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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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「腹筋はキッチンで作られる」。ボディビルの世界王者でもあったアーノルド・シュワルツェネッガーはこう語っていたという伝説がある。キッチンで腹を割る!? 戸惑うのは至極当然。まずは「なぜ腹が割れないのか」「どうしたら腹が割れるのか」。そのメカニズムを知っていただこう。さすれば、キッチンで腹が割れる理由にご納得いただけるはず。
目次
フッキン運動が全然続かないから、オレの腹筋は一向に割れない…。そう思い込んでいるとしたら、完全な誤解。なぜなら、ケンシロウ風に言わせてもらうと、「お前の腹筋はもう割れている」からだ。
言うまでもなく、腹筋は一枚の筋肉ではない。腹筋には、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋という4枚がある(下イラスト参照)。
このうち割れて見えるのは、腹の真正面にある腹直筋。この他、脇腹には外腹斜筋と内腹斜筋があり、腹横筋は腹の奥を極薄の腹巻きのように覆う。腹直筋は、肋骨の下部と骨盤の底にあたる恥骨をつなぐ長い筋肉。なので、途中に「腱画」というスジが横方向に3本走り、中央を縦方向に「白線」というスジが1本貫いている。
筋肉を縦横に仕切るスジが入っているため、腹直筋は板チョコのように割れているというわけ。全身には大小600もの筋肉があるようだが、こうしたユニークな作りをしている筋肉は、腹直筋のみ。
腹直筋のこの構造は、胎児の頃にはほぼ完成しているとか。せっせとフッキンに励まなくても、生まれたときから一人残らず腹は割れているのだ。まずは、その事実を頭に深く刻もう。
腱画と白線で仕切られた腹直筋は、露わになると6つに割れて見えることから、6パックと呼ばれる。生まれたときから誰しも6パックの持ち主なのに、なぜ腹が割れて見えないのか。理由は、体脂肪にある。
筋肉には、骨格に近い深部にあるインナーマッスル(深層筋)と、体表にあるアウターマッスル(浅層筋)がある。6パックを作る腹直筋は、アウターマッスル。ちなみに外腹斜筋もアウターマッスルで、内腹斜筋と腹横筋はインナーマッスル。
「そのアウターマッスルをすっぽり覆っているのが、体脂肪。具体的には、皮下脂肪です。腹直筋が初めから割れているといっても、その上を分厚い皮下脂肪のベールが覆って“厚着”をしていたら、割れて見えるはずがないのです」(日本体育大学体育学部の岡田隆教授)
しかも腹は、全身でいちばん皮下脂肪が分厚い。邪魔者扱いされるが、皮下脂肪にはカラダを守るクッションとしての役割がある。肋骨という頼れる鎧で守られた胸部と違い、腹はあまりに無防備なので、その分だけ皮下脂肪は厚めの構造。
ゆえに、腹は割れて見えにくいのである。力士だって皮下脂肪を脱いで“薄着”になったら、全員6パックなのだ。
腹の皮下脂肪のベールを脱いで“薄着”に変身すれば、深く埋蔵された文化財が土や砂を払うと地下から姿を現すように、もともと割れている腹筋がアピールできるようになる。腹直筋だけではない。脇腹の皮下脂肪も十分落ちたら、同じアウターマッスルの外腹斜筋の輪郭がハッキリしてきて、斜めに割れたVシェイプが描ける。
では皮下脂肪をどう落とすか。従来、腹を割る=フッキン運動が常識だったが、フッキンに皮下脂肪を落とす作用はほとんどない。強度が強すぎるのだ。
意外だが軽い運動ほど、体脂肪を燃やす働きに優れる。対照的に、フッキンのような高強度の筋トレでは、体脂肪ではなく主に糖質がエネルギー源として使われる。体脂肪を燃やすには酸素が必要だが、高強度の筋トレでは息が切れて酸素の供給が追いつかないため、体脂肪ではなく糖質が使われやすいのだ。
フッキンでも体脂肪は多少燃やせるが、強度が高いため長く続かないという問題も。運動時間が短いとエネルギー消費量は少なく、燃やせる体脂肪は限られる。だからフッキン頼りでは、皮下脂肪は効率的に減らず、腹も割れない。ではどうするか。それは後述の内容でひもとこう。
フッキン運動がダメなら、腹を割るための最強・最大の敵である皮下脂肪を、どうやってカットしたらいいのか。
大前提として、皮下脂肪に限らず、余計な体脂肪を退治するには、エネルギー収支をマイナス(赤字)にしてやるほかない。食事からの摂取カロリーを、運動などによる消費カロリーよりも抑えて初めて、日々の赤字分のエネルギーを補うために、腹まわりなどの皮下脂肪が分解されて使われるのだ。皮下脂肪は、カラダを守るクッション材であると当時に、飢餓などに備えたエネルギーの備蓄庫でもある。
エネルギー収支をマイナスへ導くためにより重視したいのは、食事量を減らして摂取カロリーを抑えること。
「食事量を減らすか、運動量を増やすか。二者択一なら、食事量を減らすのが正解。運動は続けられても週3〜4回ですが、食事は毎日3回摂りますから、赤字が作りやすいのです」
加えて食事は“タイパ”もいい。運動で300キロカロリー減らすには、少なくとも30分ほど要するが、食事で300キロカロリー減らすのに時間はまったくかからない。タイパ面でも、まずは食事の工夫でカロリーを減らすのが正解。まさに「腹筋はキッチンで作られる」のだ。
腹筋を見事に割っている憧れの存在といえば、ボディビルダー。だが、彼らの腹もまたフッキンで作られているわけではないという。
「フッキンをしないビルダーは少なくありません。コンテストで、観衆から“カニの裏!”と掛け声がかかるほど、6パックを超えるバキバキぶりで注目を集める有名な選手であっても」
そう語る岡田先生も現役ビルダーだが、腹を割るためだけにフッキンに励むことは基本的にはないと証言する。それでもビルダーの腹が割れている理由は大きく3つ。
第1に、ビルダーが行う超高強度の筋トレでは、腹をターゲットにしていなくても、腹直筋や外腹斜筋に刺激が入り、トレーニング効果が得られるから。
第2に、ビルダーのように全身の大きな筋肉を鍛えて筋量を増やすと、基礎代謝が上がり、運動時以外でも体脂肪が燃えやすいため。筋肉は、基礎代謝の約20%を占めている。
第3に、大会前になるとビルダーは食事を徹底管理して過酷な減量を行い、体脂肪率を4〜6%まで落とす。だから腹筋が露わになりやすい。
このうち理由2&3は、“キッチン割り”の極意にも通じるのだ。
皮下脂肪を削って埋蔵されている6パックやVシェイプを掘り起こすなら、確かに食事からの摂取カロリーをカットするのが近道だ。
でも、より早く確実に6パック&Vシェイプを手に入れたいなら、有酸素運動もプラス。有酸素は息が切れない軽めの運動だから、運動中に酸素を介して体脂肪を燃やす作用が高い。
有酸素というと、ウォーキングやランのように外で行うものを思い浮かべる。でも、キッチンのような室内の狭い空間で、立ったまま&道具なしで行える種目も多い。着替えて外を歩いたり走ったりするのは面倒だが、キッチンで有酸素ができるなら気軽で習慣化しやすいはず。さらに腹をよく使う種目なら、腹筋のシェイプも整いやすい。
「部分痩せはできないとされていますが、トレーニングでよく使っている部位のシェイプがキレイに整いやすいというのは、ビルダーなら誰もが経験的に知っている事実です」
腹筋をよく使う有酸素で、皮下脂肪を減らしながら腹筋が鍛えられたら、これぞ一石二鳥。もう一歩進み、キッチンでもできる運動で全身の大きな筋肉も鍛えたら基礎代謝がアップ。体脂肪はより燃えやすくなる。
「人生はチョコレートボックスのようなもの。開けてみるまで何が入っているかわからない」
これは映画『フォレスト・ガンプ』の名セリフ。実は、あなたの腹も、チョコレートボックスのようなもの。
どれほどの腹直筋と外腹斜筋が、“埋蔵筋”として隠されているのか。“キッチン割り”で皮下脂肪を落とすだけで腹はどのくらいカッコよく割れて見えるか。それは皮下脂肪を落とした腹を見てみるまでわからない。
たとえば、学生時代に部活で毎日のようにフッキンをしていた経験があったり、過去にジム通いをした時期があったりするなら、昔取った杵柄でかなりの“埋蔵筋”が期待できそう。皮下脂肪カットだけでも、満足できる確率が高い。それ以外の人でも、ちゃんと痩せられれば、この作戦で露わになった腹筋で満足できる人が大半だろう。
「リバウンドを防ぐため、体脂肪は月2kg減のゆっくりペースで減らすのが正解。3か月かけて6kg痩せれば、割れた腹が手に入る可能性は高いでしょう」
まずはキッチン割りにトライして、チョコレートボックスを開けてみよう。万一満足できない場合は、本格的なフッキンや公園トレも組み合わせてバキバキを目指すがいい。
従来の腹割りは、フロアで仰向けになって行うフッキン運動に頼りすぎていた。それで結果が出ない、続かないという苦い思いをしたなら、フッキンに頼らない新発想の腹割りを。
腹を割るうえで最恐の敵は他ならぬ体脂肪。なかなかの難敵ゆえ、食事管理を徹底しながら運動も加えて勝率をアップさせる。両方頑張りすぎると続かないから、ゆるく攻めよう。
“キッチン”の意味を広く自由に捉えよう。食事はキッチン=自炊だけではなく、コンビニ食なども組み合わせて。運動もキッチンのような狭いスペースでできるものを取り入れる。
自炊で体脂肪を退治するなら、汁物やレンチン、乾物や缶詰などを活用。より手軽にコンビニでなら何を選ぶか、外食ならどんなメニューをチョイスすべきかのルールを知ろう。
割れた腹筋を掘り起こすにはエネルギー収支を赤字化して体脂肪を減らすべき。でも、焦って食事からカロリーを減らしすぎると腹筋の分解も進む。カロリーは少しずつ減らそう。
腹筋を覆い隠すのはお腹まわりの皮下脂肪。皮下脂肪の減少を確認し、やる気を高めるため、体重だけではなくウェストサイズも測ろう。1cmのサイズダウン≒体脂肪1kg減が目安。
間食もお酒も腹割りの天敵。でも、食べ物の恨みは恐ろしい。好物を断つとストレスが溜まり、不満暴発で何もかもドロップアウトすることも。お菓子やお酒も適度に楽しんで。
腹筋を作るのはタンパク質だから、その摂取は怠りなく。カロリー過多に直結するアブラは極力控えめにしつつ、糖質は過食を戒めつつも、極端にセーブしないことを心がけよう。
キッチンのような狭小スペースでも、エクササイズは行える。床に寝そべったり、道具を使ったりするのは面倒だが、立ったままでもお腹に効く種目なら気軽で継続しやすい。
有酸素運動は、酸素を介して無駄な体脂肪を燃焼させてくれる。キッチンでも行える、お腹を繰り返し使う有酸素なら、腹筋をキレイに整えて割る部分痩せ効果も期待できそう。
食事を減らす+有酸素に加えて、体脂肪を減らす第3の方法がある。それは全身の筋肉量を増やすこと。筋肉が増えると基礎代謝が上がり、安静時もじわじわと体脂肪が燃える。
カロリー摂取を抑えすぎると、運動する元気が湧いてこない。食事制限×運動という二兎を追うなら、無理は禁物。運動をしんどいと感じるなら、食事の制限を少し緩めてみよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/うえむらのぶこ 取材協力・監修/岡田隆(日本体育大学体育学部教授)
初出『Tarzan』No.855・2023年4月20日発売