占いより面白い! 血液型の雑学
以前、血液型と性格の関係性が一世を風靡したが、「科学的根拠はない」との説が濃厚。では結局、血液型とは何なのか。血液の専門家は、どのような特性や可能性を見出しているのか。知っているようで意外と知らない、雑学を紹介。
取材・文/門上奈央 イラストレーション/石山好宏 取材協力/奧山美樹(がん・感染症センター都立駒込病院輸血・細胞治療科部長)、永田宏(長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授)
初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売
目次
A・B・O・AB、何が血液型を決めるのか
A、B、AB、O。この4種類に分かれるABO血液型は最も一般的。それらの違いは“糖鎖”の構造の違いだ。糖鎖とは赤血球表面の細胞膜にある単糖が鎖状に連なる物質。
「糖鎖の違いにより赤血球表面の抗原が異なり、血漿中にある抗体も血液型によって異なります」と都立駒込病院の奧山美樹先生。
A型には赤血球の表面にA抗原があり、B型はB抗原、AB型はA・B両方の抗原を持つ。O型は特殊で、いずれの抗原もない。また抗体は、自分が持っていない特定の抗原に反応する。A型は抗B抗体、B型は抗A抗体、O型はA・Bの抗体を持ち、AB型は抗体を持たない。よって自分とは異なる血液の抗原に反応する。
「輸血はドナーと患者の血液型を合わせるのが原則。A型にB型の輸血をすると、もともと持つ抗B抗体が、B型赤血球を壊すために問題となります。一方、O型の赤血球にはA・B抗原がなくどの血液型にも輸血できるため、緊急手術でO型赤血球で対応することも。同様に抗体がないAB型を含め、全血液型の人にO型血漿は輸血ができます」
ABOが全てじゃない。Rh血液型とは
ABO型だけでなく、赤血球に限れば、実は血液型は300種類にも及ぶ。
「なかでも輸血の際に重要なのはRh血液型です」(奥山先生)
Rh血液型はABO血液型と異なる抗原により分類され、鍵になるのは“D抗原”の有無。
「D抗原を持つものをRhプラス、持たないものをRhマイナスと呼び、Rhマイナスの日本人は200人に1人。Rhプラスの血液をRhマイナスの人に輸血した時にできる抗D抗体はRhプラスの人の赤血球を壊す作用が。
例えばRhマイナスの女性がRhプラスの男性との間で妊娠した第1子がRhプラスの場合、母親は抗D抗体をつくる可能性があり、Rhプラスの第2子を妊娠した時に胎児の赤血球を攻撃することがあるので、医療的なケアが必要です」
人類最初の輸血は子羊の血!? 輸血の歴史
十分な血液をつくれない時や出血多量で生命が危険にさらされている場合などに行われる輸血。救命も望めるがリスクもあるこの措置は、どのようなきっかけで行われ始めたのか。
血液の体内循環論をイギリスの解剖学者ハーヴェイが発表した1616年を機に、動物の血管にあらゆる物質を注入する実験が開始。人間に対し初めての輸血が行われたのは、それから約50年後のこと。
「貧血と高熱のある青年に約225mLの羊の血液を輸血。一時は回復したものの、その後も羊の血液を輸血し続けて、患者は死亡しました」(長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授の永田宏さん)
19世紀には人間同士の輸血が開始されるも、血液型や採血した血液の凝固を防ぐ方法も知られておらず、輸血に伴う死亡事故や副作用は多数。20世紀に入りABO血液型と抗凝固剤が見つかり、第二次世界大戦の頃には採血の保存方法や血液を血球と血漿に分離する技術が確立。多くの傷病兵が輸血により救われた。
「人工血液の開発が行われたり、馬の血を用いて毒蛇に嚙まれたヒトのための血漿をつくる試みがなされるなど、研究は現在進行形です」
生後間もない赤ちゃんは血液型が決まらない
生まれたばかりの赤ちゃんの血液型をすぐにも知りたいのが親心。しかし新生児の血液型は確定できないという。
「生後間もない頃は抗体をうまくつくれず、母親の血液から抗体が移行していることも。本来血液型を確定するには、抗原を調べるオモテ検査と抗体を調べるウラ検査を行い、これらの結果が一致する必要があります。しかし赤ちゃんの場合は結果がうまく出ないことも多い。
輸血が必要な場合などの緊急時にはオモテ検査の結果で対応するよう決まっていますが、抗体が産生され始めるまで生後3〜4か月から半年程度かかり、成人並みになるのは3〜4歳といわれています」(奧山先生)
血液型分布を決めたのは感染症だった!?
日本人の血液型はA・O・B・ABの順に4:3:2:1。地域でも傾向が。
「関西圏で少々A型が多く東北でO型がやや増加。全体では“西A東O、北A南A”の分布傾向があります」と、永田さん。だが世界は“西A東B、北A南O”の傾向が。その背景には感染症の歴史との関係がある。
「血液型で最初にできたのはA型で、それが突然変異したのがB遺伝子、O型はA遺伝子が壊れてできたとされます。アフリカで誕生した人類、ホモサピエンスが全員O型だったのはマラリアでO型以外が淘汰されたためという説があります。
中世にマラリアが流行った南欧もO型が多いですが、その影響が比較的少ない北欧はA型が多いです」
一方、インドの一部地域や東南アジアはB型の割合がやや高めだ。
「マラリアに弱いといわれるB型は、本来淘汰されて割合が低くなるはずですが、これらの地域でOとBの比率にあまり差がないのは、B型はガンジス川流域を起源とするコレラに強いからとの見方も。
北米・南米ではマラリアや天然痘に強いO型が残った。B型の割合が先進国などで低いのは、産業革命の頃流行した結核にB型はかかりやすく、その結果淘汰されたためという説もあります」
血液型別腸活がニュースタンダードに?
血液型研究の分野でも腸内細菌との関連性が注目されていると永田さん。
「そもそもABO血液型物質は赤血球表面以外にも見られます。多くの細菌と同様、腸内常在菌も喉や胃腸の細胞表面にあるタンパク質や糖鎖を足がかりにあらゆる部分に棲みつきます。事実、血液型により腸内細菌の種類や傾向が異なります」
それが人体にどんな影響を与えるかは、現在研究段階にあるという。
「血液型を認識する乳酸菌も見つかり、効果が実証されれば、血液型別の乳酸菌を使った商品が販売されるかも。また腸内細菌に適した食材など分かれば、科学的根拠を伴う血液型ダイエットが確立されそうです」
臓器移植で血液型が変わる?
緊急手術などで患者の血液型と異なる血液を使う場合、血液型が変わることはありえるのか。奧山先生は語る。
「異なる血液型を輸血すると、しばらくは両方の血液が体内に存在し判断に困る場合はありますが、血液型が変わってしまうわけではない。ただし例外的に血液型が変わる場合があります。
白血病などの病気を持つ方に造血幹細胞移植を行う際、必ずドナーと患者のHLA(ヒト白血球抗原)を合わせますが、赤血球の血液型は揃わない場合も。
造血幹細胞移植で血液をつくる細胞をドナーから移す場合は患者の血液型がドナー型に変わります。赤血球の寿命は約120日で、二人の血液型が共存する時期があり、主治医は患者に起こりうるさまざまな状況を見越して適切な対処をします」
血液型で実は異なる、なりやすい病気と重症度
ABO血液型により、なりやすい病気が違う。自著に『血液型で分かる病気のリスク』を持つ永田さんは語る。
「数十万人のデータを基に導いた結果から調べられています。現状明らかなのは膵臓がんと胃がんのリスクは血液型の影響を受けること。前者はアメリカの国立がん研究所の論文で、後者は『ネイチャー』誌や日本の研究グループの論文がある。それぞれO型よりB型・A型の方がややリスクが高い傾向にあるようです」
がん以外の病気との関連性も研究済み。O型は血液凝固因子が薄く、そのほかより出血過多になる傾向が。
「また脳梗塞の患者はO型が若干少ないです。感染症ではマラリアの感染や発病に関して血液型による違いはないものの、重症化率についてはO型が他より低いそうです。いずれの結果も病気に“かかる/かからない”を示すデータではないので、ご留意を」
・膵臓がん=B型はO型の約1.5倍。
・胃がん=A型はO型の1.1~1.2倍。
・O型はマラリアに強いが、 コレラに弱い。
・武漢型コロナだけはA型が重症化リスク大。
・脳梗塞=非O型はO型の1.1〜1.2倍増。
・O型は大出血するとハイリスク。