- 整える
タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
PR
痩せようと決意した時、頑張りすぎて達成感を求めがち。しかしご安心あれ。ゆっくり自分のペースで走れば確実に痩せられる。
目次
走れば痩せるのはよくよくわかっているのに、それでも走らない言い訳を探している人は少なくない。そういうタイプが口にしがちなのが、「ゆっくりでは痩せない」⇒「速く走るのはしんどい」⇒「だから走らない」、という負の思考だ。
ランで消費するカロリーはスピードに比例するが、スピードを上げすぎるとすぐに疲れて足が止まる。何事も初めほどモチベーションが高いものだけれど、初心者が張り切ってペースアップしすぎると、即座にギブして体脂肪はロクに燃やせない。
走ると体脂肪の燃焼が促されるが、それはじっくり時間をかけて行った場合。疲れを感じないレベルまでペースを落とし、ゆっくり走ればそれだけ長く走れるから、痩せやすい。それが楽ラン、痩せランだ。
楽ラン=痩せランでもある。運動のエネルギー源は、糖質と脂質。両者はつねに同時に使われる。利用率を決めるのは、運動強度。ランならペースだ。強度が低いほど脂質(体脂肪)が燃えやすく、強度が上がるほど糖質がエネルギーになりやすい。
スローペースの楽ランなら長時間運動できるうえに低強度だから体脂肪も燃えやすく、痩せやすいのだ。
何度否定しても、不死身のゾンビのように蘇ってダイエッターを悩ませるのが、この「20分」説。もちろんフェイクニュースだ。
体脂肪の燃焼効率を決めるのは、走った時間ではなくペース。前述のように運動強度が低くなるほど、体脂肪が燃えて体型は絞れやすい。たとえ5分でも、ゆっくり走れば、体脂肪は消費されやすい。
ただし、忙しい合間を縫って走り始めたのに、たった5分で終えるのはもったいない。かといって60分も走るなんてビギナーにはハードルが高すぎる。その意味では20分というのは手が届きそうな良い目標。
走って12〜15分ほどで呼吸や心拍が安定して楽になる。これは、セカンドウィンドと呼ばれる現象。だから20分ランは気持ちよく終えられる。一度20分走れたら、セカンドウィンドの心地よさと成功体験が味わえるから、次回も20分走りたくなる。
それでも5分以上走りたくないというなら、細切れでOK。20分×1回と5分×4回では、燃焼するカロリーも体脂肪もまったく同じだ。しばらく細切れで走って体重と体脂肪が落ちたら、足が軽くなって5分以上走れるようになるだろう。
「腹が減っては戦ができぬ」とばかりに、運動前の腹ごしらえを推奨する人もいる。でも、痩せるために走るなら「武士は食わねど高楊枝」で事前のエネルギー補給は控えたい。空腹の方が体脂肪は燃えやすいのだ。
糖質は細胞のエネルギー源として重要だから、血液中の糖質である血糖値を一定範囲内に保つ仕組みがある。空腹だと血糖値が下がりやすく、正常レベルに保つためにアドレナリンやグルカゴンといったホルモンが分泌される。
これらのホルモンは肝臓に貯めたグリコーゲンを分解して血糖を増やすと同時に、体脂肪を解体してそこからも糖質を作って血糖値を上げようとする。空腹で走ると分解が進んだ体脂肪がエネルギー源として使われやすいから、空腹で走った方が痩せやすいのだ。
食事から糖質を摂ると血糖値が上がり、上がりすぎた血糖値を正常レベルまで下げるために膵臓からインスリンというホルモンが分泌される。インスリンは体脂肪の分解を抑えるから、運動前に糖質を多く含む食事をすると体脂肪は燃えにくい。
空腹時に走るなら、発汗による脱水を避けるためにコップ1〜2杯の水分だけは事前に補給しておこう。
大汗をかくと運動した気になり、減量できると期待したくなる。挙げ句にいわゆるサウナスーツで走り、滝のような汗をかいて自己満足する人もいる。本当にそれでいいのか。
サウナスーツ派の根本的な誤解は、発汗量と体脂肪燃焼量が比例しているというもの。しかし現実には、発汗量≠体脂肪燃焼量である。
運動すると体温が上がり、気化熱を奪って体温を下げるために発汗が起こる。発汗は運動の結果であり、体脂肪が燃えたかどうかは別問題だ。汗をかけばかくほど痩せられるなら、サウナスーツを脱いでサウナで汗をたんまり流した方がいい。
成人の体重の約60%は水分なので、汗をかいたらその分だけ体重は減る。でも、体重は落ちても、溜まりすぎた体脂肪は減らない。汗をかいて体重が落ちるのは、一時的な脱水に陥っただけで、それを解消するために水分補給すると体重は元に戻る。
サウナスーツだと、発汗してもかいた汗が蒸発しにくく熱がこもり、辛くて長く走れない。脱水と熱中症のリスクも伴う。ランナーは吸汗速乾性に優れた機能性ウェアをまとい、かいた汗を上手に気化させながら、いかに快適に長く走るかを考えて。
ランに限らず、運動を続けるコツは言い訳を作らないこと。
暑い、寒い、風が強い、雨が降った、雪がちらつく…。こうした理由を免罪符のように高く掲げ、運動に120%適したベストタイミングでしか走らないと決めたら、走れる日はかなり限られてしまう。制約が多すぎると、ランも定番化する前に挫折してしまうのがオチ。
猛暑日の真っ昼間に走るのは自殺行為だが、ポツリポツリの雨なら思い切って走ってみると案外楽しいもの。撥水加工を施したウェアを着ると小雨は不快ではないし、雨天で湿度が高いと呼吸がラクに感じて普段より走りが軽快になるかも。
かといって大雨や大雪の日に無理に走るのはNG。滑って転んで怪我を負う危険もあるし、辛すぎて嫌な記憶として脳裏に刻まれると、ラン自体を嫌いになりかねない。走り終わった瞬間、「また走りたい!」と素直に思えないと続かないのだ。
悪天候で自重して走らないのは、サボったわけではない。空から見守るランニングの神様が「休め」と言っていると前向きに捉えて、心身をリラックスさせて完全休養。次回のトレーニングへの英気を養いたい。
運動とストレッチは切っても切れない関係にある。ランでも、走る前後にストレッチするのが理想だ。
けれど、運動前にやるべきことが多すぎると面倒に感じて走りたくなくなる。「走ろう!」という気持ちを萎えさせないためにも、運動前後のストレッチは省略して構わない。
ストレッチには、反動を使わず筋肉を静かに伸ばす静的ストレッチと、反動も使いながらリズミカルにカラダを動かす動的ストレッチがある。
運動前に推奨されるのは動的ストレッチ。関節を滑らかに動かすために必要な滑液の分泌が促されて、ウォーミングアップ作用で筋肉の温度も上がって運動しやすくなる。
ランではペースを少しずつ上げて走るようにすると、動的ストレッチを行わなくても関節の滑液の分泌とウォーミングアップが両立できる。そう考えるとランに関して無理に動的ストレッチをしなくてもいい。
静的ストレッチにいたっては、ラン直前にするのはご法度。その狙いは筋肉の柔軟性を高めて緩めること。運動前に筋肉が緩みすぎるとフォームが保ちにくい。距離が延びてスピードが上がったら、ラン後に静的ストレッチで筋肉の緊張を緩めよう。
走っている間は体脂肪が燃えてくれるとしても、運動してエネルギーを使うとお腹が減り、食欲が増して元の木阿弥になるのではないか…。そういう不安は、運動が食わず嫌いに終わっている人の杞憂にすぎない。適度な運動は、食欲のアクセルを踏むのではなく、逆にブレーキをかけてダイエット効果を発揮する。
その鍵を握るのは、食欲を左右する消化管ホルモン。その名の通り、胃や小腸といった消化管が分泌するホルモンであり、食欲を司る脳の視床下部に働きかけている。
消化管ホルモンのうち、胃から分泌されるグレリンには食欲を増進する働きがあり、小腸から分泌されるペプチドYY、GLP-1といったホルモンは食欲を抑制する。
運動後の消化管ホルモンの分泌を調べると、食欲を促進するグレリンが減り、食欲を抑えるペプチドYYやGLP-1が増えることがわかっている。ランニングをすると無駄な食欲を抑えるシステムが働くのだ。
加えてカラダを動かすと、体内環境をコントロールする自律神経のうちでも交感神経が優位になりやすい。交感神経は消化管の活動を抑えるので、それも食欲減退に結びつく。
食事量をセーブするダイエットが成功したとしても、ダイエットを終えた次の瞬間から、体重と体脂肪率が右肩上がりを描いて戻りやすい。それどころか、減量を決意する前の体重を上回るリバウンドが起こるケースも少なくない。
走って減量すると、食事制限のようなリバウンドは起こりにくい。でも、走るのを完全にやめたら、やはり体重は右肩上がりに緩やかに増え、やがて減量前の体重に戻る。引き締まった体型と体重を維持したいなら、走り続けるしかない。
そう聞くと「この先一生走り続けるのかぁ」とブルーになりそうだが、それはあなたがまだランナーになり切っていない証拠。歯磨きだって面倒だが、誰も「この先一生歯を磨くのか」とブルーにならない。それは習慣化しているから。歯磨き感覚で走れるようになればいいのだ。
ランに限らず、新たな行動が習慣化するにはおよそ3か月かかる。そこまで頑張れたら、あとは半自動的に一生続けられる。3か月経つと体脂肪が削ぎ落とされて体型が絞れるから、このカラダを手放したくないと思うはず。その気持ちがランからのドロップアウトを防いでくれる。
取材・文/井上健二 イラストレーション/山崎真理子 取材協力/中野ジェームズ修一(スポーツモチベーション)
(初出『Tarzan』No.775・2019年10月24日発売)