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家トレもやり過ぎはNG? 気になる免疫との関係

アスリートは風邪をひきやすい!? 運動で免疫が下がるのはどんなレベルか。回復のコツは? 最新の研究に迫った。

バリア役の粘膜免疫は、運動で一時的にダウンする。

ステイホームでも体型維持のために運動は欠かせない。ならば知っておきたいのは、運動と免疫の関わり。運動は免疫を上げるのか、それとも下げるのだろうか

「アスリートは大事な大会に臨むと風邪などの上気道感染症に罹りやすい。大会などに備えた激しい運動は一時的には免疫力を下げると考えられます」(国立スポーツ科学センタースポーツ研究部の清水和弘研究員)

 アスリートは風邪をひきやすい
【 アスリートは風邪をひきやすい】/ 坐りがちで運動不足の人、軽い運動を楽しむ人、エリートレベルのアスリートを比べると、軽い運動をする人が風邪をもっともひきにくく、アスリートは運動不足の人よりも風邪に罹りやすい。
Spence et al., 2007

清水先生が免疫力を測る指標にしているのは、唾液中のSIgA(分泌型免疫グロブリンA)という物質。唾液以外にも鼻水や乳汁などに存在し、病原体の粘膜への侵入を防いだり、毒素を中和したりする働きがある。

SIgAは外界との境界線である目、鼻、口の粘膜で病原体をブロックする「粘膜免疫」の主役の一つだ。このSIgAの分泌が、激しい運動後には減ってしまう。運動直後に免疫力が下がり、アスリートが感染症に罹りやすい状態は「オープンウィンドウ」と呼ばれている。粘膜免疫が落ち、まるで窓を開けっ放しにしているように病原体に無防備になっているのだ。

しかし、一度ダウンした免疫力は、十分な休息を取ると回復する。運動のたびに毎回きちんと回復させていれば、長い目で見ると運動の継続により、加齢などによる免疫力の落ち込みが防げることもわかっている。

運動で高ぶる交感神経が免疫を下げてしまう。

そもそも健康にイイはずの運動が、なぜ免疫力を下げてしまうのか。それには自律神経が関わっている。交感神経と副交感神経という2系統からなる自律神経は、カラダの機能を自動的にコントロールしている。免疫も調節しており、交感神経と副交感神経の作用は対照的である。

一方、免疫力にも、病原体に対抗するために2つのモードがある。ひとつ目は、リンパ節で免疫細胞が病原体の情報を学んで活性化する「学習モード」。もう一つは、免疫細胞が全身を巡って病原体に感染した細胞を攻撃する「パトロールモード」である。

学習モードとパトロールモードはともに重要だが、激しい運動をすると交感神経が優位になり、パトロールモードにブレーキがかかり、免疫細胞がリンパ節から出動しにくくなる。免疫細胞のなかでもリンパ球はSIgAの分泌を制御しており、リンパ球の移動が制限されると、粘膜免疫の低下に直結するのだ。

激しい運動の直後は、感染症に対して無防備になりやすい。
激しい運動の直後は、感染症に対して無防備になりやすい。

それに交感神経が優位になると、リンパ球の一種であるB細胞によるIgA抗体の産生が減る。このB細胞は、粘膜免疫を突破した外敵に対抗する次の砦、「全身免疫」の担い手。病原体に応じたオーダーメイドの武器が抗体で、IgAが複数合体し、分泌成分が結合したのがSIgAだ。

「激しい運動をすると、B細胞による抗体産生と分泌成分の発現が減り、口腔内などにSIgAが分泌されないため粘膜免疫が下がる誘因となります」

有酸素は「ややきつい」、1回2時間までに留める。

運動をすると酸化ストレスも増える。それも免疫を下げる一因となる。呼吸で吸った酸素の2〜3%は毒性の高い活性酸素となり、酸化を起こす。カラダには酸化を抑える抗酸化酵素が備わるが、酸化力が抗酸化力を上回ると、酸化ストレスがダメージを及ぼす。酸化ストレスは免疫細胞のDNAを傷つけるため、免疫力も落ちるのだ。

酸化ストレスを踏まえると、ランのような有酸素運動の方が筋トレより免疫にはマイナス。有酸素は酸素を大量に取り込みながら行うから、筋トレより活性酸素の発生量が増えるからだ。一方の筋トレはハードに行ってもSIgAの分泌は減らず、免疫力は下がりにくい。有酸素運動に励むなら、強度と継続時間に注意しよう。

筋トレより有酸素の方が、免疫低下に注意すべき。
筋トレより有酸素の方が、免疫低下に注意すべき。

「最大心拍数の70%以下の強度で2時間以内なら、2時間ほどで免疫力は回復します」

最大心拍数の70%レベルとは、自覚的には「ややきつい」と感じる強度。ただし2時間で回復するのは、習慣的に有酸素をしているベテランのトレーニーのみ。初心者は回復まで丸一日を要することもあるから、その間感染症に罹らないように気をつけてほしい。

ホルモンバランスの乱れも免疫を下げる。

自律神経とともに、カラダの機能を整えているのが、ホルモン。運動はホルモン分泌にも影響しており、それを介して免疫にも関与している。運動は少なからずカラダにはストレス。そのストレスに打ち勝つため、コルチゾールというホルモンが分泌される。

コルチゾールは血糖値や血圧を上げてストレスに強い体内環境を整える。ところがコルチゾールは免疫細胞の働きを抑えるため、これも運動直後の一時的な免疫力の落ち込みを招く。

月経の乱れは、感染リスクが上がるサインかも。
月経の乱れは、感染リスクが上がるサインかも。

女性が気にしたいのは、女性ホルモンと免疫との関係。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンがある。エストロゲンは免疫がうまく働くように調整するが、対照的にプロゲステロンは免疫を抑える。

女性アスリートが競技力を上げるために減量に励み、体脂肪率が下がりすぎると、女性ホルモンの分泌バランスが崩れたり、減ったりする。それによって免疫力が下がる恐れがある。

「月経がない無月経、月経が希にしか来ない希発月経の女性選手は免疫機能が低く、感染症に罹りやすい可能性があるという研究があります」

月経不順になっている間はとくに感染症予防に努めた方がよさそうだ。


運動と免疫の関係をより詳しく知りたいなら、こちらもチェック!

取材・文/井上健二 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/清水和弘(国立スポーツ科学センタースポーツ研究部)

初出『Tarzan』No.790・2020年6月25日発売

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