教えてくれた人 柴田重信さん
しばた・しげのぶ/早稲田大学理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授。日本時間栄養学会理事(顧問)。生体リズムの仕組みの解明と応用研究に努める第一人者。
目次
朝食を抜くと1時間の時差が生じ、食欲が増大してしまう
もう何年も朝食を食べる習慣がない。でも朝は定刻に起きて太陽の光を浴びている。遅刻もしていないから問題ないのでは?
これが大問題。確かに脳の主時計は光でリセットされる(詳しくはTarzanWebの記事:気持ちのいい一日を送るための「朝と体内時計」の話)。でも、カラダの末梢時計はそれに同調しない。
「朝7時に起きて夜22時過ぎに電気を消して寝るという条件のもと、食事時間を変えて皮下脂肪の時計の位相を比べた実験があります。朝7時に朝食、12時に昼食、17時に夕食を摂った場合と12時に朝食、17時に昼食、22時に夕食を摂った場合では、後者の体内時計が1〜1.5時間後退しました。
脳の大脳皮質や海馬もまた末梢時計です。朝食を欠食すると出勤しても1時間は時差ボケ状態でパフォーマンスが上がりません」(柴田重信教授)
カラダの末梢時計は食事でリズムを刻んでいる
朝食抜きグループは視交叉上核のリズムには変化がなかったが、皮下脂肪の時計は1〜1.5時間後ろ倒しになった。
別の実験では食事時間全体を4時間遅らせる生活、つまり朝食を欠食すると朝食摂食時と比較して、食欲や脂肪合成遺伝子発現が増大し、体温や代謝が低下した。この変化が肥満の要因だという報告もある。
厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」では、朝食の欠食率(菓子や果物、サプリの摂取を含む)は20〜40代で20%以上。同じ年代の男性の場合は27%以上で4人に1人は朝メシ抜き。
これに当てはまり、午前中は仕事のパフォーマンスが上がりにくく、しかも最近ちょっと太ってきたという人。その原因は朝食の欠食にあると考えていい。
朝食は「起床後2時間ルール」で末梢時計をリセット
指揮者が一生懸命タクトを振っても奏者が寝ぼけていては美しい音楽は奏でられない。起床時間に合わせた朝食のタイミングもまた大事。
「マウスで行った実験では、活動を始めてから1〜2時間後に食事をすると体内時計の同調が見られます。それ以上遅くなると、時計が夜型に引っ張られる傾向があるのです。ヒトの場合もこれと同様、遅くとも起きてから2時間以内に朝食を摂ることが重要です」
もし起きてから30分後に家を出て、1時間半かけて会社に到着し、デスクでコンビニのサンドイッチをパクついても時すでに遅し。朝食は絶対7時に食べると決めるのではなく、6時に起きたら8時までには口にするといったルール作りを。
朝食から12時間後に全ての食事を終えれば必ず痩せる
アメリカで行われた食事調査によると、朝食から一日の最後の食事を食べ終わるまでの時間が多くの人で14〜15時間。7時に朝食を食べたとして夕食を食べ終わるのは21時〜22時。この時間を10時間以内に収めると体重が減り、血液検査の数値も軒並み低下したという。
「健常者を対象にした8時間以内に食事をさせた実験があります。朝6時からスタートして15時以内に食べ終わる場合と11時スタートで20時以内に食べ終わる場合では前者は空腹時血糖値やインスリン分泌、体重や体脂肪がすべて改善されましたが、後者には変化が見られませんでした。朝食を早めに食べて夕食を早めに食べ終わることに意味があるのです」
とはいえ、8時間や10時間以内に一日の食事を済ませるのは現実的には無理がある。なので、朝食から12時間以内、朝7時に朝食を食べたら夜7時には食べ終わる。メタボ予備群の人はとくに心がけるべし。
食事時間制限による肥満・メタボ予防効果
さまざまな食事時間制限実験では、同じ摂食時間でも朝食を摂って早めに食べ終わるパターンの方がメタボ予防効果が高いという結果が出ている。
和食は朝型に有利、シリアルは朝型に不利な傾向あり?
豆腐とワカメの味噌汁に焼き魚と生卵とごはん。こうした和朝食を食べている人は、和食と洋食が半々、いつも洋食、いつもシリアル、朝は食べないという人に比べて早寝早起きの傾向があるという。
朝食の内容と就寝・起床時刻の関係
askenの食事管理アプリ『あすけん』の利用者を対象に行われた朝食習慣と就寝・起床時刻のアンケート調査。和朝食が最も早寝早起きで欠食が最も遅寝遅起きという結果に。
「体内時計を調整する魚、大豆、卵のタンパク質摂取は和食グループや和食と洋食が半々のグループが圧倒的に多く、さらに和食は炭水化物やタンパク質の摂取バランスが最も優れていることが分かりました。シリアルは栄養バランスはいいのですが全体的にボリューム不足。このため、体内時計の朝型化には不利な可能性があるかもしれません」
寝る時間も遅ければ、起きる時間も遅い朝の欠食は論外。選択肢がある場合は和朝食を狙おう。
朝食で摂りたい9つの栄養素
糖質|時計遺伝子を増やすインスリンの分泌に必須
朝食で摂りたい栄養素の筆頭は糖質。というのは糖質が体内で利用されるときに分泌されるインスリンが、時計遺伝子を作るシステムの上流に作用して末梢時計のリセット効果を高めてくれるから。砂糖や蜂蜜、でんぷん食品を有効利用しよう。果物に含まれる糖質・果糖はインスリンを介さずに体内で利用されるのでNG。
タンパク質|主食とともに主菜を摂り、時計リセット効果を強化
インスリンの働きをより強化するのが肉、魚、卵などのタンパク質食材。タンパク質を摂ることでIGF-1というタンパク質やグルカゴンというホルモンが血液中や肝臓で増える。IGF-1はインスリンに非常によく似た働きをする物質で、グルカゴンとともに末梢時計のリセット効果があることが分かっている。
食物繊維|短鎖脂肪酸の力を借りてインスリン分泌を促す
あと1品の副菜を摂るなら食物繊維が豊富な食材を。なかでも狙うべきは腸内細菌のエサになる発酵性食物繊維。発酵性食物繊維を腸内細菌が分解する際、作り出される短鎖脂肪酸がGLP-1というホルモンの分泌を促し、このGLP-1がインスリンの分泌を促す。海藻、サツマイモ、ゴボウ、納豆などがおすすめ食材。
DHA・EPA|魚の油もまたインスリン分泌に有効
サケ、サバ、イワシなどに含まれるDHAやEPAといった脂肪酸もGLP-1の分泌を促す働きがある。ただし、魚の脂肪酸単体では体内時計は動かず、ごはんなどの炭水化物とセットで初めて時計リセット効果が期待できる。昔ながらのごはん+焼き魚のメニューは非常に理にかなっていたということ。
ヒスチジン|魚に豊富なヒスチジンが脳を覚醒させる
マグロ、カツオ、ブリ、サバなどの魚に豊富なアミノ酸・ヒスチジンから産生されるヒスタミンが脳に働き覚醒作用を促す。保存状態が悪くて作られる悪玉ヒスタミンとは別物。
トリプトファン|メラトニンで快眠を促し、明朝の目覚めを爽やかに
乳製品や動物性タンパク質食材に豊富に含まれているトリプトファンは、脳内でセロトニン→メラトニンへと合成され、その日の夜の睡眠を助けてくれる。
ビタミンK|納豆に豊富なビタミンKの時計リセット効果に期待
小松菜やホウレンソウなどの葉物野菜、大豆タンパク質に豊富なビタミンKにも体内時計のリセット効果があることが知られている。朝の納豆はベストチョイスのひとつ。
カフェイン|コーヒーやお茶のカフェイン効果でダメ押し
夕方以降のカフェインは体内時計を遅らせるが、朝のカフェインは覚醒効果と抗肥満効果をもたらしてくれる。インスリンとの相乗効果で朝の気合は十二分。
ノビレチン|柑橘類のエキスも時計リセットに一役買う
シークヮーサーやカボスなどの柑橘類に含まれるノビレチンは時計遺伝子のリズムを調節する働きがある。皮に豊富に含まれているので皮ごと搾ったエキスなどを活用したい。