の活動がセーブされる。
かくて腸内環境が整い始めると、マイナーながら有益な働きを担う菌も活性化されて、さらに腸内環境が良くなるという好循環を招く。腸内環境にポジティブな変化が起こったサインには、どんなものが?
「乱れていた便通が良くなったり、腸の動きが悪く滞留していたガスが減って下腹部の張りがなくなり、ポッコリお腹が凹んだりします」
ただし、それまで食物繊維の摂取が少なかった人が、食物繊維を一挙に増やしすぎると、腸内細菌が急に活発に活動しすぎてお腹が緩くなることも。思い当たる人は、いきなりではなく、1〜2週間かけて少しずつ食物繊維を増やしていこう。