疲労回復にはウナギよりサラダチキン。疲れたカラダに効く6つの食事術
取材・文/井上健二 イラストレーション/三宅瑠人 取材協力/桑原弘樹(桑原塾、コンディショニングスペシャリスト)、河村玲子(管理栄養士、トレーナー)
初出『Tarzan』No.794・2020年8月27日発売
夏バテを引きずっていたり、夏に溜まった疲れがカラダに現れたりと、なにかとダルさを感じやすい秋口。
疲労回復には食べてパワーをつけるのが早道だが、闇雲にたくさん食べるのではなく、何をいつ摂るのが効率的かを知っておこう。6つのトピックから、さまざまな方面からの疲れに効く食材と栄養素について解説する。
目次
① 夏バテ解消には、高価なウナギより、安価なサラダチキン。
夏バテ解消の最強食=栄養たっぷりのウナギが長年の定番だったが、現代ではすっかり様変わり。ウナギより鶏胸肉の方が夏バテに効くというのが、ニューノーマルになって久しい。
夏バテに打ち勝つ鍵を握るのは、イミダゾールジペプチド(以下、イミダペプチド)という成分。2000年代前半、日本で産学官を挙げて行われた「抗疲労プロジェクト」の研究成果として見出された貴重な抗疲労成分である。
後述するように、夏バテの震源地となるのは、脳にある自律神経の中枢。そこで有害な活性酸素による酸化ストレスが高まると、疲労が起こる。イミダペプチドは脳内で抗酸化作用を長時間発揮して、夏バテを元からリセットしてくれるのだ。
イミダペプチドが豊富なのは、何といっても鶏胸肉。鳥が飛ぶには羽ばたき続けなければならないため、羽根の付け根である胸肉には、酸化による疲れを防ぐイミダペプチドが多く含まれている。
養鶏場の鶏は飛ばないが、その胸肉にもイミダペプチドはリッチ。100gで1日に必要なイミダペプチドが摂れる。鶏胸肉が気軽に食べられるのが、サラダチキン。ウナギよりもうんと安く、お財布に優しいのも嬉しい。
② 自律神経の疲れはアスタキサンチンでカバーする。
疲れの背景にあるのは、自律神経の不調。自律神経は交感神経と副交感神経からなり、呼吸、体温、消化吸収といった生きるために欠かせない作用を24時間休みなく操る。
夏は外気温が高いうえに、室内外の温度差が激しく、汗もかきやすい。そうした過酷な環境に対応するため、自律神経がフル稼働するとそれだけ活性酸素も発生しやすく、酸化ストレスで自律神経の中枢にダメージが及び、疲労が蓄積。夏バテに至る。
前述のイミダペプチド以外に、自律神経を酸化から守る成分として近年脚光を浴びるのが、アスタキサンチン。鮭のピンク色を作る天然色素だ。産卵時に川を遡行する鮭の体内では運動で絶えず活性酸素が生じるため、アスタキサンチンが備わる。
また、夏のようにストレスが加わり続けると、交感神経が優位になりすぎ、自律神経のバランスが崩れる。
「アスタキサンチンは脳内に入ると抗酸化力を発揮。交感神経の働きを抑えて、副交感神経を優位にします」(管理栄養士の河村玲子さん)
この他、アスタキサンチンは運動時の筋疲労もセーブする。激しい運動を続けると糖質が減りすぎ、疲労感が出やすい。アスタキサンチンは脂質の利用を促すため、糖質の節約につながり、疲れが抑えられるのだ。
③ 牡蠣の亜鉛でテストステロン増量。疲労を吹き飛ばす。
男性が何となくダルく、やる気も元気も出ないなら、男性ホルモンのテストステロンが減っているかも。テストステロンには、筋肉を増やして体脂肪を減らし、体型を整える作用がある。この他、前向きなバイタリティを高めて、メンタル面から疲労を吹き飛ばしてくれる。
テストステロンは根っからの善玉ホルモンなのだが、残念ながら30代以降は減りやすい。そこへ夏場のストレスや睡眠不足が加わると、分泌量がダウンして疲れが抜けにくい。暑気払いでビールを飲みすぎるのもNG。アルコールもテストステロンの分泌にブレーキをかけるからだ。
テストステロンを増やすには、亜鉛とアリシンの摂取が有効。どちらもテストステロンの合成を促す。亜鉛は1日11mg摂りたいが、実際の平均摂取量は9mg程度。牡蠣、牛肉などからもっと摂ろう。アリシンはニンニク、ネギ、ニラに特有のにおいの成分。いずれも古来スタミナがつくとされてきた野菜だが、真価はテストステロン増量にあったのだ。
あわせてやりたいのは筋トレ。一度に10回しか反復できない高強度の筋トレを10回×3セット行うと、テストステロンは増える。自宅での低強度の自体重トレなら、できるだけゆっくり行い、10回でギブするように追い込みたい。
④ 肝臓から来る疲れに効くアミノ酸トリオ。
ぐっすり眠れば疲れは抜けると思いたいが、そうは問屋が卸さない。内臓は、睡眠中も休みなく営業中。内臓に負担をかける生活が続く限り、疲れとは一向に縁が切れない。とくにいたわりたいのは肝臓。栄養素の代謝とアルコールなどの解毒を一手に引き受ける内臓界の重鎮だ。
「肝臓疲労を避ける栄養素はオルニチン、タウリン、システイン。いずれもアミノ酸です」(河村さん)
オルニチンは、有害なアンモニアを無害化するオルニチン回路を活性化する。オルニチンはシジミに多い。オルニチンを摂ると、肝機能の目安の一つγ-GTPの値も改善する。
タウリンは、肝臓の機能を高め、体内環境を一定範囲内に保つホメオスタシス(恒常性維持)をサポートする。タウリンはタコ、イカや、ホタテなどの貝類から摂れる。
システインは、肝臓の重荷となるアルコール代謝を助ける。コロナ禍の憂さ晴らしとばかりに、オンライン飲み会で連日飲みすぎると、肝臓に疲労が溜まる。システインは肝臓でアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素を活性化する。システインがリッチな食品の代表格は、卵。卵でコレステロール値が上がるというのはガセネタだから、安心して食べよう。
⑤ 1日1回の鶏レバーでビタミンB群をまとめて摂る。
ビタミン不足で疲れが抜けないこともある。なかでも気をつけたいのは、計8種のビタミンB群の欠乏。ビタミンB群の作用は多彩だが、ことに見逃せないのは、エネルギー代謝を助ける補酵素としての役割。3大栄養素の代謝に関わり、糖質はB1、脂質はB2、タンパク質はB6がそれぞれ代謝している。
この他、B12は光に対する感受性を高め、体内時計が正しくリズムを刻むのを助ける。体内時計が狂うと、疲れやすいので要注意。8種のB群は助け合って働くから、まとめて摂るべき。一般的にはB群コンプレックスと呼ばれるサプリでの摂取が推奨されるが、まとめて摂れる食品もある。鶏レバーだ。
「鶏レバーには、B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンという8つのB群がすべて含まれます」(河村さん)
疲れを感じたら焼き鳥店へGO。鶏レバーを真っ先に注文しよう。B1がより豊富な豚肉の串焼きを追加注文すれば、パーフェクト。いずれも2本ずつ食べるといい。ただしB群は水に溶ける水溶性。摂り貯めはできない。焼き鳥店に行けない日は、便利なB群コンプレックスを利用しよう。サプリは絶対ダメと全否定せず、食事とサプリを使い分ける柔軟な二刀流が正解だ。
⑥ 重曹などアルカリ成分で酸性化疲労を取り、パフォーマンスUP。
体内のpHは弱アルカリ性。だが、疲れるような運動や活動をすると、筋肉などで水素イオンが大量発生し、酸性に傾きやすくなり、筋疲労の引き金となる。体温と同じように、pHも一定ゾーン内に収まるように調整されているが、一時的に酸性気味になると疲れをもたらす。この酸性化による疲労を防ぐのに有効なのが、アルカリ性食品。野菜や果物もアルカリ性だが、よりダイレクトに酸性化を防ぐのは、重曹。
「国際スポーツ栄養学会は、高強度運動の60〜90分前に体重1kg当たり300mgの重曹を摂ると、筋疲労が防げるとしています」(河村さん)
体重65kgなら約20g。食用の重曹をスポドリに混ぜて飲むといい。1回5gを1日2回×5日間続ける方法でも、疲労回復に役立つという。もう一つ、pHを弱アルカリ性に戻すアルカリ物質がある。クエン酸だ。
「クエン酸はpHバランスを整えると同時に、細胞のミトコンドリアでエネルギーを作るクエン酸回路をスムーズに回し、細胞レベルから疲労回復を促します」(コンディショニングスペシャリストの桑原弘樹さん)
クエン酸は酸っぱい食品に含まれている。レモンなら2個分、黒酢なら大さじ1杯分が適量。こちらは食品から美味しく摂れるのが嬉しい。