目次
① 誰もが納得の足腰が手に入る。
カラダ作りに挑むトレーニーがこぞってスクワットに励むのは、何よりも下半身のボディメイクの切り札的な存在だから。
現役ボディビルダーでもある日本体育大学の岡田隆准教授は、スクワットの魅力をトレーニー目線で次のように語る。
「太腿前側の大腿四頭筋、太腿後ろ側のハムストリングス、お尻の大臀筋といった下半身の筋肉量を増やし、偏りなく良く発達させるためには、入念なプランニングが求められます。それは、経験を積んだビルダーにとっても難しい。
仮に四頭筋がいくら太くなっても、ハムや大臀筋がプアだと、コンテストでは高く評価されないのです。でも、スクワットが正しくこなせていれば、足腰の筋肉は自然に均整の取れたフォルムへと近づきやすくなります」
スクワットでダイナミックに稼働する関節は、膝関節と股関節。このうち、膝関節ばかりが働くと大腿四頭筋に効きやすくなるが、股関節もきちんと働くようになるとハムや大臀筋にも刺激が届くようになる。
膝関節と股関節をシンクロさせながら行う理想のスクワットをマスターすれば、足腰の筋肉は十分肥大するし、なおかつバランス良く整うようになり、誰もが納得する強靱な足腰が仕上がる。
② 全身を思いのままに操れるようになる。
スクワットでは、多くの関節と筋肉が同時に働く。前述の股関節、膝関節に加えて、足関節(足首)まで使う多関節運動であり、足腰のみならず、姿勢を保つ体幹の筋肉や、大腰筋のようなインナーマッスルまで動員されている。
「スクワットのように関わる関節と筋肉が増えるほど、全身を連携させて操るコーディネーション能力が求められます。これは、脳で思い描いた通りにカラダを自在に動かす能力です」(岡田先生)
一方、筋トレでは、一つの筋肉のみに負荷を集中させると肥大を誘導しやすい。これはアイソレーションと呼ばれるテクニックで、一つの関節のみを動かす単関節運動を活用する。
たとえば、膝関節だけを伸ばすレッグエクステンションでは、太腿前側の大腿四頭筋のみが鍛錬されるし、膝関節だけを曲げるレッグカールでは、太腿後ろ側のハムだけが鍛えられる。
ただ、単関節運動だけではコーディネーション能力は高まらない。
「動画で筋トレ場面を撮ってみて、想像と違う動きをしていたら、コーディネーション能力が低い証拠。スクワットを続けるとコーディネーション能力がアップし、全身を思いのままに操れるようになり、日常生活でもスポーツでも軽快&快適に動けるようになります」
③ 人生100年時代で大切な、移動能力がアップする。
スクワットという運動が素晴らしい理由は、しゃがんで立ち上がるという動作自体にあるわけではない。そう言うのは筑波大学人間総合科学学術院の久野譜也教授。
「スクワットで鍛えられる大腰筋が重要。大腰筋は、人生100年時代の健康寿命を延ばすために欠かせない“移動能力”を保つうえで、キーとなる筋肉なのです」
大腰筋は、背骨(腰椎)と、脚の大腿骨を結ぶ筋肉。骨格に近いインナーマッスル(深層筋)だ。
「大腰筋は移動の基礎となる歩行サイクルを担い、脚を後ろから前へ動かす瞬間に働きます。大腰筋が衰えると歩幅が狭くなり、爪先が下がって段差でつまずきやすくなり、移動能力が落ちるのです」
ピッチは生涯ほぼ変わらない。加齢で歩く速さが落ちるのは、大腰筋が衰えて歩幅が狭まるためだ。加えて、スクワットで増強できる太腿前側の大腿四頭筋も大切。
「歩行時などで片脚立ちになる瞬間、軸脚側の大腿四頭筋が体重を支えてくれているのです」
移動能力が落ちると日々の買い物や旅行なども楽しめず、生活の質が下がる。加えて高齢者が大腰筋の衰えで転ぶと、骨折→要介護→認知症という負の連鎖を招く。転ばぬ先のスクワットで自立した生活が送れる健康寿命を延ばそう。
④ 腰痛、肩こりのリスクが下がる。
日本人の有訴率(症状を訴える割合)は、男性の1位が腰痛で、2位が肩こり、女性の1位が肩こりで、2位が腰痛。スクワットは、この腰痛と肩こりという悩ましい日本人の国民病から、私たちを救うパワーを秘めている。
慢性的な腰痛の一因は、体幹の筋力不足。腹筋や背筋といった体幹の筋肉を鍛えて自前のコルセットを作り上げると、腹圧が高まり、腰に加わるストレスが減るから、腰痛リスクは下げられる。
「でも、腹筋や背筋をトレーニングしてコルセットを強くしても、背骨(腰椎)を支える軸となる大腰筋が衰えてグラグラしていたら、腰部へのストレスは減りにくい。体幹を鍛えるだけで満足せず、スクワットで大腰筋を強化すると腰痛は緩和します」(久野先生)
大腰筋は、腰椎の前彎カーブを保っているから、大腰筋が弱くて腰が丸まると、連鎖的に背中も丸まりやすくなり、猫背から肩こりが起こる。だから、大腰筋を鍛えると、肩こりも軽くなりやすい。
スクワットでは、背すじを伸ばし、上体を立てた姿勢で行うのが正解だ。この正しいフォームを覚えると普段の姿勢が自ずと良くなり、不良姿勢による腰痛、肩こりから解放されやすくなる。
⑤ 筋肉量を保って痩せ体質になる。
筋肉は鍛えると太くなるが、使わないとみるみる衰えて減っていく。40歳を過ぎて運動不足だと、筋肉は年1%の割合で減り、移動能力の低下に拍車をかける。
筋肉の減少が怖いのは、代謝の低下につながるから。じっと安静にしているときでも消費する基礎代謝の約20%は、筋肉によるもの。オフタイムでも、筋肉は体温を保つために活発に活動しているのだ。
筋肉の減少=代謝の低下なので、何もしないと太りやすくなり、肥満は心臓病やがんといった生活習慣病のリスクを高めてしまう。だからといって、減量のために食事制限に突っ走るのはNG。
食事制限でカロリーカットすると、減ったカロリーを補うため、筋肉のタンパク質も分解されてエネルギー源となる。このため、筋肉の摩滅に拍車がかかるのだ。
減りやすい筋肉量を保ち、積極的に増やすためにも、スクワットは欠かせない。筋肉の約3分の2は、下半身に集中している。スクワットなら、この下半身の筋肉をほぼ総動員して鍛えられる。筋肉が増えると代謝が上がるので、食事制限に頼らず、減量できる。
「美味しいモノを食べても太りにくい体質を維持するためにも、スクワットは強い味方になってくれるのです」(久野先生)
⑥ 他のトレーニングの質も上がる。
スクワットがいかに優れたエクササイズでも、それだけでボディメイクが完結するわけではない。隅々まで偏りなく鍛えるには、上半身を鍛錬するベンチプレス、体幹を鍛えるデッドリフトといったエクササイズも必須である。
それでもスクワットがキング・オブ・筋トレといえるのは、他の筋トレにもポジティブな影響を与えてくれるから。
「ベンチプレスやデッドリフトといったトレーニングは、実は全身運動。足腰の踏ん張りで生まれたパワーを上半身や体幹に伝えて、トレーニングします。ですから、スクワットで下半身を強化すると強く踏ん張れるようになり、ベンチプレスやデッドリフトで上げられる重さも、着実に上がってくるのです」(岡田先生)
話はそれで終わらない。スクワットは有酸素運動の一助にもなる。スクワットは多くの筋肉を使うので酸素の要求量も多く、息が上がりやすい。それは心肺機能を刺激することを意味する。
一方、ランなどの有酸素運動では運動の主役は下半身。スクワットでそこを強くすると、トレーニング量が増やせて、その質も上がる。すると体脂肪の燃焼効率が良くなりカラダが絞れるし、スタミナも高まり、疲れにくいカラダが養えるのだ。
⑦ バリエーション無限大で“鍛える力”が身につく。
トレーニングで大切なのは、パーソナライズ。顔かたちが一人ひとり違っているように、筋力にも柔軟性にも個人差が大きいし、狙いも千差万別。それを踏まえて、自分に合うようにトレーニングをカスタマイズすべきなのである。
赤の他人のトレーニング動画を見て動きを完コピできたとしても、そもそもの狙いが違っていたら、いくら努力しても骨折り損。万人にフィットする正解はない。
そのパーソナライズを学ぶ格好の舞台となるのが、スクワット。
スクワットには、無数のバリエーションがある。スタンス、沈み込む深さ、爪先の向き、腕の位置、両脚立ちか・片脚立ちか、重りを持つか・持たないか…。追求を始めたら、キリがないほど。
「筋トレのなかでスクワットほど“変数”が多いものはなく、すべてのしゃがみ方に意味があります。どんなスクワットが自分にいいのかを、試行錯誤しながら見つけているうちに、発想がクリエイティブになり、パーソナライズで自分なりの正解を見つける力が身についてくるのです」(岡田先生)
スクワットを我がモノにする過程できちんと学習すれば、他のエクササイズも自在にカスタマイズできるようになり、それが“鍛える力”の最大化に直結するのだ。
⑧ ランもゴルフも上達する。
プロレスラーの必修科目の一つに、ヒンズースクワットがある。これは単なる“根性トレ”ではなく、強靱な足腰とスタミナを養うのに有効。レスラーだけではなく、スクワットを欠かさないアスリートが多いのは、スクワットでパフォーマンスが上がるからだ。
そこでも鍵を握るのは、大腰筋。
「スプリンターが速く走るには、股関節を伸展させる太腿後ろ側のハムストリングスの筋力が重要だとされていました。しかし、私たちの研究で選手の大腰筋の太さと100m走のタイムの間に、相関があるとわかりました。後ろ脚を前に振るのに必要なのが、大腰筋だからでしょう」(久野先生)
走るという動きの本質は同じだから、ジョガーでもスクワットで大腰筋を鍛えることは大事。
走るとき以外でも、スポーツの多くは股関節の動きを伴う。ゆえに、スクワットで股関節周辺を鍛えれば、パフォーマンスアップに結びつく。たとえば、ゴルフ。
「ゴルフでは、体重移動を受け止め、カラダが早く開かないようにするために“壁”を作ります。この壁を作るのも股関節なのです」
同じメカニズムにより、テニスのスイング、野球のバッティングやピッチングなども、スクワットで向上する可能性は十分ある。