今日から習慣化! 「自体重トレ」でこれだけ鍛えられる

カラダをなんとかしたい、よしジムでも契約するか、という人。しばしお待ちを。自体重=自分の重さ。つまり身一つで始められるトレーニングを推す理由は、これだけある。

取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/ヤマウチショウゴ ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/髙橋健太郎(関東学院大学理工学部健康スポーツ計測コース教授)、清水忍(IPF代表)

初出『Tarzan』No.824・2021年12月16日発売

なぜ始めるなら自体重トレ?

① お金も時間も気合もいらない

パーソナルジムの入会費や予約チケット? いりません。自宅とジムを往復する時間? 全然不要。「逃げちゃダメだ」と自分を奮い立たせる呪文? ノット・ニード!

カラダや健康を維持する3本柱は「運動・栄養・休養」だとされている。栄養と休養に関しては、人は誰に言われなくても食べるし眠る。それぞれの本能の中枢が脳に備わっているからだ。でも、運動に関しての本能は残念ながら持ち合わせていない。だからほとんどの人はトレーニングをサボったり途中で放り出したりするわけだ。

ならば、運動を始めるに当たってのハードルの数は少なく、低ければ低いほどいい。お金も時間も気合もいらない自宅で行う自体重トレがまさにその条件を満たすのだ。

② ケガをしにくいカラダの土台が作れる

「基礎的な自体重トレをする目的のひとつは、ケガをしないカラダを作るということ」と言うのは、筋生理学とスポーツ計測の専門家、関東学院大学教授の髙橋健太郎さん。

「家を作るとき、土台がしっかりしていれば崩れにくい。それと同じように、強い負荷がかかった場面でも、それに耐えうる筋力や柔軟性があればケガをしにくいといえます」

いきなりベンチプレスをして肩を痛める。張り切って走って膝を壊す。久々にプールで泳いだ途端にこむら返り。ああやっぱりやめときゃよかったと運動にますますマイナスイメージが付加される。目標をどこに定めてもいいが、まずは基本の自体重トレでケガをしないカラダを作ることがマスト。

③ スクワットだけでこれだけの効果あり

下の図は髙橋研究室で計測されたスクワットの際の筋電図。皮膚表面に電極をつけ、筋細胞が発する活動電位を計測したものだ。波形が大きいほどその筋肉が力を発揮しているということ。

髙橋研究室で計測されたスクワットの際の筋電図

前脛骨筋は脛、腓腹筋はふくらはぎ、外側広筋は太腿の外側、大臀筋はお尻の筋肉。被験者は一般の大学生。トレーニーではない一般人でもフルスクワットでこれだけの筋力が発揮される。出典/髙橋研究室未発表データ

しゃがむ動作のときに脛の筋肉や太腿が、立ち上がる動作のときにふくらはぎの筋肉が働いているのが分かる。おの筋肉は動作の最中、ずっと稼働したまま。

「こうして見ると、やはりスクワットは万能トレーニングです。上半身の筋肉は普段の生活で使う機会が多いですが、現代人に一番多いのは座位行動。下半身の筋肉をこれだけ一気に使うトレーニングは他にありません」(関東学院大学教授・髙橋さん)

1回のスクワットで下半身はこれだけ刺激されるのだ。

④ 追い込まなくても筋肉は反応する

上の筋電図はフルスクワットをしたときのもの。和式トイレで用を足すときのようにお尻を床ギリギリまでしっかり落とす動きだ。

一方、下の写真のスクワットは膝が直角になるまでお尻を落とすハーフスクワット。どう見ても、こちらはフルに比べて効果が低そう。

スクワットで刺激される筋肉の部位 大臀筋 外側広筋 前脛骨筋 腓腹筋

「実はそうとも限りません。動作として考えると発揮される筋力はフルでもハーフでも同じです。違いは動作時間で、フルで行うと1.5秒間、ハーフでは1.2秒間筋肉が収縮します。その分、エネルギー消費としてはフルの方が大きいということです」(関東学院大学教授・髙橋さん)

発揮される筋力はフルであろうとハーフであろうと差異はない。ならば自分に合ったレベルの負荷で必要十分。筋肉は必ず反応する。

⑤ 基本トレさえ極めれば全身が鍛えられる

熟練のトレーニーたちはどうやら部位を細かく分けて、一度にあれやこれやの種目に取り組んでいるという話。自分にはとてもできそうにないや…。

などと難しく考える必要はない。手始めの自体重トレは必要最小限の3つの種目に取り組めばそれでよし。もうお馴染みのウデタテ、フッキン、スクワットだ。パーソナルトレーナーの清水忍さんによれば、

「この3種目は自分でできる筋トレのベース中のベース。複合運動として完成度が高い種目です。ウデタテで上半身、スクワットで下半身。この2つでも体幹部の筋肉は使われますが、フッキンで腹直筋など体幹への刺激をさらに増やせば完璧です」

複合運動の筋電図(ウデタテの場合)
ウデタテを1回行った時の筋電図

スタート姿勢から胸を床に近づけていく動きでは上腕二頭筋が、フィニッシュから上体を上げるときには大胸筋と上腕三頭筋が主に動員されている。まさに上半身の複合運動。出典/髙橋研究室未発表データ

基本3種目で全身コンプリートを目指す。できそうな気がしてきた?

ウデタテで刺激される主な筋肉

ウデタテで刺激される筋肉

フッキンで刺激される主な筋肉

フッキンで刺激される筋肉

スクワットで刺激される主な筋肉

スクワットで刺激される筋肉の部位

⑥ 脳とカラダの連携が磨かれる

筋電図の波形の振幅はミクロ単位の筋肉細胞が動員される数によって決まる。同じ運動でも筋肉の細胞が多く働けば波形の振幅はより大きい。ということは、と筋肉の連携がとれていない初心者は熟練トレーニーに比べて、ウデタテ時の大胸筋の波形の振幅が小さい可能性がある。でも大丈夫。

「筋肉を意識して鍛えていくうちに、脳の指令を多くの筋肉細胞に届けられるようになります。さらに続けていくうちに、この動作をするときはこの筋肉が動くという情報が小脳という場所に蓄積されていきます。すると省略プログラムが働いて俗にいう“カラダが勝手に動く”状態になるのです」(関東学院大学教授・髙橋さん)

イッツオートマチックになればしめたもの。

⑦ やらされるより自主的の方が効果が高い

その男は週に一度、パーソナルジムに通う習慣を持っていた。ところがコロナ禍でジムは閉鎖。週に一度の運動の機会を失った。そこでどうしたか? トレーナーに毎日の課題を提案してもらい、ひとりせっせと自宅で自体重トレを行ったのだ。その間約2か月。そしてコロナ明け、どうなったか?

「最終的にその方はウデタテを連続45回できるようになりました。これは回数的にも進歩という意味でもすごいことです。ベンチプレスの挙上重量も週に一度ジムに通っていた頃に比べて格段に上がりました。トレーナーの指導を受けているときより自主的にトレーニングを行った方が効果が見られたという、実に興味深い結果となりました」(パーソナルトレーナー・清水さん)

これは実話です。

⑧ 続けていくことで向上心が必ず芽生える

最初にお伝えしたように、人にはそもそも「運動欲」という中枢が存在しない。ところが、一度運動の習慣を身につけると不思議なことに運動に対する意欲がフツフツと湧いてくるという。

「小脳で運動の省略プログラムができあがることによって、もっとカラダを動かしたい、逆にやらないとカラダがおかしいと感じるようになるはずです」(関東学院大学教授・髙橋さん)

体力がつくことでライフスタイルにも変化が表れてくるらしい。

「そもそも筋肉がない人は基礎的な自体重トレで筋力や筋持久力が間違いなく向上します。すると、普段の生活でも活動的な人間に変化していくんです」(パーソナルトレーナー・清水さん)

己がどう変化していくか興味がある人は自体重トレに挑戦してみよう!