なぜ贅肉は下腹&脇腹につきやすい? 7つの要因と対策
「あぁ太ったな」が描写される時、よくつままれている下腹や脇腹。どことなく頼りない背中はやっぱり腰にかけてふっくらしている。ここが贅肉天国地帯になるのは、さまざまな要因が関係していた。
取材・文/井上健二 撮影/石原敦志 スタイリスト/ヤマウチショウゴ ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/白戸拓也
初出『Tarzan』No.829・2022年3月10日発売
目次
浮き輪ゾーンとは?
太っていても、太っていなくても、気になるのは「浮き輪ゾーン」。
浮き輪ゾーンとは、ヘソと左右の腰骨との間を中心に、腰まわりを贅肉が帯状にグルリと一周する部分。下腹、脇腹、背中(腰背部)に溜まった体脂肪が、ドーナツ状に一体化して膨らみ、浮き輪をハメているように見えることから名付けた。
なぜそこに贅肉がつくのか。どうして落ちにくいのか。その性質を把握するところから、初めての浮き輪対策をスタートさせよう。
1. ストレスがあると浮き輪はできやすい
コロナに限らず、ストレスの種は尽きない。生きている以上、ある程度のストレスにさらされるのは織り込み済み。でも、そんなストレスフルな生活が続くと、浮き輪ゾーンに体脂肪が溜まりやすくなる。
どうしてストレスがあると、浮き輪が膨らんでくるのか。ここで注目してほしいのが、コルチゾールというホルモン。コルチゾールは、ストレスを受けると副腎から分泌される抗ストレスホルモンの代表格。ストレスに対抗してカラダを守るために、血圧を上げたり、糖質や脂質を分解してエネルギーとして利用しやすくしたりする性質がある。
コルチゾールは短期的には体脂肪の分解を進めるが、ストレスが慢性的になり、コルチゾールがダラダラと出続ける状況下では、話はガラリと変わる。
浮き輪ゾーンを含むカラダの中心に体脂肪が蓄積する「中心性肥満」に陥りやすくなるのだ。そのことを明確に示すのが、コルチゾールが慢性的に過剰になるクッシング症候群の患者たち。彼らの典型的な症状の一つに、中心性肥満が挙げられるのである。
ストレスで浮き輪ゾーンに集まった体脂肪を退治するには、夢中になれる趣味など、ストレスを発散する自分なりの手段を持つことが大切。運動なら体脂肪が燃やせるし、ストレス解消にも役立つので一石二鳥だ。ダイエットもストレスにならない程度の「ゆるい」方法で行うのが吉だ。
2. 動かさないから浮き輪は取れにくい
体脂肪は、よく動かしているところにはつきにくく、あまり動かさない場所に蓄積しやすい。改めて考えると、これは不思議でも何でもなく、理にかなった話。
たとえば、手足のように、つねに動かすところに体脂肪がついたら、重りとなり、邪魔で仕方ない。対照的に浮き輪ゾーンは、手足と違って日常生活で動かす機会に乏しく、多少重りがついても悪影響は限定的。しかも、浮き輪ゾーンは重心に近いから、仮に重くなっても、姿勢が大崩れする心配もない。
活発に動かす部位ではなく、浮き輪ゾーンのように動かさない部位へ体脂肪を導くメカニズムとは、どんなものか。謎を解く鍵を握るのは、筋肉が分泌するホルモン様物質の一つである「IL-6」だ。
IL-6は、筋肉を動かして刺激を与えると大量に分泌される。IL-6は運動時に生じる炎症を抑えると同時に、周辺の脂肪細胞に作用して体脂肪の分解を促してくれる。
よく動かす部分の筋肉からはIL-6が盛んに分泌されるので、体脂肪が分解されて溜まりにくい。それに対して動かさない部分の筋肉はIL-6を分泌しないので、体脂肪が溜まりやすくなるというワケ。
長らく部分痩せは夢のまた夢といわれてきたが、IL-6の存在が明らかになると風向きが一変。現在は鍛えた部位の体脂肪ほど減りやすく、部分痩せはある程度可能と考える人が増えた。浮き輪ゾーンこそ、どんどん動かして体脂肪分解を進めたい。
3. 皮下脂肪が残るから最後まで落ちにくい
ダイエットやトレーニングで減量を始めると、お腹の真ん中から先にサイズダウンする。それ以降、頑張っても取れにくいのが、ヘソ下の浮き輪ゾーンを覆う体脂肪。
浮き輪ゾーンの体脂肪が落ちにくいのは、お腹の真ん中の体脂肪とは種類が異なるから。お腹の中心を膨らませるのは、おもに内臓脂肪。お腹の奥にある内臓脂肪は、脂質代謝の要を占める肝臓に隣接する。このため、カロリー過多の生活を続けると、肝臓が合成した体脂肪が溜まりやすくなる。
反面、内臓脂肪は、運動時に分泌されて体脂肪の分解を促すアドレナリンというホルモンへの感受性が高いのが特徴。ウォーキングのような軽めの運動でも、アドレナリンの働きで体脂肪が分解されやすいため、内臓脂肪はわりと早く落ちやすい。
一方、浮き輪ゾーンに最後まで残るのは、皮下脂肪。皮下脂肪は、皮膚と筋肉の間につく体脂肪。内臓脂肪と比べると溜まりにくいが、一度蓄積すると減りにくい。
皮下脂肪は体温を保つ断熱材であり、衝撃からカラダを守るクッション材でもある。大事な機能があるので、一度ついたら、なかなか減らない仕組みになっているのだ。すでに触れた中心性肥満では内臓脂肪蓄積がメインだが、皮下脂肪だって増えている。
中心性肥満に限らず、内臓脂肪が落ちた後、皮下脂肪が浮き輪化するタイプは多い。浮き輪ゾーンの皮下脂肪は焦らず、中長期戦で減らそう。
4. 筋肉が薄い下腹部と脇腹は、タガが緩み浮き輪化しやすい
全身でも、腹部は体脂肪がいちばん溜まりやすい場所。なかでも、最後まで体脂肪が残ってしまうのが、浮き輪ゾーンの正面と両サイドを占める下腹と脇腹だ。下腹と脇腹に共通するのは、筋肉が薄いということ。
お腹の腹筋は、正面の腹直筋、脇腹の外・内腹斜筋、深部の腹横筋という4種類からなる。
下腹を覆うのは、このうち腹直筋。その厚み(筋厚)は男性で10〜15mm、女性で6〜10mmほど。しかも、上から下に行くほど、腹直筋の筋厚は薄くなってしまう。
脇腹をカバーするのは、外側の外腹斜筋とその内側の内腹斜筋。外腹斜筋は腹直筋より薄く、内腹斜筋は腹直筋の厚みと同程度に留まる。加えて下腹も脇腹も鍛えにくく、衰えやすいという弱点がある。
いわゆるフッキンは上体起こしで、下腹には効きにくい。脇腹を鍛えるには、体幹を鋭くツイストすることが求められるが、カラダを捻る動作は日常生活にあまりない。また腰椎は捻る動作の可動域が狭いため、中・上級者でも効かせるのは難しい。
元来薄っぺらなうえに、鍛えにくくて筋力が落ちると、樽のタガが緩むようなもの。浮き輪が生じやすい。下腹も脇腹も頑張って強化せよ。
5. 猫背だと背中の下部に体脂肪が溜まる
浮き輪ゾーンの背面を占める背中の下部は、下腹や脇腹のように筋肉が薄いわけではない。なのに、体脂肪が溜まりやすい理由が3つある。
第一に、背中も腹部に負けず体脂肪が溜まりやすい場所だから。体組成計が普及する以前、体脂肪率を出す際は、皮下脂肪をつまんで計算する方法が主流だった。その際、サンプルとしたのは、二の腕の外側と背中(肩甲骨下部)。そのくらい背中には贅肉が集まりやすい。
第二に、背中は衰えやすいため。ジムに通うか、鉄棒で懸垂でもしない限り、背中は鍛えにくい。放置されると筋肉は衰えて動きが悪くなり、IL-6が出にくいので、体脂肪が溜まりやすくなる。
第三に、猫背になりやすいから。デスクワークなどで猫背に陥ると、僧帽筋上部が縮んで硬くなる。筋肉には、正反対の働きをする拮抗筋があり、ある筋肉が硬くなると、拮抗筋は伸びっ放しで弱くなる。
僧帽筋上部の拮抗筋は、背中の下部から上腕へ延びる広背筋。ゆえに、猫背で僧帽筋が硬くなると、広背筋が伸びて弱くなり、腰背部に贅肉の蓄積を許しやすい。背すじを伸ばして姿勢を正し、背中も確実に鍛えて厚みを増したい。
6. 骨格の空白地帯だから凹みにくい
浮き輪ゾーンが体幹の他のエリアと大きく異なるのは、骨格の空白地帯だということ。体幹の上半分には、胸郭という骨格がある。胸郭は、肋骨や胸椎などが作る鳥かごのようなフレーム。そして体幹の下半分には、立派な骨盤がデンと構えている。
胸郭や骨盤といった丈夫な骨格を持たない浮き輪ゾーンは、骨の代わりに筋肉で支持される。なかでも大事なのは、体幹の深層を走るインナーマッスル。腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群などである。
これらのインナーマッスルは筋膜を介してユニットを作り、一体として腹圧を保つ。腹圧とは、お腹の内臓を収める腹腔にかかる内圧。内臓を押さえる働きがある。贅肉以外で浮き輪ゾーンが膨らむ大きな理由は、腹圧が落ち、腹腔に収まる内臓の重みに耐えかねる点にある。
体幹のインナーは、通常の腹部や背中の筋トレでは鍛えにくい。より表層にあり、力持ちの腹直筋や脊柱起立筋といったアウターマッスルが先に働いてしまうため、インナーまで出番が回ってこないからだ。
運動不足の人はもちろん、筋トレに励んでも鍛えにくいのが浮き輪ゾーンのインナー。インナーを意識して腹圧を高める筋トレもお忘れなく。
7. テストステロンが減ると浮き輪が悪目立ちしやすい
やる気が出ない、疲れやすい、眠りが浅くなった…。30代以降で、そうした自覚症状があるなら、男性ホルモンのテストステロンの減少を疑った方がいい。
テストステロンにはさまざまな作用があり、女性でも男性の5〜10%ほどが分泌されている。テストステロンが減ると前述のような症状が表れるが、同時に浮き輪ゾーンも悪目立ちしやすくなる。
テストステロンには筋肉を維持する働きがある。その分泌量が減ると、筋肉が落ちやすくなり、代謝が下がるため、体脂肪率は高くなる。こうしてじわじわと増えた体脂肪は、これまで述べた数々の事情により、浮き輪ゾーンへと引き寄せられるのだ。
テストステロンの分泌量は、20歳前後をピークとして緩やかな右肩下がりとなり、加齢とともに減っていく傾向がある。加えて、運動不足、ストレス、睡眠不足、お酒の飲み過ぎなどがあると、テストステロンの分泌量はガクンと減りやすい。
テストステロンの分泌減少にストップをかけたいなら、適度な筋トレで筋肉を刺激したり、日常生活のリズムを整えてストレスや睡眠不足を解消したりする努力が求められる。飲酒もほろ酔い程度に留めよう。