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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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筋トレ後にゴクリ。就寝前にゴクリ。カラダのため、筋肉のためと思って疑うことなく飲んでいるけれど、実はそれ、勘違いかもしれません。プロテインのプロに聞いた眼からウロコの新常識です!
桑原弘樹さん
くわばら・ひろき/NESTA JAPANプログラム・ディベロップメント・アドバイザー。15年以上にわたりスポーツサプリメントの企画・開発に携わり、コンディショニング情報を提供。
目次
トレーニング後にプロテインさえ飲んでおけば筋タンパクの合成が進み、筋トレ効果は上がるはず。これ、必ずしも正解とは言いがたい。
「プロテインはトレーニング後に飲んでおけばいいというわけではありません。私は朝食後のプロテインをとくに重視しています」と言うのはスポーツサプリメントの専門家、桑原弘樹さん。
「一日を通して栄養素がスカスカなのは午前中です。朝食で最低でもタンパク質を20gは摂りたいところですが、朝食だけではそれに満たないことが多い。午前中の血中アミノ酸を維持するためには朝食後のプロテインが必須です」(桑原さん)
茹で卵にトーストの朝食ではタンパク質の摂取量は10g強。これではランチにありつくまで血中のアミノ酸濃度が低いまま。材料がなければ筋肉は合成どころか分解へと舵を切ってしまうのだ。
朝は食欲があまり湧かないという人はとくに、朝食後にプロテインをオンすべし。
筋肉中に十分な糖質(グリコーゲン)がないと、筋肉は分解の方向に進む。なので、プロテインのベストチョイスは糖質が配合されたタイプである。それが、よく勉強しているトレーニーの答え。
「面白い実験があって、トレーニング後に糖質のみとタンパク質のみを摂取した場合、糖質だけの方が筋肥大するという報告があります。筋肉を分解させるさまざまな酵素が、糖質を入れることで抑制されると考えられています」(桑原さん)
ならタンパク質いらないじゃん!ということになるが、いや筋肉の分解を防ぐ糖質と合成を促すタンパク質を一緒に摂れば最強という話。
「ただ落とし穴があって、糖質配合のプロテインは糖質とタンパク質が1対1、または3対1の配合で、糖質をプラスした分、タンパク質が不足しがちになります。20gをカバーするとなると、大量のプロテインを飲まなければならない。ホエイプロテインに別途糖質を含むジェルを飲むなどの方法がおすすめです」(桑原さん)
トレーニング後だけでなく、夜寝る直前にも必ずプロテインを飲んでいる。最適なのは吸収がゆっくり進むカゼイン。理由はじっくり体内に吸収されることで睡眠中の血中アミノ酸濃度を維持できるから。これも、よく勉強しているトレーニーの言い分だ。
「確かに、筋肥大という意味ではありだと思います。でも、健康という意味では手放しでカゼインをおすすめできません」と桑原さん。
「日中めまぐるしく働いている胃腸、肝臓、腎臓といった内臓は睡眠中にしか休めません。カゼインは水に溶けない不溶性の成分ですから、就寝前にチーズを胃に取り入れるようなもの。
寝ている間、胃も腸も肝臓も、チーズを分解して吸収するためにずっと働くことになります。そのデメリットの方が筋肥大のメリットを凌駕します。もし飲むのであれば、就寝1時間前くらいのタイミングで補給しましょう」(桑原さん)
筋肥大は大事。健康はもっと大事。
ホエイ:牛乳に含まれるタンパク質。脂肪分とカゼインを取り除いたもの。吸収が早い。
ソイ:大豆に含まれているタンパク質。吸収がホエイより遅い。
カゼイン:牛乳に含まれる主要なタンパク質。チーズなどの材料になる。吸収は最も遅い。
ヤバいくらいマッチョなトレーニーはトレーニング後、とんでもない量のプロテインを飲んでいる。1回のプロテイン補給で摂るタンパク質は50〜60gなんだとか。よし、自分もそのレベルまで増量するぞ! これもまた、大いなる勘違い。
「プロテインを大量に飲めば飲むほど筋肥大が起こるわけではありません。通常は1回につきタンパク質20g摂れればいいところを40g、50gと増やしていってもあまり意味がないんです」(桑原さん)
というのは、一度に吸収できるタンパク質の量は決まっているから。個人差はあるが上限は約40g。それ以上の量を飲んでも体内に吸収されず、体外に排泄するために肝臓や腎臓に過剰な負担がかかってしまう。行き着く先は内臓疲労だ。
「単純な話で、プロテインを60g飲んでいるからではなく、ハードなトレーニングをちゃんとやっているからマッチョな体型になるんです」(桑原さん)
伸び悩んだときはプロテイン増量よりトレーニングの見直しを。
トレーニングしない日はプロテインを飲まないと決めている。だって筋タンパクの合成はトレーニング直後が最も進むはず。トレーニングという刺激を入れない日はプロテインを飲んでも意味ないし。
筋肥大の理想の環境を作るという意味で、プロテイン補給のベストタイミングはトレーニング後30分以内。確かに、このゴールデンタイム理論は体験的に生きている。トレーニング後48時間は筋タンパクの合成は続くが、同時に分解も進む。よってゴールデンタイムでのプロテイン補給は理想的なのだ。
「また、トレーニングの有無にかかわらず、この合成と分解は繰り返されるので、トレーニングをしない日にもプロテインを補給するのは常識です。さらに合成と分解の振れ幅は一度大きくなると元に戻りません。
トレーニングをやめて、タンパク質の摂取量を減らすとその分、筋肉の衰えが激しくなります。つまり、オフの日でもトレーニングする日と同量のプロテイン補給が必須です」(桑原さん)
味的にも栄養的にもプロテインは牛乳で割った方がよさそう。なので、トレーニングを始めたときからずっとwithミルク。
「牛乳に含まれるカルシウムがオンされるメリットはあります。でも、私自身は水でしか割りません。というのも、プロテインは高タンパク低脂質の栄養補助食品。その低脂質という特性が崩れてしまうからです。
水で割る方が本来のカロリー計算的に間違いがありません。また、牛乳割りの味に慣れてしまうと、牛乳がないから飲めないとなりがち。水ならどんな環境でも割って飲めます」(桑原さん)
さらに、加齢によって乳糖の分解酵素が減り、乳糖不耐症になることもある。プロテインを飲むたびに下痢などの症状に見舞われるリスクもないとは言えない。
「摂りたい栄養素を確実に摂るということがプロテイン補給の目的。牛乳がダメとは言いませんが、無脂肪乳にするなどの工夫が必要」(桑原さん)
雰囲気で牛乳割りをしている人は、この機会にシフトチェンジを。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/サタケシュンスケ 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.819・2021年9月22日発売