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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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時間栄養学を日常に生かすなら、具体的にはどうするか。14の基本を押さえれば、もう食べ過ぎることはないはずだ。
目次
朝食を食べてから7時間以内までに一日の食事を食べ終えると、極めて健康な生活が送れる。そんな論文があるという。朝7時に朝ごはんを食べたとしたら、昼の2時には夕ごはんを食べ終わっていなければならない。無理!
根拠は朝食から夕食までの時間が長すぎると過食になるうえ体内時計リズムが乱れるから。遅い夕食は朝食の時計リセット効果もチャラにする。
ほとんどの人は朝から夜まで15時間くらいのスパンで食事をしているはず。朝7時に食べたら夕食は夜10時。身に覚えがある人、多いのでは?
7時間以内とは言わない。理想をいうなら10時間以内に。それでも無理というのなら、ギリギリ12時間以内を基本にしてほしい。まずは週末に取り入れて、体調の観察を。
柴田教授らが以前行った若い男性を対象にした調査では、最も多いのが朝、昼、晩の食事の比率が〈2:3:5〉というタイプだったそう。若い男性に限らず、夕食偏重スタイルは、世代を超えて現代人に見られる食生活の傾向だ。
一方、夜の食事が多いのに対して、朝の食事は量が不足気味。このアンバランスな食事スタイルは時間栄養学の考え方に反する。末梢の時計のリセット因子である朝食がお粗末ということは、各臓器や組織の時計のリズムがバラバラのままということ。
夜食べるなとは言わない。その量のちょっとだけを朝に回してほしい。現実的なところで3食のボリュームは〈3:3:4〉。成人男性で1日2,000キロカロリー摂取なら、〈600:600:800キロカロリー〉のバランスで。
夕食偏重の食生活で、みなさん一体何を食べているかというと、タンパク質の主菜だろう。焼き肉だ、焼き鳥だ、ステーキだ刺し身だと、メインのおかずでお腹をいっぱいにすることも。
ある意味これは、タンパク質における“ムダ食い”。タンパク質が代謝されるプロセスで尿素窒素が生じると、これを排泄するために腎臓の濾過システムに負荷がかかる。腎臓に備わっている末梢時計もおネムの時間、過剰なタンパク質をじゃんじゃん送り込むというのは無茶な所業。
やはり、多すぎるタンパク質の一部は朝に回して3食できるだけフラットなバランスで。とくに夜間にタンパク分解(オートファジー)が起こった後、朝にタンパク質を補給すると筋合成が活発になるという話もある。
時間栄養学で最も重視されているのは朝食。起床後に光を浴びて主時計をリセットしたら2時間以内に朝食で末梢時計をリセットしたい。
朝食を食べず、5時間後に昼食を摂ると、2.5時間末梢時計が後ろ倒しになることが分かっている。5時間遅れなのに2.5時間しか後ろ倒しにならない理由は、視交叉上核がズレを半分にとどめているから。
さて、末梢時計はなにも首から下の臓器だけにあるのではない。視交叉上核以外の脳の部分、知的活動をする大脳皮質や記憶を司る海馬にも備わっている。朝食抜きで時計がズレると脳の機能全体が落ちる。これを朝食時差ボケという。たとえば会議室にいるのにボーッとしていて機能しない、社会人としてとてもヤバい状態を生むのだ。
よく朝ごはんを食べて脳のエネルギーを確保するという話があるが、あれはウソ。朝はコルチゾールの働きによって自前で糖質が作れるからエネルギー的には問題ない。時間栄養学で朝の糖質がマストな理由は、糖質補給によって膵臓から分泌されるインスリンが、末梢の時計のリズムをリセットするから。糖ではなくインスリンの分泌がターゲットなのだ。
ではインスリンが作れない糖尿病の人はどうなるんだというと、こちらはタンパク質を摂ることによってリセットされる。理由はタンパク質に含まれているIGF-1というインスリンに似た働きをするペプチドが機能するから。
というわけで、朝食で死守したい栄養素は糖質とタンパク質、この2つ。コーヒーだけの朝食はNGです。
強力な抗酸化作用を持つトマトのリコピン、血液サラサラ作用や脂肪燃焼作用のある青魚のDHA。カラダにいいといわれるこれらの機能性成分や脂肪酸、いつ摂るのが効果的かというと、これもまた朝。
その理由は、夜寝ている間、脂肪の分解に関わる胆汁が胆囊にたっぷり溜まっているから。脂質を含む食べ物が入ってくると、その刺激がトリガーとなって胆汁が一気に分泌される。つまり、それだけ吸収率が上がる。
リコピンは脂溶性なので、脂質を含んだドレッシングなどとともにいただけば吸収率が高くなる。胆汁ドバドバでさらに吸収率がアップするわけだ。ちなみに、胆汁をいつまでも溜めておくと胆石になることも。なので朝は脂質もプラスして放出させよう。
こちらも柴田教授の実験。寝たきり状態のネズミのモデルによるリハビリの実験だ。寝たきり状態になると重力による刺激を失った筋肉が急激に萎縮する。これがサルコペニアという状態。
ネズミを2つのグループに分け、一方のグループは朝に4時間、もう一方のグループは夕方に4時間、リハビリを行った。すると、前者の方がサルコペニアがより改善したという。
この結果が示しているのは、朝に運動すれば筋肉を効率的に養えるということ。補助役となるのはタンパク質。運動は筋トレに限らず、駅の乗り換え移動や階段を上り下りするという運動でもよし。会社に着いたら、牛乳や豆乳、茹で卵などタンパク質を投入すればカラダづくりに役立つ。筋肉がついて運動量が上がれば脂肪も減るという寸法。
水に溶けやすい水溶性食物繊維は、カラダへの脂肪の吸収や血糖値の急激な上昇を防ぐ役割を果たす。この水溶性食物繊維の一種に、菊芋という芋に豊富に含まれているイヌリンがある。で、このイヌリン、朝に摂ると翌朝の便通がスムーズになるといわれている。
翌朝の便のことを考えたら、前日の夜に摂った方が効果が高そうだが、そうではなく朝のイヌリンの方が便通には有効らしいのだ。
考えられる理由は、腸内細菌。腸内に1000兆個生息しているといわれる腸内細菌はヒトのカラダの中で唯一、時計遺伝子を持っていない生き物。時計を持っていないから独自のリズムを刻めず、腸が休息モードになると一緒に休む。だからイヌリンも有効利用されない可能性が高い。繊維補給は朝に!
タンパク質を朝きちんと食べる人と、夜多めに食べる人を比較すると、前者の方が平均の筋肉量、握力、歩行数が多いことが分かった。
アメリカで行われたヒトを対象にした実験では、朝、昼、夜、タンパク質を30gずつ食べさせたグループと、朝10g、昼20g、夜60gを食べさせたグループを比較したところ、筋肉の合成の比率が後者は3割低い数値を示したという結果に。
柴田教授がネズミを使い、朝のタンパク質を多めに摂らせた実験をしたところ、筋肉の重量も筋肉の肥大率もアップしたそう。
前述したように、夜間はオートファジーが起きていて筋合成のシステムが過敏。タンパク質補給が刺激になって筋肉がより作られた可能性がある。トレーニー諸氏は覚えておきたい。
1日3食のうちで、最も自由に制約なしに楽しめるのが昼食。というのは、日中は消化器から消化酵素が出やすいので吸収されやすい。また、糖質、タンパク質、脂質をエネルギーとして活用する代謝システムの動きもいいので、ボリューミーな食事をしても無駄が出にくいというのがその理由。
朝は光を浴びてから2時間以内、夜は朝食からできれば10時間以内、と時計のリズムを乱さないための制約があるが、昼に関しては基本、フリー演技でOKだ。これが昼間、ぽっかりと空く時計の「ウィンドウ」だ。
ただし、一般的な意味では昼食の時間が遅すぎると過食を招いたり、血糖値の急激な上昇を招いて太りやすくなる。朝食から大体5〜6時間以内のタイミングでランチを摂りたいもの。
朝食から夕食までの時間を12時間以内に収める。体内時計にとってはこれが理想だが、忙しい現代人の生活でいつでもそれを実践できるとは限らない。そんなときは、分食というテクニックを取り入れるのがおすすめだ。
7時、12時、23時にエサを与えたネズミは、20時に夕食を済ませたネズミより肝臓の時計が夜型化する。ところが、23時と同じ量のエサを19時と23時の2回に分けて与えると、夜型化した肝臓の時計が、20時に夕食を済ませたときのリズムにリセットされることが分かっている。
糖質補給で分泌されるインスリンは夜に限っては時計を後ろ倒しにするので、1回目の分食は糖質をメイン、2回目の分食でタンパク質や野菜をメインにするのがコツ。
朝食で糖質を摂ったときに分泌されるインスリンは体内時計を前倒しにする。夜に糖質を摂ったときに分泌されるインスリンは時計を後ろ倒しにする。だから、夜遅くの食事は朝食のリセット効果を打ち消すといわれている。
とくに夕食が遅めになってしまうときは、糖質の量は最小限に。分食するなら最後の食事では主食を摂らないことが原則だ。
また、夕食で過剰にタンパク質を摂取することも避けたい。前述したように夕食で一生懸命タンパク質を補給しても、朝タンパク質を摂る場合より筋合成の効率はよろしくない。また、夜間は腎臓に余計な負担をかけず、ゆっくり休息させてあげたい。
夜のムダ食いは時計にとってもあなたにとっても、百害あって一利なし。
眠気覚ましに夜中のコーヒーブレイク。これ、体内時計にとっては最大のタブーのひとつ。
柴田教授が行ったネズミの実験では、深夜の2時にカフェインを与えたネズミの体内時計は、2時間前倒しになることが分かった。ヒトと異なり夜行性動物であるネズミの体内時計が2時間前倒しになるということはネズミにとっては昼型化するということ。
なので、これをヒトで行うと時計が遅れて文字通り夜型化する。シャキッと覚醒するだけでなく、時計が遅れて朝起きるのが辛くなってしまうのだ。
コーヒーを飲むタイムリミットはせいぜい午後8時まで。もし、レストランに食事に行って、最後にコーヒーが出てきたら口にしない方が無難。デカフェならOKだ。
お酒を飲んで摂取されたアルコールは、胃や小腸上部から吸収され、ほぼ同時に分解がスタートする。
肝臓に送られたアルコールはアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに分解され、次にアルデヒド脱水素酵素によってさらに酢酸に分解、筋肉や心臓に送られて最終的には炭酸ガスと水になって体外に排出される。
酵素を持っていない人は別として、酵素によるアルコールやアセトアルデヒドの分解がどんどん進めば、泥酔もしないし気持ち悪くもならない。
ところが、アルコールの分解や消失過程は体内時計の影響を受けていて、夕方から夜中12時までが最も活性が高いらしい。つまり、午前様や昼酒ではより酔っ払いやすいのだ。よって、飲酒は夜12時までに切り上げるべし。
取材・文/石飛カノ 撮影/大森忠明 スタイリスト/矢口紀子 取材協力/柴田重信(早稲田大学理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授
初出『Tarzan』No.776・2019年11月7日発売