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筋肥大したいなら、朝、タンパク質を摂りなさい

食を時間の観点から研究されている「時間栄養学」をもとに、腹割りの方法を紐解いていこう。肥満と筋肥大を左右する体内時計をいかにコントロールするか、この分野の第一人者、早稲田大学先進理工学部教授・薬学博士の柴田重信さんに聞きました。

「体内時計」こそが、肥満を左右する。

食事をコントロールするうえで「内容」や「量」だけでなく、「いつ食べるか」という視点で捉える学問を時間栄養学という。この分野の第一人者である柴田重信教授によれば、私たち人間の時間軸を調整する「体内時計」こそが、肥満を左右する重要なファクターだという。

ご存じの通り、ヒトのカラダは24時間のサイクルで変化している。夜になれば眠くなり、朝は自然に目が覚める。目には見えなくても起床直後には心拍数が上がりはじめ、夕方には体温上昇のピークがやってきて、夜には成長ホルモンが盛んに分泌される。このような一日の周期をサーカディアンリズムといい、私たちはこれを「体内時計」と呼んでいる。

「夕方頃から活動が盛んになるいわゆる“夜型”の人はこの体内時計が狂いやすく、糖尿病、代謝異常、内臓肥満、筋萎縮といった不調が起きやすい状態になります。

ところが、正確にはヒトの体内時計は24時間よりも少し長い24.5時間の周期で動いているため、放っておくと自然と生活リズムが夜に引っ張られやすいという特性があります。そのうえ、現代人は夜でも太陽光と同レベルの光を浴び、スマホやパソコンに夢中になって就寝時間が遅れがち。社会的に夜型へ移行しつつあるのです」

朝食にタンパク質を摂ると。

後ろに倒れやすい生活リズムを元に戻すには、体内時計をリセットする必要がある。その働きを持つのが、覚醒ホルモンを多く分泌させる「朝の光」と、毎日の「朝食」だ。

「“炭水化物を食べて血糖値が上がるとインスリンが分泌され、そのインスリンが体内時計を合わせる”というのが朝食におけるこれまでの定説でした。しかし考えてみれば、糖尿病の患者はインスリンを使えない。体内時計をリセットできないことになってしまいます。

そこで我々が注目したのが、インスリンに類似した構造を持つ『IGF-1(インスリン様成長因子)』。このIGF-1がインスリンに代わって、同調のシグナルを引き起こすということが最近の研究で明らかになりました。そしてIGF-1を上昇させるのが、タンパク質が豊富な食事なのです」

朝はおにぎり1個、パン1枚のみと単食傾向だった人は、茹で卵や牛乳、プロテインなどを足すことで体内時計がリセットされやすくなる。さらに、朝食にタンパク質を摂るとこんなメリットも。

夜に摂るタンパク質を減らすと。

タンパク質豊富な朝食は筋量・筋機能アップに有効
タンパク質豊富な朝食は筋量・筋機能アップに有効
上段左のグラフは朝にタンパク質をしっかり摂っている朝型の人、右は夜にタンパク質を多く摂っている夜型の人を示している。両者の筋肉量と握力を比べたのが下のグラフ。朝型の人の方が筋量・筋機能ともに高いことがわかる。
Protein intake in breakfast, lunch and dinner by FFQ(food frequency questionnaire)

「同じタンパク質でも、朝食べるのと夜食べるのでは、朝に食べる方が吸収率が高いことがわかっています。

イタリアのある調査では、虚弱体質を指す“Frailty(フレイル)”の人とそうでない人とでは、1日のタンパク質摂取量はほぼ変わらないにもかかわらず、朝にタンパク質を摂取している人の方がフレイルになりにくいという結果も出ています。

つまりタンパク質の量だけではなく、食べる時間帯も重要。ところが実際は、現代人のタンパク質摂取の分布は朝2:昼3:夜5の割合で夜が多い。余分なタンパク質は筋肉の合成促進作用には利用されないため、たとえば夜に食べようとしていた肉や魚を半分〜3分の1残しておいて、朝食に回すという工夫をした方が筋合成には効率的といえます。理想の割合は朝昼夜それぞれ4:3:3。朝食時は意識的にタンパク質を摂るように心がけましょう」

夜に食べるタンパク質量を減らすと、今度はあるシステムが発動する。そのシステムというのが、細胞質内のタンパク質を分解するオートファジーである。

簡単に説明すると、アミノ酸プールに蓄えられたアミノ酸が足りなくなってしまったがために、筋肉を溶かしてプールに持っていこうとしている状態のことだ。一見起きてほしくない現象だが、オートファジーを活性化させたまま朝食でタンパク質をガツンと摂ると、普通にタンパク質を摂取するよりも筋肥大しやすくなるという。

食べるタイミングと血糖値の関係。

食べる時間帯は栄養素の吸収率に関係するだけでなく、血糖値とも深く関わっている。血糖値の上昇により分泌されるインスリンには、体内時計のリセット作用や血糖値を下げる役割があるが、糖が中性脂肪に合成されるのを促す働きもある。そのため過剰な分泌は肥満を招く恐れがあるといわれている。

朝食と夕食における食後の血糖値変動
朝食と夕食における食後の血糖値変動
左のグラフは8時と20時の食事で血糖値の上がり方を比較したもの。同じ食事内容でも20時に食べた方が血糖値は上昇しやすい。一方、右は食事後の血糖値の下がり方を朝夕で比較した図。通常に戻るスピードは朝の方が早い。
Leung GKW, Huggins CE, Bonham MP. Clin Nutr. 2017 Nov 22. pii: S0261-5614(17)31408-5. Takahashi M, Ozaki M, Kang MI, Sasaki H, Fukazawa M, Iwakami T, Lim PJ, Kim HK, Aoyama S, Shibata S. Nutrients. 2018 Nov 14; 10(11). pii: E1763.

上のグラフを見ると、同じ食事を朝8時と夜20時に摂るのでは、朝に食べる方が血糖値の上昇が緩やかであることがおわかりいただけるだろう。

さらに食事後の血糖値が通常の状態に戻るのも朝の方が早く、夜の方が遅い。つまり朝食にウェイトを置くと太りにくいというわけだ。朝食欠食が太りやすいというのも、理にかなった話である。

夕方の間食が夕食時の血糖値の急上昇を防ぐ
夕方の間食が夕食時の血糖値の急上昇を防ぐ
左が分食でいう1回目の食事、右が2回目の食事に当たるもの。1回目の食事で緩やかに血糖値を上げておくことで、2回目の血糖値の上昇が何も口にしなかったときよりも緩やかになっている。

「そうはいっても、残業等で帰宅が遅くなり必然的に夕食が遅くなることはよくあります。そんなときは夕食を2回に分ける“分食”がおすすめ。セカンドミール効果といって、1回目の食事で血糖値をある程度上げておくことで、次に摂った食事後の血糖値を緩やかにすることができます。

夕方16時頃におにぎりなどの主食を食べ、帰宅後に汁物や副菜といった副食を食べる。こうすることで太りにくいカラダになるだけでなく、体内時計の乱れを防ぐことができます」

朝食の目的。

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朝食の目的は体内時計を進めること。起きてすぐは消化機能もまだ眠った状態なので、無理に食べる必要はなし。ゆっくりとカラダを動かし、身支度を整え、1時間以内に食べ始めればよい。

ご飯やパンなどの炭水化物は朝に消費されやすいため、このタイミングでしっかり摂ることを忘れずに。また朝の時間帯は栄養素の吸収率も高い。これを利用して、筋肉の合成に必要となる最低20gのタンパク質を摂取しよう。

通勤後にプロテイン。

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総務省統計局のデータによれば、通勤時間の全国平均は39.5分だそうだ。家から駅まで歩き、満員電車に揺られ、またオフィスまで歩く。これも立派な運動である。筋合成が高まっている朝、それも運動をしたこのタイミングでタンパク質を摂らないのはもったいない。

オフィスにプロテインとシェイカーを用意しておき、デスクに着いたら飲む習慣をつけよう。効率よく筋肉がつくことで、割れた腹に一歩近づく。

昼食の役割。

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柴田教授によれば、時間栄養学に基づいて朝食と夕食をきちんと摂っていれば、昼食は「好きなものを食べてもいいし、反対に食べなくてもいい」のだという。それだけ体内時計に影響しないのがこの時間帯。

前日の飲み会で飲み食いし過ぎたから、今日は1食抜いて調整しよう…という場合は、カラダに影響の少ないランチを抜くといい。運動効率が高まる夕方にトレーニングをする人は、昼食時に十分なエネルギー補給を。

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夕食の戦略。

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夕食から朝食までの絶食時間が長いと、栄養素の吸収率が高まるといわれている。オマケに、体内時計もリセットしやすくなる。夕食から朝食までの間隔は約10時間。21時に食べて、朝7時に食べるイメージだ。

あまり遅い時間に食事を摂るとカラダが今から動くの?と勘違いをして夜型になりやすい。ちなみにカフェインにも体内時計リセット作用があり、夜にコーヒーを飲むと体内時計を遅らせる原因に。朝か昼がベター。

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取材・文/黒澤祐美 イラストレーション/3rdeye 監修/柴田重信(早稲田大学先進理工学部教授・薬学博士)

(初出『Tarzan』No.763・2019年4月18日発売)

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