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知れば今日からストレッチがしたくなる?「股関節を整える」と起こる8つの嬉しいこと

ぜんぜん痩せない、在宅勤務の定番化で腰痛が悪化した、筋トレもランも思ったような成果が上がらない…。それはすべて股関節のせいかもしれない。運動不足&コロナ禍で出番が減ると衰えて、肥満や不調などの原因となることも多い。

① 代謝が上がり太りにくくなる。

股関節を駆動するのは、太腿お尻といった下半身のビッグな筋肉

運動不足だと、40歳以降は年1%の割合で筋肉が減っていくとか。なかでも、「老化は足腰から」といわれるように、下半身の筋肉は加齢で衰えやすいという弱点がある。

下半身の筋肉は元来大きくてタフ。それなら老化にも強そうだが、大きくタフな筋肉を鍛えるには、それに見合うヘビーな負荷が求められる。運動不足だと、下半身を刺激できるほどの重たい負荷が加わるチャンスは滅多にないため、衰えやすいのだ。

その結果高まるのが、肥満リスク。筋肉は、じっとしているときでも消費する基礎代謝の約20%を占める。筋肉が衰えると、代謝がダウンするため、太りやすくなるというワケ。

「股関節を積極的に動かし、下半身の大きな筋肉を刺激すると、代謝の低下が避けられる。下半身の筋肉が増やせたら、代謝が上がり、太りにくい体質になれます」(アスレティックトレーナーの鈴木岳.さん)

② 辛い腰痛が軽くなる。

あらゆる関節には、自由に動くモビリティ=可動性が求められる。

だが、骨格や日々の生活習慣などにより、モビリティが高すぎる(ハイパーモビリティ)関節と、モビリティが低すぎる(ハイポモビリティ)関節が生じる。そのアンバランスが招くのが、腰痛肩こり。なかでも腰痛と関わるのが、股関節の動きが制限されるハイポモビリティだ。

「腰を前に屈めるときは股関節と腰椎が屈曲し、骨盤が前傾します。股関節の屈曲にハイポモビリティで制限があると、腰椎が過剰に曲がるハイパーモビリティが生じ、そのストレスが蓄積すると椎間板ヘルニアの引き金となります」(文京学院大学保健医療技術学部の福井勉教授)

逆に腰を反るときに、連携する股関節の伸展にハイポモビリティで制約があると、腰椎の過剰に反るハイパーモビリティが起こり、腰椎分離症などの一因となる。股関節のモビリティを高めれば、腰椎のハイパーモビリティが抑えられるので、腰痛予防につながるのだ。

③ 使える体幹が手に入る。

体幹トレーニングは、いまやすっかり定着。自宅でもジムでも、プランクのような体幹トレに励むトレーニーは増えている。でも、体幹だけ鍛えて終わるのは、もったいない。

「体幹トレは、股関節や肩関節を動かして行うもの。プランクのような体幹トレを行ったとしても、体幹がカチカチになっただけで満足していたら、努力した甲斐がないのです」(鈴木さん)

体幹と手足の関係を考えるときに、思い出してほしいことがある。床に置かれた重たいものを持ち上げる寸前、私たちは無意識に“ウッ”と息を止めて体幹を固めるはず。体幹を安定させてから、手足を自由に操る仕組みになっている証拠である。

「体幹が弱くて不安定だと、手足は思ったように動かせない。体幹をしっかり安定できてこそ、手足の末端まで思うがままに動かせるのです」

股関節の働きを高めるトレーニングをプラスして、初めて体幹トレはその真価を発揮するのである。

④ 血流が良くなり、疲れにくくなる。

コロナ禍で運動量が減ったのに、以前よりも疲れやすくなった…。そんな悩みがあるなら、股関節をもっとアクティブに動かすべき。

運動量が減る=股関節がフリーズしている時間が長いということ。とくに坐っている時間が長いと、股関節が屈曲したままになり、心臓から下に血液を巡らせる血管が圧迫されるため、血流が滞る。すると、血液で全身の細胞に酸素と栄養を送り、疲労物質を除去する働きが鈍るので、疲れやすくなるのは当然。

さらに、心臓より下を巡る血液は、重力に逆らって還流しなくてはならない。それを助けるのが、ふくらはぎを中心とする下半身の筋肉のポンプ作用。この作用はミルキング・アクションと呼ばれており、筋肉のリズミカルな伸縮で静脈を下から上へ波打たせ、血液を心臓へ押し戻す。

坐りっぱなしなどで股関節が使えないと、このポンプ作用も低下する。立ち上がって股関節を動かし、血管を圧迫から解放。ミルキング・アクションの活性化で疲労を回復しよう。

⑤ 下半身全体のパフォーマンスが上がる。

さまざまな動きに関わっているだけに、股関節は一生モノ。その股関節に深刻なダメージが及ぶと、損傷している部分を人工関節に置き換える手術が行われることもある。

人工関節ができる前は、症状に応じて股関節を固定する手術が行われる時代もあったとか。なかでも、結核菌による結核性関節炎が股関節で生じると、痛みを抑えるために股関節を固定することも多かった。

「股関節を固定すると、結核性関節炎による痛みはなくなりますが、10年以上経つと、膝が自動回旋する人が出てきました」(福井先生)

この例が示すのは、股関節が秘かに膝の動きを助けているという事実。たとえば、膝は構造上伸ばすと捻れなくなるから、代わりに股関節が脚を捻る動きを担う。それゆえ股関節を固めると、孤立無援の膝のストレスが増えて運動が起こるのだろう。

逆に言うと、股関節の可動性を高めると、膝や足首など周囲の関節をサポートする力がアップ。下半身全体のパフォーマンスが上がるのだ。

⑥ 歩く歩幅が広がる、ランのペースが速くなる。

手ごろな有酸素運動といえばウォーキング&ランニング。いずれも、運動不足を解消してくれるし、無駄な体脂肪も燃やしてくれる。そんなウォーキングにもランにも、股関節を鍛えることはプラスとなる。

歩くときも走るときも、初心者は膝関節中心の小さな動きになりがち。動きを股関節中心にスイッチすると、ストライド(1歩の距離)が伸ばせるから、ペースが上げられるようになる。より具体的に見てみよう。

歩く速度は高齢者ほど遅くなるが、意外にもピッチ(回転数)はほぼ変わらない。加齢で股関節がサビつくとストライドが狭まり、歩く速度がスローダウンするのだ。股関節を鍛錬すれば、ストライドが広がってペースUP。いつものウォーキングが、エクササイズ仕様に様変わりする。

ランでも、股関節が軸になると、お尻の大臀筋や大腿後ろ側のハムストリングスといった大きな筋肉が効率的に使えるようになる。大きな筋肉の方がパワフルで疲れにくいので、長くラクに走れるようになるのだ。

⑦ 姿勢が良くなる、所作がキレイになる。

この国には、華道や茶道のように古くから大切にされてきた礼法(礼儀作法)がある。こうした礼法では、股関節を正しく働かせることが求められる場面が少なくない。

正座をする際、礼法に従うと、踵の上に骨盤の坐骨を乗せるのがルールです。すると骨盤は必ず前傾して、腰椎の前方カーブが少しきつくなり、腰は軽く反ります。その姿勢で体幹をきちんと固めて、股関節から上体を前に倒すのが、美しいお辞儀とされているのです」(福井先生)

礼法と同じように、日本舞踊や狂言や能といった古典芸能でも、股関節を重んじている。

「日本舞踊でも狂言でも、骨盤を床と平行に動かし、背骨を床と垂直に立てるのが鉄則。それが可能なのは、股関節がしなやかに稼働し、骨盤と背骨を安定させているからです」

股関節の機能を高めてやれば、古来の礼法や芸能にも通じる姿勢の良さや、優雅で美しい所作に近づけるチャンスがありそう。

⑧ 均整の取れた下半身に仕上がる。

筋トレでは、狙った筋肉のみをピンポイントで鍛えることが重視されることが多い。そのために行われるのが、一つの関節だけを動かす単関節運動。大腿前側の大腿四頭筋を鍛えるレッグエクステンション、大腿後ろ側のハムストリングスを鍛えるレッグカールなどのマシントレだ。

単関節運動で特定の筋肉だけに負荷を集中させると、筋肥大を促しやすい。その反面、バラバラに鍛えていると筋肥大に偏りが生じ、体型がアンバランスになる恐れがある。

「本来、スポーツも日常生活も、複数の関節を協調させて動かす統合運動です。単関節運動ではなく、スクワットのように股関節を中心とする統合運動で鍛えると、下半身は自然に機能的で均整の取れたフォルムに整ってくるのです」(鈴木さん)

スクワットのように自体重を用いる筋トレは、基本的にすべて統合運動。ジムで単関節運動に励むくらいなら、自宅で股関節を中心とする統合運動で鍛えた方が、理想の下半身に最短距離で近づけるのである。

取材・文/井上健二 イラストレーション/うえむらのぶこ 取材協力/福井勉(文京学院大学教授、理学療法士、医学博士)、鈴木岳.(R-body project代表、全米公認アスレティックトレーナー、スポーツ医学博士)

初出『Tarzan』No.814・2021年7月8日発売

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