ダメなのはどっち? 2択で学ぶ「やりがちNGストレッチ」
フィジカルトレーナーの坂詰真二さんが長年現場で見てきたダメストレッチをOKかNGかの二択クイズ形式で紹介。解説文を読む前に、二択のどちらがダメかを自分なりに推理してみよう!
取材・文/井上健二 イラストレーション/森優
初出『Tarzan』No.856・2023年5月11日発売
筋トレは、あえてカラダに大きな負荷をかけて疲労させた後、そこから回復する“超回復”のプロセスで、筋肉を肥大させ強くする。それと比べると、ストレッチは筋肉や関節といったカラダの負担がもっとも少ない安全なエクササイズ。
「でも、やり方やフォームを間違えたり、適切な強さで行えなかったりすると、期待した効果は得られません。そればかりか、無理をしすぎるとカラダに過度のストレスが及ぶことも考えられます」(フィジカルトレーナー・坂詰真二さん)
ここでは、坂詰さんが長年の指導の現場で数多く見てきたダメストレッチを、典型的な4タイプに分類。具体的なNG例を、2種ずつ紹介していこう。
OKかNGかの二択クイズ形式で展開しているので、正解がわかる下段の解説文を読む前に、二択のどちらがダメかを自分なりに推理してほしい。1か所ずつ引き出したポイントが、良し悪しを判断するうえでのヒントになっている。
NGタイプ① 無駄な筋力を使っている
筋力に任せてストレッチをしようとすると、ポーズを保つだけで疲れる。ポーズを作るために筋肉が頑張りすぎると、カラダ全体が緊張。伸ばすべき筋肉にも力が入ってしまう。
「使いたいのは筋力ではなく重力。体重を上手にかけ、筋肉が頑張らなくても、狙った筋肉が自然に伸びるようなポーズを選びましょう」。
ダメなのはどっち? 広背筋と大円筋のストレッチ
A:四つん這いになり、左手に右手を重ねる。両手のポジションを保ったまま、お尻を後ろに引いて体重を移動させると、左側の広背筋と大円筋がストレッチされる。左右を変えて同様に行う。
B:床にあぐらをかいて坐り、左腕を斜め前に伸ばし、左手の手首を右手で持つ。右手で斜め右上に引っ張り、左側の背中の広背筋と大円筋をストレッチする。左右を変えて同様に行う。
ダメなのは…B
右腕の力が必要なので、右腕と背中の筋肉が緊張してしまう。Bのように腕と背中の筋力を使わないで、お尻を引いて体重移動を用いてストレッチするのが正解。
ダメなのはどっち? 菱形筋と僧帽筋中部のストレッチ
A:床にあぐらをかいて坐り、両手を組んで腕を床と平行にまっすぐ伸ばす。両手を前方へ伸ばしながら、背中を丸めて左右の肩甲骨を引き離し、背中の菱形筋と僧帽筋中部をストレッチする。
B:床に坐り、片膝を立てて、両手を膝下で組む。反対の脚は伸ばして膝を緩めてリラックスさせる。両手で膝をロック。腕を伸ばしながら上体を後ろに倒して体重を移動させて、菱形筋と僧帽筋中部をストレッチ。
ダメなのは…A
胸側の小胸筋と前鋸筋の力で背中を伸ばしている。Bのやり方なら、胸側の筋力を使わず、膝にぶら下がるように体重をかけて背中がラクにストレッチできる。
NGタイプ② リラックスできない
筋肉は緊張していると、伸びにくい。できるだけ力を抜き、リラックスできる姿勢でポーズをキープするのがポイントだ。
「ストレッチでは、力みがなくて安定できる姿勢を取り、筋肉を脱力させることを最優先させてください」。体幹や手足の位置が少し変わるだけでも、筋肉は緊張しやすくなるので、気をつけたい。
ダメなのはどっち? ハムストリングスと腓腹筋のストレッチ
A:台上に左足の踵を乗せて爪先を上げ、半歩離れて立つ。両手を左膝の上で重ね、上体を前傾し、膝を押して左脚の太腿後ろ側のハムストリングスとふくらはぎの腓腹筋を伸ばす。左右を変えて同様に。
B:左足全体を床につけ、右足を半歩引いて立つ。両手を左膝の上で重ね、右膝を曲げながら上体を前へ倒し、両手で膝を押し、左脚のハムと腓腹筋をストレッチ。左右を変えて同様に行う。
ダメなのは…A
踵だけを台に乗せ、点で支えるので姿勢が不安定。Bのように足裏全体を床につけると姿勢が安定。余分な筋力を使わずにリラックスして狙った筋肉が伸ばせる。
ダメなのはどっち? 大胸筋のストレッチ
A:床にあぐらをかいて坐り、骨盤を立てて上体を床と垂直に保つ。両手を後ろで組み、両肩を後ろに引いて腕を伸ばし、胸の大胸筋をストレッチする。
B:両足を腰幅に開いてまっすぐ立ち、両手を後ろで組む。両肩を後ろに引いて腕を伸ばしながら、大胸筋をストレッチする。
ダメなのは…A
骨盤を立てた姿勢を保つため、腸腰筋などの筋力が働くので、それだけ緊張を強いられる。Bのように立てば骨盤は自然に立つから、無駄な筋力は不要になる。
NGタイプ③ 関節に負担がかかる
筋肉は新陳代謝が活発で、仮に多少損傷しても復活するのも早い。一方、関節やその周りの靱帯などは、一度ダメージを受けるとなかなか復活できない。
「とくに関節は一生モノ。関節は曲げたり伸ばしたりは得意ですが、捻りに弱い。格闘技の関節技も多くは捻りを伴います。捻りを避けて筋肉を伸ばしましょう」。
ダメなのはどっち? 脊柱起立筋のストレッチ
A:床に坐り、両脚を伸ばす。膝と股関節を緩めて脱力し、両膝を自然に開く。頭を両膝の間に入れるように前傾して、両手を足首に添えてリラックス。背中全体を丸めて脊柱起立筋をストレッチする。
B:床で仰向けになり、両手で腰を支えたら、お尻を床から引き上げる。両足を頭の先の床に近づけて、背骨の左右を走る脊柱起立筋をストレッチする。
ダメなのは…B
首で姿勢を支えているので、繊細な頸椎に無理な力が集中して危険。Aは上体の重みを使ってストレッチしているので、頸椎へのストレスがなく安全だ。
ダメなのはどっち? 大胸筋と広背筋のストレッチ
A:両手を肩幅で壁の高い位置についたら、壁から半歩ほど離れて肩幅でまっすぐ立つ。両肘を曲げて、顎を引いて頭を壁に近づけて胸を張り、胸の大胸筋と背中の広背筋をストレッチする。
B:両手を肩幅で壁の高い位置についたら、壁から1歩ほど離れて肩幅でまっすぐ立つ。両肘を伸ばしたまま、顎を引いて頭を壁に近づけて胸を張り、大胸筋と広背筋をストレッチする。
ダメなのは…A
肘を曲げてしまうと、捻りに弱い肩関節に多大なストレスがかかりやすい。Bでは肘をちゃんと伸ばしているので、肩関節への余計なダメージがなくセーフティ。
NGタイプ④ 関節の可動域が狭すぎる
定番ストレッチには、ヨガのポーズをアレンジしたものも多い。そのなかには、見かけはいかにも効きそうでも、解剖学的に分析すると関節の稼働域が狭すぎ、効き目がイマイチのものも。
「ストレッチで伸ばす筋肉は、関節を跨いで骨と骨に付きます。起始と停止という付着部を離すようにポーズを取るのが正解です」。
ダメなのはどっち? 腰背部の筋肉(横突棘筋)のストレッチ
A:床で両脚を伸ばし、左膝を立てて右脚の外側に左足をつく。右肘を左膝の外側に当てる。背すじを伸ばし、上体を左へ捻り左手を後方の床につき、腰背部深層の横突棘筋を伸ばす。左右を変えて同様に。
B:床で両脚を伸ばし、左膝を立てて右脚の外側に左足をつく。右肘を左膝の外側に当てる。背中を丸め、上体を左へ捻り左手を後方の床につき、腰背部深層の横突棘筋を伸ばす。左右を変えて同様に。
ダメなのは…A
背すじを伸ばすと、背骨に1個ずつ付く筋肉の起始と停止が十分に離れない。Bで背中を丸めると筋肉の起始と停止が離れるので、横突棘筋がちゃんと伸びる。
ダメなのはどっち? 腹直筋のストレッチ
A:両足を腰幅に開いて立つ。両手を腰の後ろに当て、上を向くように上体を後ろに反らし、お腹の腹直筋をストレッチ。
B:両足を腰幅に開いて立つ。両手を腰の横に当て、肛門を後ろに向ける意識で骨盤を前傾。上を向くように上体を後ろに反らし、お腹の腹直筋をストレッチする。
ダメなのは…A
腹直筋は肋骨と骨盤の恥骨を結ぶ。骨盤が後傾すると肋骨と恥骨の距離が十分離れない。Bのように骨盤を前傾させると恥骨と肋骨が離れるので、腹直筋が伸びやすい。