• 善玉菌と悪玉菌は、ひと昔前の概念。腸内環境と免疫に関する最新トピックス8つ
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2020.06.13

善玉菌と悪玉菌は、ひと昔前の概念。腸内環境と免疫に関する最新トピックス8つ

腸活

あなたの腸は正常か? 良質な睡眠はとれているか? 免疫を高めるため8つのトピックスを今こそ見直そう。

腸内細菌叢は“もうひとつの臓器”。

特定の細菌やウイルスめがけて抗体が迎撃をする。免疫の主役は、こうした「抗体」だが、腸には外からの異物を侵入させないようにカラダを守る「粘膜免疫」というシステムが備わる。このシステムに欠かせない役者が腸内細菌だ。

腸内環境制御学のエキスパート、福田真嗣先生は次のように言う。

「私たちヒトは生まれ落ちたときに腸内細菌が腸に棲み着き、免疫系を発達させます。免疫システムが十分に形成されるのは3歳くらいということが分かっています。腸管内に棲息する40兆個もの腸内細菌の集団、腸内細菌叢は“もうひとつの臓器”として、免疫機能を調節しているのです」

精緻なるその仕組みをひとつずつひもといていくとしよう。

① 腸は免疫のフロントライン。

ではまず、腸の働きのおさらいから。口から入れた食べ物は食道を介して胃に運ばれる。ここで強い酸性の胃液にまみれて消化され、ドロドロの状態に。すると続く十二指腸の弁が開いて食物を迎え入れ、胆囊から胆汁、膵臓から膵液が流れ込む。

こうして食物は消化液によって栄養素に分解される。

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口から入れた食べ物は消化管を通って消化吸収され、残りは便として排出される。このうち免疫の主戦場は小腸。

十二指腸から小腸へ送られた栄養素は、小腸の内部に張り巡らされた絨毛という突起から吸収され血管内から肝臓へ。食べたものに含まれる栄養素は、ほぼほぼこの段階で体内に吸収されるが、その残りカスは大腸に運ばれ、そこで待ち受ける腸内細菌叢に代謝され、最終的に残った未消化物が便として排出される。で、このうち免疫システムが働くのは小腸

「食べるという行為はカラダの外から中に栄養素を取り込む行為。でも、外環境には病原菌やウイルスなどがいます。その中から必要な栄養素を取り込み、悪いものは入ってこないようにブロックする。腸は生体防御のフロントラインともいえます」(福田先生)

② 腸は“内なる外”である。

全身の免疫細胞の実に6〜7割は腸に存在しているという。というのも、腸は菌やウイルスが入ってきやすい“内なる外”だから。

「小腸は消化吸収を担う臓器というだけでなく、人間のカラダの外側と内側を隔てる非常に大事な組織です。また人間の口から肛門まではカラダの外の環境と繫がる内なる外なんです」(福田先生)

内臓なのにカラダの外側? 摩訶不思議な話だが、腸をちくわと考えれば合点がいく。ちくわ本体は腸、開いている穴は外界。

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食物や細菌、ウイルスなどが渾然一体となった消化物の通り道は外界、それを取り囲む腸管はカラダの内側。

「免疫は非自己に対して働きます。食べ物は非自己なので免疫システムにとっては攻撃対象。でも、食物を食べないと生きていけないので、口から入るものに関しては非自己だけど攻撃しなくていいという免疫抑制がかかります。この仕組みを経口免疫寛容といいます」

小腸は、まさに免疫システムのフロントラインなのだ。

③ 上皮細胞と免疫細胞。

ここで、腸における免疫システムについて理解しておこう。

腸管の表面は上皮細胞によって覆われている。この上皮細胞がいわゆる生体防御の最前線。上皮細胞の中にはさまざまな働きをする細胞があり、たとえば抗菌物質を作ったり、上皮細胞を覆うネバネバの粘膜を作ったりする。

このように、腸の上皮細胞は外敵から身を守る鉄壁のガード。ただし、腸管にはパイエル板という領域がある。その上皮にはM細胞と呼ばれる細胞があり、病原体や異物を選択的に取り込んでいる。

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パイエル板周辺には免疫細胞が集まっている。M細胞から取り込まれた異物の情報は抗原提示細胞からT細胞、B細胞というリンパ球に渡され、IgA抗体が作られる。

上のイラストをご覧の通り、“内なる外”にいる異物を敢えて迎え入れているのだ。パイエル板は2次リンパ組織と呼ばれる、胸腺や骨髄で作られたリンパ球をはじめとする免疫細胞が続々集結する場所。これらがM細胞から取り込まれた異物に反応し、抗体が作られる。これが第二のバリア。

「ここで作られるのはIgAという抗体で、粘膜免疫による生体防御の主役です。IgAを作る免疫細胞は全身の粘膜を行き来しつつ、IgAを体外に分泌しますので、腸だけでなく、目や鼻、口や肺などもこの分泌型IgAにより守られます。つまりIgAは粘膜におけるウイルスや病原菌の感染を防ぐ、“予防”の役割を果たしてくれます」(福田先生)

この二重のバリアシステムで踏ん張れば、新型ウイルスの侵入を防げる可能性もあるわけだ。

④ 腸内細菌は免疫の先生役。

粘膜免疫がしっかり機能するか否かで、免疫力のレベルが左右されるといってもいい。じゃあそのシステムに、肝心の腸内細菌はどう関わってくるのか? これ、大変いい質問!

「腸内細菌は私たちの粘膜免疫系を教育してくれる教育者です。腸内細菌の刺激によって上皮細胞で産生される抗菌ペプチドの量が増えたり、T細胞というリンパ球の分化が促されることが分かっています。これは、腸内細菌が本物の感染ではないにしろ、“感染のような”反応を起こすことで免疫システムを強化しているということ。ある意味、銀行強盗の模擬訓練のようなもの。だから腸内細菌は“ちょいワル”くらいの方がいいと思っています」(福田先生)

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腸内細菌や腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸は、粘膜における上皮細胞や免疫細胞の働きを「正しく教育」することで、病原菌やウイルスからの感染やアレルギーを防いでいる。

この腸内細菌のバランスがよくないと、おかしな免疫系が構成されてしまうという。

「通常、免疫はウイルスや病原菌といった外敵を攻撃します。ところが腸内細菌のバランスがよくないと、カラダに悪いものではない食物や花粉を間違って攻撃し、食物アレルギーや花粉症になってしまいます。いいバランスの腸内細菌は、腸内で短鎖脂肪酸という成分を作り、これが過剰な免疫反応にストップをかけ、アレルギーや花粉症を予防できることも分かってきています」

3歳で免疫システムを獲得して以降、ヒト免疫細胞は腸内細菌の教育を日々受けているのだ。

⑤ 善玉、悪玉よりも菌の多様性。

腸内細菌の教育がなければ、免疫システムの強化は図れない。ならば、よい教育者である菌を増やせばいい。よい先生=善玉菌、悪い先生=悪玉菌ってことでしょ? いや、話はそう単純ではない。

善玉菌、悪玉菌というのは、ひと昔前の概念です。地球上でいえば、日本人がいい人ばかりの善玉菌でアメリカ人が悪い人ばかりの悪玉菌、と言っているのと一緒。近年はテクノロジーの進化によってさまざまなことが分かってきています。日本人のAはいいヤツだけれどBは悪いヤツ、今はそこまで解析ができるようになってきました」(福田先生)

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少ない種類の菌が大勢を占めるより、さまざまな種類の腸内細菌が共存している方が腸内細菌全体のバランスを維持でき、結果として健康を保ちやすい。Aという菌がダメならBで行くという選択肢があるからだ。

かつて悪玉菌といわれていた種類の中に免疫細胞にいい作用をしている腸内細菌もいれば、善玉菌と呼ばれていても役立たずの菌がいることも分かってきたという。また、人によってもそれぞれの腸内細菌の機能性が変わってくるらしい。一概に人類共通の善玉菌、悪玉菌とは分類できないのだ。

「そこで、近年では細菌の種類よりも多様性という考え方が注目されるようになりました。たくさんの種類の腸内細菌が腸内にいると、多少イレギュラーなことが起きてもそのバランスを保つことで健康状態を維持できます。逆に多様性が低いということはある特定の腸内細菌の一人勝ちの状態なので、その菌が外からの因子に対応できなければバランスが崩れて不健康になってしまう恐れがあります」

⑥ いろんな食事でエサを増やせ。

当たり前の話だが、腸内細菌は生き物だ。生きてさまざまな活動をするにはエネルギー、つまりエサが必要。はて、腸内細菌のエサとは一体なんぞや?

その答えは食物繊維。多くの食物繊維は幅広い腸内細菌が好む栄養素だ。

「腸内細菌の多様性を高めるためには、たくさんの種類の食物繊維、とくに水溶性食物繊維を摂ることがおすすめです」(福田先生)

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食物繊維の多い大麦やもち麦ごはん、ワカメ、ヒジキなどの海藻、きのこや野菜を摂取。つまり和食が最適。

水溶性食物繊維は腸の中でネバネバしたゲル状に変化するもので、豆、きのこ、海藻、果物などに多く含まれている。

「人間の唾液や消化液の中にはでんぷんなどを分解する酵素はありますが、食物繊維は分解できません。でも腸内細菌は食物繊維を栄養素として分解し、エネルギーとして利用できます。だからいろんな形の食物繊維を摂取することが重要です」

とはいえ、現実はとてもお粗末。2020年の「日本人の食事摂取基準」によれば、食物繊維の1日の摂取目標量は男性で21g、女性で18g。ところが、平成30年の国民健康・栄養調査では男性の平均摂取量は14.7g、女性のそれは14.1g。いずれも大幅な不足状態。しかも全世代にわたって目標未達成。

これでは、腸内細菌たちに栄養が行き渡らず、偏った食事によりその栄養素を好む腸内細菌の一人勝ち状態が生じ、多様性には程遠い。今こそ、食べ方改革を。

⑦ 腸内細菌と運動パフォーマンスの関係。

免疫力をサポートしてくれる腸内細菌を育むのは、なんといっても食事。では、カラダづくりの一翼を担う運動は腸内細菌に影響するか否か?

現在、このテーマは非常にホットなトピックス。福田先生が企業との共同研究で箱根駅伝の優勝候補のチームの腸内細菌を調べたところ、ある傾向が見られたという。

「選手たちにはバクテロイデスという種類の腸内細菌が多く、その割合が多い選手の方が3,000メートル走のタイムが速かったんです。つまり、バクテロイデスが多いほど持久力が高い可能性がある」(福田先生)

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腸内細菌は持久力アップにも関わる。トレーニングのためのバランスのいい食事によってバクテロイデスが増えた可能性もある。

ネズミにこの菌を投与した実験では、泳げる距離や時間が延びたという結果が。また人でも同様の効果が確認でき、運動後の疲労感が軽減され、10キロメートルの自転車走のタイムが十数%速くなった。まるでポパイのホウレンソウ!

「こういった持久力が必要な運動をすると、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸の量が運動後に激減することも分かりました。持久的運動で体内のエネルギーが枯渇すると、短鎖脂肪酸を腸から吸収して肝臓に運ぶことでエネルギーとして利用し、結果的に持久力が上がると考えています」

海外の研究でも腸内細菌によって作られる短鎖脂肪酸が持久力向上に重要という報告が。スタミナは免疫力にも通じる身体的な特性。アスリートもそうでない人も、腸内細菌、重視すべし。

⑧ ストレスは腸に直結する。

脳と腸は双方向で情報をやりとりし、密接に関連している。これが世にいう「脳腸相関」。

腸の情報は迷走神経を介して脳に伝えられたり、脳がストレスを感じるとコルチゾールなどのホルモンを介して腸に伝わり便秘や下痢が起こる。緊張すると下痢をする過敏性腸症候群などは、脳腸相関の悪い典型例。

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脳のストレス→腸の不調→さらに脳のストレス。腸内細菌叢は脳と呼応するひとつの臓器といってもいい。

「この他にも、たとえばパーキンソン病の患者さんの多くは便秘ということが分かっています。パーキンソン病の原因は神経細胞同士を繫ぐシナプスの調節をするタンパク質の変性。同じような変性が腸の神経細胞で起き、それが脳の神経細胞に伝播して症状が出ると考えられています。腸管の神経細胞のタンパク質の変性を抑えることでパーキンソン病を予防することができるかもしれません」(福田先生)

また、うつや自閉症、アルツハイマー病などと腸内細菌が関係することも示唆されている。腸が不調になれば脳が不安を感じ、脳が不安定になれば腸が不調になる。その逆手をとって腸内環境をコントロールすることで脳機能の向上や疾患予防、症状軽減ができる可能性があり、注目を浴びている。

「脳腸相関はひとつのループ。だとすると、私たちがコントロールできるのは腸内環境の方です。悪循環のループに陥ったら腸内環境を整えてこれを断ち切り、いいループの状況をキープすればいいということです」

PROFILE

福田真嗣( ふくだ・しんじ )/ 慶応義塾大学先端生命科学研究所特任教授、メタジェン代表取締役社長CEO。文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。編著に『もっとよくわかる!腸内細菌叢』。TV出演も多数。


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取材・文/石飛カノ イラストレーション/加納徳博 参考文献/『もっとよくわかる!腸内細菌叢』(羊土社)

初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売

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