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痩せている人、お酒を飲まない人も注意。脂肪肝はなぜ危険なのか?

脂肪肝はなぜ危険なのか?

重要臓器、肝臓の健康を守るために注意すべき最たることは脂肪肝。「自分は痩せているし」「お酒を飲む人の病気でしょ」と思っているならちょっと待った。その最前線を知る医師に脂肪肝の危険性を教えてもらった。

教えてくれた人:尾形哲さん

おがた・さとし/佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。神戸大学医学部卒業。パリ、ソウルの病院で肝移植手術を多数経験後、帰国。日本でも生体肝移植を多く手掛ける。医学博士。

教えてくれた人:栗原毅さん

くりはら・たけし/栗原クリ ニック東京・日本橋院長。北里大学医学部卒業。東京女子医科大学で肝臓病学を専攻し、教授に就任。生活習慣病の予防・治療を目的としたクリニックを開設する。医学博士。

いちばん避けるべき脂肪肝とは?

肝臓ファーストで生きるために、もっとも重要なのは、脂肪肝を避けること。脂肪肝とは、肝臓に必要以上に脂肪(中性脂肪)が溜まりすぎた状態を指す。

「肝臓を作る2500億個もの肝細胞の内部に、脂肪(脂肪滴)が溜まるのです」(尾形先生)

肝臓は脂質代謝の中枢であり、脂肪を合成して貯めている。だが、組織の5%以上に脂肪が溜まると、肝臓の機能を邪魔し始める。それが脂肪肝の始まり。

健康診断や人間ドックの腹部超音波やCTで脂肪肝とわかるのは、肝臓に30%以上脂肪が溜まってからだ。そこまで溜まっても、まだこれといった自覚症状はない。“沈黙の臓器”の悪しき真骨頂である。

痛くも痒くもないからといって、こうした検査で異常を指摘されるまで、脂肪肝を放置したら大変。その間、肝臓は人知れずノーガードでパンチを受け続ける。

脂肪肝の早期発見のためには、肝臓でタンパク質の代謝を担っている酵素であるAST(GOT)ALT(GPT)の値をチェックすることが大切。健康診断の肝機能テストには、必ず含まれている項目である。

脂肪肝の原因は糖質の摂りすぎ!

鶏などの家禽は肉ばかりでなく、肝臓も食べる。焼き鳥のレバー、フレンチのフォアグラなどだ。地鶏のレバーは赤みを帯びるが、フォアグラは白い。なぜならフォアグラは、ガチョウの脂肪肝だから。フランス語で「フォア」は肝臓、「グラ」は脂肪のことだ。

フォアグラがどうやって作られているかを知ると、ヒトの脂肪肝の原因と対策もわかってくる。フォアグラ用に育てたガチョウに強制的に食べさせるのは、トウモロコシ。そう、糖質なのである。

「脂肪肝は脂質の摂りすぎと思われがち。でも、その主因はフォアグラと同じように、糖質の過食なのです」(尾形先生)

摂った糖質が吸収されると血糖値が上がり、膵臓がインスリンを分泌する。インスリンは血糖を組織に取り込み、血糖値を下げる。

血糖の一部は、グリコーゲンとして蓄積されるが、体内に貯められるグリコーゲンは筋肉と肝臓を合わせても、最大500gほど。糖質を摂りすぎると、貯蔵量のリミットにすぐに到達する。行き場を失った血糖は、インスリンの働きにより、肝臓で中性脂肪に合成される。こうして生じるのが、脂肪肝というワケ。自分の肝臓をフォアグラにしない努力を!

脂肪肝=お酒ではない。お酒を飲まない人の脂肪肝が急増中

かつて脂肪肝=お酒をたくさん飲む人の病気だと考えられてきた。しかし最近では、下戸でお酒をまったく飲まないか、飲んでも1合程度の人でも、糖質の摂りすぎなどにより、脂肪肝になる人が急増している。

これが「非アルコール性脂肪性肝疾患」。通称NAFLD(ナッフルディー)だ。いま増えている脂肪肝=NAFLDと言っても過言ではない。

NAFLDの1〜2割は、「非アルコール性脂肪肝炎」という肝炎を起こす。こちらは通称NASH(ナッシュ)である。ナッフルディーもナッシュもキャッチーなネーミングだが、だからといって軽く見てはダメ。

NASHでは、炎症で傷付いた肝細胞を修復する際、カサブタのような組織が溜まる「線維化」が生じ、肝硬変への道を歩む。肝硬変は、怖い肝がんの要因だ。アメリカでは、末期の肝硬変で肝臓移植を受ける理由の第1位は、NASHからの肝硬変だという。

「肝硬変はNASHを経由するといわれていた時代もありましたが、最新の研究では、炎症を起こしていない普通の脂肪肝でも時間をかけて肝硬変に変わることがわかっています」(尾形先生)

脂肪肝の分類

脂肪肝の分類

医学的には細かい診断基準があるけれど、脂肪肝はざっくり非アルコール性とアルコール性に分けられる。さらに非アルコール性は、単なる脂肪肝と炎症を起こしたNASHに分けられる。

日本人は、痩せていても脂肪肝になる

現在では方々で目の敵にされているとはいえ、脂肪は飢餓に備えたエネルギー源であり、本来必要不可欠なもの。全身を覆う皮下脂肪と、消化管の間に溜まる内臓脂肪に貯められる。

だが、皮下脂肪と内臓脂肪以外の場所にも、脂肪は溜まる。これが「異所性脂肪」。脂肪肝も異所性脂肪の一種である。

脂肪は通常、皮下脂肪→内臓脂肪→異所性脂肪の順に溜まるとされる。

皮下脂肪から溢れた脂肪が内臓脂肪に溜まると、お腹が出る。腹囲が男性で90cm、女性で85cmを超えると、内臓脂肪で太りすぎた「内臓脂肪型肥満」の恐れがあり、それに高血圧、高血糖、脂質異常症が2つ以上当てはまると、メタボと診断される。

そう考えると、肥満でもメタボでもなければ、脂肪肝は心配無用に思えるが、実はそうではない。異所性脂肪は内臓脂肪と並行して溜まり、肥満でもメタボでもないうちから、脂肪肝となる可能性が指摘されるようになった。

「日本人はBMI25未満、内臓脂肪が多めで筋肉は少ないといった特徴を持つ“痩せた脂肪肝”が20〜30%を占めます」(尾形先生)

痩せているからと油断せず、脂肪肝のチェックは怠らないこと。

取材・文/井上健二 イラストレーション/市村ゆり 取材協力・監修/尾形哲(肝臓外科医、長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長)、栗原毅(栗原クリニック東京・日本橋院長)

初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売

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