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理由① 二足歩行の人間は何もしないと背面を鍛えられないから
2本の足ですっくと立ち、日中の活動時、歩くのも走るのも2本足。その間ずっと骨盤の真上に頭をキープしている。こんな生き物は地上で唯一、ヒトだけだ。
四足歩行の動物は支持面が大きいから姿勢の安定感が抜群。しかも、体幹の筋肉を一気に屈曲・伸展させることで素早く移動できる。
一方、二足歩行に舵を切ったヒトは不安定な姿勢をカバーし、歩行の衝撃から脳を守るために背骨をS字に彎曲させた。で、体幹の筋肉はそのS字カーブを支えるサポート役に。特に背骨を支持する背面の筋肉は大事なスタビライザー。
四足歩行のムーブから二足歩行のスタビリティへ。そもそも人間の背面の筋肉がほったらかしで鍛えられない事情がここにある。
理由② 背面はすべてのトレーニングの土台だから
ベンチに仰向けになり100kgのバーベルを押し上げる彼こそは強者トレーニー。でもフロアでバーベルスクワットをやらせてみると、生まれたての子鹿のようにプルプルと姿勢が定まらない。
その理由は体幹の筋肉、とくに脊柱起立筋下部の筋力が弱いから。
脊柱起立筋は立位で行うすべてのトレーニングの土台。二足歩行でせっかくスタビリティに本腰を入れたのだから、しっかり機能させて体幹を維持しなければもったいない。
なによりベンチプレスばかり行っていると大胸筋ばかりがムキムキ、背中がペラペラのアンバランスな体型になってしまう。デッドリフトなど立位での背面筋トレもしっかりと行うべし。
理由③ 悪姿勢を招くから
背面の筋肉の衰えによって不具合が生じるのは筋トレだけの話ではない。もっとずっと基本的な姿勢維持にも悪い影響が及ぶ。
背中の筋肉が弱いと肩甲骨が開いて前方に移動する。その結果、上体が前に倒れ、頭が前に出た猫背姿勢になる。
さらにその結果、腰まわりの筋肉に常に伸張性の負荷がかかり続ける。そもそも筋肉は縮むという刺激より伸びるという刺激でダメージを受けやすい。というわけで、筋肉や筋膜由来の腰痛が引き起こされるのだ。
二足歩行の歴史は四足歩行の歴史に比べて非常に浅く、ヒトはまだ進化の途中ともいえる。よって正しい姿勢保持のために背面の筋力をキープする意識を持つことが大事なのだ。
理由④ そもそも鍛えるのをおろそかにしがちだから
当たり前の話だが、誰しも自分の背面をリアルに見ることはできない。上裸で鏡の前に立ったときもそこに映っているのは大胸筋や腹筋、三角筋前部。
よって多くのトレーニーはカラダの前面ばかりを重視する。目で見えないものはないも同然、とばかりに背面の筋肉はほとんど無視。
さらに、大胸筋は発達しやすい速筋の割合が多いのに対し、背面の筋肉は速筋と遅筋の割合がおよそ半々。筋肥大およびパンプアップしにくいので、鍛えても成果を感じにくいという事実がある。
むろん、その事実に甘んじてはならない。表も裏もバランスよく鍛えてこそ見た目的にも機能的にもワンランク上のカラダが手に入るからだ。
上半身の多くの体積を占めるのは背面!
筋肉の体積を比較した研究によれば、肩甲帯という上肢部分の筋肉の中で最もボリュームが大きいのは三角筋(ただし、背面筋は三角筋後部のみに当たる)。次点は大胸筋で、3位以下は全て背中や肩甲骨周辺にある背面筋が占めている。上腕では上腕三頭筋が圧倒的なボリュームを占め、上腕筋、上腕二頭筋を足してもなお及ばない体積。背面筋スゴイ!
理由⑤ ケガをしやすいから
運動中、筋肉が収縮している状態のとき、逆方向に強制的に引き伸ばされることで筋肉が断裂する。これが肉離れ。急なダッシュ&ストップ、ジャンプの着地時などに起こりやすく、なかでも肉離れのリスクが最も高いといわれているのがハムストリングスだ。
たとえばランニング中、ハムは前に脚を振り出すときは弛緩し、太腿を後ろに引くときに伸ばされながら収縮する、いわばランのアクセル役。このとき、まさに肉離れが起こりやすいのだ。原因のひとつに考えられるのは筋力不足。
ハムは筋肉の束が複数に分散して骨に付着しているため、鍛えにくいとされている。でも鍛えなければ深刻なケガに繫がることをお忘れなく。
太腿前と後ろの筋肉、その黄金比率とは?
健康な男女6人の太腿の体積
健康な成人、男女各3人を被験者にした下半身の筋肉の体積。男性は大腿四頭筋がハムストリングスに比べて2.5倍、女性は2.3倍のボリューム。
スプリントで理想とされる筋力比は大腿四頭筋2に対してハムが1、もしくは大腿四頭筋3に対してハムが2とされている。筋力と筋体積は相関関係にあるので、この調査ではややハムが弱いという結果に。
理由⑥ 背面の筋肉は多層構造だから
みんながせっせと大胸筋を鍛える理由は、肥大しやすい速筋の割合が多いという以外に、筋肉の構造が一枚岩で単純だからだ。厚みのある大胸筋をぺろっと剝がすと、そのすぐ下に肋骨が現れる。
一方、背面の筋肉はそうではなく多層構造。一番外側の僧帽筋の下には大円筋や小円筋、菱形筋、広背筋の上部などが何層にも重なって存在している。
しかも、それぞれの筋肉の走行もバラバラ。なのでトレーニングによる刺激の仕方もそのつど変える必要がある。
さらに、立っているときの姿勢保持で使われるのは脊柱起立筋や僧帽筋で、広背筋はあまり使われないという、よく使われる筋肉とそうでない筋肉の差もある。だからこそ丁寧に隅々まで鍛えねば。
目的によってプル動作の種類を変える
背中の筋肉が多層構造で複雑なことは前述した。ならば、目的によって刺激の方法を変えることは必須。
たとえば同じ背中を鍛えるにしても、「厚くデカくしたい!」という人と「ギャクサンにしたい!」という人とでは取り組むべき種目が異なる。前者の場合、主にターゲットとなるのは僧帽筋なので前方からチューブなどを引っ張るプル動作、後者なら広背筋と大円筋を狙った懸垂などの上から下へのプル動作がおすすめ。
理由⑦ パワーの源だから
重い荷物を持ち上げるとき、腕の力だけでピックアップしようとすると腰だけに大きな負担がかかる。
バーベルを持ち上げるデッドリフトという種目を思い浮かべてほしい。バーベルは腕で引き上げるのではなく、大臀筋、中臀筋、脊柱起立筋、広背筋、僧帽筋、これらの背面の筋肉を総動員させるのが最大のポイント。
荷物のピックアップもこれと同様、背面の筋肉のパワーを発揮すればぎっくり腰も回避できる。
その他、ヒッティング動作は広背筋や僧帽筋、三角筋後部、躓いたときのリカバリーや切り返し動作は腓腹筋の担当だ。スポーツや日常動作のパワーの源の多くは、背面の筋肉にあり。だからこそ鍛えねば。
鍛えたい背面の筋肉
僧帽筋:首から背中を菱形状に広く覆う筋肉で、重いものを持つときに肩甲骨が下がるのを防ぐ。首の後ろから鎖骨に至る胸鎖乳突筋、肩甲骨内側の肩甲下筋とともに、肩こりの原因筋。
三角筋:三角筋は前部、中部、後部の3パートに分かれる。このうち後部が弱いと丸く美しいメロン肩にならない。さらに重い扉を引いて開けるとき、全身運動になってしまう。
ローテーターカフ:ローテーターカフとは肩甲骨の上下と前後に細かく張り巡らされ、腕を上げたり捻る動作に関わる筋肉の総称。いずれかの筋肉に支障が出ると四十肩などの疾患に陥る。
上腕三頭筋:二の腕の筋肉というと上腕二頭筋をイメージしがちだが、実は腕の見栄えを決めるのはより体積が大きい上腕三頭筋。振り袖状態になりやすい女性はマストで鍛えるべき部位。
大臀筋:お尻の大部分を広く覆い、ランニングやジャンプ動作の際、ブースターとなる筋肉。人体最重量の筋肉だが、加齢や運動不足で衰えるとヒップは下垂していくばかり。
下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋):いわゆる“ふくらはぎ”を形成する筋肉で、下肢の静脈血を心臓に向かって押し上げるポンプ役でもある。歩いたり走ったりする習慣がないと衰えやすく、むくみ体質になる。
脊柱起立筋:二足歩行の人類の姿勢のカギを握る筋肉群。発達すると左右に枝を張ったクリスマスツリーのように見える。衰えると猫背などの悪姿勢、または腰痛の原因に。
背中のアクセサリー筋(大円筋、小円筋、菱形筋):腕の付け根と肩甲骨を結ぶ大円筋と小円筋は背中の上部を盃状にボリュームアップさせる筋肉。菱形筋は肩甲骨を背骨側に引き寄せる、良姿勢を支える筋肉だ。
広背筋:腕の付け根から背骨、骨盤に至る、人体で最も面積の大きい筋肉。ギャクサン体型を手に入れたいなら、まずここを鍛えるのが正解。じゃないと背中が貧弱な前面貴公子に。
中臀筋:骨盤の左右に位置し、歩行時の着地の際に骨盤を安定させる大事な筋肉。中臀筋をしっかり鍛えるとお尻上部が持ち上がり、プリティなヒップラインが手に入る。
大内転筋:内腿を広く覆う筋肉。坐骨が起点なので今回、ギリ背面筋とする。この部分が弱いとスクワットのとき無意識に膝が開く。さらに股関節が外側にねじれると極端なガニ股に。
ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋):太腿裏の大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の総称がハムストリングス。この部分が弱く、太腿前のパワーが強すぎると骨盤が前に引っ張られて前傾する可能性あり。