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免疫とトレーニングの”適度”な関係を知る

適度な運動は免疫機能を向上するが、ハードなそれはやぶ蛇に。「丁度イイ」の塩梅とは?

激しい運動は免疫を下げる!

外での運動が制限される今、室内トレでカラダ作りをしようという人が増えている。

適度な運動が免疫アップに繫がることは間違いないが、激しすぎる運動は逆に免疫機能の低下に繫がる恐れがある。1時間を超える持久性運動や、心拍数が150を超える運動を行うときは注意が必要だ。

「高強度の運動を行うとストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールやカテコールアミンが過剰に分泌され、免疫機能の働きが抑制されます。たとえばマラソンのような過酷な競技では、競技終了後2週間に50〜70%の選手が風邪の症状を呈し、そのリスクは平常時の2〜6倍に及ぶといわれています」(早稲田大学スポーツ科学学術院・鈴木克彦教授)

激しい運動は免疫を下げる

心拍の上がらない筋トレなら問題なし? 実はそこにも落とし穴が。

「高強度の筋トレは骨格筋への血流が増える一方で、皮膚、粘膜、内臓への血流は抑制され、バリア機能が低下します。すると病原体が侵入しやすい状態になり、易感染性を引き起こす原因に。思い立ったように、突然高負荷で筋トレを始めることは避けましょう」

高強度の運動は、 免疫低下を促す
高強度の運動は、 免疫低下を促す。/適度な運動後は免疫指標が平常時に戻るが、フルマラソンなどの高強度の運動後は、数時間〜数日間にわたり免疫細胞の活性度が低下する。これをオープンウィンドウ説という。
Pedersen, et al. 1998

では「適度な運動」とは?

運動と感染症リスクを表した上の線グラフにご注目。感染のリスクは、運動不足でもやり過ぎても上がることがお分かりいただけるだろう。ならば、感染リスクを下げる「適度な運動」とは?

「運動を続けると、有酸素運動から無酸素運動に切り替わる転換点があります。感覚でいうと呼吸が急激にゼイハア上がるタイミング。これが”やり過ぎ”のサインになります」

ランニングであれば苦しさを感じないニコニコペース、心拍数で判断するなら最大心拍数の50〜60%程度が適度な運動の目安。あるいは主観的運動強度(下表)でいう「ややきつい」を基準に運動をするのもいいだろう。

とはいえ『ターザン』読者であれば、マラソン大会やボディコンテストに向けた追い込みなど適度な運動を超してしまう日もあるはずだ。そんなときはリカバリーを忘れずに。

「十分な睡眠とバランスのいい食事を摂り、疲労を蓄積しないことが免疫機能を低下させない秘訣です」

適度な運動の指標
【適度な運動の指標】左/主観的運動強度は、運動時の主観的な疲労度を数値化。13が適度な運動に当たる。右/運動と上気道感染症のリスクに関するグラフ。激しすぎる運動は感染症を引き起こしやすい。
Nieman 1994

運動が免疫機能をアップする仕組みとは?

適度な運動量が把握できたら、あとは迷わずガシガシ動こう。心配ご無用、運動が免疫を高める証拠もちゃんとある。

「適度な運動を継続すると、ウイルスや細胞内に寄生する細菌を処理してくれるマクロファージリンパ球といった細胞が活性化します。また、病原体の侵入口である粘膜面には外敵から身を守るための粘膜免疫が備わっており、その免疫の主体であるIgA抗体が増えることも明らかになっています。これは運動により病原体の侵入がブロックされる、つまり免疫機能が高まっている状態です」

最近では慢性炎症の予防に運動が有効であることもわかっているが、今から筋トレを始める人はリスクがあることを覚えておきたい。

「慣れない高強度の筋トレを行うと、筋線維が損傷し、炎症反応が起こります。炎症反応は組織を修復する生理的な現象ではありますが、過剰な炎症が起きるとカラダを壊す方向に働くことがあります。繰り返しトレーニングを行うと筋損傷は起きにくくなりますが、それまでは徐々に負荷を上げることをおすすめします」

適度な運動の継続で免疫機能は向上する。
適度な運動の継続で免疫機能が向上した例/高齢者に適度な運動を続けてもらい、唾液中の免疫物質IgAを測定した実験結果。運動前よりも、運動を継続した1年後のほうが免疫機能が高まっていることがわかる。
Akimoto T, et al. Br J Sports Med. 37, 77-80, 2003.

脂肪が増えると免疫が下がる。

ソーシャルディスタンシングを余儀なくされ、外での運動もジムに行くこともハードルが高い。だから今は仕方ない、と運動を休んでいるそこのアナタ。油断は禁物。あれよあれよという間に蓄えられたその脂肪こそ、免疫機能を低下させる元凶になる。

「脂肪組織が肥大化すると、マクロファージが炎症性のサイトカインという物質を出します。本来は免疫機能調整の役割を持つサイトカインですが、分泌されると免疫反応が抑制されることが最近わかってきました。さらに、サイトカインが血流に乗って全身に広がると、疲労感を誘導したり発熱を起こしたりするだけでなく、動脈硬化を促進することも明らかになっています」

今まで定期的に動いていた人が突然運動をやめると、生活習慣病のリスクが上がり、結果として免疫機能が落ちることになるというわけだ。せっかく自宅で過ごしているというのに、健康を害しては元も子もない。だらしないカラダの見た目云々よりも、健康のためになんとしてでも在宅太りは阻止したい。

有酸素運動で病原体パトロールを、筋肥大でアミノ酸プールを狙え!

自宅用ランニングマシンや高重量のウェイト器具を使わない限り、高強度の負荷をかけるのは難しい。必然的に自宅トレでは「適度な運動」レベルが保てるため、臆することなくカラダを動かしたい。問題はどんなトレーニングをどれだけ行うか、だ。結論からいうと、有酸素運動と筋トレを組み合わせたサーキットトレーニングが理想といえる。その理由はこう。

「まず有酸素運動のメリットは、エネルギー代謝を高め、脂肪の蓄積を防ぐことができる点。血液循環が促進されることで白血球がカラダの中を巡り、病原体に対するパトロールができるという意味でも有効です。一方筋トレは、ご存じの通り筋肉を増やす効果があります。

筋肉はタンパク質の構成要素であるアミノ酸の貯蔵庫。免疫細胞は一部のアミノ酸を使って働いているため、筋肉を増やしてアミノ酸を多く蓄えておくことは免疫機能にとって有利です。筋トレと有酸素、どちらかの動きに偏ることなく全身に刺激を与えることが望ましいといえるでしょう」

教えてくれた人
鈴木克彦先生
鈴木克彦(すずき・かつひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授。国際運動免疫学会理事。医師免許を持ち、早稲田大学保健センター、スポーツ医科学クリニック内科医師も兼務している。専門分野は運動免疫学、予防医学、補完代替医療科学など。

取材・文/黒澤祐美 イラストレーション/森拓馬

初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売

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