快適に、長く、ちゃんとランニングを続ける12のコツ
走ることは誰にでも出来るから、ランは簡単そうに見える。しかし快適に、長期的に走るには、ちょっとした約束事を守る必要がある。必要な道具や走る前のウォーミングアップのこと。自分では気づきにくい、雨の日のプランやセルフモニタリングについて。気持ちよくランニングを始める12のコツを走り出す前にしっかりとチェックしておこう!
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/岡田 丈 取材協力/牧野 仁(マラソン完走請負人)、杉本龍勇(法政大学経済学部教授/フィジカルトレーナー)
(初出『Tarzan』No.751・2018年10月11日発売)
目次
1. まずは目標を定める
走りたいから走るのは、根っからのランナーだけ。それ以外の大半の人にとって、ランニングは目的ではなく手段にすぎないから、「何のために走るのか」という目的をきちんと設定しておくべき。
筋トレが負荷設定で得られる効果が変わるように、ランも狙いに応じてペースや練習メニューが変わる。目標が曖昧なうちに走ろうとしても、最適のプログラムに沿って走れないため期待した成果が得られず、肩透かしを喰らったように意欲が低下する恐れもある。
ゴールは漠然としているより、はっきりしている方がプログラムは立てやすい。単に「痩せたい」ではなく「3か月後に10km走れるようになって6kg痩せる」といった具体的なゴールを決めて臨もう。
2. シューズとウェアを選ぶ
ランは特殊なギアが不要で手軽な運動だが、ランニングシューズとウェアは最低限買い揃えたい。
ランニング専門店に行くのが正解に思えるが、右も左もわからない初心者が専門店に足を運ぶと、本格的なモノを買ってしまいがち。ショップスタッフに邪心があるわけではなく、機能性に優れた最新版でコーディネートすると、バリバリのシリアスランナー然としたいでたちに仕上がりやすいのだ。
そんな格好で朝っぱらからマンションのエレベーターで隣人に会うのは小っ恥ずかしいし、いざ走り出してもウォーキングに毛の生えた程度ではカッコがつかない。シューズもウェアも、普段身に着けても違和感のないアスレジャーテイストでまとめた方が無難。
3. ウォーキングから始める
ダイエットでも運動でも、スタート時がもっともモチベーションが高いもの。ランでも張り切りすぎたあまり、いきなり息が上がるようなペースで飛ばして失敗するケースが後を絶たない。実力以上のスピードで飛ばして1kmも進めないうちに息が切れて足が止まり、その瞬間に汗がドッと噴き出て「やはりランは辛い。オレには無理!」と独り相撲を取りがち。
そんな惨劇を避けるために、初心者は必ずウォーキングから入る。シドニー五輪で日本女子マラソンに初の金メダルをもたらした高橋尚子さんだって、現役時代はシーズン開始に毎回最長8時間のウォーキングから入ったとか。大股で腕を振って歩き、股関節の可動域を広げてランの下準備を整えたい。
4. 1kmの周回コースを作る
朝食は同じメニューの方が習慣化しやすい。同様にランも馴染みのホームコースを作った方がいい。
自宅を起点とするひと筆書きの周回コースなら、嫌になったらいつでも帰ってこられるから気楽。初めのうちは走力がないから、遠くのコンビニかスーパーまで遠回りする一周1kmのコースで十分。
通常の散歩は時速4.8km(分速80m)。1km歩くのに13分ほどかかる。最初はウォーキングでOKとしても、いずれはランに移行できるように、1kmを10分で回れるように少し足を速めよう。時速6.0km(分速100m)が目安。スピードがついて走る自信ができたら、自宅起点の一周2kmコースを作る。それ以降は2kmコースを回る回数を増やし走力を磨いて。
5. 3週間続いたら一生モノだ
一念発起して走り出しても三日坊主で終わるケースは少なくない。三日坊主=3日間は続いたと思いがちだが、それは誤解。ランは1〜2日おきに行うのが普通だから、実際は1回やって2回目ができなかったから三日坊主。つまり1回しかできなかったのである。
1回でイヤになるのは、ウォーキングから入らず、いっぱしのランナー気取りで走ろうとするから。その点は戒めたい。この他、「半年間走って10kg痩せるぞ!」といった気の長い目標を立てると、先の長さにうんざりして続きにくい。まずはハードルを思い切り下げ、最低3週間(9〜12回)の継続をターゲットに定める。3週間続けられたら習慣化の入り口はクリア。その先もずっと続くに違いない。
6. 活動量計やスマートウォッチを活用する
ランニングライフを盛り上げてくれるガジェットが活動量計。消費カロリーや移動距離、心拍数などが一目瞭然でやる気が高まる。オフ日も着けると「今日は消費カロリーが少なすぎるから、帰りにひと駅分歩こうかな」とアクティブな気分になれる。活動量が増えると走力アップにも結びつく。
GPS付きのスマートウォッチなら、もっと快適。走るペースや距離がより正確にわかるなど、できることが一気に増える。スマホ連携で音楽プレーヤーや電子マネーの機能を持つタイプだと便利度マックス。手ぶらでも好きな音楽を聴きながら走れるし、サイフなしでも途中のコンビニに寄って電子マネーでスポドリが買えたりする。ガジェットを相棒にGO!
7. いつ走るかを決める
ランが続きにくいのは、優先順位(プライオリティ)が低いから。仕事や酒宴よりも優先順位を上げて手帳に先に走る日を書き込み、ダブルブッキングを避けてランを最優先する生活に切り替えたい。
タイミングも決めよう。朝型で早起きが得意なら朝走る。運動は交感神経を刺激し、代謝を上げる。朝ランで代謝アップを図ると、その後の通勤や仕事中も代謝が高くキープされる。夜型で早起きが苦手なら、帰宅して夜ランを。走って汗をかくと一日の疲れがリセットされるし、適度に疲れて寝入りも良くなる。
ただし就寝3時間前には走り終えないと交感神経のスイッチが切れず、興奮して眠れないので注意。安全面に配慮し、明るく人通りの多いルートを走ろう。
8. ウォーミングアップを必ず行う
コース料理に前菜が付きもののように、あらゆる運動にはウォーミングアップが欠かせない。
運動経験者は走る前に入念なアップを行うのが常だが、運動経験が乏しい人はその重要性を知らないので、すっ飛ばしてアップなしに走り出そうとする。それは空きっ腹にこってりしたメインディッシュを押し込もうとするような愚かな行為。ランに関わる筋肉も心臓も肺も態勢が整っていないから、息が上がりやすく、辛く感じてやめたくなるのがオチである。
ウォーキングを卒業してランに完全移行しても、初めの5分はウォーキングから徐々にスピードアップして走る環境を整える。そのペースは速歩きの女子に抜かれるくらいスローで十分と知るべし。
9. セルフモニタリングを行う
変化が自覚できると運動を続ける意欲は高まる。そのために成果を記録するモニタリングが薦められるが、1回や2回走ったくらいで驚くような結果が出るわけではない。早期の変化を渇望しすぎると「頑張って走っても何にも変わらない」と落胆する可能性がある。
習慣化の一里塚である3週間までは続いている事実だけをモニタリング。夏休みのラジオ体操で、カードにスタンプを押してもらえると眠くても翌日も行く気になるもの。同じ原理でカレンダーや手帳で走った(or歩いた)日にチェックを入れるのだ。すると「今度こそ続いている」とわかって前向きになる。それ以降は体重や体脂肪率を測り、前向きな変化を記録してモチベーションを維持したい。
10. 雨の日にやることを決める
初めのうちは走らなくて済む言い訳を四六時中探しているもの。暑い、寒い、風が強い、雨が降る、雪が舞う……。天候のせいにしていたらランのチャンスはそれだけ減るが、悪条件でランを決行して不快な思いをしたり、風邪をひいたりしたら苦手意識が芽生える。
そうならぬようにあらかじめ悪条件のときに取り組むメニューを決めておく。自宅ならランにも役立つスクワットやロウイングなどの自体重トレが第一選択肢。低コストの24時間ジムに入り、テレビでも観ながらトレッドミルで走るのもいい。
こうした別メニューに目もくれず、「雨の日でも雪の日でも走りたい」と思えたら、その心の声に従おう。もはや初心者ではなく立派なランナーなのだから。
11. 食事と水分補給も考える
走り続けるには筋肉に栄養と酸素を送り、体温を素早い発汗でクールダウンさせるべき。そのために欠かせないのが血液循環の改善であり、水分とタンパク質だ。
水分不足だと血流が滞り、心拍数が上がりやすく、少し走ると辛くなる。タンパク質が足りないと、血中で水分維持を担うタンパク質の一種、アルブミンが減少。やはり血流がダウンする。水分は午前、午後、夕方以降に各々ペットボトル(500ml)1本を目安に飲む。尿が黄色かったら水分不足で脱水気味の証拠。
睡眠中にコップ1杯ほどの水を失っているので、朝ランはコップ2杯程度の水を飲んでから。タンパク質は肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、大豆食品の5大供給源を1日で網羅すべし。
12. ラン教室や街ランに参加してみる
ともに運動するパートナーがいる人はその継続性は高まるとか。気の合う仲間や家族を誘って一緒に走ってみよう。
社交的なタイプはランニングクラブに入会する手もあるけれど、ランクラは本気のランナーが多いし、独特の一体感があって新参者は馴染みにくいのが難点。ランクラが厳しいなら、ランニング教室や街ランのようなランニングイベントにエントリーしてはどうか。
ビギナーが参加しやすいものも多いし、単発だから後腐れがなくて気軽。イベント掲示板の「モシコム」で検索すると毎日のように開催されている。フォームや練習法をレクチャーする教室に何度か入れば、疑問が解消できて我流ランの弱点もカバーできるだろう。