• 「皮下・異所性・褐色」。“3種の脂肪”の役割と問題点を深掘り解説
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2021.02.05

「皮下・異所性・褐色」。“3種の脂肪”の役割と問題点を深掘り解説

脂肪

一口に「脂肪」と言っても、わたしたちのカラダに付いている脂肪には、いくつかの種類がある。一概に悪者とは言い難い“機能”を持ったものも。「皮下脂肪」「異所性脂肪」「褐色脂肪」の3種類を深掘りします。

男女で違う、皮下脂肪の溜まり方。

筋肉に外側にある「アウターマッスル」と内側にある「インナーマッスル」があるように、体脂肪にもアウターとインナーがある。インナーが内臓脂肪であり、アウターが皮下脂肪だ。

皮下脂肪は皮下のすぐ下に広がり、アウターマッスルを覆う脂肪細胞の集まり。均一に蓄積するわけではなく、溜まりやすいところと、そうでないところがある。

皮下脂肪の溜まりやすいカラダの部位
皮下脂肪の溜まりやすいカラダの部位

体幹で皮下脂肪が溜まりやすい部位は、お腹と背中。標準体型でも10mm以上の厚みがある。手足で皮下脂肪が溜まりやすいのは、太腿と上腕後ろ側。同じく標準体型でも10mm以上の厚みがある。

アウターとインナーには男女差もある。男性は内臓脂肪を溜めやすく、女性は皮下脂肪を溜めやすい。女性らしいメリハリのある体型をデザインしているのは、骨でも筋肉でもなく皮下脂肪にほかならない。女性は胸やお尻に皮下脂肪を誘いやすい傾向があり、その誘導には女性ホルモンが関わる。

皮下脂肪、3つの大事な機能。

一般的に、内臓脂肪は溜まりやすく、減りやすい。一方の皮下脂肪は溜まりにくいが、一度溜まると減りにくいとされている。

この違いを生むのは、おそらく機能性の有無。内臓脂肪は減らしてもさほど困らないが、皮下脂肪は減らしすぎると困る。だから、皮下脂肪は減りすぎないようにコントロールされているのだ。

皮下脂肪の機能は、大きく3点ある。

1つ目は、飢餓に備えたエネルギー。体脂肪には1g7.2キロカロリーのエネルギーがあり、いざというときの頼れる糧となる。

2つ目は、クッション材としての働き。ヒトは皮下脂肪製の着ぐるみを着たようなものであり、打撲などのダメージが内部まで及ばないように守ってくれている。

3つ目は、断熱保温材として。ヒトは、外気温にかかわらず、体温を一定範囲内に保っている恒温動物。皮下脂肪は一種の断熱保温材であり、体温が奪われるのを防いで体温の維持に貢献している。

内臓脂肪と皮下脂肪の違いは?

皮下脂肪も内臓脂肪も、脂肪細胞の作りは大きく変わらない。中に収められている体脂肪も、どちらも同じく中性脂肪である。

両者の性質の違いを生んでいる要因の一つは、ホルモンに対する感受性だと考えられている。

「少なくとも試験管レベルでは、皮下脂肪と内臓脂肪ではインスリンやアドレナリンといったホルモンへの反応性に差があります」(生理学研究所の箕越靖彦教授)

皮下脂肪と内臓脂肪を比べると、皮下脂肪の方が、ホルモンへの感受性は総じて低い。

インスリンは、食事に含まれる糖質が吸収されて血液中に分泌された血糖を、脂肪細胞に取り込ませて体脂肪の合成を促している。皮下脂肪の反応性は内臓脂肪より低いため、皮下脂肪は内臓脂肪よりも合成されにくい。

アドレナリンは、インスリンとは真逆で、脂肪細胞の中性脂肪の分解を促してくれる。皮下脂肪の反応性は内臓脂肪よりも低いため、皮下脂肪は分解されにくいのだ。

溜めないためには、タンパク質。

皮下脂肪は落ちにくいからこそ、余計な体脂肪を溜めない工夫が求められる。そこで大切にしたいのは、栄養バランス。栄養バランスが乱れた食事は、食べすぎるからだ。

3大栄養素でカラダがもっとも重視するのは、タンパク質の摂取。カラダを作る栄養素だからだ。タンパク質の少ない食事だと、質を量で補うために、摂食量全体が増えてカロリー過多に陥りやすい。加工食品、ファストフード、清涼飲料水などの摂りすぎも問題。これらに含まれる人工甘味料や果糖は、過食しやすいのだ。

「ヒトは舌だけではなく、消化管でも栄養素を感知して、その情報をに伝えて満足感を得ています。人工甘味料や果糖ではその仕組みがうまく働かないため、満足感が得にくく、食べすぎる恐れがあるのです」

生の果物に含まれる果糖は少量だから心配無用だが、果糖ブドウ糖液糖などの甘味料(異性化糖)から果糖を大量摂取するのはNG。栄養成分表示をチェック!

第3の脂肪、異所性脂肪。

中性脂肪の大半は、脂肪細胞に収められている。脂肪細胞は、中性脂肪を蓄える専門コンテナのようなものだ。ところが、肥満が進むと、中性脂肪をプールするのが得意な脂肪細胞以外の細胞にも、中性脂肪が溜まり始めるようになる。

こうした通常の脂肪細胞以外の細胞に溜まるイレギュラーな脂肪を、異所性脂肪と呼ぶ。皮下脂肪、内臓脂肪に次ぐ“第3の脂肪”だ。異所性脂肪がおもに溜まるのは、肝臓、膵臓、筋肉など。

脂肪細胞以外の細胞にとって、脂肪は想定外の邪魔者。異所性脂肪は細胞本来の機能をダウンさせてしまい、体内にさまざまなトラブルを誘発する。

中性脂肪は、基本的には皮下脂肪&内臓脂肪⇒異所性脂肪という順番で溜まりやすい。でも、皮下脂肪と内臓脂肪が満杯になるまで、異所性脂肪がまったく溜まらないわけではない。お腹がせり出して、内臓脂肪も皮下脂肪も増えだしたら、異所性脂肪の蓄積もスタートしていると覚悟した方がいい。

お腹が出てきたら、異所性脂肪注意報が発令中
お腹が出てきたら、異所性脂肪注意報が発令中。/体脂肪の溜まり方には、ある程度の傾向がある。余分なカロリーを摂りすぎると最初に溜まりだすのは、皮下脂肪と内臓脂肪。肥満度がさらに進むと、皮下脂肪と内臓脂肪の蓄積と並行しながら、危険な異所性脂肪が溜まってくる。

内臓に溜まると、大迷惑。

体内の代謝の要となるのが、肝臓と膵臓。異所性脂肪はその両者に溜まり、代謝を攪乱する。

肝臓を作る肝細胞内に異所性脂肪が溜まりすぎた状態が、いわゆる脂肪肝。脂肪肝=お酒の飲みすぎというイメージが強いが、下戸でも脂肪肝に陥ることがある。その代表が、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)。NASHが進むと肝細胞が壊死して、肝硬変や肝がんへ進行することもあるというから恐ろしい。

「内臓脂肪が溜まりすぎるほど、NASHに陥りやすい。肝臓は内臓脂肪と隣接するため、分解された内臓脂肪が流入して異所性脂肪に変わりやすいためでしょう」

膵臓内に異所性脂肪が溜まると、インスリンを分泌するβ細胞が障害されて、血糖値を下げるインスリンの分泌にブレーキがかかる。その結果、血糖値が下がりにくい糖尿病リスクが高まる

ちなみに、β細胞がインスリンを分泌する際、同時に出るアミリンという物質は、アミロイドという物質を作りやすい。アミロイドが脳内で溜まると神経細胞を阻害してアルツハイマー病を起こすが、β細胞の周囲に集積したアミロイドもその機能を妨げてインスリン分泌を弱める。

筋肉内にも、溜まってしまう。

筋肉に溜まる異所性脂肪には2つのタイプがある。

1つ目は、筋肉を作る筋細胞(筋線維)の間にある線維芽細胞に溜まるもの。牛霜降り肉の白い部分は、線維芽細胞に異所性脂肪が溜まり、脂肪細胞のように振る舞うようになったものだ。そしてもう1つは、筋細胞の内部に侵入して溜まるもの

筋肉内の異所性脂肪の溜まり方
筋肉内の異所性脂肪の溜まり方

筋細胞内に異所性脂肪が溜まると、筋肉内に血糖を取り込んで血糖値を下げるインスリンの効き目が落ちる「インスリン抵抗性」が生じる。インスリン抵抗性があると血糖値が高くなりやすく、肥満&内臓脂肪の蓄積を招きやすい

だが、例外もある。太っている人ばかりではなく、長距離ランナーのように持久的なトレーニングを続けているアスリートでも、筋細胞内に異所性脂肪が溜まる。だが、こうしたアスリートではインスリン抵抗性の低下は見受けられない。「アスリートパラドックス」と呼ばれる現象だ。理由は不明だが、おそらく筋肉のエネルギー源として体脂肪と血糖の要求度が高いからだろう。

異所性脂肪の「負のループ」。

幸いにも、脳内には異所性脂肪は溜まらない。だが、異所性脂肪が溜まるほど体内に体脂肪が溢れると、血中に脂肪酸が増えてくる。それが脳に作用すると、さらなる体脂肪の累積を招くリスクが高まる

脳内に出入りする血管には、血液脳関門という関所のような場所がある。しかし、関所が邪魔で、脳の外の様子がまるでわからないのも困る。

とくに血糖値などの情報で食欲をコントロールする視床下部は、脳の外の様子を覗き見する必要がある。このため視床下部の食欲中枢の周辺では、血液脳関門があえてルーズになっている。

「血中の脂肪酸が多すぎると、一部は血液脳関門をすり抜け、視床下部に炎症を起こす。炎症があると食欲中枢の働きが乱れます」

脂肪細胞に脂肪が溜まりすぎると、脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌されて脳に働き、食欲を抑える。肥満者ではこのレプチンの効き目が落ちるレプチン抵抗性が生じる。その一因は、炎症による食欲中枢の混乱にある。

褐色脂肪のお仕事は、脂肪の燃焼。

溜まる場所も性質も異なるが、皮下脂肪と内臓脂肪はともに白色脂肪細胞というグループに属する。中に大きな体脂肪の塊(油滴)を溜めるため、白っぽく見えるのだ。それ以外にも、体内には茶色っぽく見える脂肪細胞もある。それが褐色脂肪細胞

褐色脂肪細胞の構造
褐色脂肪細胞の構造

白色脂肪細胞は脂肪を溜めるのが仕事だが、褐色脂肪細胞の働きは正反対。脂肪を燃やして熱を作っている。脂肪を燃やすには酸素の手助けがいるし、酸素を運ぶには鉄が不可欠。鉄を含むため、褐色脂肪細胞は茶色いのだ。

白色脂肪細胞内には、体脂肪の大きな油滴が一つあるだけだが、褐色脂肪細胞内には細かい油滴がたくさんあり、脂肪を代謝するためのミトコンドリアという器官も数多く含まれている。油滴を効率的に熱に変える工夫である。

遺伝子レベルでは、褐色脂肪細胞は筋肉に似た性質を持っているといわれています」

筋肉も安静時には熱を作るから、褐色脂肪細胞はその仲間なのか。

痩せるのに役立つ(?)褐色脂肪。

赤ちゃんの頃は、誰でも背中に多くの褐色脂肪細胞を背負う。筋肉は密かに熱を作って体温を保っているが、赤ちゃんは筋肉が少ないため、代わりに褐色脂肪細胞が保温するのだ。冬眠動物も、褐色脂肪細胞で体温をキープしているという。

大人では褐色脂肪細胞の大半は役目を終えて消え去り、首や肩や鎖骨まわり、背骨に沿って少量残っているにすぎない。簡単に言うとマフラーを巻く部分だ。

成人と赤ちゃんでは在り処が異なる。
成人と赤ちゃんでは在り処が異なる。

わずかに残った褐色脂肪細胞が活性化できたら、余分な体脂肪を燃やして熱に変えられるから、痩せられる。褐色脂肪細胞を活性化する唯一の方法は、寒冷刺激。寒くなれば、熱を作るために、褐色脂肪細胞は活発に働き始めるのだ。ならば、寒中水泳でもやるべき?

「大人で残っている褐色脂肪細胞の量にはバラツキがあり、ほとんどなくなっている人も多い。それよりも普通に運動で体脂肪を燃やす方が確実です」

体脂肪を燃やす褐色細胞の仕組み。

褐色脂肪細胞ではどうやって脂肪を空焚きしているのか。もう少し深掘りしてみよう。

空焚きの現場は、脂肪細胞内のミトコンドリア。二重膜を持ち、酸素を介して細胞の直接のエネルギーであるATPを合成する。ミトコンドリアがATPを作る最初のプロセスでは、脂質由来の脂肪酸などのエネルギー源から水素イオンを次々と分離し、ミトコンドリアの内膜と外膜の間に貯める。これを電子伝達系という。

水素イオンが貯まって濃度差が生じると、その差を埋めるために水素イオンが内膜の内側へと戻ろうとする。ATP合成酵素はこの流れを使い、まるで水力発電所のタービンを回転させるようにATPを作る回路を回すのである。

ところが、褐色脂肪細胞のミトコンドリアには、UCP1という毛色の違うタンパク質が潜んでいる。体脂肪が分解されて脂肪酸が増えてくると、その刺激で普段は閉じているUCP1のバイパスが開く。そうなると水素イオンは、ATP合成酵素の回路を素通りして、このバイパスを通って流れるようになり、エネルギーではなく熱を生むようになるのだ。

体脂肪を空焚きする仕組み。
体脂肪を空焚きする仕組み。

目が離せない、ベージュ細胞。

脂肪細胞は、大きく白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞に分けられる。それに加えて近年注目されているのが、ベージュ細胞。その名の通り、ベージュ色の細胞であり、“第3の脂肪”ならぬ“第3の脂肪細胞”と呼びたい存在だ。褐色脂肪細胞と同じように、ベージュ細胞にもUCP1が多く発現しており、体脂肪を空焚きして熱を作る作用がある。

ベージュ細胞は皮下脂肪の間に点在しているが、全身にあるわけではない。はっきりとした所在には不明な点も多いけれど、一部は鎖骨の下などで褐色脂肪細胞とも混在しているようだ。

かつて褐色脂肪細胞と見なされていたものには、少なからずベージュ細胞が含まれていたと考えられています」

米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の梶村真吾准教授らの研究によると、ベージュ細胞はUCP1を介さずに糖質を優先的に使って熱産生を行うこともあり、肥満や糖尿病の改善に有効という。ベージュ細胞をめぐる今後の研究の進展から目が離せない。

取材・文/井上健二 イラストレーション/高橋将貴 取材協力/箕越靖彦(自然科学研究機構生理学研究所生体機能調節研究領域生殖・内分泌系発達機構研究部門)

初出『Tarzan』No.802・2021年1月4日発売

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