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体脂肪が燃えるとはどういうことか
走り始める前に改めて知りたいのは、ランで体脂肪(中性脂肪)がメラメラと燃えるメカニズム。
手始めはアドレナリンというホルモンが分泌されること。アドレナリンは体脂肪を貯めている脂肪細胞に働きかけ、体脂肪の分解を促進する。
アドレナリンはHSL(ホルモン感受性リパーゼ)という酵素を活性化して、中性脂肪1分子を3分子の脂肪酸と1分子のグリセロールに分解するのだ。このうち筋肉でエネルギーを生み出すのは、脂肪酸。脂肪酸は脂肪細胞を出て血中に入って、筋肉の細胞へ取り込まれる。
筋肉の細胞(筋線維)には、ミトコンドリアという繭のような形をした器官が無数に含まれる。ミトコンドリアは細胞のエネルギー源を作り続ける発電所のような存在。筋線維に入った脂肪酸はミトコンドリアに取り込まれるとTCA回路と呼ばれるサイクルに入り、運動の直接のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)を大量に合成する。
その際、酸素が必ず介在する。「酸素が足りないと体脂肪は燃えない」とされるのはこういうわけなのだ。
ちなみに片割れのグリセロールは血液で肝臓へ運ばれて糖新生という仕組みで糖質になり、全身のエネルギー源として使われる。
ランによる体脂肪の分解と燃焼
脂肪細胞内の中性脂肪は常時分解されるが、ランのような運動刺激で増えるアドレナリンで分解酵素(HSL)の活性が上がる。分解された脂肪酸は筋肉内のミトコンドリアのTCA回路で酸素を介して燃焼。
週3回ペースで体脂肪燃焼体質を作る
筋肥大のための筋トレは週2回ペースでも効く。疲労を抜きながら2〜3日おきに行っていると、以前より筋力が上がる超回復が起こり、右肩上がりで筋肉は大きくなる。一方、痩せランでは、それより頻度を増やして1〜2日おきに最低週3回ペースを狙いたいもの。
走る頻度が増えるほど、体脂肪は燃えて痩せやすい。頻度を週2回から3回に増やすと、燃える体脂肪量は単純計算で1.5倍になる。
走りすぎは故障の元だが、ランのような有酸素運動はハードな筋トレよりもカラダへの負担が少ないので、たとえ1〜2日おきでも、疲れが抜けずに体調が落ちる心配はない(ただ一度に走る距離は少しずつ延ばすべき。詳細は後述)。
ランは運動中に体脂肪を消費するだけではなく、継続すると体脂肪を燃焼しやすい体質への変身を促す。筋肉に酸素を運ぶ毛細血管が増えてくるし、筋肉内で体脂肪を燃やすミトコンドリアの数も多くなる。
少々細かい話をしよう。これは筋肉から誘導されるPGC―1αというタンパク質の働きによるもの。PGC―1αが遺伝子を読み出し、毛細血管やミトコンドリアの増量を導くのだ。PGC―1αは同じ有酸素でもウォーキングよりランの方が刺激が強くて発現しやすく、ランでは週3回の方が誘導されやすい。
食べてから走るか、走ってから食べるか。腹ペコで走るべし
痩せランの御利益を高めるために気をつけたいのは、食事のタイミング。食べてから走るか、走ってから食べるか。どちらが正しいのか?
最速で痩せたいなら、腹ペコで走るのが正解。空腹で走った方が体脂肪は燃えやすいからだ。
糖質と脂質は運動時以外でもつねに分解&消費されている。このうち糖質の供給源は肝臓と筋肉に貯蔵されているグリコーゲン。空腹だとグリコーゲンの消費が進み、貯蔵量が減っている。運動時は糖質の要求量は急増するが、グリコーゲンの減少=糖質不足だと、前述のアドレナリンの作用で脂質の代謝は高まる。
空腹で運動して平気かとチト不安になるが、動物はそもそも空腹で運動するようにできている。「腹が減っては戦ができぬ」と言うけれど、ライオンだって満腹時は獲物が目の前を歩いても無視するとか。
お腹が空くから必要に迫られて運動するのだ。たとえ腹ペコでも、1時間くらい(距離にして10km)までならガス欠の心配は不要である。ただ脱水予防のために水分補給は忘れずに。
もっとも、空腹なのは起床して朝食を食べるまで。夕飯後12時間ほど経ち、グリコーゲンもぐんと減っているから、痩せランのベストタイミングだ。夜走るなら、夕飯前がいい。
初めは時間で走り、後に距離で走る
ウォーキングをしている人に「どのくらい歩きますか?」と尋ねると、大方からは「1時間ですね」とか、「いやいや2時間は歩きますよ」といった答えが返ってくる。歩く人の物差しは時間。なぜなら、ペースを気にしていないからである。
同じように痩せランでも、初めはペースを気にしなくてOK。速歩に毛の生えたようなスローペースで、途中歩いてもいいから、まずは一度に20〜30分走れるようになろう。
走るのが苦手なタイプが距離を目標に定めようとすると、早くトレーニングを終えたくなり、知らない間にペースアップして辛くなりやすい。20〜30分が何の苦もなく走れるようになったら、少しは距離を意識してみる。
ランの場合、活動量計などのギアがなくても、「体重×走った距離」という超シンプルな公式で消費カロリーが概算できるからだ。
初めの目標は1セッション4〜5km走れるようになること。体重70kgで5km走れたら、70×5=350キロカロリー消費できる。体脂肪は1kg7200キロカロリーだから、机上の計算では20回で体脂肪換算でも1kg痩せられるはず。
本当はそう単純な話ではないが、走った距離で消費カロリーがだいたいわかれば、モチベーションも高まるだろう。
痩せるならウォーキングよりランだ
初心者はウォーキングから入った方がいいけれど、いずれはランに移行すべき。なぜならランの方がウォーキングより断然痩せやすいからである。
おさらいしよう。カラダを動かす筋肉のエネルギー源は糖質と脂質。両者は同時に使われており、その利用率は運動強度が左右している。
ペースが速く強度が上がるほど、糖質の利用率が増えて脂質の利用率は減る。逆にペースが遅く強度が下がるほど、糖質の利用率が減って脂質の利用率が増える。つまり、ペースが遅いウォーキングの方がランよりも脂質の利用率は高いのだ。
そう聞くとわざわざ走らなくてもよさそうだが、これまでの話には大事な視点が抜けている。それはトータルの消費カロリーの大きさだ。いくら脂質の利用率が高くても、消費カロリーが少ないと体脂肪はさほど燃えない。ランは脂質の利用率が多少低くても、時間当たりの消費カロリーはウォーキングの2倍以上。体脂肪が大量に燃えて痩せやすい。
さらに最新の研究では、消費カロリーが同じでも、走った方が歩くより痩せやすいと判明している。ランの方が運動後もカロリー消費がじわじわ続くうえに、食欲を抑える効果もあるからだ。
ランとウォーキングの減量効果の比較
肥満度を示すBMIで4階層に分け、ラン、ウォーキング、その他の運動を消費エネルギーが同じになるように調整して実施。ランの減量効果がもっとも高く、肥満度がいちばん高い層でその傾向はより顕著。
どうせなら1回20分以上走ろう
その昔は「走っても20分しないと体脂肪は燃えない」と言われていた。しかし実際には、安静時でも体脂肪はつねに代謝されている。
20分説はその後完全否定されて、5分でも10分でも体脂肪は燃やせるというのが新常識になった。20分×1回でも5分×4回でも、燃えるカロリーも体脂肪量も変わらない。
こうした生理学的な事実を脇に置くと、5分ランを1日4回もやるのは現実的ではない。着替えるのも手間だし、汗をかいたらシャワーだって毎回浴びないといけない。朝でも夕方でもいいから、頑張って時間を確保して20分以上走った方がマシ。
加えてまとめて走った方が、細切れランよりラクに走れる。体脂肪は常時燃えているが、運動を始めると急増するエネルギーを賄うために大量の脂質を動員しなくてはならない。
走り始めは酸素の供給が追いつかないなど準備が整わないため、脂質は使いにくい。代わりに酸素なしでもエネルギー源として使える糖質がおもに燃えるため、辛く感じる。ウォーミングアップが不可欠な理由だ。
5分しかないといちいちウォーミングアップする気になれないし、もしくはウォーミングアップで運動時間が終わってしまう。20分以上なら少しずつペースを上げるウォーミングアップを経て、辛さを感じずに脂質の大量消費へスムーズにつながる。
距離は体重が落ちたら徐々に延ばす
すでに触れたように、ランで消費するカロリーは「体重×距離」で概算できる。距離を延ばせば延ばすほど多くのカロリーが消費されて痩せやすいのだが、欲張って一気に距離を延ばしすぎないこと。故障のリスクが出てくるからだ。
接地のたびに片足で全体重を支持しているランでは、着地の瞬間に体重の2〜3倍のショックが加わるとされている。走るのが大好きで、年がら年中走っている市民ランナーの大半が、膝などに何らかの障害を抱えているゆえんである。
痩せランに取り組もうというタイプは無駄な体脂肪を抱えて過体重だろうから、着地衝撃もその分大きい。早く痩せたいからと、調子に乗って距離を一挙に延ばすと、膝などを痛めて走りたくても走れないという悲劇に見舞われる恐れもある。
痩せランが効いて体脂肪も着実に減り、体重が落ちて身軽になったら、それに応じて少しずつ距離を延長しよう。 ペースアップも急がないこと。スピードが速くなるほど、着地衝撃も大きくなるからだ。
着地に耐えるだけの筋力が身につくにはそれなりの時間を要するが、体脂肪燃焼を加速する酸素を送り込む心肺機能はそれよりも比較的早く高まる。心肺機能が高まって息が上がりにくくなるとノリノリでペースアップしたくなるが、自重すべし。
笑って走れるペースが痩せる最適のペース
ランではスローなペースほど脂質の利用率は良好だが、いつまでも歩くようなランばかりをしていると、走っているくせに消費カロリーが少なすぎるので痩せにくい。
効率的に減量したいなら、ランの質(脂質の利用率)と量(トータルの消費カロリー)のベストバランスを追求するべき。その理想解が、ニコニコペースで走ること。お隣で走っているパートナーと笑顔で話ができるペースの上限である。
走るペースで使われる脂質量は変わる
強度を最大酸素摂取量の割合で横軸、使われる糖質と脂質の割合を縦軸に示す。強度が上がるとエネルギー消費量は増え、脂質使用率はダウン。最大酸素摂取量の50〜60%のニコニコペースがベストバランス。
「話ができる」といっても、問いかけに「うん」とか「ううん」といった一問一答で答えるのが精一杯というスピードでは、ニコニコペースとはいえない。
「今日の夕飯は和食にしない?」「いや僕は中華がいい」「私はランチが中華だったから、中華以外にして!」といった具合に普通の会話が成立するのが条件。一人で走っているなら、一人芝居で会話が交わせるかどうかをテストしよう。
笑顔で会話が続かないのは、息が苦しくなっているから。息苦しいと笑えないだけでなく、酸素の供給が間に合わなくなり、脂質を燃焼する筋肉内のミトコンドリアに酸素が行き渡らないため、脂質の利用率が落ちる。走るのをストップしたくなり、走行距離が稼げないので脂質の消費量も減ってしまう。もったいない。