タンパク質にプラスすればもっと効く。野菜の賢い食べ方
カラダ作りに欠かせないタンパク質だが、その働きを補完するのが野菜である。ここでは食卓の“陰の主役”ともいうべき野菜をフィーチャー。賢い食べ方を考える。
取材・文/倉石綾子 イラストレーション/三宅瑠人 取材協力/牧田善二(AGE牧田クリニック院長)、こばたてるみ(しょくスポーツ) 料理製作/清水雄太郎(kaiki)
初出『Tarzan』No.789・2020年6月11日発売
目次
“カラダ作り”に野菜が必要なワケ。
筋肉を作るタンパク質に比べて、ついついおざなりになりがちな野菜。
「糖質、脂質、タンパク質という3大栄養素に、ビタミンとミネラルを加えた5大栄養素が食事の基本。ビタミン、ミネラルはカラダの生理機能を整える役割を担っており、タンパク質や脂質の代謝にも必要不可欠です」
そう話すのは、糖尿病の専門医であり、生活習慣病と肥満治療のクリニック〈AGE牧田クリニック〉院長を務める医学博士の牧田善二先生だ。
「たとえ3大栄養素が足りていても、カラダを快調に動かす潤滑油の役割を果たすビタミンやミネラルが不足すればさまざまな不調が生じます。そして野菜にはビタミン、ミネラル、さらに炭水化物の一種である食物繊維が豊富に含まれているのです」
それぞれの働きを紹介しておこう。
3大栄養素をエネルギーとして代謝する際には、人間が生まれながらに持っているアミラーゼやプロテアーゼといった酵素が必要になる。この酵素を働かせるのがビタミンだ。A、B群、C、D、K、葉酸などいろいろな種類があり、多種多様な働きをする。
一方、ミネラルは骨や血液、細胞の構成材料であり、内臓や脳の働きをサポートする。鉄、亜鉛、カルシウム、カリウム、マグネシウムがこれにあたる。免疫機能が集中する腸内の環境を整えて免疫力を向上させるのが食物繊維。腸内環境向上に加え、肥満や高血圧など生活習慣病の予防効果もあるのだ。
スルフォラファンを知ってますか?
これらとは別に、野菜ならではの機能性成分、その名も“ファイトケミカル”にご注目を。
ファイトケミカルは植物のみが生成できる成分で、ポリフェノール、イソフラボン、βカロテンなどがその代表格。現在、確認されているだけで約900種もあり、生活習慣病の予防と改善、がん細胞の抑制、デトックス、高い抗酸化作用によるアンチエイジング、免疫力アップなどその効能もさまざま。
なかでも、牧田先生が野菜ビギナーに薦めるファイトケミカルは、ブロッコリーやカリフラワーなどアブラナ科の野菜に多く含まれるイオウ化合物のスルフォラファンだ。
「血糖値を下げる効果が実証されているスルフォラファンですが、近年では国立がん研究センターの研究結果により非喫煙者の男性に対して肺がんの予防効果があることも明らかになりました。合併症の発症リスクを下げる効果も認められています。もし何を食べるのか迷うなら、私はアブラナ科の野菜を薦めますね」
野菜のパワーで免疫力アップ!
このご時世、何が欲しいかって、それは免疫力である。「免疫力を高めたいならとにかく野菜を摂取しましょう」と牧田先生。なぜ野菜なのか。
「腸には免疫細胞の7割が集まっており、腸内環境を整えてその働きを促すことが免疫力向上の鍵を握ります。
では、どうすれば腸内環境を整えられるのか。腸内には約1,000種類、100兆個以上の腸内細菌が棲息しており、善玉菌、悪玉菌、その中間の菌に大別されます。腸内環境を整えるには悪玉菌の増殖を抑え、腸の運動を活発にする善玉菌が占める割合を増やす必要があります」
善玉菌を増やす作用があるのが野菜に含まれる食物繊維やオリゴ糖。これらは胃で消化・吸収されることなく大腸に達し、善玉菌の餌になる。
食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維があるが、不溶性食物繊維は便のかさを増して腸の蠕動運動を活発にし、悪玉菌の排出を促す効果もある。
加えて、野菜には免疫細胞そのものを活性化させる栄養素もある。前述のファイトケミカルがそれだ。例えばニンニクに含まれるアリシンやきのこ類に含まれるβグルカンはウイルスを攻撃してくれるナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化する。
どんな野菜を食べるといい?
ニンジンやカボチャ、モロヘイヤ、小松菜に含まれるβカロテンは免疫細胞の働きを高める。
抗菌作用を求めるなら、辛味成分のイソチオシアネートを。大根やワサビ、クレソンに含まれるシニグリンという成分が分解され、生成される揮発性の成分で、加熱せず生のまま、調理してすぐに摂取すると有効である。
抗ウイルスにおいて効果を発揮するのは、前述のアリシン。ショウガに含まれるジンゲロールは抗炎症作用があり、風邪、花粉症、アレルギーなどにも効果を望める。
「腸内環境が整えば、食中毒菌や病原菌による感染予防も望めます。ヒトと共存関係にある腸内細菌に働きかける野菜を摂取して免疫力をアップさせ、健康を維持しましょう」
抗酸化作用で、自粛ストレスだって和らげる。
不自由な生活を強いられるなかで、頭痛や不眠、食欲低下、節々の痛みといった不調を感じる人は少なくないだろう。これらはストレスに対する身体的反応かもしれない。
たかがストレスと侮るなかれ。これが続くと代謝障害を引き起こし、やがて糖尿病や肥満を招くことも。そこで、ストレスを和らげる野菜の出番である。
「ヒトはストレスにさらされると副腎皮質からコルチゾールという抗ストレスホルモンを分泌します。コルチゾールは一時的に体内の血糖値を増やしてストレスによる体内の炎症を抑制しますが、この分泌・分解の過程で活性酸素が発生します」
老化を招くといわれる活性酸素は、ストレスだけでなくハードなトレーニングや紫外線、多量の飲酒や喫煙でも増えることが分かっている。
活性酸素の毒性を取り除くためにも、私たちに本来備わっている抗酸化酵素の生成を高めるべく抗酸化作用のある栄養素を積極的に摂取したいもの。代表格はアントシアニン、βカロテン、リコピンといったファイトケミカル、そしてビタミンCである。
「ビタミンCは抗ストレスホルモンの分泌を促す栄養素でもあり、ぜひ摂取したいですね。また、ストレスに対処する時に脳は大量のエネルギーを消費するため、脳のエネルギー源であるブドウ糖を効率よく代謝させるビタミンB1、B2などのB群も必要です。ビタミンB群が不足すると脳がエネルギー切れを起こし、ストレス耐性が下がってしまいます」
なお、ストレス緩和に有効なビタミン類は調理で失われやすいという特徴がある。ビタミンB2は酸化しやすく光に弱い、ビタミンCは水に溶けやすく熱に弱い。茹でる代わりに蒸す、生で食べるなど、食べ方にも注意を払ってみよう。
「加えて旬も気にかけて。大抵の野菜が年中、手に入りますが、旬の野菜は栄養が豊富。例えばホウレンソウのビタミンC含有量は旬を外すと3分の1にまで減ってしまうことも。旬は効率のいい食べ方なのです」
野菜嫌いは短命! 生活習慣病を防ぐコツは?
日本人の3大死因はがん、脳血管系の疾患、心疾患。このうち脳血管系疾患と心疾患を引き起こすのが、動脈硬化、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病であり、この予防と改善にも野菜が一役買ってくれる。
「“野菜嫌いは短命”というのは疑いようのない事実です。かつて、東北大学名誉教授の近藤正二医学博士は、36年にわたって日本中の長寿村と短命者が多い村を回ってその生活様式を調査しました。990の村を調べて分かったことの一つは、“野菜摂取が少ない村は短命で、その逆は長寿”ということでした」
その後、多くの研究から野菜にはさまざまな効能があり、なかでも生活習慣病の予防に大きな効果があることが明らかになったのである。
「例えば、モロヘイヤやカボチャなどに含まれるカリウムは余分な塩分を体外に排出して血圧の上昇を抑えます。タマネギに含まれるケルセチンやニンニクのアリシンのように、血液をサラサラにして脳梗塞や心筋梗塞を予防するファイトケミカルもあります。
オクラ、枝豆などに含まれるマグネシウムはインスリンの分泌をよくするミネラルで、糖尿病の予防に有効。腸内環境を整える食物繊維は腸内で余分なコレステロールを吸着して体外に排出するほか、胃でブドウ糖の吸収速度を緩やかにすることで血糖値の急激な上昇を防いでくれます。これはつまり肥満や高血圧、糖尿病の予防に効果があることを意味しています」
野菜の摂取は1日350g程度が推奨されている。350gというといろいろな野菜を両手のひらいっぱいに盛ったくらいだ。例えば、定食についてくる青菜のお浸しなどの小鉢で70g程度。とすれば、3食で小鉢5つを振り分ければまかなえる。
「お浸しや付け合わせなど、加熱調理をすると量を多く摂ることができます。量は少なくなりますが生でいただけるサラダは栄養素が多く残っています。上手に組み合わせて野菜をたっぷり摂りましょう」