数字で見る、腸内環境の最新事情
腸内細菌の研究は日進月歩。今明らかな腸の話を数字を通して見ると、腸内細菌の働きが少し見えてくる!?
取材・文/井上健二 イラストレーション/加納徳博 取材協力/福田真嗣(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授、メタジェン代表取締役社長CEO)
(初出『Tarzan』No.771・2019年8月29日発売)
目次
1,000:健康な人が年間に排便しに行く回数。
1日に食事は3回、睡眠は7〜8時間、そして排便は1回。それが快食、快眠、快便の基準というのが日本人の常識だろう。だが食事と睡眠はさておき、排便は1日1回ペースが常識とは限らない。1日1回が多数派ではあるが、排便回数は健康な人でも1年で100回から1000回とかなり幅があるのが実態らしい。
400:腸内細菌の遺伝子総数は、人間のそれの400倍にも達する!
「生命とは、タンパク質の存在形態である」とはエンゲルスの名言。命を作り、育むタンパク質の遺伝情報を記したのが遺伝子である。DNAで伝えられるヒトの遺伝子は2万2000個あり、約10万種のタンパク質の情報を伝えている。しかし腸内でヒトと共生する腸内細菌の遺伝子総数は実にその400倍。情報量でも宿主を圧倒している。
150:全人類が1日に排泄するウンチの量。100×100×150m分の宝の山。
2020の東京オリ・パラのメダルには廃棄されたスマホや家電などの“都市鉱山”から回収された貴金属が使われる。同じように、便に含まれる腸内細菌やその代謝物は、将来人類を救う創薬のヒントになる物質が隠れているかもしれない宝の山。75億人の人類が1日に排泄する量は推定約150万トン。捨てるのはもったいない。
1.5:腸内細菌の重量は、1.0〜1.5kgにもなる。
腸管内に潜み、腸内環境を左右するのは腸内細菌。その重さは成人1人当たりトータルで1.0〜1.5kg。便は排泄された腸内細菌を含み、その数は便1gで約1000億個。腸内細菌などの共生できる常在菌と一緒だからこそ、ヒトの健康は保てる。ちなみに無菌で育てたマウスを外界に出すと感染症で1週間で死ぬ場合もある。
0:胎児の腸内細菌は0個。無菌状態で生まれてくる。
成人には40兆個もの腸内細菌が棲んでいるが、ママのお腹にいる胎児のときは誰しも無菌。腸内細菌が棲む腸管は外界とつながる体外だが、子宮内に限らず健康な体内は基本的に無菌だ。胎児は産まれるときにママから常在菌を受け取り、やがて周囲の環境からも菌を取り込み、母乳やミルクを飲みながら腸内細菌を育て始める。
160:腸内細菌は推定約1,000種類。なのに共通しているのは160種程度。
腸内細菌は数百種から1000種、総数は約40兆個といわれる。カラダの細胞は約37兆個だから、それよりも多い。そのうち、ほぼ全員が共通して持つのは160種類程度。顔カタチが一人ひとり違うように、家庭環境、生活圏、食事などのライフスタイルの違いにより、腸内環境も人それぞれ。それが体質の違いを生むこともある。
2003:ヒトゲノムが解明された後、腸内細菌の遺伝子研究が始まる。
腸内細菌が脚光を浴び始めたのは、地道に培養して研究するほかなかった腸内細菌の実態が遺伝子レベルでわかったから。それを支えたのは03年に終了した、人間の全遺伝情報であるヒトゲノムの解析に使われた分析技術。この技術を応用して腸内細菌の遺伝子を網羅的に調べるメタゲノム解析が進み、その多様性と重要性が判明。
2:自分の腸内環境に合う食事をスクリーニングする時間。
腸内環境にいちばん大きな影響を与えるのは食事だが、腸内環境には個人差が大きいのでどんな食事がいいと断言できない。腸内環境を整えるとされるヨーグルトもバラエティ豊かでどれが合うかは食べてみないとわからない。便通や体調に前向きな変化が出たら“当たり”。最低2週間は食べ続けてスクリーニング(選別)しよう。