実用的で締まったカラダを手に入れたいなら“自体重を選ぶべき”理由
この世で一番手軽に行えるボディメイクの方法、それは自体重トレと言ってもいい。特別な器具も準備もいらない。タタミ1畳分のスペース内でカラダひとつで己の筋肉と対話するだけでいい。得られる効果は太りにくく健康的なカラダの獲得。太りたくない人、躊躇なく人前で脱ぎたい人、必見。
取材・文/石飛カノ 撮影/内田紘倫 スタイリスト/青木穣 ヘア&メイク/村田真弓 取材協力/桜井智野風(桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科教授)
初出『Tarzan』No.852・2023年3月9日発売
筋トレには3つの目的がある
ひと口に筋トレといってもその目的はざっくり3種類に分かれる。筋力を高めて力持ちになること、筋肉量をボリュームアップさせ今よりカラダをデカくすること、筋肉の持久力を向上させて長く動き続けられるカラダを作ることだ。
それぞれの目的によって最適なトレーニング方法は異なる。今回のテーマは2つ目の筋量アップ、すなわち筋肥大。といってもなかやまきんに君ばりのマッチョを目指すのではなく、相応の筋肉量を身につけてカラダを引き締め、ちょっとばかり食べすぎても太りにくいカラダを手に入れることが目的だ。
筋肥大こそが、多くの人が求めてやまないボディメイクの近道となる。
筋肥大には2つの種類がある
バーベルやダンベルといった重いギアを使って行うのがウェイトトレ。自体重トレに比べると、カラダにかかる負荷は当然大きくなる。なぜ重い負荷が必要かというと、筋肉を構成する筋原線維を刺激するため。
筋肉は筋線維の束とその他の筋形質でできている。
筋線維の最小単位が筋原線維で、これはさらにミクロ単位のアクチンとミオシンという収縮タンパクで構成されている。アクチンがミオシンの間に滑り込むことで筋肉の収縮が起こるという仕組み。
重さという負荷をかけることによってアクチンとミオシンの強い収縮が起きる。この刺激を繰り返し行うことで筋原線維が太くなり、パワーが身につくというわけ。
見た目重視の筋肥大なら自体重トレでOK
今回の目的の筋肥大。これまで筋トレ上級者ほど「ウェイトトレじゃないと」と口にしていたもの。
ところが桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科の桜井智野風教授は、「筋肥大するために高重量は必要ありません。アクチンやミオシンを強く収縮させるのは高重量トレーニングですが、その周りの筋形質はむしろ低負荷高回数のトレーニングで肥大する傾向があります」と言う。
筋形質は筋線維の周りを満たすミトコンドリアなどの細胞小器官や多数の酵素を含む体液の集合体。
「筋形質が増えることで見た目の筋肉は太くなります。健康的にエネルギー代謝を増やしたいなら自体重トレで十分筋肥大は可能です」
筋形質を増やせば筋肥大が目指せる
自体重トレで筋原線維の肥大は難しいが、周りの筋形質を増やすことで筋肉のボリュームをアップさせることは可能だ。
大きな筋肉を狙えば基礎代謝がアップ
一般人なら自体重トレでボディメイクという目的は果たせる。目的達成のためのポイントは2つ。
一度のトレーニングで動員する筋肉の数をなるべく多くすること、通常の自体重トレより若干回数を増やして追い込むことだ。筋肉にエネルギーを供給し続けることでミトコンドリアなどの筋形質が増える可能性が高い。
「1回のトレーニングで“ああ疲れたな”という感覚が得られるレベルで十分だと思います」
さらに、狙う筋肉は大筋群であればベター。肥大すればそれだけ基礎代謝がアップし、エネルギー消費量の底上げになる。
全身の筋肉の体積を大きい順に並べると上のようなランキングになる(腹直筋はランク外)。ボディメイク目的で鍛えるなら下半身はマストだ。
自体重トレ5つのメリット
① いつでもどこでも行える
わざわざジムに行く必要がない、器具がいらない、トレーニングウェアに着替えなくてもいい。自宅はもちろん、なんならオフィスの休憩スペースや出張先や旅先でだって実践可能。
その気になればいつでもどこでも行えるのが自体重トレの最大のメリットのひとつ(しかもタダ)。この手軽さをもってすれば、「忙しいから」という言い訳で怠けるリスクも減らせる。
② 体幹力が養える
座って行うことが多いマシントレやベンチに寝て行うウェイトトレーニングとは異なり、基本的に立って行うことが多いのが自体重トレ。しかも、ターゲットの筋肉に効かせるためには正しいフォームを忠実に再現する必要がある。
となると、単に負荷を移動させるだけでなく、体幹をしっかり働かせて姿勢を維持しなければならない。つまり、自然に体幹も鍛えられるというおまけつき。
③ 強度の調節が自由自在
自分には負荷が高すぎる、あるいはちょっと負荷が物足りない。こうしたときに簡単に負荷が調節できるのも自体重トレの大きなメリット。
ベンチプレスならダンベルやバーベルのプレートをプラスマイナスする手間がかかるが、プッシュアップなら膝をついたり両足の位置を高くすれば負荷を低くも高くもできる。フォームの工夫で負荷のコントロールは自由自在だ。
④ ケガをしにくい
高重量のバーベルを持ち上げるベンチプレスで大胸筋が損傷してしまった。うっかりダンベルを落として足の爪先に青タンができた。床に置いたダンベルを何気に持ち上げようとして腰に痛みが走った。ウェイトトレの場合、こうしたケガに見舞われることが少なくない。
その点、自体重トレの負荷は己の体重。ケガのリスクは圧倒的に少ない。その分、長続きする確率も高くなる。
⑤ 実用的なカラダが手に入る
筋トレの動きは実はとっても非合理的。ひとつの筋肉に効かせるために他の筋肉の関与をできるだけ抑える必要があるからだ。とくにピンポイントの部位だけを稼働させるマシントレなどはその筆頭。
一方、自体重トレは足でしっかり床を押したり、肩甲骨の動きを意識したりと、目的の筋肉を鍛えるために全身の筋肉の連動が必要。鍛えるほどに動ける実用的なカラダが手に入る。