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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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おこもりで溜まった脂肪は、歩いて燃やす。有酸素能力が上がれば痩せ体質へ急加速。「有酸素トレ」についての理論、方法論、ギアの選び方に至るまでの、すべて。
コロナによる運動不足解消には、有酸素運動が有効。世界保健機関(WHO)も、週150分以上の緩めの有酸素運動、もしくは週75分以上の激しい有酸素運動を推奨している。なぜなら、下のコラムで解説しているように、有酸素には多くの効用があるからだ。
有酸素運動とは、息が切れない程度の運動をリズミカルに続けるもの。なかでも手軽なのは、ウォーキングとランニング。特別な道具もテクニックも不要だし、自宅の近所で今日からでも始められるからだ。
そしてWHOが示した「緩め」か「激しい」かは、歩いたり、走ったりするペースの調整で自在に対応できる。息が弾むくらいのスローペースが「緩め」。
毎日なら20分強、週4回なら1回40分弱で週150分以上がクリアできる。そして息が切れる寸前のファストペースが「激しい」。週3回なら1回25分以上、週2回なら1回40分で週75分以上がクリアできる。
運動の2大エネルギー源は脂質と糖質。強度が低いうちは脂質が主に使われ、強度が上がると糖質の使用率が上がる。息が切れないレベルの有酸素運動では、運動エネルギーの多くを脂質が供給する。さらに運動後も1〜2日は代謝が上がり、脂質が燃えやすい。
加えて有酸素を習慣にすると、細胞内で脂質を燃やしてエネルギーを作る工場であるミトコンドリアが増えたり、ミトコンドリアに脂質や酸素を運ぶ毛細血管が増えたりするので、痩せ体質に変身できる。
高血圧は4000万人が悩む日本人の国民病。ウォーキングやランには血圧を下げる作用がある。鍵を握るのは、NO(一酸化窒素)という物質。有酸素で血流が活発になると、流れる血液で血管には強く滑らせるような力が働く。それが刺激となり、血管の内側を作る内皮細胞からNOが分泌される。
NOによって血管が緩んで広がるため、血圧は下がりやすいのだ。国の調査(グラフ参照)でも1日の歩数が増えるほど、最高血圧(収縮時血圧)は男女ともに下がる。
高血圧と並んで心配なのが、糖尿病。血糖値が高い状態が続き、下がらなくなる病気だ。血糖値を下げるのは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモン。糖尿病はインスリンの効き目が落ちて生じる。有酸素運動は、インスリンを介さずに血糖値を下げるため、糖尿病の改善に役立つ。
血糖を細胞に取り込むには、細胞表面に血糖の運び屋となる輸送体(GLUT)が移動しなくてはならない。インスリンはその移動を助けるが、有酸素をするとインスリンなしでも輸送体が細胞表面に移り、エネルギー源として血糖を取り込み、血糖値を下げるのだ。
駅やビルの階段の途中で息が上がるようでは、心肺機能の低下が疑われる。心肺機能とはスタミナの正体。肺から取り入れた酸素を血液に溶かし、心臓と血管で筋肉などに行き渡らせる働きだ。
心肺機能には、ローカルとグローバルという2つの側面がある。ローカルな心肺機能は、すでに触れた細胞内のミトコンドリアとそこへリンクする毛細血管。グローバルな心肺機能とは、肺と心臓自体の働きだ。
有酸素はローカルな側面ばかりではなく、グローバルな側面も活性化。酸素の取り込み能力が上がり、心臓が一度に押し出せる血液量が増えてくる。
有酸素運動を始めるなら、ウォーキングから。ランは着地時に体重の2〜3倍の着地衝撃が加わるから、とくに太った人が無理して挑むと膝を痛める恐れもある。走るのは、歩いて少し痩せて身軽になってからでも遅くない。
ただし、散歩のように漫然とダラダラ歩くだけではもったいない。有酸素で健康になりたいなら、息が弾むような速歩をミックスするべきである。
有酸素に限らず、トレーニングで大切なのは強度とボリューム。一般的に1日1万歩を歩くのがよいとされるが、それではボリューム(歩数)ばかりで強度の目安がない。何歩歩いたかは大事だが、どのくらいのペースで歩いたかという強度も重要なのである。
とはいえ、ずっと速歩を続けるのは辛い。そこで信州大学の能勢博特任教授が薦めるのが、3分の速歩と3分のゆっくり歩きを1日5セット行う「インターバル速歩」。これなら気軽で、各種健康効果も証明済みだ。
筋トレと同じように有酸素運動でもフォームが肝心。散歩ならともかく、そもそも姿勢が悪いと速歩は行えない。背すじを伸ばして胸を張って歩くために、まずは視線を25mくらい先に置く。
すると、空から頭を糸で吊るされるように、正しい姿勢が取れるようになる。そして骨盤を起こして前傾したら、みぞおちから振り出す気分で大股で脚を前に出し、膝を伸ばして踵から着地する。
大股で歩くと足腰の大きな筋肉が動員できるから、速く長く歩いても疲れにくい。肘を後ろに引くイメージを持つと、反作用で反対側の脚がスッと大股で前に出やすい。
速度に対する感じ方には個人差が大きい。体力がある人に時速5kmは楽勝だが、体力がない人には辛いと感じられるだろう。
重視したいのは、時速のような客観的なスピードではなく、そのペースが自覚的にどう感じられるか。「楽である」と「きつい」の中間の「ややきつい」と感じられるペースが続けやすく、心身にプラスとなる最適の速さだ。
「楽である」だと強度不足で思ったような成果が得られないし、「きつい」と長く続けられないから効果的ではないのだ。「ややきつい」ペースの速歩は、隣を歩く人と笑顔で会話が交わせる速さの上限である。
インターバル速歩の自由度は高い。基本は速歩3分+ゆっくり歩き3分を1日5セット×週4回。まとめてやらなくても、朝2セット+昼1セット+夜2セットのように1日で5セットになればいい。
大事なのは速歩が1日15分以上になること。速歩2分+ゆっくり歩き2分×8セット、速歩5分+ゆっくり歩き5分×3セットでもOKだ。週単位では、速歩が15分×4=合計60分以上になればいい。
週4回に分割しなくても、平日が忙しいなら週末2日で60分以上の速歩がこなせるようにプランニングしよう。
インターバル速歩で「ややきつい」運動に慣れたら、思い切って走ろう。走る方が手っ取り早く運動不足を解消して健康になれるからだ。運動時間が同じなら、速歩よりランの方が消費カロリーは稼げるし、運動後も代謝が上がるので余計な体脂肪が燃えやすい。
やり方は簡単。インターバル速歩のペースを徐々に上げるだけだ。時速7km前後を超えると、滑走を終えた飛行機が浮き上がるように、両足が地面から離れてランへ移行する。時速7㎞以上だと速歩より、ふくらはぎとアキレス腱のバネを使うランの方が楽に移動できるので、自然と走り始めるのだ。
あとは「ややきつい」を超えない範囲で20分以上続ける。辛くなったら歩いてOK。走る⇒歩く⇒走る……と繰り返そう。いつでも歩けると思うと、ランが苦手な人でも気楽。そのうち歩かなくても済むペースが体感できるようになり、初めから終わりまで走り通せるはずだ。まずは30分やってみよう。
速歩まではウォーキングシューズでいいが、本格的に走るならランニングシューズを買おう。良いシューズを選ぶと、足が軽くなってペースが無理なく上げやすい。
シューズの良し悪しを決めるのは、何よりもフィッティング。ランニング専門店を訪れて、初心者向けのシューズを片っ端から試し履き。ビギナーがとくに重視したいのは、衝撃を吸収するクッション性と足を守る安定性(スタビリティ)。両者のバランスが取れたモデルをチョイスしよう。
近所の公園や河川敷などで信号が少なく、安全で環境が良いホームコースを作る。ネット上の距離測定サイトやGPS付きのスマートウォッチなどがあれば、距離は正確に測定できる。
お薦めは1周2km前後の周回コース。時速8kmで走る初心者でも2kmなら15分あれば一周できるから、隙間時間に「走ろうか」と思えてランが続きやすい。
時間があるときはそのコースを何周かすればいい。飽きないようにホームコースは2〜3本あるのが理想。
どんなフォームがいいのか。諸説ありすぎるくらいで迷うが、基本となるのは前述した速歩のフォーム。速歩からスピードアップし、ランに移行すれば、とくにフォームは気にしなくていい。
唯一違うのが着地。速歩では踵から着地するが、スピードアップすると踵から着地するたびにブレーキがかかり、膝などカラダへの負担も大きくなる。
着地衝撃を受け止め、ロスなく前方への推進力に変えるには、踵部と前足部の中間である中足部から足裏全体で着地するミッドフット着地がベスト。
走る目的は十人十色で御利益も多種多彩だが、多くの人がランに期待するのは減量効果だろう。ランの消費カロリーは「走行距離×体重」というシンプルな公式で概算できる。
体重70kgの人が2km走ったら2×70=140kcalだ。減量目的で走っても体重が落ちるまでには時間がかかる。それまでは消費カロリーを記録して頑張りを“見える化”。それをモチベーションにしよう。
ただし「早く走り切りたい」と焦ってオーバーペースに陥らぬように。
取材・文/井上健二 イラストレーション/3rdeye 取材協力/能勢 博(信州大学医学部特任教授)、吉岡利貢(環太平洋大学体育学部体育学科准教授/陸上競技部コーチ)
初出『Tarzan』No.790・2020年6月25日発売