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原因は筋肉だけじゃない。肩こり・腰痛のメカニズム

肩こり ・ 腰痛はなぜ起きる?

我々を悩ませる肩こりと腰痛。その原因は、筋肉の働きとメカニズムを知ることで見えてくることもある。「エキセントリック収縮」「抗重力筋のバランス」「自律神経」という3つの視点から、肩こり・腰痛の原因を考える。

問題は「エキセントリック収縮」

肩こり腰痛の多くは、なぜ起きるかがはっきりしていない。原因がわからないから、治すこともなかなかできないのだ。ただ、筋肉の働きとメカニズムを知ることで、見えてくることもある。ここではそれを説明したい。

まず筋肉は収縮、つまり縮むことで力を発揮する。たとえば下のイラストはアームカールというトレーニングだが、肘を曲げてダンベルを持ち上げたときは、まさしく縮みながらの出力となる。

エキセントリック収縮

アームカールで肘を曲げると、上腕二頭筋が縮む。コンセントリック収縮だ。伸ばすときも縮んでブレーキをかける。これがエキセントリック収縮。

これをコンセントリック(短縮性)収縮と呼ぶ。反対に腕を伸ばすときも、筋肉が縮む方向に力を出すことでブレーキをかけつつ、肘が開いていく。これがエキセントリック(伸張性)収縮だ。

この2つは、どちらが大きな力を発揮するか。正解はエキセントリック収縮。この収縮をブレーキとすれば、コンセントリック収縮はアクセルだ。アクセルで出したスピードをブレーキでコントロールするにはそれ以上の力が必要となる。もし、エキセントリック収縮でそこを支えられなければ、加速して筋肉や骨までも故障してしまうからだ。

人間のカラダは実に機能的に作られている。そして、トレーニングの現場ではエキセントリック収縮に重きを置いている。アームカールなら、肘を曲げる動作よりも、肘を伸ばす動作をゆっくりと行う。こうすることで筋肉はより大きな力を発揮して、トレーニング効果が上がるのだ。

ただ、エキセントリック収縮は筋肉に大きな負担をかける。例えば、悪姿勢を日常的にとると筋肉は硬くなり痛み始める。肩こり・腰痛とは、背中、そして周辺の筋肉が、まさにこの状態になっているのだ。

「持続的な筋刺激」が疲労を引き起こす

もう少しコンセントリック収縮、エキセントリック収縮を掘り下げたい。筋肉は、筋線維と呼ばれる線維状の細胞が集まって構成されている。そして、その線維にはざっくりと分けると2つの種類がある。

ひとつが速筋であり、もうひとつが遅筋だ。

これらの筋線維には特徴がある。まず速筋は瞬間的に大きな力を発揮する筋線維だが、スタミナに欠ける。一方、遅筋は大きな力を出すことはできないが長時間働くことが可能だ。

さて、コンセントリック収縮では、まず遅筋が働く。これは出力をできるだけ抑えることで、エネルギー消費を少なくするためだと考えられている。つまり、速筋の力を借りないで済ませられることなら済まそうということだ。

ところがエキセントリック収縮では、まず速筋が働きだし、その後に遅筋線維が働き始める。これは、ブレーキをかけるには、初めから大きな力を出すほうが安全だからだと考えられる。つまり、コンセントリックに比べ、エキセントリックのほうが、より多くの筋線維が動員されるのだ。

もし、無理な姿勢によるエキセントリック収縮の状態が続くと、いったいどうなるであろう。速筋、遅筋ともに力を出し続けることになる。筋肉が縮まっている間は、血管は圧迫されて血流も阻害されるから、栄養が運ばれにくくなるし、溜まった疲労物質も排出できなくなり、筋肉が疲れ果てて痛みが発生するのである。

そして、実はこの状態こそが、肩こりや腰痛に繫がると考えられている。エキセントリックによる持続的な刺激が原因のひとつなのである。

肩こりが起きるワケ

日本人は骨盤がやや後傾して、猫背になる傾向がある。まず、この姿勢が肩こりになりやすい。そして、それに拍車をかけるのが、日々のデスクワークだ。パソコンを使って仕事をすると、どうしても画面に顔を近づけて、背中が丸まってしまう。

頭が前に出ることで、背中側の筋肉は伸ばされ、エキセントリック収縮を続けながら、頭や上体の重さを支えることになる。成人の頭は4~6kgもある。

具体的に言えば、顔を前に向けるための板状筋は頭を引っ張り、顔を上げた状態に留める。背中が丸まることで、肩甲骨を固定するための僧帽筋も伸ばされ、それに対抗するため菱形筋と共働する。

また、仕事中は緊張することが多いから、肩の位置が引き上げられ、肩甲挙筋は肩の重さに耐え続ける。休憩もとらずに、パソコンと睨めっこしていると、もちろんこの状況は続く。そのため、筋肉はどんどん硬くなり、これが毎日継続されることで、肩が凝るのだ。

そして、背中が丸まった分だけ、胸側の筋肉は縮んでしまう。たとえば、胸にある大きな筋肉・大胸筋や首の胸鎖乳突筋だ。

このように、背面の筋肉と前面の筋肉のバランスが悪くなることで、それがまた肩こりの原因となってしまう。こうして症状は、どんどんと悪化の一途を辿ってしまうのである。背面にある筋肉は伸ばされ、それに対抗してエキセントリック収縮を続ける。逆に前面にある筋肉は縮み、バランスが崩れてしまう。

肩こりではここが疲弊する

肩こりで疲弊する筋肉

縮む筋肉:大胸筋、胸鎖乳突筋

伸びる筋肉:僧帽筋、菱形筋、板状筋、肩甲挙筋、広背筋

背面にある筋肉は伸ばされ、それに対抗してエキセントリック収縮を続ける。逆に前面にある筋肉は縮み、バランスが崩れてしまう。

腰痛が起きるワケ

腰痛でも、まずはデスクワークが原因となる。座面に座ったとき、背すじを伸ばして骨盤を立てている人は正解。ただ、多くの人は骨盤を後傾させて座っている。すると、カラダの前面にある腹直筋腹斜筋が縮んでしまう。

また、骨盤が倒れたことで腰から背中が丸まり、背骨が正しいカーブを描けなくなる。前面とは逆に、背面にある腰方形筋脊柱起立筋は、丸まった上体の重さによって伸ばされる。そして、それに抗うようにエキセントリック収縮を続けて腰痛へと至るのである。

一方、加齢によって起きる場合もある。その原因が脚の筋力の低下だ。外を歩くことが減った昨今、若い人にも起こることかもしれない。

脚のなかでも、大腿四頭筋は筋力が低下しやすい。この筋肉が弱くなると、背面にある大臀筋とのバランスが乱れる。大臀筋の筋力が勝るようになり、その結果骨盤が後方へ引っ張られ、深層にある腸腰筋が伸びる。

そして、背骨のカーブが崩れ、デスクワーク時のように、前面の筋肉は縮んでしまう。前面と背面のバランスが悪くなり、これがカラダの歪みに拍車をかけるのである。

もともと日本人は骨盤がやや後傾している人が多い。だから腰痛になりやすいともいえる。正しい姿勢を取り戻すことが最重要。加齢により背骨が正しいカーブを描けなくなると背部にある脊柱起立筋腰方形筋、立位時には腸腰筋が伸び、前面の腹直筋腹斜筋は縮む。

腰痛ではここが疲弊する

腰痛で疲弊する筋肉

縮む筋肉:腹直筋、腹斜筋、大臀筋

伸びる筋肉:大腿四頭筋、腰方形筋、脊柱起立筋、腸腰筋

加齢により背骨が正しいカーブを描けなくなると背部にある脊柱起立筋や腰方形筋、立位時には腸腰筋が伸び、前面の腹直筋、腹斜筋は縮む。

「抗重力筋のバランス崩れ」も原因に

抗重力筋と呼ばれる筋肉がある。これらの筋肉は、人間が直立するために、重力に抗いカラダを支えてくれている。下腿、大腿、腹、背中、首などに配され、肩こりや腰痛の原因となる僧帽筋脊柱起立筋なども含まれる。

カラダの前後に配置される抗重力筋

カラダの前後に配置される抗重力筋。直立を支える。肩こりの原因の僧帽筋、腰痛の原因の脊柱起立筋、大腿四頭筋、腸腰筋もこれに含まれる。

これがバランスよく力を発揮することで、人は無理なく日常生活を送ることができるのだ。しかし、実際にはバランスよく力を発揮するのが難しい。なぜなら、人間の生活の中ではカラダを歪ませる要因が山のように潜んでいるのだ。

たとえば、ヒトは利き腕をよく使う。ショルダーバッグをいつも同じ側の肩に掛ける。座っているときに常に同じ脚を上にして組む。こういう何気ないことの積み重ねでカラダが歪んでしまう。すると、抗重力筋の中で、力を発揮しにくくなる筋肉が出てくる。すると、受け持てなくなった重量は他の抗重力筋へと分けられる。

つまり、ある筋肉は働きが悪くなり、ある筋肉は過剰に働くことになる。そして過剰に働いた筋肉は、疲弊して痛みだすのだ。

もうひとつ、抗重力筋には特徴がある。他の筋肉に比べ、筋紡錘が多いのだ。筋紡錘は筋肉の安全装置。筋肉が引き伸ばされたときに、縮めと指令を出す。これによって、伸びすぎて切れることを防止できる。

抗重力筋は最重要とされ、この安全装置の数が多いのだろう。過剰に働いている筋肉は常に引き伸ばされた状態を元に戻そうとしている。エキセントリック収縮を続けているのだ。だから、筋紡錘も何度も指令を出し、これがまた筋肉を硬縮させ、さらに肩こり・腰痛が酷くなるのだ。

スマホで筋肉が休めない!?

人間はカラダの中に体内時計があり、それに合わせて、一定のサイクルで暮らしている。司っているのは自律神経。自律神経には交感神経と副交感神経の2つがあり、これらが交互に優位に立つことにより、一定のサイクルが生まれるのだ。

まず、朝起きたときは交感神経が優位に。心拍数や血圧が上昇、グリコーゲンがどんどん分解されてエネルギーが作られる。ヒトが動くために必要な機能が高まっていくのだ。もちろん、筋肉もいつでも収縮できるようスタンバイする。

一方、夜には副交感神経がヒトを休息へと誘う。血圧や心拍数は低下してエネルギー消費は減り、逆にグリコーゲンは合成されて肝臓や筋肉で蓄えられる。

このようなサイクルで日々暮らせば、カラダの不調は起こりにくい。しかし、現代にはこれを破壊してしまう要因が多すぎる。深夜まで明るい街テレビインターネットのさまざまなコンテンツ。これらが交感神経を刺激し続け、副交感神経が優位になりにくいのだ。

その間、筋肉はいつでも収縮できるようスタンバイしているから、当然疲弊していく。また、パソコンやスマホの画面を見ることが直接、痛みにも繫がる。

画面から出るブルーライトは光が散乱する特徴がある。ずっと見ていると目に疲労が溜まり、がストレスを感じ始める。そして、そのストレスが目をはじめ、首や肩や背中の筋肉を収縮させてしまうのだ。

ブルーライトは光が散乱し、眼精疲労を引き起こしやすい

スマホから出る光、特にブルーライトは光が散乱し、眼精疲労を引き起こしやすい。これが脳にストレスを与え、肩こり・腰痛の原因になっていく。

筋肉の動きによって物理的に生じる痛みだけではなく、神経による痛みというのも存在するのだ。これが肩こり・腰痛の解消を難しくさせている、ひとつの要因なのであろう。

取材・文/鈴木一朗 イラストレーション/阿部伸二 監修・取材協力/伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部学部長)

初出『Tarzan』No.824・2021年12月16日発売

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